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各国情報・国際関係

米国労働安全衛生局(US-OSHA)の患者と労働環境の相互安全プログラムの概要

US-OSHA : 2014年1月15日公表

業績優秀な病院からの教訓

病院は、患者に質の高いケアを提供するために、さまざまな職種の献身的で熟練された労働力に頼っている。
労働者の安全と健康を保つことが病院経営者にとって優先すべきことだが、なかなか難しいようである。あまり周知されていないが、医療現場には驚くべきほど危険が多い。米国労働統計局によると、休業を伴う負傷と疾病の発生率は、比較的危険であると伝統的にみなされてきた製造業と建設業よりも、病院業の方が高くなっている。

労働者の負傷と疾病は、経営コストを高め、職員の流動化、経験あるスタッフの早期退職や職場モラルの低下に至る。患者のリスクと満足度への悪影響も重大関心事項となっている。 このため、労働者の安全と健康の取り組みとして、患者の安全と満足度を確保するプログラムの好事例を参考にする病院が増えている。US-OSHA/TIC(Joint Commission)が支持する、これらのプログラムは、

  • 責任追及と非難的な介入をするのではなく、
  • 会話を増やし、懸念事項を共有するような言葉遣いを旨とし、
  • 最良と証明された方法を強化し、患者の事故を防止するための信頼性の高い行動を推奨すること

を内包している。

 

原資料の題名と所在:
https://www.osha.gov/dsg/hospitals/understanding_problem.html
https://www.osha.gov/dsg/hospitals/documents/1.1_Data_highlights_508.pdf
https://www.osha.gov/dsg/hospitals/documents/1.3_Self-assessment_508.pdf
US-OSHA:https://www.osha.gov/index.html

 

病院での労働者の安全(概要)

事実について

病院が最も危険な労働現場の1つであることをご存知だろうか。米国の病院では、2011年に100人の常勤従業員当たり、平均で6.8人率 の労災(負傷・疾病)を記録している。これは民間企業全体のほぼ倍の値である。
2011年、米国の病院では、休業災害が5万8860件発生しており、損失時間事故率(lost-time case rate)は、建設業や製造業よりも病院が危険な職場であることを示している。なお、休業日数は、より重大な労災だけを計上しており、職務を変更して従業員が仕事を続けている労災は計上されない。そのため、事故の実数は(ここで示す)グラフのデータより多くなる。

負傷のほとんどが、よくある危険を原因としている

介護者はどのように負傷するのか。労働統計局は、休業となった労災の詳細データを収集し、その原因と影響を明らかにしている。
休業となった負傷のほぼ半数(48%)が、持ち上げたり、屈んだり、手を伸ばしたりなどの無理な動作によるものである。それらの動作は患者の面倒をみる際にごく普通に行われるものである。
捻挫と筋挫傷が休業労災の54%を占めており、筋挫傷は、病院への労災補償費用請求額の中で、最も大きな割合を占めている。2011年、米国の病院では、患者の取扱いによる骨折や捻挫といった筋骨格系の負傷が1万6680例発生したと報告された。全体職種の中では、看護師や看護助手が、かなりの割合を占めている。病院におけるほとんどの筋骨格系の負傷は繰り返されるものなので、患者を取り扱う作業時のリスクを最小限にすることが、病院で働くこれらの者に対しての実質的な支援となる。

職場での負傷と疾病は高コストとなる。
従業員が勤務中に負傷すると、病院には様々な支出が生じ、目に見える費用に加え、目に見えない費用も生じる。

―15,860ドル、2006年から2011年までに、病院での負傷に対する労災補償請求費用の平均額。(約1,000の病院の全国調査による)。別のデータによると、非損失時間の場合の請求額の900ドルと比較して、損失時間を含む請求の場合、平均22,300ドルを示している。
自家保険(self-insures)病院の場合(大多数がこの制度を採っている)、全コストについて病院負担となる。保険会社を利用する場合、保険金の請求可能額は、保険料支払い額に影響される。病院平均で、給与支払い額100ドルにつき、0.78ドルの労災損失金を計上しており、全国規模に換算すると年間20億ドルの支出となる。

―24%の看護師や看護助手が、未報告の負傷の治療のために、勤務シフトを変更したり、病気休暇をとっている。

―27,000ドル〜103,000ドル
看護師の入れ替えにかかる費用、解雇、募集、採用、オリエンテーション、教育を含む。代替看護師を雇用し教育する間の生産性の低下について費用計上する例もある。負傷とストレスは看護師が離職する最も一般的な理由である。

―介護者の安全を向上させることが患者の満足度の向上につながる
研究によると、不満や燃え尽き症候群を感じる看護師の数が少ないほど、患者の満足度が高いことが明らかになっている。患者を持ち上げるときに器具を使用した方が、患者(特に肥満症患者)から、より大事に扱われたとの感情が示されるとも報告されている。

―10人のうち8人の看護師が、頻繁に筋骨格系の痛みを抱えながら働いていると述べている。

 

負傷を減少させる一方で費用を節約し患者のケアを改善できる

 

その解決策

安全衛生マネジメントシステム

安全衛生マネジメントシステム(負傷と疾病予防のプログラムとしても知られている)は、従業員の負傷または疾病を誘引する職場の危険を検知して是正する、予防的で協働的なプロセスである。成功例のほとんどが以下の6つの主要な要件を含んでいる、

  • マネジメントリーダーシップ
  • 従業員の参加
  • 危険の特定と評価
  • 危険予防と管理
  • 教育と訓練
  • プログラムの評価と改善

多くの病院が、患者の安全を目指して、US-OHSA TJC(The Joint Commission)の基準に適合するために、上記6つの要件をすでに備えていたり、また、中には、一連の"高信頼性組織"という概念を実践している病院もある。従業員の安全のために同一の方針が広がることは、ごく自然のなりゆきである。
US-OSHAの自主的保護プログラム(VPP)では、効率的な安全衛生マネジメントシステムが要求され、14の病院が参加している。これらの病院の傷病率は全国平均より低い値を保っている。全体的として、VPPに参加する病院の休業日数、就業制限、配置転換率の平均値は、医療産業の平均値より52%ほど低い。

 

その解決策

安全な患者の取扱い

患者を安全に持ち上げる、その姿勢を変える、また患者の移動などの作業に、安全性をもたらすための包括的なプログラムを採用することが、病院内での労働負傷を引き起こす要因への対策となる。安全な患者取り扱いプログラムは、以下の事実を含んでいる。

  • 患者を横方向に移動させるための器具―天井に取付けるリフトから単純なスライドシートまで
  • 抱きかかえ負荷の最小化のための基本方針、患者の状態評価ツール
  • 介護者または抱きかかえ担当チームへの、正しい器具の使い方のトレーニング

いくつかの州では、患者を取り扱う際の安全プログラムの実施を病院に義務付けており、検討段階の州も多い。病院の安全衛生プログラムを構築し広めるのに役立つ多くのツールや資料、有効な演習が利用可能である。
シンシナティの小児病院では、抱きかかえ負荷を最小限にする方針と他の安全対策の取組みで、わずか3年で労働損失時間を83%減少させた。

スタンフォード大学医療センターでは、80万ドルを安全な抱きかかえプログラムに投資した後、5年間の総計で220万ドルの支出減となっている。削減の内容としては、大まかに半分が労働者への労災補償費用で、残り半分が患者の圧迫性潰瘍の減少によるものである。

タンパ総合病院の持ち上げ担当チームは、患者の持ち上げのための機器を導入し、患者の取り扱いによる負傷を65%減少させ、さらにそれに関連する費用を92%減少させた。

サウスカロライナ州の小さな病院では、安全な患者取り扱いプログラムを導入し、看護師の離職率を48%下げ、それに関連する費用を17万ドル削減した。

病院労働者の安全を守るための知識を深め、次なるステップに移行すること

US-OSHAのサイトでは、より安全な職場づくりを支援する情報、資料やツールを紹介している。まずは次のことを実行してほしいとしている、

  • 負傷率と安全プログラムを評価すること
  • 安全衛生マネジメントシステムが、いかに職場の安全プログラムを一層効果的にするのか理解すること
  • 包括的な患者を安全に取り扱うプログラムの利点を理解すること
  • 他の病院が採用し成功した方策例から学ぶこと

労働者にとって病院はどのくらい安全か(概要)

自己評価

病院管理者へー職場の安全性がどれくらいなのか、他の病院といかに比較するのか。ここでは、安全性・リスク・人事の担当者への質問を挙げている。職場の安全性を高めための第1段階として、管理者の関与があり、管理者の取組みを期待している。

パートA : 事象発生率(Total Case Incidence Rate : TCIR)

1. 昨年、TCIRはどのようなものであったか。
2. TCIRは、ここ数年間どのように変化しているか。増加しているのか減少しているのか。
3. 他病院のTCIRと、どのように比較するか。

米国内の病院のTCIR率(自己評価の比較対照として)(100人の正社員に対する事象発生率)

8.5 上位四分位点 (25%の病院が8.5以上の発生率である)
6.8 全病院の平均値
5.9 中間値、50%がこれ以上の値で、50%がこれ以下
4.8 US-OSHA VPPに参加する病院の平均値
3.1 下位四分位点 (最も高い安全性を示した25%の病院が3.1以下の値である)

パートB : 休業日、作業の制限、または配置転換(DART)

病院のDART率は 休業となった日数、作業の制限、および/または配置転換(転職)(job transfer)を生じた、労働災害による負傷と疾病に関する数値を示している。

4. 昨年のDART率の水準はどのようなものであったか。
5. DART率はここ数年間どのように変化しているか。増加しているのか減少しているのか。
6. 他病院のDART率と、どのように比較するか。

米国内の病院のDART率(自己評価の比較対照として)(100人の正社員に対する事例発生率)

3.2 上位四分位点 (25%の病院が3.2以上の発生率である)
2.7 全病院の平均値
1.9 中間値、50%がこれ以上の値で、50%がこれ以下
1.4 US-OSHA VPPに参加する病院の平均
0.6 下位四分位点 (最も高い安全性を示した25%の病院0.6以下の値である)

パートC : 負傷と費用

7. 昨年、記録された負傷の原因のトップ3は何か。
8. 昨年、労災補償費用の支出額はいくらか。支払給与総額に占めるその割合はどうか。
9. ここ数年間、労災補償金の支出額はどのように変化しているか。増加しているのか減少しているのか。
10. 昨年、労働に伴う負傷または疾病が原因で何人の従業員が退職したか。(職歴を重ねた中で累積継続された負傷を含む)

パートD : 安全プログラム

11. 各従業員が、安全トレーニングを1年間に平均で約何時間受けているか。
12. 従業員の安全衛生を管理するための体系的なプログラムを導入しているか。文書化されているか。包括的なプログラムか。
13. ビジネスプロセスと労働者の安全衛生を改善する方策を一本化しているか。
14. 昨年、労働者の安全衛生について見直しをしたか。いくつの項目がまだ顕著なままか。
15. 安全衛生問題について、従業員がフィードバックできる方法を提供しているか
16. 患者の安全と同じように 労働者の安全について理事会に報告し話し合ったか。

次のステップ

上記の質問への回答内容で、現状の病院安全プログラムがどの程度機能しているのか分かるとしている。患者の安全を望むのと同様に、労働者の安全を継続的に改善させる方策が求められている。

業績優秀な病院では、様々な方法で従業員の負傷や疾病を軽減させていることがわかる。同時に支出削減も実現させている。一つのやり方が全ての病院に当てはまるわけではないが、高い業績をあげている病院では多くの方策を公開しており、他の病院の改善成功に寄与している。

US-OSHAのサイトでは、病院を一層安全な作業場にするための、以下のような詳しい情報やツールを紹介している。

(例)

  • 課題の範囲を明らかにし(病院が最もリスクの高い作業所であることはあまり認知されていない)、さらに従業員の負傷を減らすことが、患者の安全、さらには病院の財政にも良い結果をもたらすことを示している、ファクトブック。
  • 全国の業績の高い病院の成功事例と取組み。
  • 安全衛生マネジメントを実行するためのツール-問題の解決にすべての従業員が参加する実証済みの体系的なアプローチ。
  • 病院労働者の負傷の主たる原因である患者の取り扱い作業のためのツールキット。

全ての働く人々に安全・健康を 〜Safe Work , Safe Life〜

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