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職場のリハビリテーション:意外な落とし穴

クレイトンUtz法律事務所のバランダ・サックとジョン・クレイトンが、
職場のリハビリテーションのはらむ意外な落とし穴を検証する。


(資料出所:オーストラリア安全評議会 (NSCA) 発行
「NSCA's Australian Safety」 2001年4月号)

(訳 国際安全衛生センター)


オーストラリア各州の労働局と労働安全局は強力にリハビリテーションを奨励しており、またすべての裁判所管轄区で、事業者は職場での負傷から回復中の労働者に対し、適切な代替職務を提供する法的義務を負っている。

職場での効果的なリハビリテーションという目的と職場の安全確保という重大な責任のバランスをとること、また労働者を公正に扱いながら企業の経営上の要求を満たすことは、実際には困難な場合が多い。


法的義務の内容

表のとおり、職場でのリハビリテーションを提供すべき事業者の責務は、裁判管轄区によって異なる。適切な代替職務を見つけるよう努力するという内容から、職場のリハビリテーション提供のための制度の確立まで、さまざまな規定がある。しかし共通しているのは、事業者に対し、リハビリ期間中の労働者のために業務を確保するよう誠実に努力することを義務づけていることである。

労働者の復職に関する事業者の責務

首都特別地域 職業リハビリテーションを提供し、リハビリ方針を策定し、リハビリ・コーディネーターを指名しなければならない。
CTH(職場関係法) 負傷した労働者に適切な雇用を提供するために、あらゆる合理的措置をとらなければならない。
ニューサウスウェールズ州 復職が可能であることを知らせずに、負傷後6カ月以内に労働者を解雇してはならず、また2年以内に配置転換してはならない。職場でのリハビリテーション・プログラムを準備し、長期にわたる労働不能については書面で復職プランを作成し、部分的な労働不能については労働者に適切な職務を提供しなくてはならない。
北部特別地域 適切な雇用を提供するために、あらゆる合理的措置をとらなければならず、それができない場合、労働者に労働保健局が策定した代替雇用主制度を紹介しなければならない。
クイーンズランド州 負傷した労働者を支援し、またはリハビリテーションと適切な職務を提供するために、あらゆる合理的措置をとらなければならない。少なくとも3カ月間は労働者を解雇してはならない。職場に30人以上の労働者を雇用している場合、完全に訓練を受けたリハビリテーション・コーディネーターを指名し、労働局が認可したリハビリ方針と手続きを実行しなければならない。
南オーストラリア州 労働者数が10人未満の場合、12カ月間、負傷した労働者のための職場を空けておかなければならない。労働者数が10人以上の場合、職場を無制限に空けておかなければならない。
タスマニア州 負傷した労働者の処遇として妥当である場合、12カ月間は職場を空け、労働不能期間が14日を超える場合は復職プランを策定し、リハビリテーション方針を策定し、リハビリ・コーディネーターを指名しなければならない。
ビクトリア州 負傷した労働者のために12カ月間、職場を空け、復職プランを策定し、リハビリ・コーディネーターを指名しなければならない。労働者数が多数の場合、リハビリテーションおよびリスク管理プログラムも確立しなければならない。
西オーストラリア州 負傷した労働者のために12カ月間、職場を空け、リハビリテーションのための合理的措置をとらなければならない。当該職場が存在しなくなった場合、または労働者がその職務を果たせなくなった場合、事業者は、労働者に適性があり、それを遂行する能力のある同等の職場を提供しなければならない。

十分な職場リハビリの制度を提供することの重要性については、「Moait対Mid Western Health Service事件」において検討された。この事件で問題になったのは、病院での業務中に腰部を負傷した看護師のオニール氏である。彼女が業務に復帰したとき、制限のある職務を割り当てられた。たとえば3キロを超える荷物は持ち上げないことになっていた。当人が必要と考えた場合、他の看護スタッフの支援を得られるような手順が整えられていた。

職場リハビリ期間中、彼女は他の2人の看護スタッフを補助して麻酔患者の動きを抑えていたとき、再び腰部を負傷した。看護師連盟の事務局長は、病院がオニール氏の業務上の安全衛生を確保しなかったとして、ニューサウスウェールズ州1983年労働安全衛生法第15条に基づき、病院を告訴した。

裁判所は、通常の状態では、オニール氏がリスクにさらされるのは取り決めを守らなかった場合だけであったことを認めた。(つまり取り決めは妥当であった。)しかし裁判所は、労働安全衛生法第15条および第16条が念頭においているのは、危険性があるということは、職場での人の安全衛生を確保していないことであるとの見解を示した。したがって個々人の安全に対する不注意、怠慢、軽率、無視から発する危険性に十分に対処しなかった場合、義務違反が発生する。その結果、これらの要因を考慮しない作業制度は、安全とはみなされないことになる。ヒューマンエラーを考慮にいれなければならないのである。

この事件で裁判所は、病院の制度が人間的な意志の弱さ、つまり訓練された看護師が緊急事態に直面した場合、制限を受けた職務での取り決め(3kg云々の話)ではなく、本能と職業的訓練に基づいて行動する可能性が高いことを考慮しなかったと判断した。


不公正な解雇

裁判所が事業者による職場リハビリ提供の義務について検討した中に雇用関係終了の妥当性に関するものもある。

一般に、負傷した労働者の雇用の打ち切りは、その労働者にふさわしい代わりの職場を見つけだし、職場リハビリを奨励する誠実で適切な努力をした場合には許される。以下の事例が示すように、何をもって十分とするかは事件の個別的状況による。

  • 1990年10月に脊椎を負傷した元客室乗務員が、1994年4月から事業者が提供する復職プログラムを開始し、制限された労働時間で事務職に就いた。その後2年間、この労働者は積極的にプログラムに参加し、体調は大幅に改善した。しょう紅熱にかかって3カ月間欠勤した後、彼女の雇用は打ち切られた。裁判所は、彼女の解雇決定は業務上の必要性、または彼女の行動もしくは作業実績に基づくものではないと判断した。逆に雇用主であるカンタス航空が取った処置は根拠がないとして、復職を命じた。裁判所は「この雇用終了は、可能なリハビリテーションプロセスからの結論に基づいてなされたものではない」と指摘した。

  • 1997年4月、トラック運転手が業務中に負傷した。2〜3週間後、運転手は恒常的で重度の頭痛を発症した。運転手に対し、より軽度で適切な他の職務を与えるための措置がとられ、正式なリハビリテーション・プログラムが用意された。ところが同年9月、運転手は割り当てられた職務を拒否して解雇された。裁判所は、雇用主は「適切な措置をとる」ために誠実に努力したこと、運転手に与えた職務はいずれも非合理的または不安全ではないことを認め、運転手の訴えを退けた。そして復職プログラムに入った労働者は、ときとして職務が自分の好みに合わず、雇用主が創設した業務にはほとんど具体的な価値がないと思える場合のあることを想定しなければならないと指摘した。

  • 1994年9月に負傷した看護師が、2カ月後に復職プログラムを開始した。ほぼ2年間、軽労働の職務に就いた後、彼女の雇用は打ち切られた。裁判所は、彼女が通常の職務に復帰できる可能性は低いと指摘した。事実、彼女に通常の職務に復帰するよう要求することは、明らかに労働安全衛生法に違反する。裁判所は、彼女の復職プログラムに欠陥があった可能性はあったが、彼女のリハビリのために誠実で専門的な努力がなされ、彼女が他の職場で事務職を務めるために必要な職業訓練がなされたことを認定した。そしてもとの雇用主が彼女に対し、その制限された能力に合わせた恒久的な職務を与えることは、その職場(病院)では非現実的であると考えたのである。



共通のテーマ

事業者が、労働安全衛生法に基づく重大な責任を果たすうえでの困難さは、単に全当事者が注意していれば機能するような職場リハビリ制度を提供することにあるのではない。この制度は、人的要因と予想外の出来事を考慮しなければならない。事業者は制度の内容だけでなく、予想される運用状況を検討し、制度が守られない可能性についても考慮しなければならない。

  • 復職プランを策定する場合、事業者は以下を考慮すべきである。
    • 負傷した労働者が遂行できる業務の範囲、そして提案する代替職務が負傷を悪化させることはないかという点。
    • 負傷した労働者の能力、関心、専門知識。
    • 労働者の健康改善に必要な医学的、または代替的治療法。
    • 負傷した労働者をそれが傷害とならぬ仕事の資格を取らせるため職業訓練を受けさせる必要があるかどうか。
  • 事業者はまた、その行為が障害を根拠とした労働者への差別につながらないようにしなければならない。「障害」とは、一般的にはきわめて幅広く定義され、肉体的または精神上の部分的損失といった要因まで含む。事業者は、労働者に関して自分が下すあらゆる決定が、当該労働者の業務遂行の状況、能力、可能性のみに基づくようにすべきである。

  • 承認済みのリハビリ・プログラムが完了しなかった場合、またはリハビリのための十分な機会が提供されなかった場合、負傷した労働者が不当に解雇されたとの主張がなされる可能性がある。事業者は、当該労働者にふさわしく、またその能力に合った適切な代替職務が存在しないことを証明できれば、そうした主張を退けることができる場合がある。

  • 解雇された労働者は、もとの職場に適切な代替職務が存在する証拠を示すことができる場合がある。また、そうした職務が自分に医学的に適合し、その能力に合っているとの証拠を示すことができるかもしれない。このような可能性があるため、事業者は適切な代替職務を探すための誠実な努力を払うことが不可欠になってくる。そうした努力のためには、事業者は労働者にふさわしい可能性のある代替職務の範囲と、労働者の医学的、肉体的能力の両方を完全に認識しておく必要がある。

  • 明らかにリハビリプログラムに従わなかった場合、法律で規定されたリハビリが完全に終了する前に解雇したいと云う申し立てが(雇用主から)出される可能性がある。