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国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > 中国 「機会と課題:中国における労働安全衛生」

展望と提案

現在から21世紀初頭にかけては、中国の社会・経済的変化と発展に重要な時期であるばかりでなく、労働安全衛生の事業にとっても極めて重要であり、われわれは大きな機会と課題に直面している。

経済改革は社会に幅広く、深く浸透しているが、計画経済の時代に形成された古い制度や考え方は今なお、新しい労働安全衛生サービス・システムの足かせとなっている。一方で生活条件の改善を果たした労働者は労働条件の改善を求めている。平和と発展を特徴とする現在の国際情勢の雰囲気の中では、グローバルな経済システムが発展している。人々は協力し、発展し、共存することを求めている。しかし政治、経済制度の違い、文化的伝統や価値観の相違などのために、世界では今も対立と競争が続いている。国際的制度に歩調の合わない労働安全衛生面の遅れは、中国の国際協力に悪影響を及ぼすのは間違いない。こうした情勢の下でわれわれは多くの努力を求められている。しかしこうした相違は一朝一夕に克服できるものではない。

持続可能な開発は中国政府の基本的政策の一つである。政府の事業の非常に重要な一部として、労働安全衛生は政策開発の重点の一つになっている。21世紀の入り口に立った現在、われわれは労働安全衛生面における飛躍的発展を目指すために、以下の提案を行っている。

  1. 立法を最優先させること。労働者の安全と衛生は分離できるものではない。われわれは労働安全と労働衛生を2つの制度にすることを避けるべきである。統一された労働安全衛生法の制定が望ましい。法律によって委嘱された統一的で効率の高い管理、監督制度を確立すべきである。

  2. 労働安全衛生分野における3者(政府、事業者、労働者)の調整制度を確立すること。この制度は社会主義市場経済の発展に組み込まれるべきである。

  3. 労働安全衛生基準マネジメントシステム(Occupational Safety and Health Management System)を促進し、それを近代的な企業システムに取入れること。OSHMS、ISO9000、ISO14000などは、近代的な企業システムを完成させる基礎として、中国における労働安全衛生の科学的管理の基準となるだろう。OSHMSは企業が労働安全衛生に基本的責任を負うべきことを強調している。

    OSHMSの促進は2つの作用を持っている。一つはOSHMSを利用することによって、企業の管理システムを評価、検討、承認し、政府の機能メカニズムを綿密な管理に変えていくことである。もう一つはOSHMS、ISO9000、ISO14000などを企業管理システムに取入れることである。労働安全衛生管理は企業の責任の一つになっていくだろう。


  4. 労働衛生を労働災害の安全保障(accident security)に取りれること。労働災害安全保障の3つの主要な機能(予防、治療とリハビリ、補償)のうち、予防を優先させるべきである。この観点から、予防機能を十分に発揮するためには、労働衛生と労働安全の事業の一本化を強調すべきである。中国では労働安全が企業保険から社会保険に移ったばかりである。このプロセスにおいて、事故対策の運営メカニズムは予防を主要な機能とするように設計すべきである。これは労働安全、労働衛生、社会改革のいずれにとっても重要なことである。
  5. 企業や社会の「安全カルチャー」を向上させる。改革が始まってから、多くの多様な外国の生産技術や管理システムが短期間に中国に持ち込まれ、所有権や管理制度に大きな変化をもたらした。従業員が一夜にして雇用者になった例もある。多くの農民が都市にでてきて労働者になった。産業技術を改善し、生産規模を拡大するという観点から、これを「近代化」と呼ぶこともできるが、この近代化の基礎となるべき「産業カルチャー」の雰囲気はまだ育っていない。労働安全衛生はこの雰囲気の重要な一部である。この目標を達成するためには、労働安全衛生の知識を普及させる教育と訓練が正当な方法である。この事業は政府と民間両方の責任であり、両者はこれに対する投資を増やして行くべきである。この投資は労働災害や職業病を大幅に減らすことができるだろう。さらに重要なのは、労働者の生活の質が向上し、企業は生産性の向上と競争力の強化によるメリットを得られることである。