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エチオピア南西部における理容師の知識、態度、慣習
Knowledge, attitudes and practices among barbers in south-western Ethiopia
T. Zewudie, W. Legesse, G. Kurkura

資料出所:フィンランド労働衛生研究所
(FIOH:Finnish Institute of Occupational Health)発行
African Newsletter on Occupational Health and Safety
Volume 12, No.3, December 2002 「Work-related diseases」 p.69-71)

(仮訳 国際安全衛生センター)

原文はこちらからご覧いただけます


はじめに

 人免疫不全ウィルス(human Immunodeficiency virus:HIV)は、殺菌をしていない針、注射器、及びカミソリやハサミのように肌を傷つける器具の使用により、人から人に伝染する。従って、HIVの感染を防ぐ為には、これら全ての器具の適切な殺菌が重要である。HIVは、標準的な滅菌方法や高レベルの消毒に非常に敏感で、かつ又、B型肝炎ウィルス(hepatitis B virus: HBV)のような他のウィルスを不活性化させるために考えられた方法も、又同様にHIVを不活性化する。(1, 2)
 理容店では、しばしば、適切な滅菌、又は消毒をせずに同じカミソリ、バリカン、及びハサミを使用する。これらの鋭利な器具の使用は、ひげや髪を剃っている間に、客の顔や頭の皮膚が引っ掻かれ傷つけられることによるHIV感染の危険を意味する。エチオピアでは、理容店でのカミソリやバリカンの共用が一般的慣習であり、鋭い器具による思いがけない引っ掻きは、容易に体内に侵入し客に重大な健康問題を引き起こす微生物、主にHIV、若しくはその他の血液由来病原体に侵入する機会を与えてしまう。(3) 皮膚の突き刺しや不測のけがの可能性がある為、理容店は、現在、エチオピアのような発展途上国を苦しめている死に至る病エイズ(AIDS)を引き起こすHIV暴露の感染源のうちの一つであるといえるだろう。
 エチオピアでは、1986年にHIV/AIDSの最初の症例が確認されて以来、1980年代に急速に広まり始めた。国内のHIV感染の罹患率は、1993年の3.2%から、2001年には10.3%へと急速に増加した。(4) 1997年に感染した成人と子供の総数は、2百万から3百万人と推定され、全感染者のうち15才から24才の年齢層が20%を占めていると予測される。(4)
 上記にのべられた統計は、問題の深刻さを明らかにする望ましい手段ではないかもしれないが、
これらの数字の背後には常に人が存在するということを認識すれば、この深刻さは明白になる。AIDSの治療はまだ普及していない為、増え続けるAIDSの蔓延は、対策が飛躍的に拡大しない限り避けることはできないし、これから先、さらに被害は大きくなるものと思われる。発展途上国における若年成人の半分以上が死亡しているエイズの影響を、軽く考えることはできない。(5)
 AIDSの蔓延は、これらの国々にとり大きな衝撃であり、特に最も生産性のある年代層に影響を与え、そして疾病の広がりは国家経済に多大なる負の影響とともに、家庭、地域及び家族レベルにおいても破壊的な結果をもたらしている。(5)
 エチオピア政府は、1998年にHIV/AIDSに関する国家政策に着手した。その政策は、HIVとAIDSの拡散防止、AIDSに罹患している人々の治療、及び社会経済への悪影響を減じる為のプログラム実行を導くよう企画されたものである。政策目的の一つは鋭利な器具の安全使用を確実にするということと、予防手段である。(6, 7)
 知識、態度、及び慣習、並びにHIV感染の影響に関連した多くの調査が、社会の様々な分野で行われているが、理容業やこの分野における鋭利な器具の使用に関しては、ほとんど注意が払われていない。ゆえに、現在の調査は、鋭利な器具の殺菌とHIV感染の影響に関する理容師の知識、態度、及び慣習を評価する為に行なわれた。

調査目的

 2002年1月22日から30日迄、HIV感染の危険を減らすよう鋭利な器具の滅菌、又は消毒に関して、Jimmaの町の理容師の知識、態度、及び慣習を評価する為に、事前にデザインしたアンケートと評価チェックリストを使った横断調査が行われた。質問はインタビュー形式で行われ、面談者が回答を記録した。調査の質問内容は、以下のようなものであった。
  1. 理容店の仕事における適切な滅菌、消毒の範囲の評価
  2. 殺菌とHIV感染についての理容師の知識評価
  3. 鋭利な器具の滅菌、消毒に関する心構えと慣習の決定
  4. 理容師の知識、態度、及び慣習と、公衆衛生における殺菌の重要性との比較
調査地域

 Jimmaの町は、アジスアベバの南西335kmに位置し、面積は約4482平方メートル、高度は海抜1740メートルである。年間平均降雨量は1465.7ミリで、エチオピアの中で最も雨の多い場所である。ひと家族平均5.5人、22,831世帯を含む3つの郡と21の村に分けられる。1994年の人口調査によると、人口は2001年迄に125,569人になるであろうと予測された。保健サービスとして、町全体とその周辺に保健センターが一つ、3つの保健局、及び大学病院が一つある。(8)
町の人口に対して、法的に資格のある102人の理容師が働く41軒の理容店があり、それら全てが調査の対象になった。

結果

 町の41軒の理容店で働く102人全ての理容師が調査に参加し、評価チェックリストを使用することにより観察された。インタビューを受けた理容師の平均年齢は、28才 (S.D. ±9.8才)であった。このようにアンケートによると20才から25才の若者が大半で、性別では理容師の98%が男性であった。学歴は、中等教育から大学予備軍卒にわたっている。
 理容師の知識評価後、回答者の約99%が、殺菌、保健職員による職場環境調査の重要性、及び殺菌されていない鋭利な器具を通しての病気感染の可能性に関する事項に、正確に回答していたことがわかった。しかしながら、このような器具を通してHIVに感染する可能性があることを知っていた者は、回答者のうちのたった51%であった。殺菌、殺菌法、及び消毒と滅菌との違いの正しい意味を本当に知っていた回答者の数は、43%以下であることが判明した。
 インタビューを受けた全ての理容師のうち94%が、理容業という仕事上、必然的に殺菌対策を支持し、88%が、殺菌をしていないカミソリが疾病を伝染するということを認識していた。しかしながら、回答者の約63%が、HIV/AIDSを含む疾病の伝染予防には、消毒で十分であると信じていた。
 鋭利な器具の使い回しによるHIVを含む微生物を原因とする疾病を取り除くために、すべての理容店が滅菌を行なっているわけではなかったが、消毒は実行していたということがこの調査の評価チェックリストとアンケートから判明した。しかしながら、全ての理容店において、理容師が使用した消毒薬の成分、変性アルコールの濃度、使用期限に関するラベル表示はなく、さらに、カミソリをアルコールで消毒していた時間は、通常1分以下と不十分なものであった。その上、理容店の76%が、変性アルコールに関して、ラベルや関連情報のないオリジナルボトル以外のボトルを使用していた。理容店の51%が変性アルコールを薬局から購入し、34%がその他の店から、15%がスーパーマーケットで購入していたことが判明した。

検討

 輸血、性的接触、及びカミソリや針などの皮膚を刺し通す器具の共用から起こるHIV感染は、資料の中で広く報告されている。HIVは、熱及び太陽光に弱く、体外での生存時間は一般には秒単位と言われているが、場合によっては10分から15分ということもありえる。(9)
 理容店は、一人の客から他者へとHIV感染の経路となる可能性がある。エチオピアでは一般的な慣習であるが、同じカミソリとバリカンが異なる客に使用される時、この感染は起きる。その上、混雑時、皮膚の引っ掻きや突き刺しの可能性に加えて時間短縮による2人同時の散髪により、HIVへの感染機会は劇的に増大する。このように、鋭利な器具に通常使用される滅菌及び消毒に関する理容師の知識、態度、慣習は、HIV感染経路に重大な影響を及ぼす。
 最近の調査結果によると、一部の回答者は、いくらかの知識調査に関して優れた知識を持っているが、大半はそういった知識を持ち合わせていない。70%の回答者は、特に理容時に使用されるカミソリ等の鋭利な器具を通して感染するHIVの殺菌についての質問に対して、全く無知であった。これは、滅菌と消毒の違いに対する理解不足と、通常使用する殺菌していない鋭利な器具を通して感染するHIVについての衛生教育の不足によるものである。同様の結論が、インドで行われた調査でも報告されている。(9)
 HIV感染に関する器具の殺菌に対する理容師の態度評価によると、好ましい態度の理容師の割合は、優れた知識と優れた技術を持つ者よりも多いことが判明した。この調査における理容師の態度は、概して好ましいものであり、これは殺菌していない鋭利な器具により起こる疾病感染と殺菌について、なんらかの情報を得ようとする彼らの姿勢によるものである。
 この調査によると、完全な滅菌を行っている理容店は調査地域には見あたらなかったが、消毒は実践しようとしていた、という事実が明らかになった。この調査の執筆者は、その消毒が一般に高いレベルで実行されたものであるとは考えておらず、少なくとも調査期間中には高レベルの消毒は観察されなかった。まず最初に、理容店の大半の75%がオリジナルボトル意外のボトルを使用していた為、消毒は、濃度表示のない成分不明、使用期限不明の消毒薬を使って行われていた。2番目に、器具を消毒薬につけていた時間は、適切な消毒には不十分なものであった。3番目に、理容店の50%近くが不適切な店から消毒薬を購入し、その75%近くが衛生職員による完全な検査を受けていないものと思われた。この数字は、もし正しい手段がとられないなら、理容店で観察された不適切な滅菌・消毒の実行が安全に関して誤った認識を客に与えるだけでなく、殺菌に無駄な努力が費やされているということを強調している。全ての理容店での完全な滅菌の欠如と、彼らの仕事形態における誤った消毒の実践の理由は、一つには、殺菌とHIV感染への危険性について知識が不十分であることが原因であると思われる。 
 職場を通してのHIVの連鎖感染を断ち切るための権限ある機関による徹底した管理対策と監視の欠如は、全ての理容店で観察された不適切な消毒過程の原因となるもう一つの要素であるかもしれない。この結果は、以前に報告されたリポート(9)に似ており、問題是正のための管理対策が実施される必要がある。

結論

 エチオピアは、依存人口比率0.87、成人のHIV罹患率10%を超える世界で最も貧しい国のうちの一つである。(5, 8, 10) 社会の生産力になる人々が、疫病の主な犠牲者であり、国の経済に及ぼすHIV/AIDSの影響は多大なものであろう。この調査結果により、鋭利な器具の殺菌に関する理容師の知識、態度、慣習が、調査地域の職場において一般に乏しいものであるということが判明した。このように、理容師の行いを変えるなんらかの試みが、国内のHIV感染阻止の為の一つの有効な方法として考えられるべきである。

勧告

 現在、HIV/AIDSの治療については、遠い夢であり、我々の手中にある唯一の方法は防止である。
この調査結果をもとにして、以下のような勧告がだされた。
  1. 政府は、他の関連組織と協力し、人々が殺菌に対する公衆衛生の重要性に関して適切な情報を得ることができる方法で、理容店における殺菌問題に対して正しい情報を提供すべきである。
  2. 理容店における鋭利な器具の殺菌に関する規程や規則が決められるべきであり、これらの規程は、地域、地方そして国レベルで厳しく施行されるべきである。
  3. 鋭利な器具を通してのHIV感染リスクに対する認識が、地域社会において促進されるべきである。理容師という専門職が、教育的介入ができる一つの職業になると思われる。
参考文献
  1. Marcus R et al. Transmission of HIV in health care sitting world wide; Bulletin of WHO; 1989;67(5):577.
  2. WHO. Guideline on sterilization and high-level disinfection methods effective against HIV; AIDS action WHO report: Global program on AIDS. 1988.
  3. Cheebruooh M. Laboratory practice in tropical countries (part-II); Cambridge University press; 2000:49-50.
  4. MOH. AIDS in Ethiopia: Back ground projects, impact and intervention; MOH epidemiology and AIDS department. 1998.
  5. UNAIDS. Alban A, Guinness L. Socio-Economic Impact of HIV/AIDS in Africa; from economic and AIDS in Africa; Switzerland [CD-ROM acrobat reading]. 2000.
  6. Orc Macro et al. Ethiopia Demographic and Health Service; 2000:159-63.
  7. Policy on HIV/AIDS of the Federal Democratic Republic of Ethiopia.
  8. Central statistics authority of Ethiopia; the 1994 population and housing census of Ethiopia; statistical abstract.2000.
  9. Khadait DW, Abadekar NN, Vasudeo ND. Knowledge and practice about HIV transmission among barbers of Nagpur city; Indian Journal of Medical Science; 1999;53(4):167-71.
  10. Mengstu B. International conference on public management, policy and development proceeding governance and substantial development: Promotive collaborative partnership; Addis Ababa, Ethiopia; 2001