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各国情報・国際関係

「安全衛生上のリスクに関する展望」を欧州安全衛生機構が刊行

2010年5月21日

欧州安全衛生機構(EU-OSHA)のリスク監視部門(European Risk Observatory-ERO 別ウィンドウが開きます )は、2002-2006年の間の欧州安全衛生戦略において設置され、新しい社会情勢によって発生または、増大するリスクに関する調査を行い、物理的要因、生物学的要因、社会心理的要因、化学的要因の四つの分野を中心に、数多くの報告書を刊行してきた。

今回作成の「安全衛生上のリスクに関する展望」は、これらの調査内容と今後必要な取り組みを周知することを目的としたもので、図を豊富に用いて、24ページに簡潔にまとめられ、22ヶ国語に訳して配布された。14の項目がアルファベット順に記載されているが、トピックス的な部分のみを紹介する。

原資料の題名と所在

なお、この資料の背景となった情報を集成した付属資料集も刊行されている。(英文版のみ)

欧州安全衛生機構・リスク監視部門:「安全衛生上のリスクに関する展望」の概要

原資料は、14の項目がabc順に記載されているが、ここでは便宜上番号を付した。

1 労働者の高齢化Age

就業率は、25-54才においては、男性85.4%、女性68.9%であるのに対し、55-64才においては、男性51.5%、女性33.6%、15-24才においては、男性39.1%、女性33.3%である。15-24才の就業率は男女とも低下の傾向にある。EU-25の15-64才の労働者数は、2000年から2005年までの間に、83百万人増加したが、15-24才においては、0.7百万人の減少、55-64才においては、4.2百万人の増加であった。高齢化の急速な進行に伴い、高齢者に対する傷害、疾病防止対策及び健康を良好に保持するための対策などが必要である。

2 中小企業における化学物質ばく露Chemical risks in SMEs

中小企業においては、大企業よりも危険な物質への対策が不足し、これに起因する傷病が多い。化学物質に起因する業務上疾病の80%は、中小企業において発生している。

3 産業構造の変化Employment structure by activity

EUの経済の中心は、サービス業となり、鉱業、電気、ガス、水道の低下が著しい。EU-25において、労働人口の中でサービス業の占める比率は、67.1%(EU-15においては69.1%)に達している。

労働者の多くは、製造(35.6百万人)、商業(28.2百万人)、医療福祉(19百万人)、不動産関連(18.2百万人)の4部門に属しており、25-54才については、均等に分布しているが、15-24才については、サービス、特にホテル、レストランの比率が高い。

企業規模については、85%の労働者が従業員数250名以下の企業に、60%が従業員数50名以下の企業に属しており、10%が自営者である。小規模企業数の増加が著しい。

4 騒音ばく露と聴力障害Exposure to noise and hearing impairment

EU-27においては、労働者の30%(60百万人)が騒音による障害の生じるおそれがあり、鉱業と製造の両部門に多い。7%(14百万人(10万人当たり11.5件))に聴力障害が認められ、業務上疾病数において第4位を占める。

5 紫外線ばく露Exposure to ultraviolet radiation

紫外線ばく露によるリスクは、物理的要因の中では最大のものである。WHOによると、欧州ではこの要因により、2百万人に障害が生じており、このうち67千人が悪性メラノーマである。南方の国々における太陽光線によるものと、人工光線によるものとがある。労働時間の75%以上太陽光線にばく露する労働者数は、14.5百万人で、人工光線にばく露する労働者数は、1.2百万人である。

6 男女間の差異Gender

2001年から2005年までの間に、女性の雇用率は若干上昇したが、例えば、「直接の上司が女性である労働者は、24.5%に過ぎない。経営者及び上級公務員の70%を男性が占めている。自営者の3分の2が男性である。」ように男性が中心を占めていることに変わりはない。また、災害の10万人当たり発生率は、男性で4189人、女性で1627人であることは、仕事の内容が著しく異なることを示している。

7 労働市場:雇用形態Labour market: employment status

2004年の労働力調査(Work force survey)の結果によると、全人口377.5百万人のうち、194.5百万人が雇用されているか、経営活動に参加しており、女性は44%、25才以下が10.6%、55-64才が10.9%、フルタイム労働が82.3%、パートタイム労働が17.7%であった。

全体的な動向として、下記が挙げられる。55-64才の雇用率は、2004年において2000年より4.4%増大し、高齢者に適した職場の確保が重要となり、障害者が働ける職場が拡大してきた。また、女性が働ける職場も拡大してきた。IT技術の進歩により、仕事の内容が複雑化し、より高度の教育が必要となってきた。移住労働者の増加と労働力の移動性の増大が生じている。

労働者の大部分は、フルタイムの常用雇用者だが、パートタイム労働者、自営者、短期契約労働者、家族労働従事者は、全雇用人口の40%を占める。欧州のパートタイム労働者34.3百万人の78%は女性である。パートタイム労働者は、危険有害な業務に従事することが少ないのに対して、短期契約労働者は、条件の悪い作業に従事することが多く、教育訓練などの能力を向上する機会に恵まれないことが問題である。また、自営者は労働時間が長いことと不安定であるために、健康を害することが多い。

8 ナノテクノロジー Nanotechnologies

ナノテクノロジー物質は、従来にない性状を有するため、これによる健康障害を防止するための対策が必要である。さまざまな材料が広範な用途に使用されることが予測され、2014年には、全世界においては、製造業の11%(10百万人)が、欧州では、6百万人がこれに関連した職務に従事すると予測されている。

9 業務上疾病Occupational diseases

業務上疾病の概念は、各国におけるその認定及び補償のシステムにより左右される。一般的には、作業が疾病の原因で、これを悪化させるとの証拠が求められるのだが、国によってこの仕組みは異なるため、欧州レベルにおいては、極めて限られた疾病についてのみ統計が存在している。このため、全体像を把握することは難しい。

情報の入手できる代表的な疾病についての動向は、 PDF 原資料PDF 別ウィンドウが開きます の17ページの図7をご参照ください。

図7における疾病名の訳は以下の通り。
Neurological diseases  神経系疾病
Respiratory diseases  呼吸器系疾病
Skin diseases  皮膚疾病
Musculoskeletal diseases  筋骨格系疾病
Diseases of sensory organs  感覚器疾病 

2005年における職業性疾病の新患数は、83,159件であったが、このうち筋骨格系障害が、31,658件を占めた。

10 職種別構成Occupational structure

職種別構成は急速に変化しているが、男女間の差異の変化は遅々としている。一般的な傾向としては、下記が挙げられる。

  • 若い女性が高いレベルの職種に就く傾向が増大している。
  • 女性の事務職及び男性の手工業従事者が減少する傾向にある。
  • 専門家、専門技術(技能)者が増大する傾向にある。
  • 単純労働が増大する傾向にあるが、労働条件が悪い場合が多いので問題が発生しやすい。

11 感染症Pandemics

問題となるおそれのある感染症として挙げられるのは、HIV及びその他の血液を媒介する病原体、マラリア、SARS、新型インフルエンザで、社会及び経済の発展のレベルとは関係なく、重大な脅威が存在する。

12 業務上災害Work-related accidents

EU-15の2004年における重大な傷害の発生は、4百万件に達し、10万人当たりでは3,176件、約3%となる。この数値をEU-25に当てはめると6百万件、EU-27(2007年の就業者数2億2千万人)においては、7百万件となる。傷害による就業不能日数は、平均で20日に達する。2004年における傷害の件数は、1998年より18%減少したが、建設業、若年者、小規模事業場における発生が依然として多い。建設業の災害は全体の平均の約2倍、18-24歳においては、1.4倍、10-49人の事業場では1.2倍、50-250人では1.4倍である。

13 業務上のストレスWork-related stress

調査結果から、休業による損失日数の50-60%は、ストレスに起因するものと推定される。2005年の調査結果においては、EU-27のストレスを感じている労働者の比率は低下したが、EU-15において20.2%であるのに対し、新規加盟国においては、30%を超えている。2004年以前の加盟国15におけるメンタルヘルス問題による全体的な損失は、GDPの3-4%、2650億ユーロに達し、このうちの業務に関連する欠勤及び健康問題による企業、政府機関における損失は、200億ユーロに達するという。

仕事において、業務上ストレスを発生させる要素として、処理速度が大きいか、期限が厳しいこと、ペースが外部からの要素、または機械によって支配されること、予告なしに中断させられること、技量と作業内容との食い違い、脅迫、性的いやがらせが挙げられる。

このような要素の多くは、業務設計と企業組織のマネジメントに関連がある。その他にキャリア形成、地位、報酬、企業組織における各個人の役割、対人関係、家庭生活とのつながりとも関連がある。

14 若年労働者Young workers

EU-25の2005年における193.8 百万人の労働者のうち、15-24才の労働者は20.4百万人で10.5%を占める。2000年から 2005年までの間に、15-24才の比率は0.9%減少し、雇用率は15-64才が63.6%であるのに対し、36.3%であった。EU-25における若年労働者の失業率は、平均で全体の失業率の2倍であるが、地域による差異が大きく、6.2% から 59.1%までの幅がある。

若年労働者の比率は、ホテル・レストランにおいて高く、22.7%を占め、これに次ぐのは、流通業の16.3%である。サービス業、販売業、軍隊、単純労働において多くを占めるため、臨時または季節的で、雇用条件が悪く、肉体的負荷が大きい仕事に従事することが多い。有期労働者の比率が、全体では12%であるのに対し、若年労働者においては、37.5%である。

短期間雇用の労働者は、教育訓練及び長期的な能力開発の対象となる機会に恵まれないため、職務上のリスクについても、知識を持つ機会の少ないことが多い。

関連情報

JISHA海外トピックス 2010年5月21日  世界労働安全衛生の日関連情報

欧州安全衛生機構(EU-OSHA)リスク監視部門(European Risk Observatory-ERO)に関する記事

  • 2010年2月16日欧州安全衛生機構報告書「数字で見る欧州の職場ストレス」
  • 2009年7月24日 EU OSHA化学物質に関するリスク監視活動報告書及びファクトシート
  • 2009年5月18日 EU OSHAのリスク監視活動報告書(振動障害)
  • 2009年5月18日 EU OSHAのリスク監視活動報告書(皮膚障害)

JICOSH記事

  • 2008年2月28日 別ウィンドウが開きます 欧州安全衛生機構が労働環境における新しいリスクとして生物学的要因を指摘 
  • 2006年11月8日 別ウィンドウが開きます 労働安全衛生における身体リスクの増大に関する専門家の予測 

 

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