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平成16年度JICAセミナー カントリーレポート(ブータン)

資料出所:平成16年度JICA労働安全衛生政策セミナー カントリーレポート(ブータン)
(仮訳 国際安全衛生センター)



1. 労働人的資源省組織図



2. 内容

(1) 労働安全衛生活動の現況

1) 労働安全衛生関連法・規則一覧とその概要

労働安全衛生関連分野を対象とする現行法および規則は以下の通りである。

鉱山鉱物法

 "適切な採鉱手順の遵守"に関する条項では、事業者(lessee)が以下の事項を遵守するように明記されている。
  • 鉱山内とその周辺で就労する労働者の健康と安全
  • 鉱山内とその周辺の飲料水や施設の衛生の確保
  • 緊急医療施設の設置
  • 鉱山労働者への研修の実施
  • 鉱山で使用する爆発物の安全な使用と保管およびその管理
  • 鉱山で生じた廃棄物や有毒物質の管理と安全な廃棄
  • 鉱山で発生した事故報告書の提出
  • 鉱山業務に関する会計資料、記録の管理
  • 最終鉱山予備調査の定義に沿った年次鉱山計画、環境管理計画、鉱山復旧計画の作成、提出
環境アセスメント法

 国家環境委員会 (NEC) の責務は、2000年に制定された環境アセスメント法の管理と実施である。委員会は同法に沿って環境保護および環境衛生に関する規則を導入する権限を持っているが、今日までこの分野における活動は限られた企業への助言、情報の提供、主要部門の行動規範の作成に終始している。

労働雇用法

 労働雇用法は労働人的資源省により作成され、現在政府によって再審査が行われている。この法律案は、2005年に開催される第83回国民会議で審議、承認される予定である。同法草案中の労働安全衛生に関する条項は、上記の鉱山鉱物法や環境アセスメント法に比べ、格段に詳細なものとなっており、職場における安全衛生に関する事業主、労働者等の責務が明確に規定されている。
 事業主、労働者から労働安全衛生に従事する代表を選任する規定を盛り込むことも検討されている。同法は20名以上の常勤労働者を雇用している企業に対し、労働安全衛生(OHS)規定の策定、実施を義務づけている。また、労働者が危険な業務から撤収する権利も定めている。

2) 労働監督制度の概要

 労働監督制度は今のところまだ存在していないが、労働雇用法草案にはその条項が盛り込まれている。同法が施行されれば、労働人的資源省管轄下の労働部が、労働監督制度を実施すべく先導的役割を担うことになる。労働監督制度の概要は以下の通りである。
  • 労働監督制度は、全ての職場の労働条件を向上させ、より安全で健康的、かつ生産性の高い職場を実現するために制定される。労働条件、労働環境に関する防止、保護、向上運動がその目的である。
  • 労働人的資源省は、事業主および労働者に密接に働きかけることにより、職場における労働者の保護を第一の責務として定着させ、労働者の保護が良い業績に結び付くとの意識付けや、改善策に基づいた労使間の連携の重要さと生産性の増進を促す。
  • 男女の労働監督官が指名され、事業主と労働者に対する法律の内容と意味の伝達、法律を遵守するための助言、また、現行法では対応できない欠陥や問題について労働人的資源省に報告を行う権限が与えられる。
  • 労働監督官は、労働監督の3分野である、労働条件(賃金を含む)、安全、衛生の全てに従事する。また、労働監督官は外国人労働者の労働形態についても一定の責務を負う。
  • 労働監督官は、災害防止活動を通じ、労働者の保護を促すために定期的に、時には抜き打ちで職場訪問を行い、改善通知の順守を確認するために追加訪問も行う。概して職場訪問を受ける義務のある企業は、少なくとも1年に1回の頻度で訪問を受けることになる。
  • 労働関係の分野では、雇用労働部が労働関係担当官を指名し、政策枠組みの実施および労働者の代理での交渉を担当させる。また、雇用労働部は、憲法が施行されるまで労働者の資格、権利に関し労働者の要望、苦情を代弁する活動を行う。
  • 労働関係担当官は、憲法や雇用労働法の規定の遵守に当たり先導的な役割を担う。
  • 労働争議防止機構を確立し、様々な企業で運営する。
  • 伝統的、習慣的な方策を考慮した労働争議解決機構を確立し、運営する。
労働部管轄下の労働関係監督課は、以下に焦点を当てた活動を行う。
  • 権限のある監督官が企業を監督し、事業主に対して法律の内容と意味を適切に伝え、自主的な遵守の重要性を促す教育や情報伝達、助言を行い、必要とあれば強制措置を講じる。
  • 法律の実施を監査し、法律の弱点や欠点を特定し、今後の改善に生かす。
  • 自営業者、家族企業、農民など、正式な契約の約定の対象とならない労働者に対しても、特に労働安全衛生に着目した労働監督サービスを提供する。
  • 査察訪問の結果を報告し、労働監督、労働関係制度の運営に関する定期報告書と、労働人的資源省に提出する年次報告書を作成する
  • 他部、他局と調整し、労働監督と労働関係制度の運営について情報を共有の上、労働人的資源省に提出する年次報告書を作成する。
  • 情報収集、基礎調査を行い、賃金、労働安全衛生、その他に関する政策文書草稿の作成を支援することにより新しい政策を形づくる。
  • 3つの地方事務局の労働監督活動を指導する。

3) 労災補償保険スキームの概要

 労災補償保険スキームは、1994年に制定された賃金率・人材仲介機関・労働者補償法に規定されている。同法は、現在のところ国民および外国人労働者の労働条件を保護する唯一の法律である。

 同法は、"労働者補償"という条項を設け、以下について規定している。 
  • 部分的労働不能:就労中に手足、あるいは目の損失があった場合や、部分的難聴、持続的に衰弱する身体上の傷害を被ったが生計を立てられる者に対しては、ゾンカック(県)の政府公認の医務官が認定した傷害程度に従い、2,000〜10,000ニュルタムが補償金として支給される。
  • 完全労働不能・死亡:職場での事故により完全労働不能に陥った、もしくは死亡した場合には、本人あるいは遺族に対し25,000ニュルタムの補償が支給される。
  • 事故が発生した場合、労働者は上記の2つの規定と、事業主の用意した保険の保障内容のどちらか補償額の高い方を請求することができる。
  • 健康診断:事故の届け出をした労働者は、政府公認の医務官から無料で精密な診察を受けなければならない。診察後、医務官は被災した労働者が一時的・部分的・完全労働不能のどれに該当するかを認定する。
4) 労災データおよび労災データ収集システムの概要

 事故報告制度については鉱山鉱物法が規定しているが、実際には効果的に機能していない。そのため、現在労災データ収集システムは存在しないに等しいと言わざるを得ない。
 しかし、労働雇用法草案は以下の通りデータ収集に関する条項も盛り込んでいる。
  • 事業主は事故が発生した場合、速やかに労働部の長に届け出なければならない。
  • 事業主は、事故に気が付いてから5日以内に事故の記録書類を作成し、労働部の長に提出しなければならない。
  • 記録書類は法律に定められた情報を含むものとする。
  • 事業主は監査に備えた記録を用意しなければならない。
  • 事業主は記録のコピーを少なくとも5年間は保管しなければならない。
5) 労働安全衛生研修・教育制度

 現在ブータンには労働安全衛生のみに特化した研修・教育制度は存在していないが、大規模な企業では従業員の安全を点検するために、安全対策の他に独自で健康機関を設けている。また、小規模企業では、作業別制服の着用などの安全対策が厳格に守られており、従業員の健康を確保している。
将来、十分な経験と専門技術が蓄積されれば、ブータンにおける産業の適切な安全衛生制度に向けて、安全衛生対策に必要な研修・教育制度が発足される可能性はある。

(2) 労働安全衛生に関する行政政策を実施する上での問題点と、関連対策に対する意見

 ブータンには労働安全衛生政策を管理する正式な制度が無かったため、今日まで全ての企業や職場で安全衛生対策や雇用条件を規制することは困難であった。しかし、現在政府に承認のために提出されている労働行政運営方針が作成され、我が国はこのような制約への対応に取り組みつつある。一旦この方針が政府の承認を受ければ、労働人的資源省はその実施に全面的な責任を担うことになるであろう。