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EU安全衛生機構レポート 307
EU加盟各国における労働安全衛生マネジメントシステムの導入
(企業レベルでの実施例)

資料出所:Reports :Issue 307 - The Use of Occupational Safety and Health Management Systems in the Member States of the European Union, 21/06/2002
http://osha.europa.eu/publications/reports/307/index.htm/
(仮訳 国際安全衛生センター)

JICOSH訳注---訳において、実施例の説明の詳細な部分については、一部を省略した。
  この報告書の原文は、サイトからダウンロードすることができる。出所を明記すればコピーなどによる利用は差し支えないとされている。


目次

前書き

要約

第1章 序論

第2章 OSHマネジメントシステムの要素と標準モデル

2.1 OSHの導入
2.2 OSHのプロセス定式化と実施
2.3 OSHによる効果とフィードバック
2.4 OSHのフィードバック
2.5 システムの透明性の要素
2.6 標準モデル
2.7 OSHマネジメントにおけるカテゴリ

第3章 実施例

3.1 アグファ・ゲバルト写真(ベルギー・モーツェル)
3.2 アダルゴ印刷所(スウェーデン・ハイジングスバッカ)
3.3 ハーレブ市在宅介護機関(デンマーク・ハーレブ)
3.4 ミブラーグ鉱山(ドイツ・タイセン)
3.5 アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ・アッティキ・オドス)
3.6 コーク大学(アイルランド・コーク)
3.7 アンプリフォン電機(イタリア・ミラノ)
3.8 セルメルックス建設(ルクセンブルグ・ケーレン)
3.9 バレスマー建材(スペイン・オンダ)
3.10 ベルグランド乳業(オーストリア・グラーツ)
3.11 レイランドトラック(英国・レイランド)

第4章 結論

付属資料

付属資料 T OSHマネジメントに関する文献(略)
付属資料 U 謝辞(略)

前書き

EU安全衛生機構の設置を定めた理事会規則第2条において、EU安全衛生機構設置の目的は、「EU各機関、加盟国および関係者に対し、安全衛生に関する分野で役立つ、技術、科学および経済に関する情報を提供することによって、作業環境の向上を推進することにある。」とされている。この目的を達成するため、本機構は加盟各国にとって有益な情報を収集し、普及する活動を展開している。

労働の条件は変化して複雑化し、ハザードも新しいタイプのものが出現してきており、職場の安全衛生のための新しい体系的なアプローチが必要となってきた。 この解決策としては、事業主が自己のすべての事業活動について、安全衛生に関する原則に沿った対応をなし、日常作業において適切な対策を行うようにすることが必要である。 労働安全衛生(OSH)のマネジメントがなされなければならず、EU理事会指令(89/391/EEC)は、OSH問題についての組織を設け、安全衛生のマネジメントを行うことを求めている。このような状況において、OSHマネジメントシステムは有効な手だてである。

EU安全衛生情報プロジェクトの目的は、EU加盟国の企業で労働安全衛生マネジメントシステムが導入されている好例についての情報を提供することである。

EU安全衛生機構は、企業レベルでの労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMSs)の例についての情報を提供することに、加わっていただいたISGの Helmut Hagele 氏の他、各機関および個人に対して謝意を表するものである。

ビルバオ、2002年4月
EU安全衛生機構


要約

労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMSs)の概念は極めて複雑であり、さまざまな定義がなされている。OSHMSsに関する論議が行われてきた結果として、労働安全衛生マネジメントの概念の理解について、標準化はされていないことが明白である。さまざまな異なったアプローチとモデルが存在しており、往々にして単なる部分的な要素が、完全なマネジメントシステムと見なされている。全体的な目的は、労働の場における安全衛生の向上であるが、詳細なレベルで見たとき、例えば、最優先の企業目的として災害の防止とするか、事業主の責任を明確とするか、または従業員の参加とその代表について改善するかなど、重点を置く対象に違いのあることが見出される。

このレポートでは、企業が労働安全衛生OSHマネジメントシステムを導入するか、または改良を行った際に重点を置いて取り上げた事項について説明した。  特に下記の事項に重点を置いた。

  • 何が目的として設定されたか。
  • 労働安全衛生マネジメントシステムのどの部分が取り上げられたか。
  • 労働安全衛生マネジメントシステムの実践において、どのような経験が得られたか。 

実施例においては、内容の他に各企業の状況に情報を記載した。

理解を助けるために、労働安全衛生マネジメントシステムの総合的な枠組みについて最初に説明した。ここでは、多くのプロセスとさまざまな内容を有する標準的なマネジメントシステムについて説明している。このシステムの基本的なプロセスを下図にしめす。

OSHMSの5つの要素

 
透明性の要素
評価
  OSHのフィードバック
IOHA報告(ILO)を改変

開始
  OSHの導入

透明性の要素
定式化
OSHの実施
OSHプロセス

IOHA報告(ILO)を改変

また、これらのプロセスにはさまざまな内容が含まれているので、その要約を表としてまとめた。

プロセス各要素ごとのさまざまな内容の分類

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

 


ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

 第3章においては、下記の各企業がそれぞれの労働安全衛生マネジメントシステムを導入するか、または改良を行った際に重点を置いた事項について説明している。
3.1 アグファ・ゲバルト写真(ベルギー・モーツェル)
3.2 アダルゴ印刷所(スエーデン・ハイジングスバッカ)
3.3 ハーレブ市在宅介護機関(デンマーク・ハーレブ)
3.4 ミブラーグ鉱山(ドイツ・タイセン)
3.5 アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ・アッティキ・オドス)
3.6 コーク大学(アイルランド・コーク)
3.7 アンプリフォン電機(イタリア・ミラノ)
3.8 セルメルックス建設(ルクセンブルグ・ケーレン)
3.9 バレスマー建材(スペイン・オンダ)
3.10 ベルグランド乳業(オーストリア・グラーツ)
3.11 レイランドトラック(英国・レイランド)

 多くの場合、既存の労働安全衛生組織を、さらに発展させることがOSHMSの導入の目的であった。したがって、OSHMSsの大部分は、以前からの(部分的な)システムに基づいている。例えば、ミブラーグ鉱山(ドイツ)は、この企業の英米の所有者が使用しているシステムの要素を取り入れて、その労働安全プログラムを変更した。アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ)は、国の法令に従って、まったく新しく労働安全衛生マネジメントシステムを導入した。この法令は、建設現場における安全衛生に関するEUの理事会指令(92/57/EEC)をギリシャ国内で実施したものである。ベルグランド乳業(オーストリア)におけるOSHシステムの導入は、作業における災害件数が増加したために開始された。

 

実施と効果の達成

  すべての生産会社は、他のマネジメント機能に直接つながった形態の組織(例えばアグファのISO 9002に関連したOSHMSのように)を選んでいる。ルクセンブルクのこの例は、OSHMSの細部が会社の経営哲学の一部をなしていることを示す。この哲学は、業務が健康と美学に関連していることを明確に認識している。ミブラーグ鉱山(ドイツ)においては、労働安全が企業目標の第一であって、他の目標と同一の優先度/レベルを有している。

  OSHMSの導入において、多くの場合、従業員はさまざまなやり方で協議に加わったり、関与してきた。OSHMSの導入において、外部の専門家と相談した例は少なく、セルメルックス建設(ルクセンブルグ)が2人の外部の専門家を使用したのみである。

  また、これらの実施例は、既存のマネジメントシステムとOSHMSの統合が難しいことであって、完成するまでには長期間を要するという事実を明確としている。

 

OSHMSの効果

  OSHMSの導入において、定量的な目標の設けられた例は極めて少数であったが、このような目標のほとんどは、「災害ゼロ」であった。このような目標を設けた企業においては、災害を削減するという目標は達成されている。例えば、ミブラーグ鉱山(ドイツ)、アグファ・ゲバルト写真(ベルギー)およびベルグランド乳業(オーストリア)がある。 別の効果として、従業員の動機付けの増大がある。これは定量的な評価はされていないが、多くの会社が、OSHMSの導入により、生産性が向上したと考えている。

 

長所と短所

  概念において、作業による災害の防止に重点が置かれ、職業性疾病と作業関連疾患への関心が低かった。企業によって、OSHの重要性についての認識のレベルが異なっていた。例えば、アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ)および コーク大学(アイルランド)では、OSHは必要な対策としてだけ扱われていたが、ミブラーグ鉱山(ドイツ)、アンプリフォン電機(イタリア)およびセルメルックス建設(ルクセンブルグ)においては、OSHが経営哲学の最も重要な要素のひとつと見られている。実施例における達成と成功の状況は、労働安全衛生が企業トップの義務であることの宣言が重要であることを明らかとしている。

  この報告書の対象となった企業においては、OSHMSが有力である点がよく認識されており、特に大きい企業では、労働災害の件数とそれによる損失時間が減少した。さらに、OSHMSsは従業員の能力を向上させることなどによって、その動機付けを強化させ、企業への帰属意識を増大させた。

  特に従業員の統合が、自発的に行われた場合においては、コミュニケーションの技能がどこで必要か、従業員は従事する仕事に対して必要な能力を有しているかなどの短所が把握できるようになった。(特に初期に)コストのかかることは、マイナスの要素である。この報告書の企業の例は、純粋な在来型よりも、現代型な経営戦略のすぐれていることを実証するものである。 推奨に値する主な利点を以下に挙げる。

  • ハザード、リスクおよび災害に関する体系的、根本的な分析
  • ハザードとリスクについての強い認識
  • 内部手続きに関する透明性の改良
  • 従業員の間のより良いコミュニケーション
  • 従業員のより強い動機付けと企業への帰属意識の向上
  • より広範で統合した観点からの作業環境の見方
  • 労働安全衛生パフォーマンスについてのよりすぐれた評価

 このようなシステムを導入するためには、企業からのすくなからぬ費用の支出および必要な要素についての従業員の技能取得が必要である。これらの例は、OSHMSの導入と実施が慎重に計画されなければならないことおよびその企業に特定の条件が考慮されなければならないという事実を示すものである。これらは、実施を成功させるために重要な条件である。

 


 

第1章 序論

 労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMSs)の概念は極めて複雑であり、さまざまな定義がなされている。OSHMSsに関する論議が行われてきた結果として、労働安全衛生マネジメントの概念の理解について、標準化はされていないことが明白である。往々にして単なる部分的な要素が、完全なマネジメントシステムと見なされている。一般的には、総合的な目的は従業員の安全衛生の向上にあるが、さまざまな角度から見た、より詳細なレベルが存在する。例を挙げると

・災害防止を企業の最優先目標とする。

  労働安全衛生マネジメントシステムを成功させるためには、労働安全衛生を企業目標の最優先とすることが基本的な前提条件である。したがって、「最優先の企業目標」においては、安全衛生が他の企業目標と比べて、同等のランキングにあるということを示さなければならない。市場における競争力の改善、市場における地位の確保、最高の品質の達成などの他の企業目標との比較において、労働安全衛生の問題が総合的にどのような地位を占めるかを知ることが重要である。 企業は、労働安全衛生を推進する対策を決定し、すべての企業組織活動の一環として、その内容を監視しなけれならない。

・事業主の責任を明確とする。

  労働安全衛生についての事業主の責任は、労働安全衛生の概念において最も重要な要素である。

・従業員とその代表の参加の改善

  従業員が個々のレベルで参加するか、集団の代表レベルで参加するかの如何にかかわらず、従業員の参加は重要な問題のひとつである。

・経営トップと従業員の動機付け

  経営トップの動機付けは、事業主の責任の明確化と密接に関係し、企業の労働安全衛生分野の包括的な方針における主役である。経営のトップ層は、会社経営の問題に専念し、労働安全衛生などの問題について、リソースが制限されるのは、よくあることだが、OSHMSの導入が労働安全衛生の問題に関する上層部の動機付けを増大し、維持するであろう。

・企業おける製品品質、サービス、環境状態の改善

 企業におけるOSHMSの導入は、その製品品質、サービス、環境状態とに影響を生じることがある。これらのふたつの視点において、内部統制は重要な役割を果たすことがある。

・経営コストの削減

  コストを削減させる目的は、最も頻繁に言われることではないのだが、作業における災害と疾病の削減は優先して考えることができる。効果的な安全衛生方針は、コスト削減戦略に明らかに貢献することができる。事業主にとって、最も重要なのは、災害によるコストの負担に関する問題である。低いレベルでも、OSHMSを摩擦なしで導入し、企業の運営と統合することが可能であるならば、OSHMSの導入に必要な追加のリソースの確保を考慮できる。

・他のマネジメントシステムとの相乗効果

  多くの場合、企業または組織には、ある種のマネジメントシステムが既に存在している。OSHMSが導入されたとき、可能な限り他のシステムとのリンクを行い、相乗効果を獲得しなければならない。ISO規格の9000、14000、EMASなどがこの対象となるであろう。

・企業内および外部組織/個人への透明性の増大

  透明性の増大もまた目的のひとつとして重要である。透明性を増大することにより、国および地域の行政当局との関係を改善することができる。

このレポートの目的

  このレポートでは、企業が労働安全衛生OSHマネジメントシステムを導入するか、または改良を行った際に重点を置いて取り上げられた事項について説明されている。 特に下記の事項に重点を置いた。

  • 何が目的として設定されたか、
  • 労働安全衛生マネジメントシステムのどの部分が取り上げられたか
  • 労働安全衛生マネジメントシステムの実践において、どのような経験が得られたか。

  実施例においては、内容の他に各企業の状況についての情報を記載した。

  対象の体系的な理解を容易にするために、OSHのための総合的な枠組みを第2章に示す。ここでは、多くのプロセスとさまざまな内容を有するマネジメントシステムについて説明している。第3章では、企業がOSHマネジメントシステムの導入を意図したときに、推進した事項を説明している。

 


 

第2章 OSHマネジメントシステムの要素と標準モデル

  理想的なマネジメントシステムには、さまざまな手順と要素の含まれることが必要である。基本的な手順について以下に述べる。これらの手順の内容は、以下に示すように数多くの内容から成る。

(この5つの要素の分類は、International Occupational Hygiene Association(IOHA)が、米国ミシガン大学のモデルに基づいて作成した分類を参考としたものである。詳細については、2.5を参照。)

 

2.1 OSHの導入

  OSHの導入における要素として、以下の4つが挙げられる。

1. 経営トップの意思表明とリソースの確保

  • OSHMSの機能を管理する経営トップの指名
  • OSHプログラムまたはマネジメントシステムが適切な機能を有するに必要な十分のリソースの確保
  • 経営トップと従業員がOSHにおける義務を遂行するための組織の確立

2. 法の遵守とシステムの適用

  法の遵守とOSHMSの適用についての高い優先度

3. 説明責任、責任、および権限

  説明責任、責任および権限は、各企業において明確にすることが必要な重要な要素である。

4. 従業員の参加

  つぎのいずれかにより行われる必要がある。

  • 労働安全衛生に関するサークル、ワーキンググループへ個人個人の直接の参加、または
  • 従業員の代表を通しての間接参加、これには従業員が出席する労働安全衛生委員会などの会議体も含まれる。

2.2 OSHのプロセス定式化と実施

定式化

  基本的なOSHのプロセスは、包括的なものであって、さまざまな要素が存在しうる。これらの要素には、企業としてのOSH方針の定式化(納入業者や協力会社との関係についての指針を含む)が含まれる。内容としては以下がある。

1. 労働安全衛生方針/目標および目的

  よく定式化されたOSH方針は、労働安全衛生の分野における目的、取られるべき対策およびこれらの対策の他の企業の目的との関係についての基礎を形成する。方針は簡潔で、正確であり、経営トップによって示されて、全従業員に周知されるべきである。

2. パフォーマンスの評価手段

  目標および目的に対するパフォーマンスを評価するための指標を設け、評価を行う内容について常に検討をしていなければならない。評価を行う必要性が強調されていることが必要である。さまざまの問題はこれから起こる。 実行するための取り組み方やヒント、解決策などについては、2.3 OSHによる効果の項で述べる。

3. システム計画と開発

  ここでは、OSHMSの開発と特に改善に関連した説明を挙げる。これらの問題の詳細とOSHMSのさらなる開発に関する事項が主要な課題である。

4. 現状評価とハザードのアセスメント

  現状評価とハザード/リスクアセスメントを行うことは、OSHMSの導入において欠かすことができない。また、企業の状況に適したOSHMSを発展させるためには、ハザードやリスクと同様に、企業における実務の内容を把握することが必要である。OSHMSの概念においては、現状評価とハザードのアセスメントを取り上げることが原則である。

5. OSHMSのマニュアルと手順

  マニュアルは、通常重要視されていないが、個々の手順を設定するために使用される文書は、作成の必要が生じることが多いであろう。

実施

  これらの基本要素は以下がある。

教育訓練システム(特に技術的専門知識と従業員の技能)

ハザード抑制システム(プロセスデザイン、緊急時対策の策定と対応システム、ハザード管理システム)

  ハザード抑制システムの定義の幅は広く、作業上のハザードを除去または低減させる種々の方法ばかりでなく、作業場の状態が変化したときに、抑制のやり方を変更する方法も含んでいる。また、新しいプロセス、操作の導入、緊急時対策の策定およびハザード管理も含まれる。緊急対策の策定とハザード管理は、OSHMSの概念における重要な問題である。

  これらの問題に関する説明は極めて詳細にわたることになるので、OSHMSの使命は、緊急時の対処とハザードへの対応を確実とすることにあるという印象が与えられる。 緊急時の対処とハザードへの対応と比較したとき、新しい操作の導入を含むプロセスデザインの局面(製造プロセスなどの変更)は、ほとんど無視される場合がある。

予防および改善実施のシステム

  この要素は、装置の破壊や、ハザードやリスクの大きい出来事が生じたとき、あるいは、そのおそれがあるときの対応に関するものである。効果的なシステムであるためには、どの場合にどのような対応をするか決定されていることが重要である。安全作業手順とその実施が重要な要素である。

調達と契約

  製品の購入は、OSHマネジメントシステムで検討される必要の多い課題である。製品を購入する前に、労働安全衛生面の検討がなされるべきである。例えば、ある製品の健康への影響に関する情報入手、安全専門家のかかわり合いなどによって、組織としてのチェックを行う体制が必要である。

  請負業者は、企業または組織との間の契約関係を持つ、外部組織または個々の人々と受け取らなければならず、請負業者との協力は、個別に行うことが必要である。労働安全衛生において、作業場所での協力は、最も不可欠な要件の1つである。

 

2.3 OSHによる効果とフィードバック

  OSHによる効果は重要な役割を果たす。効果とパフォーマンスについての評価結果の作成および評価する基準の開発は、十分に信頼がおけるものであって、企業内で責任を有する者によって運用されなければならない。実施の内容および評価の手段によって、評価の結果がいちじるしく異なるものとなることがある。

1. OSHの目標と目的

  定式化したOSH目的の達成に、常に強い重点をおくことが必要である。

2. 疾病と災害の発生率

  OSHMSの概念において、疾病と災害の発生率が重要視されることの多い特性である。この指標の意味付けについて、いちじるしい差異の出ることはない。この指標によって、他企業との相対的な位置付けをすることができる。

3. 従業員の健康

  罹患率として表さなくても、従業員の一般健康と福利は、重要性の低い指標として使用される。

4. 効率における変化

  企業の効率の改善が、OSHMSの概念の対象となることがある。生産性の向上のような直接的な効率または間接的な効率があるが、例えば、従業員の動機付けの向上は除外されることが多い。

5. 組織の総合的なパフォーマンス

  企業全体のパフォーマンスは、例外的か間接的にしか取り上げられない。

 

2.4 OSHのフィードバック

1.と2.文書と記録の管理を含むコミュニケーションシステム

  コミュニケーションシステムには、文書と記録の管理が含まれ、使用する手段(言葉、書面、電子情報)にかかわりなく、極めて重要である。コミュニケーション業務には、文書の作成、周知、更新およびチェックが含まれている。

3 - 6.  監査、自己点検、災害原因調査、根本原因分析、健康/医療プログラムおよびサーベイランスを要素とする評価システム

  フィードバックの上記に次ぐ観点である評価システムの要素は、監査、自己点検、災害原因調査、根本原因分析、健康/医療プログラムおよびサーベイランスである。一般には、監査と自己点検による評価および災害原因調査と根本原因分析が重要であると考えられる。健康/医療のプログラムとサーベイランスは、産業病医学による予防のチェックアップと関連において考慮される。作業場所を超えた企業レベルにおける健康増進は、多くにおいて実施されていない。

 

2.5 システムの透明性の要素

  OSHMSにおけるシステムの透明性の要素は、労働安全衛生の継続的な向上、全体的マネジメントの定期的レビューならびに労働安全衛生活動と他のマネジメントシステムおよび企業活動との間の統合のために必要である。

1. 継続的な改善

  労働安全衛生の継続的な改善は、基本的な事項である。評価に関連し、組織の一層の開発/改善を奨励するためには、結果を計る手段が要求される。必要なときには、これを達成するための新しい方法を導入する。定期的なシステムの評価、最近の事故(作業における災害など)、作業組織の変更および生産プロセスにおける変化などが、このような方法を導入するための動機となる。

2. マネジメントレビュー

  マネジメントレビューは、OSHMSの総合的なパフォーマンスを評価する。このような関係において、OSHMSは組織全体および環境との関連、また第三者によって分析される。 この分析には、OSHMSが事業主、従業員および行政機関の検査によって生ずる必要性に対処する機能を有するのか、評価を行うことが含まれる。システム監査は、OSHMSのパフォーマンス、その構造および得られた結果の評価を行う。法律遵守監査は、労働安全衛生分野での、公共および法的な義務を守っているかどうかをレビューする。

  マネジメントレビューにおいては、継続的な改善または評価が対象となることが多い。

3. 統合

  統合とは、労働安全衛生とOSHMSを他のマネジメントシステムとリンクするか、またはそれらを統合するために組織によって取られた行動と対策をいう。例えば、統合の成功とは、OSHMSが組織のカルチュアの一部になることを意味するということができる。このように、労働安全衛生の目的は経営目標となり、日常の作業において、労働安全衛生が組み込まれることになる。

  1998年に、英国の労働安全衛生協会(IOSH)は、OSH、環境保護および品質のマネジメントシステムの統合に関する論文を発行した。その主要な事項を下表に示す。

前提条件
プロセス

組織は、以下を行うことが必要である。

 

組織は以下のことを決定する必要がある。

−統合マネジメントシステムに関係のあるすべての事例についてレビューする。   −全体的統合マネジメントのモデルの選択
−各マネジメントシステムの既存のアレンジメントにおける妥当性と将来の必要性をレビューする。   −新しいシステムの展開中、既存のシステムの統合性をどのように保全するか
−それぞれのシステムにおいて保持される必要のある要素およびそれぞれについての適切なレベルを特定する。   −統合したシステムを操縦する部分が必要であるか否か
−統合の時期と範囲を決める。    
−組織の内部で広く協議する。   −教育訓練の必要性の解析および教育訓練の実施するための適切なアレンジメント
−システムの統合について経営トップの熱心なサポートを得る   −スタッフのメンバーの意思表明を継続するプログラムの導入
−業種に関連するあらゆる規格による勧告および外部からのアドバイスの必要性があるかを検討する。    
−有効性を監視し、評価を行うために用いる評価基準を定める。    

 統合に関する多くの取り組みにおいて、マネジメントシステムの他の部分との統合が、問題の中心であり、他のシステムとの統合の状況を示すチェックリストなどの資料が多く存在する。一般に、ISO規格のシリーズ9000と14000が最も頻繁に言及されており、ユーザーが使いやすいように、ISO規格の構造を踏襲しているものもある。欧州環境マネジメント・監査スキームもいくつかの資料において触れられている。

統合の度合いには、3つの段階がある。

  • 統合のないタイプ。部分的なシステムにリンクがあってもごくわずかか、存在しない。 (追加タイプ)
  • 労働安全衛生と環境保護に共通なハンドブックのような、種々のリンクや共通の要素が存在している。準統合タイプといえるかもしれない。
  • 完全に統合しているシステム。

  実際においては、ある程度までの統合は、しばしば存在する。会社レベルでは、統合の可能性が高いのは、品質保証と環境保護の分野である。

 

2.6 標準モデル

  標準的なOSHマネジメントシステムの5つのプロセスを下図に示す。これは、広い意味で理解されることが必要である。労働安全衛生を改良するための計画、レビュー、透明性の要素、協議およびプログラム要素が結合された、経営の面と組織の面とが組み合わされたものと受け取られるべきである。

 OSHMSにおいては、5つの基本要素が含まれなければならない(Table 1を参照)。 標準モデルには、継続的向上の考え方が含まれている(計画、実行、チェック、見直し)。

OSHMSの5つの要素

 
透明性の要素
評価
  OSHのフィードバック
IOHA報告(ILO)を改変

開始
  OSHの導入

透明性の要素
定式化
OSHの実施
OSHプロセス

IOHA報告(ILO)を改変

Table 1 OSHMSのカテゴリーと変形

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

 

2.7 OSHマネジメントにおけるカテゴリ

  OSHマネジメントシステムは、二つの次元によってカテゴリを分けることができる。

  • 現代型マネジメント 対 在来型マネジメント
  • 安全な職場指向ストラテジー 対 安全な人間指向ストラテジー

次元 I 現代型なマネジメント 対 在来型マネジメント

在来型マネジメント

  安全衛生は、作業監督者の役割に統合され、キーパースンは、作業監督者か安全衛生専門家である。従業員は参加はしているが、安全衛生マネジメントシステムにとって参加が重要とは見なされていないか、代わりに在来型の安全衛生委員会が存在する。重点は、人間のマネジメント(安全な人間)とハザードを特定して影響を除くメカニズム(安全な職場)の両方に置かれる。

現代型マネジメント

  マネジメントが安全衛生の推進において重要な役割を占めている。安全衛生とより広範囲のマネジメントシステムと実務との間の高いレベルの統合がある。従業員の参加は、システムの運用のために不可欠だと見なされている。また参加のレベルを高めるための仕組みが設けられている。

次元 U 安全な職場指向ストラテジー 対 安全な人間指向ストラテジー

安全な職場指向ストラテジー

  発生源におけるハザードの抑制に重点を置いている。設計の段階と実行において、ハザードの特定、評価、抑制に注意を払っている。

安全な人間指向ストラテジー

  従業員の行動の制御に重点を置く。

OSHマネジメントシステムのタイプ

カテゴリ1 カテゴリ2
現代型/安全な人間 現代型/安全な職場
行動の変容 適応型ハザード管理

 
カテゴリ3 カテゴリ4
在来型/安全な人間
不安全行為の防止
在来型/安全な職場
在来型の設計と設備

 OSHMSの2つの次元の組み合わせから、4つのカテゴリが生じる。

カテゴリ1 行動の変容

  遡及した防止活動と従業員の参加。従業員の行動が事故原因に結びつくと見られる環境があり、レベルの高い従業員参加、または、より広い範囲のマネジメントシステムとの間の高レベルの安全衛生に関する統合または連帯。

カテゴリ2 適応型ハザード管理

  特定、評価および抑制の枠組みに沿う、ハザード抑制に重点を置いた防止活動。従業員参加における問題解決の重点は、主要なハザードのマネジメントに向けられる。 安全衛生とより広い範囲のマネジメントシステムとの高いレベルの統合または連帯

カテゴリ3 不安全行動の防止

  不安全な事実に重点を置く、従業員の行動を監督することへの重点。従業員のリスクの大きい行動を防ぐルール

カテゴリ4 在来型の設計と設備

  防止活動がハザードの抑制に集中させられている。従業員は参加はしているが、安全衛生マネジメントシステムにとって参加が重要とは見なされていないか、代わりに在来型の安全衛生委員会が存在する。作業監督者、ライン管理者、安全衛生専門家には重要な役割がある。

 


 

第3章  実施例

 本章においては、OSHマネジメントシステムが、企業においてさまざまな方法で実施または改善された11の例を示す。各々の例においては、第2章で述べた理想的なOSHマネジメントシステムにおいて必要な各要素が実施されている状況を表として示している。この表により、各企業における最も興味深い要素および実施されていない要素とを把握することができる。

 

3.1 アグファ・ゲバルト写真(ベルギー・モーツェル)

準統合マネジメントシステム
ARBOグループ
高度の従業員参加
低い災害発生率

企業の概要

アグファ・ゲバルト写真は、ベルギーに所在するアグファ・ゲバルトグループの本部で、従業員は5590名である。アグファグループは、写真とフィルム産業ではよく知られているが、アグファ・ゲバルト写真の主たる業務は、グラフィックおよび写真産業における最新技術と医療画像処理から成り、製品はおよそ150ヶ国で販売されている。その活動は、以下の5つの部門から構成されている。

  • 一般向け画像
  • グラフィックシステム
  • 医療画像処理
  • 非破壊検査
  • 産業向け画像

使用する材料は、金属、包装材料、化学産業から購入しており、販売しているのは最終製品だけである。

ハザードとリスクに関する最も重要な問題は、さまざまな化学製品を作業場において使用していることである。2つの主な問題として、従業員に化学物質の取扱い方法を理解させるために、MSDSが読めるようにする必要があることと災害の発生率が依然として高いということがある。

実施状況

長い間、この企業の災害防止方針は、従業員の安全衛生の改善または維持を行うことであったが、現在では、品質、労働安全衛生および環境についてのマネジメントシステムの一部となっている。

この企業のOSHMSの基礎は、能動的リスク抑制システムを要求するベルギーの労働規則にある。さらに、廃棄物処理については、ISO 14001を持っており、化学業界におけるレスポンシブルケアにも参加している。企業のOSHMSは、ISO 9001の原理に基づいた、品質および環境の問題も含めたグローバルなマネジメントシステムの一部である。OSHに関する主要な目標は、災害ゼロの達成である。

当初において、OSHMSは従業員と経営トップの代表から成る「防止と防護委員会」により導入された。その後、各部門は、安全で健康な環境を実現するために重点を置くポイントを定式化することを開始したが、従業員の参加は高いレベルを持続している。安全衛生に注意を向け、好ましくない条件を除き、リスクアセスメントを行い、OSHと環境に積極的に取り組むことが、ARBOグループの基礎となってきた。ARBOグループは、災害、不安全な状況、新しい動きなどについて議論するために、1年に6回会合を開く。また、従業員全部の参加を考慮したARBOミニグループが存在し、ARBOグループのネットワークは、トップからボトム、ボトムからトップへの両方のコミュニケーションの基礎を構成する。

さらに、特定のテーマについては、年に一度、目標を定めたアクションプランを設定する。従業員の参加の程度は高く、さまざまなARBOグループは、企業のマネジメントシステムとよく統合されている。

年に一度、アクションプランを決定する操縦グループと最終的同意を与える委員会とが存在する。安全管理者が、毎年OSHの問題の進捗状況を評価するために、全部の部門を調査し、委員会の代表と部門長と協力して評価報告書を作成する。各部門は、この評価報告書と自身の考えの両方に基づいて、各部門は次の段階のアクションプランを作成する。このアクションプランは、実行された内容と発生した問題と共に委員会に報告されなければならない。

この企業は、所属する従業員のために次の2つのタイプの教育訓練を発展させた。

  • 従業員のOSHに関する認識を高めるためのビデオ、新聞、ガイドライン、ポスター他の理解が容易な資料を集めたOSHパッケージ。
  • 新しい手順や機械の導入において、仕事が変わったり、新しく始める従業員に対して行う特定の教育訓練。

継続的な改善が作業状況とARBOグループの通信ネットワークによる指示に基づく、永続的な反映によって刺激されている。また、内部および外部による監査が実行されている。

考察

このOSHMSは、いくつかのリンクと共通要素を持つ準統合システムであるが、完全に統合したマネジメントシステムという目標には達していない。OSHMSの導入による効果は成功し、いくつかの利点が明白になった。

多数のミニARBOグループを設けることにより、プロジェクト(活動)に従業員の多数が参加して、動機付けができたのが成功の原因である。災害の発生率は平均より低いが、現在の安全レベルをなお向上させようとの努力がなされている。

他の利点は統合システムによるものである。別々のマネジメントシステムが存在するより、はるかに透明であり、監査が一回だけで済む。あらゆる作業工程について、手順が文書化されていて利用することができる。

化学物質の取扱い方法が複雑なのが問題であるため、簡単なシステムを計画している。

アクションリストに基づいて、問題と防止策は定式化されるが、リスク分析を実行することだけが、防止策を定式化する対策ではない。

経営トップは、いくつかの短所に気付いており、さらに現在のOSHMSを発展させようとしている。全体的に見て、この企業はベルギーの法規による要求を超えるOSHMSを構築しているように思える。

OSHの導入33% OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 チェック教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 チェック文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
チェック従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
チェック労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 チェック傷害と疾病の発生率 チェック統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

 

3.2 アダルゴ印刷所(スウェーデン・ハイジングスバッカ)

革新型な要素を持つ在来型管理
スウェーデンの法規を基礎としている。
年一度のアクションプラン
品質システムを統合したOSHMS

企業の概要

アダルゴ印刷所は、アフロンブラッテ印刷所の業務を引き継いで1995年に設立された、 最新技術を駆使する近代的な印刷所である。従業員は合計63人で、3つの日刊新聞、ちらし広告および他の印刷物の印刷を行っている。アダルゴ印刷所の経営者は、企業の所有者であって、技術部長、財務担当部長および環境責任者を兼務している。

企業は、総務、営業、印刷準備、印刷、配送の5部門から成り、印刷部門が最も大きい。全体の中で、32人が1日24時間の交代作業を行っている。交代作業者は、4つのチームに分割され、それぞれに班長がいる。新聞の印刷においては、1時間に最大38000部が印刷されて、配送部で梱包し、顧客と新聞販売店に発送される。

企業としての主なハザードは、印刷機における挟まれ、トラック輸送における交通事故および重量物の持ち上げによる障害である。また、交替制の作業による心疾患と消化器系の疾病のリスクもある。新技術の適用が、高い年齢の古い専門教育しか受けていない従業員に要求されたとき、ストレスの問題も発生する。

アダルゴ印刷所のOSHMSは、1993年1月に発効したスエーデンの法規‘作業環境の自己管理'AFS 1996: 6に基づいている。

上記の法規に基づいたOSHMSを実施することに効果があることは、アフロンブラッテ印刷所の時代にすでに確信が得られていた。この時代、2人の職長、実質的な安全衛生代表と外部アドバイザーから成るグループが結成されてOSHMSの実現を開始した。事業主と従業員から成る安全委員会が、この活動を見守ることにより、アダルゴ印刷所としてのシステムの定常的な見直しが継続されてきた。

実施状況

企業の目標は、安全な作業環境、人間工学的な職場および外部環境への影響を小さくすることであると宣言している。この目標へのすべての対策が経営トップと従業員によって、共に取り組まれるものとする。年一度のアクションプランにおいて、下記の事項を記載した簡潔な文書によって、OSHMSを進展させることの必要性、利益および改良事項を示している。

  • 会社の方針
  • 作業環境改良のための手順
  • 機構プラン
  • 法規への対応
  • 作業環境の点検
  • 教育訓練計画
  • 作業における災害と作業関連疾病の対策
  • OSHMS進行状態の見直し

経営役員、経理部長、生産部門長、職長および労働組合代表は新スタッフの教育訓練と導入に責任を持つ。

OSHMSの実施により多くの向上が見られ、作業を効果的に行うためのバックボーンとなっていると受け止められている。また、ミーティングの議題や点検のためのチェックリストが役立つものになるなど、実務的な対策となっている。

OSHMSの実施により、責任分担が明確となり、法律による規制の内容が正しく把握された。この2つによって、組織構造が改革され、課題と要求される事項についての全体的展望が明らかとなった。

安全委員会の議題として、システムの見直しがひんぱんに取り上げられるようになった。

最近採用されたISO 9000による品質システムとOSHMSを統合することが計画されている。

考察

アダルゴ印刷所の OSHMSは在来型管理方法を現代型の要素に結合したものである。

初期の周知活動の後、OSHMSは快く受け入れられた。これは、社内すべての部門と各レベルからのスタッフを包含したことによる。 OSHMSは、組織構造、体系的な改善および実務の進行を支えている。ルーチン化すると文書における連続性が失われ、情報の更新が不足することがあるが、このような弱点を早く見つけることができる。新人も含めて、みんなが新しい方法についての知識を速やかに、容易に身につけることができる必要がある。アダルゴ印刷所は、教育訓練を定期的には行っていない。

システムにおいて、一方では従来の役割配分があり、他方では、すべてのレベルでの現代的な統合と協力が存在する。良い作業環境が、健康と生産の利益に結びつくとの信念が、欠かせないものとなっている。

文書と評価方法においては、改良の余地が認められている。文書は、最新の状態とするために、より徹底した管理が必要である。評価の方法に関しては、OSHMSの効果を評価するための新しく、意味のある方法を見つけるべきである。 文書の問題については、ISO 9000との統合によって解決される可能性があるが、OSHMSの効果を評価するということは、重要な課題である。

両方の改善によって、OSHMSがより革新型で先を見越したものになる機会がある。成功している点と欠点を早期に見出すことにより、見直しは容易となるだろう。

結論として勧告を以下のようにまとめることができる。

  • OSHMSを維持、進展させる責任者を任命する。
  • システムを見直す。
  • 文書とルーチン化を見直す。
  • 必要に応じて、OSHMSを他のシステムと統合する。
  • 職員教育をする。
  • 先を見越した改良システムを導入する。
OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.3 ハーレブ市在宅介護機関(デンマーク・ハーレブ)
高度の従業員参加
現代型。
行動の変容と適応型ハザード管理の組み合わせ

機関の概要

ハーレブ市は、他のデンマークの274の自治体と同様に、デンマークにおける社会厚生福祉システムにかかわる業務を処理している。これらの業務のひとつが、高齢者、身体障害者、その他(主として精神病患者)に対する在宅介護であり、ハーレブ市では約1000名が在宅介護の対象者となっている。在宅介護を担当する機関には、およそ200人の在宅介護アシスタントが所属している。

在宅介護アシスタントについての主なハザードは、真空掃除機の使用、買い物バッグの運搬、人の持ち上げなどの物理的負担による腰痛、肩痛である。他の問題として、個人住宅の構造が介護活動に適していないことが挙げられる。このため、持ち上げ、移動のための器具を使用することができず、掃除を難しくしている。問題の多くは、作業負荷が大きいのに加え、介護対象者の怒りに対応するプレッシュアによって引き起こされる、厳しい作業環境に起因するものである。1992年に、地域別マネージャと安全代表から成るワーキンググループによってOSHMSを導入した。1994年にデンマークにおいては、すべての在宅介護機関、老人ホームおよびデイケアセンターは、労働安全衛生サービス機関に登録することが法により義務づけられた。労働安全衛生サービス機関とは、労働省の下に設立された、労働安全衛生の問題と教育訓練計画についての指導を行う機関である。Herlevの在宅介護機関におけるOSHMSの発展に関するデンマークの労働安全衛生サービス機関の貢献は、いちじるしいものがある。1997年には、上記に加えてすべての企業が、職場アセスメントの結果を文書とすることが法律により必要となった。

実施状況

在宅介護機関の重点目標は、次の二つである。

  • 作業場所の安全および
  • 良好な作業環境の確保

従業員参加は従来から重要とされてきたが、OSHMSの要素として継続されることとなった。OSHMSのいくつかの要素は、直接OSHにリンクされる、その他は作業場所における補助的な部分に取り入れられた。OSHMSは以下の要素から成る。

  • 職場アセスメント
  • 教育訓練コース
  • コミュニケーションシステム
  • 不在インタビュー
  • サポートチーム
  • パフォーマンス評価
  • 書面化したサービスの基準
  • 作業チーム
  • 経営監査
  • 弾力的な計画表

すべてのレベルの職員と市の協議会がシステムに統合される。専門家による教育訓練がコースに沿って行われる。OSHMSの実施によって、多くの効果が得られた。最大な効果は、病気による損失日数が劇的に減少したということである。さらに、在宅介護機関により提供されるサービスに対する介護対象者の満足度が向上した。

考察

ハーレブ市のOSHMSのタイプは、行動の変容と適応型ハザード管理の組み合わせである。

このシステムの長所は、高度の従業員参加およびシステムの重点が作業に関連するハザードの抑制と在宅介護アシスタントのための良い作業環境の形成に置かれているところにある。職場アセスメント、教育訓練プログラムおよび作業場所における補助的な部分の取り入れは重要な要素である。

最近の10年間において、OSHMSは従業員参加の程度の低い在来型のシステムから、従業員参加の程度の高い現代型のシステムに発展してきた。また、このOSHMSは、安全な職場指向ストラテジーと安全な人間指向ストラテジーとの組み合わせであるように思える。一方、作業による傷害の大部分が偶発的な事象によって起こるのではなく、長期的なダメージによって起こるものなので、行動を制御するアプローチは非常に重要である。他方において、作業場所が変わりやすいという本質を有することから、ハザードを特定して、評価することができる効率的なシステムの存在が極めて重要である。したがって、ハーレブ市のOSHMSのタイプは、行動の変容と適応型のハザード管理の組み合わせである。

OSHMSを組み立てるための、結論としての勧告を次のようにまとめることができる。

  • リスクの特定と実施における問題解決の段階に、従業員を参加させる。
  • OSHMSが適切に機能するために十分なリソースを配分する。
  • マネージャと従業員との直接のコミュニケーションを確立するために、組織の構造を改善する。
  • OSHMSにかかわるストラテジーレベルと実務レベルのマネジメントを総括的マネジメントシステムに統合する。
  • 教育訓練制度を確立する。
OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約
OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.4 ミブラーグ鉱山(ドイツ・タイセン)

現代型で従業員指向のマネジメントシステム
ドイツの法律により必要な条件を越えている。
従業員参加による強い動機付け
災害発生率の大幅な低下

企業の概要

ミブラーグ鉱山は東ドイツの企業であったが、ドイツの再統一の後に民営化された。その当時の従業員数は、3900名である。この企業の目的は、地域に石炭と電力を効率的に安定して供給することにある。この目的を果たすために経営の再構築が進められている。

現在のミブラーグ鉱山は、2つの露天掘り鉱山、3つの発電所などをを経営している。民営化以来、エネルギー市場における競争が激しくなり、販売高が減少した結果として、従業員数は1732名に減少した。

実施状況

ミブラーグ鉱山の労働安全衛生マネジメントシステムは、米英の安全の概念に基づくシステムである。経営トップは、労働安全衛生が会社の第一の目標であり、優先されるべきだとしている。また、すべての管理者レベルで責任はよく認識され、日常的に実行されるべきだとしている。

この目的に対して、ミブラーグ鉱山はドイツの法律によって必要な条件を満たすだけではなく、多くの面に関してこれらの要件を越えるようなOSHMSを実施している。第一歩は、労働安全衛生および消防について責任を持つ役員を任命することであった。

ミブラーグ鉱山には、その安全衛生哲学の実現のために、2つの主な方向を目指すOSHMSを有している。

  • ビジョン2000(災害の無い会社とするビジョン)
  • PAGSによる労働安全衛生プログラム。

このふたつの方向は、経営トップと工場協議会によって同意されている。PAGSは全従業員の強い参加に基づいたものであり、リスクの特定と除去、作業場所の設計や配置への参画を促進するコンテストを含んでいる。通常の労働安全教育訓練は、PAGSとは別に行われている。

すべてのアセスメント、レビュー、災害、リスク、提案および計画については、厳密な文書の作成が最初の段階から実行される。よく整備されたコミュニケーションシステムにより、OSH関連の情報は、迅速、確実に配布される。教育訓練においては、経営トップから従業員まで、異なったレベルについての異なった要求を考慮に入れている。

この企業は、その安全マネジメントシステムにおいて成功を得ている。同程度の規模で類似した産業の他の企業と比較すると、ミブラーグ鉱山の災害発生率は平均よりかなり下にある。1993年には、200 000時間ごとに2.95件の災害が起きたが、2000年においては、0.28件に低下した。

経営トップは、災害および作業関連疾病を、さらに削減させることを決意している。このため、リスクのレビュー、安全監査および会合は、一層の改善のために継続して実行される。個々のアクションプランは、個々の従業員の責任において、彼自身と彼の作業環境のために実施される。

考察

ミブラーグ鉱山のOSHMSの特徴は、現代型で従業員指向のマネジメントシステムにある。

ミブラーグ鉱山のOSHMSは、今までのところでは成功している。労働安全衛生を企業の第一目的にすることは、わずかな会社だけがあえて行いうることである。このとき、経済的理由がこの問題に影響を及ぼす。災害件数を削減させることによって、損失時間は減少し、その結果かなりのコスト節減がもたらされる。

ミブラーグ鉱山のOSHMSの利点は、特に綿密な計画である。(この綿密な計画は次の3年間の活動の大部分について定める)。さらに、全従業員の参加が、より強い動機付け、より強いハザードの認識ばかりでなく企業としての強い特定へも導くのである。他の長所は、経営上層部の安全に対する個人的意思表明とそれに伴う計画の実現である。

短所を挙げるならば、労働災害を防ぐためのなされているほどの努力が、作業関連疾病の防止には向けられていないことである。

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.5 アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ・アッティキ・オドス)
類型論:在来型/安全な職場指向のOSHMS
在来型の設計と設備
民間建設会社11社の共同体
OSH問題の計画と文書(SAY と FAY)

企業の概要

ギリシアにおける労働安全衛生分野の歴史は、他のヨーロッパ各国と比較したとき短く、法律制度の枠組においても、会社レベルにおける実施内容においても、なお一層の発展を必要としている。ギリシアの経済で特に重要な建設部門についての法的な枠組みができたのは、ようやく1996年の大統領指令 PD 305/98によるものであった。

11のギリシア民間会社による共同体が、アテネ市の中心部を迂回するアウトバーンに類似の片側3車線の高速道路を設計、建設、維持することとなり、PD 305/98による労働安全衛生マネジメントシステムが、初めて建設部門で開発され、使用されることとなった。

実施状況

以下が労働安全衛生のための基礎をなす。

  • 安全衛生のための計画(SAY)
  • 安全衛生のためのファイル(FAY)

上記の二つの義務的な概念の内容と機能とは、最近施行された法律における技術的な指示によって定められたものである。

労働安全衛生マネジメントシステムを実施するために以下の専門家が参加する。

  • 安全衛生のための一般的なコーディネータ
  • プロジェクト全体における各建設現場の安全技術者
  • プロジェクト全体における各建設現への産業保健担当者

SAYには、以下の事項に関する労働安全衛生の規定が含まれている。

  • 個人防護と応急処置の方法
  • 環境保護
  • 交通規制、安全標識
  • 電気施設
  • 運転室の保護
  • 防火
  • 機械・器具
  • クレーンその他の設備
  • 足場組み立て、コンクリート打設
  • 材料の輸送と貯蔵
  • ハザード
  • 重量物の取り扱い
  • 異常事態、従業員の建設現場からの避難
  • 爆破作業

労働省の検査官は、定期的に検査を行う。(2000年においては9回)従業員の大部分は、短期間の作業従事者である。

SAYとFAYは、他のマネジメントシステムなどの他のシステムと直接には接続されない。

安全衛生のためのコーディネータは、直接役員会メンバーに従属する。

労働安全衛生のための定量的目標は存在していないが、基本的な情報はFAYに記録されて、公式の統計と指標のための基礎資料となる。

考察

OSHMSのタイプは、在来型な安全な職場指向および在来型の設計と設備である。

まだ12カ月しか経過していないので、このシステムの効果を評価するには早過ぎるが、すべての関係者は、既に良い効果が得られているとの意見を持っている。

概況から見て、以下のような批判がある。

  • 今までのところ、従業員たちの教育訓練と安全に対する認識の造成が十分でない。
  • 外部の専門家のノウハウを得ることがなかった。
  • 労働安全衛生の多くの要素が、形式的に行われており、まだ実質的ではない。
  • 社会的なパートナーによる影響がない。
  • SAYとFAYを完成するために、外部のコンサルタントが利用されなかった。
OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約
OSHプロセスの定式化33% OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.6 コーク大学(アイルランド・コーク)
在来型の安全な人間指向に行動の変容の基本的な部分を追加
OSHMSに重点を置いた統合
OSHへの認識の増大

企業の概要

コーク大学(UCC)には、2500名が雇用されており、7つの学部に別れて異なった場所に勤務している。また、各学部もいくつかの部門に分割されている他、さまざまな研究所、図書館などの多くの機関があり、建物もわかれている。ほとんどの活動領域とスタッフのメンバーは、お互いに独立している。この組織の核となっているのは、1840年代に設けられたクイーンズビルにある来型キャンパスであって、このキャンパスを中心として、拡大や追加が行われてきたのだが、市内全般に分散していたり、工業団地に収容されている部分もある。

実施状況

この大学の構造と大きさから生じるOSHMSのためのさまざまな課題は、次の三つの領域に区分される。

  • 危険
  • 労働時間の問題
  • 学生の安全に関する問題

OSHMSの運用は、カレッジなど小さい単位ごとの安全管理者の業務であり、それぞれの単位ごとに各部門のマネジメントシステム、ハザード抑制に関する情報および活動内容を包括した文書が作成される。

OSHMSのバックグラウンドは、国家および国際的なレベルでの立法上の動向と法律による規制にあり、EUの動向がこのきっかけを作った。

統合が関心の中心であり、OSHMSの重点となっている。この統合は、教育における原則に基づいたものであり、方向付けと抑制を行うシステムを設けて、頻繁に見直しを行うことによって達成されるべきものである。

ここでの抑制とは、形式的な構造を持つシステムを作るのではなく、永久的に、リスクを見出して、避けることの実現と動機付けを推進するための自己管理を可能とする枠組みを設けることである。

作業そのものについて、安全衛生上のリスクは、あまり無くて、前述したように極めて個別的であるため、このようにすることが特に重要なのである。このような観点において、個別的な枠組みを補うためには、リスク要因のアセスメント、チェックリストの作成、決められた一定の条件に沿う異なった部門のメンバーによる援助も有効である。

考察

コーク大学の労働安全衛生マネジメントシステムは、在来型の安全な人間指向に行動の変容の基本的な部分を若干追加したものである。

この結果、安全衛生問題に関する認識が高まったが、責任についての全体的なシステムは、まだできあがっていない。OSH問題の教育訓練を目的とする活動の参加者数の増加は、認識の増大を示す。

コーク大学のOSHMSは、範囲と態様において、極めて個別的である。次のことを実施することにより、定式化が前進するであろう。

  • 定期的な評価
  • 体系的質問調査によるアセスメント
  • 個別の状況に対する一般的な評価基準を適用すること

異なった部門間のスタッフのコミュニケーションの不足は問題であるが、配置換えのシステムを導入することにより、一部は克服することができよう。

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約
OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.7 アンプリフォン電機(イタリア・ミラノ)
「盲従」ではなく「リスク評価」
従業員のリスク報告への参加
災害ゼロ
継続的な改善計画

企業の概要

アンプリフォン電機は聴覚機器の製造・販売の有力会社で、研究開発センターとおよそ300店(自営店を含む)から成り、従業員数は、500人である。

実施状況

アンプリフォン電機の安全衛生マネジメントシステムは、EU指令を国内実施する法令−Nos 626 of 1994 and 242 of 1996−に基づいて、1996年に作成された次の安全マネジメント文書によって実施されている。

  • 労働安全衛生のリスク評価報告書。(リスク評価に用いた基準)、この会社の総合的なリスクレベルは低い。
  • 評価の結果、採用した防護対策および保護具の特定。
  • 安全レベルを将来改善する対策についての計画。

この内容にしたがい以下の基本原理が導入された。

  • 法規、企業内規則、緊急時計画、従業員との協議・代表、環境と機器の保全、教育訓練への「盲従」ではなく「リスク評価」による。
  • 事業者、従業員、安全衛生管理者、産業医、従業員代表および安全システムに関係する者全部の業務と義務の特定。
  • 企業内全体の責任体系。

これらの原理は、以下のプロセスによって実行される。

  • 導入:従業員はリスクの報告に参加する。何か変化があったときは皆で論議する。
  • 実施:会社の哲学は、従業員の安全衛生を守ることは、全体的な利益である。安全な状態の創造は質の要素である。職場で行われるアクションは、以下との関連がある。非常口の所在(各床に二箇所、避難を妨げるものがあってはならない。)職場の適切な照明。火災に際して従業員のなすべき事項。来客にハザードを知らせる表示。休憩所(2時間毎に15分の休みを与えなければならない)。通路の床(滑らない材料を使用する)。
  • 情報:個々の職務につながる特定のリスクについての情報が提供され、教育訓練が行われている。(これは配置換えのされた従業員についても同様である)。
  • 効果:安全装置の機能の評価においては、周期的な点検が含まれる。また、本社と支店の従業員のために、安全衛生に関する三ヶ月間の教育訓練コースがある。ここ数年間、職場における災害は起こっていない。

考察

自己評価:従業員の安全衛生に関する目標は、継続的な改善計画によって追求される。会社の哲学は、従業員に責任を持たせ、参加させるために、「必要なことはする」が、「それをなすがためすることはやらない」である。評価によって、役に立つフィードバックが得られることは、職場において災害のないことによって実証されている。したがって、ここに述べたこの会社の安全システムは、有効であると考えられる。さらに、定期的な会合(事業主、安全管理者、一般業務管理者、従業員の安全代表が出席)において、安全プログラムの開発結果のチェック、新しい改善についての論議、従業員への情報周知および教育訓練についての議論が行われる。

アンプリフォン電機のOSHMSの長所は、下記のようにまとめることができる。

  • 会社の安全のカルチュア
  • 低レベルのリスク
  • 高度の従業員参加
  • 従業員へのタイムリーで正確な指示と教育訓練
  • 良好な作業環境
  • 効果的なシステム(職場において災害が発生していない)
OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約
OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.8 セルメルックス建設(ルクセンブルグ・ケーレン)
現代型/安全な職場指向および適応型ハザード管理
災害ゼロ
新入社員には、就業したときに安全に関する指示を含んだガイドラインが渡される。

企業の概要

セルメルックス建設は1979年に設立された。従業員は合計160人だが、直接雇用されているのはこの半数である。金属加工を主体とした土木、建築業で、特に、金属外装、スチールドア、ガラス屋根、耐火材料の取り付けを行っている。主要な取引先は、大企業や団体で個人客ではない。

セルメルックス建設には、会社としての哲学と、「品質、透明度、コミュニケーションおよびサービス」というキーワードによって、発展を担ってきた一人の経営者がいる。従業員は、自分の仕事を独立して責任をもって遂行することが期待され、推奨されている。働らきやすい雰囲気を作るため、快適で動機づけされやすい労働条件を作る努力がなされており、全従業員は、時間の圧力なしに働く自由がある。品質と安全が生産量の確保よりも重要だと考えられる。リスクとハザードは、加工場と建設現場に分かれて存在する。

実施状況

セルメルックス建設のOSHMSは1991年に導入された。これは会社における安らぎと帰属意識を支えるために、快適な職場を作ることを試みようとする哲学に基づいたものである。このような職場は安全、衛生および美意識(調和)の要求に応えるものである。生産の大部分は加工場で行われ、安全な状態を確保することによって、リスクはいちじるしく小さくなるが、建設現場における作業は、リスクポテンシャルが大きくアセスメントが難しい。

この OSHMSは国のガイドライン、Code de la Securite et de laによるものであり、企業が労働安全衛生に責任を有する代表者の指名を求めるEU 指令 89/391/EECに基づいている。

セルメルックス建設のOSHMSの主目的は、災害を削減させて、災害ゼロを達成することである。この実行においては、主に次の4ステップが存在する。

  • リスクの詳細な分析
  • 定期的な訓練と指示
  • 責任の明示
  • 判明したあらゆるリスクの除去

全従業員が自分自身の考えによって、労働安全衛生システムに参加することを要請されており、自分達の意見や苦情を上司に伝え、上司は自分で処理するか、経営トップに伝えることになっている。さらに、すべての上司は、労働安全衛生に関する情報の伝達についての責任を有している。

セルメルックス建設においては、明確で分かり易い指示を出すことが非常に重要視されている。すべての従業員が、自分の職務と責任をよく認識し、誤解とそのために起こるリスクを避けることが求められている。簡単な合図と標識により、従業員の注意を引いて、彼らの危険への認識を高めるようにしている。建設現場で働く人々に関しては、それに適した安全対策が工事監督によって策定されなければならない。

セルメルックス建設は、労働安全衛生に関連した教育のために、平均して毎年およそ100 000ユーロを支出している。2人の安全管理者と従業員代表によって、OSHチームが構成されている。

新入社員には、就業したときに安全に関する指示を含んだガイドラインが渡される。

災害を避けるために、人間の介入を減少させる努力がなされている。機器のすべてが定期的にチェックされ、新型の進歩した機器を取り入れるようにしている。

考察

このOSHMSは、現代型/安全な職場指向および適応型ハザード管理のタイプである。

セルメルックス建設の災害発生率はかなり低く、業務上の災害か疾病により、一週間以上休業した例はない。長所として以下が挙げられる。

  • 企業の全体論的な哲学への統合においては、労働安全衛生だけでなく、従業員の環境要因などの一般的状況も考慮に入れている。
  • 防止システムは、作業場、機器などすべての分野に広く拡張して、導入されている。
  • 責任を分配することにより、高い能力、動機付けおよび帰属意識が得られている。
  • 言語と標識を単純化することにより、皆に情報が伝わって、共通の理解が得られやすくなった。
  • 定期的訓練は、スタッフの認識を高く保つ。

短所として、費用のかかることが挙げられる。教育訓練と新型機器のへの連続した投資が避けられないが、生産性が高まることにより、補うことができるように考えられる。

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.9 バレスマー建材(スペイン・オンダ)
在来型マネジメントシステム
災害発生数ゼロ
7つの基本原理
統合した安全

企業の概要

バレスマー建材は1949年に設立されたタイルの製造会社である。工場の面積は、13519m2で、タイル、敷石およびセラミックライニングの年平均生産量は、5000000m2である。2001年の生産量は昨年の倍増を予測されている。従業員数は、142人である。製品は、スペインの国内だけでなく、世界中に販売されている。 さまざまな納入業者から、購入を行っているが主なものとしては、粘土、うわぐすり、段ボール、エネルギーおよび機械がある。特に材料の取扱いにおいて、災害のリスクが高い。成型、乾燥、うわぐすり、焼成までの各工程では、多種類の産業機械を使用しており、豊富な経験と正しい取り扱いを必要とする。

実施状況

バレスマー建材の労働安全衛生システムは、スペインにおけるいくつかの法律、規則、義務に基づいている。基礎の1つは災害防止規則(Real Ordinance 39/1997, 17)の第二条であり、企業内におけるリスクの防止活動の確立と統合および企業内組織とその機能、手順・プロセス、必要なリソースの確保を織り込んだリスク抑制計画の作成が義務づけられている。

バレスマー建材において、OSHMSを導入した主な理由は、このようなOSHを対象とした厳しい法的規制であった。また、労働組合と労働者グループの要求も導入の理由のひとつであった。

バレスマー建材におけるOSHMSの導入は、主な目的の定義から始まった。技術および人的リソースの良好な運用により、災害防止活動を組織の日常管理および作業環境の継続的向上に統合すること。これに関する理想と重点目標は、災害の発生ゼロである。安全、衛生および健康の問題は、品質、生産性および組織内部の結合と同等の重要性が与えられるべきである。会社としての7つの基本原理が以下の通り決定された。

  1. 経営トップのリーダーシップ
  2. 組織構成、情報、参加および協議
  3. 生産、開発等の異なった概念への安全の統合
  4. 従業員が災害防止の主役である。
  5. 災害防止とクオリティオブライフ
  6. リスクコントロール
  7. すべての災害は原因調査され、あらゆる危険な動作と作業は、チェックして是正する。

経営トップは、最初の段階からこれらの目的について熱意を有していたが、従業員の参加については、奨励を行うことが必要であった。これは、経営トップが改善のために必要なリソースを準備するのと併せて、全スタッフが、災害防止のための計画と実施のために参加することが必要だったのを意味する。専門的な知識による助力を得るために、外部の専門家が参加した。

統合した安全とは、ある問題についてのすべてのパフォーマンスと意志決定に関して、すべてのレベルの従業員全部がかかわることを意味する。安全の発展による全体的な究極の効率向上を達成するためには、災害防止のための積極的態度が勧奨される。この哲学の主な特色のひとつは、各個人の自分自身の環境について責任を有することである。新しい問題に関し、知らせ、忠告し、議論するために、特別なグループが設置された。また、OSHに関する課題の優先度を決めるための特別評価グループも設置された。このステップは、リスク分析、リスク特定、リスクアセスメント、およびリスクコントロールから成るOSHの実務を進めていくために必要なことである。

バレスマー建材のOSHMSには、教育訓練、特に新しいスタッフに対するものが含まれている。従業員の安全に対する認識と注意を高めるために、安全に関する注意を高める標識が広く設けられている。外部の専門会社によって、リスク評価の見直し、改善計画の改訂、災害の原因調査および新しいリスクの評価から成る点検プログラムが実行されている。

考察

このマネジメントシステムは在来型のマネジメントシステムに類似したものである。

バレスマー建材の災害件数は、同一産業部門の平均より低い。OSHMSの導入によって、従業員の参加の程度と安全への認識は高まっており、動機付けへの効果が認められる。生産は増加したが、災害の件数は低下した。

OSHMSによる利点として以下が挙げられる。

  • 従業員の高い参加
  • 経営トップの強い意思表明
  • 新入社員の教育訓練
  • 日常的管理と組織との統合による災害防止
  • 労働組合との統合

変化が進行中であるが、次のような欠点がある。

  • 会社が拡大したので、緊急時対策の見直しが必要である。
  • 期待された結果がまだ得られていない部分で、矛盾が生じているところがある。

バレスマー建材のOSHMSは、統合と従業員の参加で成功を得ている。経営トップから、下のレベルの従業員まで責任の所在が明確となっている。しかしながら、従業員が効果的な貢献を行う機会は、比較的限られたままである。

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約

OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.10 ベルグランド乳業(オーストリア・グラーツ)

労働安全衛生と総合的品質管理(TQM)
準統合マネジメント
実施のプロセス
経営トップの意思表明

企業の概要

ベルグランド乳業は食品産業の企業で、約1000人の従業員を雇用している。主な活動活動はミルクや、チーズやヨーグルトなどのさまざまな乳製品の生産とマーケティングから成る。主要な納入先はスーパーマーケットで、原料の供給者は酪農業者である。1990年代の半ばに、6つの農業協同組合が合併して設立された。

1990年代の後半に、災害件数の増加があったのが、この会社における、OSHMS導入の主な理由であった。災害の発生率を低下させ、より安全な職場にするという主目標を達成するために、以下の事項に重点を置いた。

  • 行政当局とのコミュニケーションの改善
  • 労働安全衛生における義務の遵守

OSHを一層推進するとともに、OSHマネジメント、品質管理、環境管理の間の相乗効果を強めるべきであるとした。

実施状況

以下のOSHマネジメントシステムのいくつかの要素が、現在のOSHMSを導入する前から既に存在していた。

  • 系統的なリスクの分析とアセスメント
  • これらのリスクを小さくするための適切な対策の設定
  • OSH代表の存在

OSHMSの導入のプロセスにおいて、主に以下の事項が実行された。

  • リスクの分析とアセスメント
  • 改善対策の設定
  • 従業員への指示と教育訓練
  • 安全点検
  • 監査
  • 継続的な改善システムの実施
  • ヒヤリハットの登録

以下の事項を導入と実施のプロセスにおいて優先した。

  • OSHに対する経営トップの意思表明
  • 新入社員に対する品質、環境、OSHおよび衛生に関する体系的な基礎訓練

全従業員に対する定常的な教育訓練を行う必要についても強調された。従業員は、自己アセスメントチームを作って改善に自発的に取り組むこと、内部監査を行うこと、改善と革新チームを確立することが推奨された。これらは、従業員の改善への認識を作り、高めることを目的としている。

ヒヤリハットは体系的に登録され、原因は排除される。設備は体系的に点検され、作業に関連したリスクは、分析、評価され、必要な改善が行われる。 内部および外部の監査、レビュー、リスク分析およびアセスメントは、システムの体系的要素であり、進歩の原動力となる。

OSH代表、産業医、緊急時対応計画が存在し、協力企業のための安全、環境および衛生に関する手引き書が作成されている。

OSHMSの規準、OSHに関する法律上の義務および総合的品質管理(TQM)の原則に沿って、OSHに関するパフォーマンスは体系的に評価されている。継続的な改善は、OSHMSにとって欠かせない要素である。マネジメントシステムは、パフォーマンス評価の結果を利用することによって、進歩し、改善される。

OSHに関するEUの法律の基本要素は、リスクの特定、評価およびアセスメントである。ベルグランド乳業は、これが法的に必要となった3年前に、初期のリスクの分析とアセスメントを終えた。OSHMSの導入において、最も大きかった障害は、マネジメントシステムに対する従業員の疑い深い態度であった。OSHMSを実行するにおいて、最も重要な役割を果たすグループは従業員である。

企業は、総合的なパフォーマンスの向上を常に追求しているが、総合的品質管理が全体的な経営システムの枠組みとなっている。OSHMSの導入により、いくつかの成功が得られている。長期間の数字は存在していないが、従業員一人あたりの災害による損失日数は、1998年の1.23から、1999年には0.65に低下した。

考察

この例は、数個のリンクと共通要素を有する準統合システムである。

総合的品質管理指向の企業として、ベルグランド乳業は、品質、環境およびOSHについての課題を統合した、効果的な総合コミュニケイションシステムを有しており、高度な総合的品質管理の態勢が、OSHMSを明確なものとしている。さらに、高度な総合的品質管理の実行により、従業員の質がいちじるしく向上し、 従業員の能力発揮をうながす対策のひとつとなる。また、能力が発揮されることによって、従業員の健康増進にも通じるであろう。

このケースの分析結果は、教育訓練を重視したカルチュアと大規模な教育訓練の実施による成果の全体像を示すものである。体系的なOSHマネジメントの導入により、経営の諸般の面で利益の得られたことは明白であり、従業員の満足度向上から、災害や病欠の削減にまでおよんでいる。

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約
OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順

3.11 レイランドトラック(英国・レイランド)
高度な行動の変容を志向した適応型ハザードマネジメント
指導原理は参加である。
災害の削減

企業の概要

レイランドトラックは、1896年に設立された古い同族会社である。今日のレイランド組み立てラインは、1993年に設置された。現在、1000人がレイランドトラックで雇われ、年間におよそ14000台のトラックを生産している。600000平方フィートの敷地に2つの組み立てラインと3つの起伏があるテストコースおよび部品倉庫がある。経済および技術における現代の状況に対応するために、新しい労働安全衛生マネジメントシステムの導入が実行された。

実施状況

基本的には、適応型ハザードマネジメントであるが、高度な行動の変容を志向した、フレキシブルなシステムが開発された。統合のための指導原理は参加である。統合は、ここでは二つの面を持っており、作業と製品との異なった次元の両方に関係がある。戦略の目的は、製造プロセスの改善と安全衛生問題への反映に置かれている。製品とその使用には、それぞれに特定の高いリスクが存在するので、両方の次元は、基本的には実際的なものなのである。したがって、このようなリスクの組み合わせを志向することは、挑戦的な試みである。

その上、参加に重点を置く戦略の実施は、安全衛生問題と同じくらい重要だとすでに見られているのである。このような志向によって、出発点に過ぎないアプローチがトップダウンの要素を越えて、この領域での活動に対する枠組みと管理的な動機付けを提供するのである。

考察

このシステムは、高度な行動の変容を志向した適応型のハザードマネジメントタイプであるという特徴を有する。

災害が削減しているので成功していると見ることができる。これは、安全衛生問題に関する認識が増大したことによるものである。一方においては、例えば重量物を持ち上げる場合のように、リスクは理解され、安全を確保するために必要な器具や手段が提供されている。もう一方においては、既存の安全衛生対策として、準備されるような取扱い手段の安全について、認識を高めることの重要性が言及されなければならない。

OSHの導入 OSHの実施 OSHのフィードバック
経営トップの意思表明とリソースの確保 教育訓練システム コミュニケーションシステム
法の遵守とシステムの適用 技術的専門知識と従業員の技能 文書と記録の管理システム
説明責任、責任、および権限 ハザード抑制システム 評価のためのシステム
従業員の参加 プロセスデザイン 監査と自己点検

緊急時対応システム 災害原因調査と基本原因分析

ハザード管理システム 健康/医療プログラムとサーベイランス

予防および改善の実施システム

調達と契約
OSHプロセスの定式化 OSHによる効果 改良/統合−透明性
労働安全衛生方針 OSHの目標と目的 継続的改善
目標と目的 傷害と疾病の発生率 統合
パフォーマンスの評価 従業員の健康 経営の見直し
システム計画と開発 効率の変化
現状評価とハザード/リスクのアセスメント 総合的な組織のパフォーマンス
OSHMSのマニュアルと手順


第4章 結論

多くの場合、既存の労働安全衛生組織を一層発展させることがOSHMSの導入の目的であった。したがって、OSHMSsの大部分は、以前からの(部分的な)システムに基づいている。例えば、ミブラーグ鉱山(ドイツ)は、この企業の英米の所有者が使用しているシステムの要素を取り入れて、その労働安全プログラムを変更した。アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ)は、国の法令に従って、まったく新しく労働安全衛生マネジメントシステムを導入した。この法令は、建設現場における安全衛生に関するEUの理事会指令(92/57/EEC)をギリシャ国内で実施したものである。ベルグランド乳業(オーストリア)におけるOSHシステムの導入は、作業における災害件数が増加したために開始された。

実施と効果の発揮

すべての生産会社は、他のマネジメント機能に直接つながった形態の組織(例えばアグファのISO 9002に関連したOSHMSのように)を選んでいる。ルクセンブルクのこの例は、OSHMSの細部が会社の経営哲学の一部をなしていることを示す。この哲学は、業務が健康と美学に関連していることを明確に認識している。ミブラーグ鉱山(ドイツ)においては、労働安全が企業目標の第一であって、他の目標と同一の優先度/レベルを有している。

OSHMSの導入において、多くの場合、従業員はさまざまなやり方で協議に加わったり、関与してきた。OSHMSの導入において、外部の専門家と相談した例は少なく、セルメルックス建設(ルクセンブルグ)が2人の外部の専門家を使用したのみである。

また、これらの実施例は、既存のマネジメントシステムとOSHMSの統合が難しいことであって、完成するまでには長期間を要するという事実を明確としている。

OSHMSの効果

OSHMSの導入において、定量的な目標の設けられた例は極めて少数であったが、このような目標のほとんどは、「災害ゼロ」であった。このような目標を設けた企業においては、災害を削減するという目標は達成されている。例えば、ミブラーグ鉱山(ドイツ)、アグファ・ゲバルト写真(ベルギー)およびベルグランド乳業(オーストリア)がある。別の効果として、従業員の動機付けの増大がある。これは定量的な評価はされていないが、多くの会社が、OSHMSの導入により、生産性が向上したと考えている。

長所と短所

概念において、作業による災害の防止に重点が置かれ、職業性疾病と作業関連疾患への関心が低かった。企業によって、OSHの重要性についての認識のレベルが異なっていた。例えば、アッティキ・オドス高速道路建設共同体(ギリシャ)および コーク大学(アイルランド)では、OSHは必要な対策としてだけ扱われていたが、ミブラーグ鉱山(ドイツ)、アンプリフォン電機(イタリア)およびセルメルックス建設(ルクセンブルグ)においては、OSHが経営哲学の最も重要な要素のひとつとが見られている。実施例における達成と成功の状況は、労働安全衛生が企業トップの義務であることの宣言が重要であることを明らかとしている。

この報告書の対象となった企業においては、OSHMSの強い利点がよく認識されており、特に大きい企業では、労働災害の件数とそれによるが損失時間が減少した。さらに、OSHMSsは従業員の能力を向上させることなどによって、その動機付けを強化させ、企業への帰属意識を増大させた。

特に従業員の統合が、自発的に行われた場合においては、コミュニケーションの技能がどこで必要か、従業員は従事する仕事に対して必要な能力を有しているかなどの短所が把握できるようになった。(特に初期に)コストのかかることは、マイナスの要素である。

この報告書の企業の例は、純粋な在来型よりも、現代型な経営戦略のすぐれていることを実証するものである。

主な利点は以下の通りである。

  • ハザード、リスクおよび災害に関する体系的、根本的な分析
  • ハザードとリスクについての強い認識
  • 内部手続きに関する透明性の改良
  • 従業員間のより良いコミュニケーション
  • 従業員のより強い動機付けと企業への帰属意識
  • より広範で統合した観点からの作業環境の見方
  • 労働安全衛生パフォーマンスについてのよりすぐれた評価

このようなシステムを導入するためには、企業からのすくなからぬ費用の支出および必要な要素についての従業員の技能取得が必要である。これらの例は、OSHMSの導入と実施が慎重に計画されなければならないことおよびその企業に特定の条件が考慮されなければならないという事実を示すものである。これらは、実施を成功させるために重要な条件である。