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建設業における安全への取り組みを変える

資料出所:European Agency for Safety and Health at Work発行
「Magazine」2001年2月号"The changing world of work"より

(訳 国際安全衛生センター)


アイルランドでその道30年近い経験を持つある建設労働者が、建設労働者の安全と衛生の問題についての今までの問題点を総括している。安全担当者を増員する最近の動きは、業界の安全への取り組みを大幅に改善する先駈けとなりそうである。

今日のアイルランドの産業界にあって、建設業ほど数多く語られ、また目につく業界はない。労働者不足の悲鳴があがっている。この業界のすべての部門が好景気で、新聞の見出しは新しい不動産開発の記事で溢れている。

残念なことに、見出しでは、建設労働者の死傷事故で人の犠牲が急増していることも報じられている。建設業界全体に関する調査では、1998年には、建設の事故で27人が死亡した。また1時間に1人の割合で建設労働者が負傷している(アイルランド安全衛生当局、1998年)。


安全衛生研修

安全衛生研修は、1989年労働安全・衛生・福祉法(Safety, Health and Welfare at Work Act, 1989)、および1995年労働安全・衛生・福祉(建設)規則SI 138(Safety, Health and Welfare at Work (Construction) Regulations SI 138,1995)により法的に義務づけられている。社内外の機関を通じて、この研修を実施する義務が事業者に課せられている。

アイルランドの典型的な大規模建設現場には通常、様々な建設会社に雇われた1,200人以上の労働者がいる。大規模な現場にはよくその現場に応じた基礎的な研修コースが設けられているが、建設業の活動の大半を担っている小規模な現場にはそうしたコースがないのが普通である。そうしたコースがある場所でも、きわめて基本的なものにとどまっている。わたしはそのことを自らの実体験と伝聞により知った。

アイルランドの建設業に従事する労働者は約145,000人に上り、建設業界向けに全国的な安全意識研修プログラムを実施し、すでにこの業界に従事するすべての労働者が適切な研修を受け、これから従事するすべての人々が前もって研修を受けるようにすべきことは明らかである。しかしわたしの個人的経験では、安全衛生研修は法的な義務にもかかわらず、おおむね無視されている。


安全担当者の不足

さらに問うべき問題として、なぜ建設業には安全担当者がこれほど少ないかということがあげられる。1999年労働安全衛生福祉法(Safety, Health and Welfare at Work Act 1999)が定める安全担当者制度は、建設業界では最近までほとんど存在しなかった。建設労働者の中には安全担当者になることがかなり出過ぎたことであるとの強い思い込みがあったのである。

建設業では雇用が継続的でないという面がこうした思い込みを助長しており、安全担当者は安全な作業慣行に固執していると見られ、将来の雇用の際、不利になるのではないかと考えられた。

こうした状況を反映するわたしの個人的経験のひとつとして、数年前に働いていた建設現場での体験がある。現場の安全が悲惨な状況だったので、わたしは安全問題に取り組むための組合集会を呼びかけた。それからわずかな時間(数時間)の後に、わたしはその現場から追い出され、別の現場で作業するよう移動を命じられた。これは数年前の出来事だが、この業界の断続的な業務のあり方が、積極的に安全担当者になりたくないという気持ちを生む。

この状況で特に嘆かわしいのは、それが安全と衛生への協力的なアプローチだけでなく業界のセーフティ・カルチャーの促進や発展をも困難にしているということである。


明るい展開

しかし、最近ではいくつか明るい展開が見られる。アイルランド労働組合評議会(Irish Congress of Trade Unions)は建設業連盟(Construction Industry Federation)およびアイルランドの安全衛生当局との討議を始めた。その結果、アイルランドの50の大型建設プロジェクトで労働者の中から安全担当者を任命することを目指す計画が合意された。これらの安全担当者は、労働組合、建設業連盟(CIF)、安全衛生当局の支援を受けて法的な義務を実行することになろう。

アイルランド労働組合評議会はまた、FASの支援を受けて、3日間の安全担当者研修コースを開発した。このコースはFASとCity & Guildsが共同認定している。

産業担当官(Industrial Officer)兼アイルランド労働組合評議会の安全衛生スポークスマン、ファーガス・ウェラン(Fergus Whelan)は次のように述べている。「一部の受講者の報告によると、彼らの事業者は協議の要求に当初不満を漏らした。しかし、受講した安全担当者が建設現場で貴重な財産となることを知ると、事業者の不満はたちまち消え去った」。

彼は、新たに研修を受けた1人の安全担当者を取り上げて、こう述べている。「彼(現場監督)は初め、わたしが彼にいやな役を押しつけようとしていると思っていたが、今では、彼はわたしに助けを求めに来る」。

次の抜粋は、職場での協議を強力に支持する多数の意見のほんの一例である。

「安全と衛生に専門的に取り組む労使協議委員会を設けた場合、経営側が協議の場を持たずに安全衛生を取り扱う体制と比較して、労働者千人当たりの負傷者数が平均5.7件少なくなる」。


結論

個人的経験から、安全担当者システムの利点がすべての当事者によって認識されたなら、それは一歩前進である、というのがわたしの信念である。労使が敵対しない限り、職場での安全と衛生を強化する労使協議プロセスは、建設業界において前向きな安全衛生の文化を生み出す上で正当な地位を占めるようになるだろう。