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アルゼンチン共和国 労働災害監察局

SWFE
(Safe Work for Everyone:全労働者に安全な業務を)


a.プログラム

SWFEプログラムは新しい災害予防管理方式であり、完全性、永続性、持続可能性という特徴がある。SWFEは、種々の事業部門を持つ企業を取り巻く多様な内容を継続して取り扱うことのできるという点で、今まで考えられていたどれよりも完全であると言える。SWFEが目指す目標については、一定期間内に達成すべきものであるにもかかわらず、その活動が未来にも存続するという意味で永続的である。なぜなら、客観的かつ安定した基準に基づいているものの、SWFEの評価基準は柔軟であるため、このプログラムをはやく訂正することが可能である。

プログラムではまず、活動の焦点をいわゆる「危険企業*」に置いている。危険企業とは、労働者(従業員)数50人以上で、種々の事業部門を持ち、年間の災害発生率が所属する業界グループの平均よりも10%高かった企業とする(許容誤差は約5%と推定する)。労働災害の69%は50人以上の労働者を雇用する企業で発生しているため、分析に用いた50人以上というパラメータは根拠のない選択によるものではない。

上記に指摘した基準のもとに、合計3,412社の企業を危険企業に指定した。この危険企業には下記の特徴が認められる。

  • 全体で12,000カ所を超える事業場が存在すると推定される。
  • 810,000人の労働者を雇用しており、労災保険に加入している全労働者の16%にあたる。
  • 1999年にはおよそ162,000件の労働災害が発生しており、この数値は労働災害全体の47%を占める。

このグループに対する災害予防活動の目標は下記の通り。

  • 1年間の労働災害発生件数を10%低減する。
  • 災害原因を除去する。
  • 労働安全規則の遵守水準を高める。

労働災害発生の可能性が高いという問題を抱えた3,412社の企業において作成される活動計画は下記の通り。

  • 各事業場を逐一訪問する。
  • 各事業場における労働災害原因を調査分析する。
  • 現在の法律遵守状況を調査する。
  • 改善案を作成する。
  • 「労働災害低減プログラム(Reduceing Work Accident Program:PRS)」を詳細に作成する、そのプログラムの個々の提案や修正プログラムの活動によって目標達成期間内に危険原因/危険物質を特定する。
  • 当初設定した基準、目標と、危険企業指定の決定要因となる評価項目を、定期的に改訂する。
(脚注)
* アルゼンチンでは「危険企業」を"Empresa Testigo(証人企業)"と称する。


b. 危険企業選択の方法

本システムは、430,000の保険加入事業者と保険対象となる約500万人の労働者を対象としていることを確認しておくべきである。

1999年に発生し、報告された労働災害で、事業場で作業中に発生した事故のうち、一日以上の欠勤という結果を招いたものを対象としている。

1999年に従業員が上記のような労働災害に遭った69,884事業者のうち、同年に雇用していた労働者数平均が50人以上であり、労働災害と職業病を合わせた発生率が所属する業界の労働災害と職業病の発生率平均よりも10%高い事業者を選択した。

この方法によると、危険企業グループには3,412の事業者の企業が属することになる。これを事業規模ごとに見ると下記の特徴が認められる。

  • 選択された企業の50%は50〜100人の労働者を雇用している。労働者数101〜500人の規模の企業を合わせると危険企業グループ全体の93%を占め、企業数は3,161社を数える。しかし、労働者数5,000人を超える企業が14社あるが、これは登録されている同等の規模の会社のほぼ1/3を占めることを指摘しておく必要がある。
企業の規模 度 数 パーセント値 パーセント値累計
労働者数50〜100人 1,694 49.6 49.6
労働者数101〜500人 1,467 43.0 92.6
労働者数501〜1500人 185 5.4 98.1
労働者数1501〜2500人 36 1.1 99.1
労働者数2501〜5000人 16 0.5 99.6
労働者数5001人〜 14 0.4 100
合 計 3,412 100
  • 企業の36.5%が製造業界に、そして14%が建設業界に属している。両業界を合わせると合計1,709社となる。特筆すべき事実として、産業としての重要性の順では、割合がほぼ14%近くの社会福祉業界がこの2業界に続くが、社会福祉分野は労働災害発生率が最低の業界であることがあげられる。
業 界 危険企業グループの度数 パーセント値 パーセント値累計
分類できない業務 3 0.1 0.1
農業、狩猟・林業および漁業 198 5.8 5.9
鉱業および採石業 23 0.7 6.6
製造業 1,246 36.5 43.1
電気、ガス、および水道業 44 1.30 44.4
建設業 463 13.6 57.9
卸売・小売業、およびレストラン・ホテル 458 13.4 71.4
輸送、倉庫、および通信業 324 9.5 80.9
金融サービス業および金融専門家 181 5.3 86.2
社会福祉および個人サービス 472 13.8 100
合 計 3,412 100
  • 危険企業グループにおいては、欠勤を伴う労働災害が162,969件発生した。これは、1999年に報告された欠勤を伴う労働災害および職業病全体の47%を占めたことを意味する。
  • 危険企業グループの輸送、商業、および金融サービスに属する企業において、1999年に個々の事業部門で報告された欠勤を伴う労働災害と職業病を累計すると、全体のおよそ56%となる。このパーセント値は、社会福祉では47%に、建設/ビル部門では45%となる。
  • 欠勤を伴う労働災害として登録されたもののうちの10%はスーパーマーケットおよびセルフサービス業務で発生している。8%はゴミ収集、およそ6%はビルの建設、改装、または改修で、そして5%は高速道路の建設、改装、または改修で発生している。労働災害発生の可能性が最も高い20業種で、欠勤を伴う労働災害の60%が発生したことが記録されている。
業界(労働災害発生の可能性が最も高い業種) 度 数 パーセント値
一般製品の販売、スーパーマーケット、セルフサービス 16233 10.0
衛生業務および類似業務(ゴミ収集を含む) 12533 7.7
建設:ビルの改装または改修 9836 6.0
建設:高速道路の改装または改修 7621 4.7
公共部門および保安 6367 3.9
その他の業務に分類できない技術・専門業務 6124 3.8
都市、郊外および都市間の交通機関 5545 3.4
牛肉の精肉、保存、および冷凍貯蔵 3931 2.4
分類できない個人サービス 3354 2.1
捜索および保安業務 3125 1.9
分類できない建設業務 2930 1.8
商品、文書、小包の輸送 2733 1.7
医科および歯科の助手 2631 1.6
長距離、中距離、および近距離の貨物輸送 2567 1.6
ピザ、ハンバーガー、およびエンパナーダ(味つけパイ)の配達 2214 1.4
薄切冷肉、ソーセージ、乾燥豚肉および牛肉の製造 2068 1.3
部品、予備品、付属品の製造 1985 1.2
分類できない社会福祉および地域福祉 1545 0.9
エキス剤以外のノンアルコール飲料の製造 1537 0.9
鳥の屠殺、精肉、および保存 1508 0.9
上記以外のすべて 66582 40.9
合 計 162969 100
  • これらの危険企業においては労働災害や職業病による死亡が128件発生した。このうち23%は建設業界で、17%は製造業界で発生している。危険企業で発生した労働災害による死亡は、1999年に報告された労働災害死亡者数全体の20%を占めている。しかし、建設業界のみの死亡者数をみると、危険企業グループが占める割合は27%に上昇する。
業 界 危険企業グループの度数 パーセント値 業界全体の度数 全体に占める危険企業グループの割合
農業、狩猟・林業、および漁業 10 7.8 83 12.0
鉱業および採石業 0 0.0 2 0.0
製造業 22 17.2 97 23.7
電気、ガス、および水道 3 2.3 20 15.0
建設業 30 23.4 113 27.4
卸売・小売業、およびレストラン・ホテル 13 10.2 75 17.3
輸送、倉庫、および通信 20 15.6 88 22.7
金融保険・不動産および企業サービス 16 12.5 62 25.8
地域福祉、社会福祉および個人サービス 14 10.9 121 11.6
グループの合計 128 100 661 19.7
  • 労働者数と休業災害件数に関する数値によれば、危険企業における、災害度数率は、1000人あたり185.6人に達する。一方、全企業の平均値は69.4人でああることから危険企業の災害度数率は前企業平均の3倍であると結論づけられる。
  • 上記の3,412企業のほぼ50%がLiberty社、Consolidar社、Provincia社、Prevencion社などの労働災害関連の保険会社と保険契約を結んでおり、これらの保険会社が欠勤を伴う労働災害全体の47%を取り扱っている。Asociart社、Omega社、La Segunda社、およびLa Caja社などの保険会社も合わせると、保険契約を結んでいる危険企業は75%を超え、労働災害の62%が保険対象となっている。
作業関連危険労災保険を
取り扱った保険会社
危険企業数 全危険企業に対する
パーセント値
累積パーセント値
Liberty 466 13.7 13.7
Consolidar 436 12.8 26.4
Provincia 418 12.3 38.7
Prevencion 334 9.8 48.5
Asociart 319 9.3 57.8
Omega 277 8.1 65.9
La Segunda 244 7.2 73.1
La Caja 154 4.5 77.6
HIH 145 4.2 81.9
Interaccion 116 3.4 85.3
Berkley ART 92 2.7 88.0
Mapfre 80 2.3 90.3
La Holando 67 2.0 92.3
Fed. Patronal 58 1.7 94.0
La Buenos Aires 49 1.4 95.4
La Meridional 32 0.9 96.3
Boston 28 0.8 97.2
Inst. Autarq. F.R. 19 0.6 97.7
Luz 18 0.5 98.2
Prod. de Frutas 17 0.5 98.7
Victoria 13 0.4 99.1
Resp. Patronal 12 0.4 99.5
Berkley Seguros 7 0.2 99.7
Copan 3 0.1 99.8
Horizonte 3 0.1 99.9
Latitud Sur 3 0.1 99.9
Caja Popular 2 0.1 100.0
合 計 3412 100
  • 危険企業の61%は連邦区およびブエノスアイレス州に位置している。サンタ・フェ州やコルドバ州に位置する企業も合わせると、ほぼ80%に上昇する。
事業者の州 危険企業数 パーセント値 パーセント値累計
CAPITAI 1172 34.3 34.3
BS AS 907 26.6 60.9
STA.FE 349 10.2 71.1
CORDOBA 264 7.7 78.8
MFNDOZA 154 4.5 83.3
MISIONES 75 2.2 85.5
E.RIOS 71 2.1 87.6
R.NFGRO 63 1.8 89.4
SAN LUIS 58 1.7 91.1
TUCUMAN 49 1.4 92.5
SAN JUAN 42 1.2 93.7
NFUQUFN 40 1.2 94.9
CHUBUT 29 0.8 95.7
SALTA 26 0.8 96.5
CHACO 20 0.6 97.1
CTES. 16 0.5 97.6
T.FUFGO 13 0.4 98.0
CTMARCA 11 0.3 98.3
JUJUY 10 0.3 98.6
LA PAMPA 10 0.3 98.9
LA RIOJA 10 0.3 99.2
S.ESTERO 10 0.3 99.5
STA.CRUZ 7 0.2 99.7
FORMOSA 6 0.2 100.0
合 計 3412 100


c. 「危険企業」に関連する措置

危険企業には下記の措置を適用する予定である。

  • "Superintendencia de Riesgos de Trabajo[労働災害監察局]"(SRT - 作業関連危険の予防・管理に携わる政府事務所)では保険会社に対して、会計認識番号(CUIT)、企業名、業務コードなどによって危険企業を特定することのできる危険企業リストを配布する。
  • 同時にSRTは、契約保険会社を通じて危険企業の各事業者に「危険企業」と指定されていること、そして「労働災害低減プログラム」を実施する必要があることを通知する。また事業者は、SRTから次の情報に関する所定の用紙も受領する。a)事業場に関する一般情報(住所、郵便番号、電話番号など)、b)その事業場の操業年数、c)AFIP分類体系に基づく主要業務分野、d)過去6カ月の間にその企業に勤務していた労働者数平均、e)2000年中に登録された労働災害の発生数。通勤途中に発生した災害を区別する。また、このうち欠勤を伴う災害と死亡に至った災害も区別する。
  • 事業者は、この書式の用紙を受領してから10日以内に記入のうえ、保険会社に返送する必要がある。保険会社では、記入された情報を確認した後、受領から5日以内にSRTに返送しなければならない。
  • 保険会社では、情報を記入した文書を用い、事業者の事業所に複数回訪問を実施して、それぞれの危険企業に対して労働災害低減プログラムを作成する必要がある。このプログラムには、その時点に施行されている労働安全衛生規則に対して明らかになった違反についての説明や、各企業の危険因子診断を盛り込む必要がある。労働災害低減プログラムでは、上記の危険因子診断、その危険因子を解消するための推奨事項、プログラム実施期間、そして提案を遵守しているかどうかを確認するための訪問プログラムなどを取り入れている。
  • 労働災害低減プログラムには、保険会社、事業者の法的代理人、およびその企業の労働安全衛生業務に携わる専門家が参加することになる。保険会社は、災害の原因がいずれも同一である場合、違う場所で同じ業務を行っている事業者に対して一つの労働災害低減プログラムを作成することがある。また保険会社は、プログラムの実施状況を監督する目的で訪問計画を立てるが、プログラムにおいてはすべての事業所の危険について現実的な知識を確実に取得する必要があるだけでなく、改善も実施される必要がある。事業者は、自らの企業が危険であることを通知されてから60日以内に労働災害低減プログラムに参加し、申請書の配布から15日以内にSRTに同書を返送しなければならない。通知を受けた事業者が労働災害低減プログラムへの参加に同意しない場合は、速やかにSRTに報告する必要がある。
  • 保険会社は訪問レポートを毎月作成して、SRTに送付する必要がある。事業者が労働災害低減プログラムによる推奨に従わない場合、保険会社はそれを告発するよう義務づけられている。SRTはこのような情報と技術的意見をいずれも所轄の労働省当局に送付し、当局では法律第25212号に従って罰則を適用するが、保険会社の側でも引き続き労働災害低減プログラムの責務を遂行する。


d) 「危険企業」についての一般的考察

  • SRTは、保険会社の業務を監督し、労働災害低減プログラムとその遂行によって達成された目標を評価しなければならない。SRTは、プログラムの結果を改善し、期待される目標が確実に達成されることを目的として、保険会社に事業者に対する処置を強めるよう求めることができる。
  • 危険企業が保険会社を変更した場合、危険企業という指定はそのまま維持されたうえで、参加している労働災害低減プログラムを遂行する必要がある。新しい保険会社はその実施状況を監督しなければならない。
  • すべての事業所における労働災害発生率が1年間で実質的に10%低減した場合にのみ、危険企業の指定が解除される。目標を達成した場合、企業はその状態を維持する必要があり、保険会社では以降6カ月間、目標が達成された状態が維持されているかどうか監督しなければならない。目標が達成された状態で6カ月が経過した場合は、保険会社はその事実をSRTに報告して、企業を正式に危険企業から除外する必要がある。
  • 危険企業と指定される企業数が増大していることから、SRTでは将来、労働災害と職業病の低減に貢献する場合には、危険企業指定の決定要因として採用した評価項目を修正する可能性がある。