欧州連合の労働安全衛生の状況−パイロット調査
3.1 カギとなる点
労働環境での暴露
物理的/化学的暴露
物理的/化学的暴露指標
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欧州全体の暴露労働者の状況(注1)
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新たな防止策の
必要性を指摘したフォーカル・
ポイントの数
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もっとも回答数の
多かった産業
(注2)
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もっとも回答数の
多かった職業
(注3)
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騒音
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28%
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7
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金属加工製品の製造(機械と設備を除く)、木材ならびに木材およびコルク製品の製造(家具を除く)、わら製品およびわら編み材の製造
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機械操作員および組立工
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振動
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24%
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9
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建設
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者、採鉱、建築職従事者、運転手、移動プラント操作員
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高温
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20%
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6
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金属材料の製造
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者、採鉱、建築職従事者
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低温
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23%
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7
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食品および飲料の製造、建設
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者
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化学物質の取り扱い
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14%
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8
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化学物質および化学製品の製造
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者、定置装置および関連操作員
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物理的リスクでは、「振動」への暴露とそれによる疾病の影響がもっとも多く指摘され、9つのフォーカル・ポイントが、リスク最小化のために新たな防止策を策定する必要があるとみている。これに僅差で続くのが「化学物質の取り扱い」で、8つのフォーカル・ポイントが新たな防止策の必要性を指摘している。
暴露指標としては、騒音、振動、高温、低温、化学物質の取り扱いが労働環境を問わず共通に指摘されているが、特定のひとつの産業がもっともリスクが高いと指摘されることはなかった。ただし、職業分類との関連では「鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者」が、振動、高温、低温、化学物質の取り扱いでもっとも回答数が多かった。騒音への暴露では「機械操作員および組立工」がもっともリスクが高いとみられている。
注1 ESWCのデータ、ダブリン財団第2次調査(1996年)。
注2 回答数のもっとも多かった産業だけを記載。回答数が同数の産業はすべて記載。
注3 回答数のもっとも多かった職業だけを記載。回答数が同数の職業はすべて記載。
姿勢および動作の暴露
姿勢および動作の暴露
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欧州全体の暴露労働者の状況(注4)
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新たな防止策の必要性を指摘したフォーカル・ポイントの数
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もっとも回答数の多かった産業(注5)
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もっとも回答数の多かった職業(注6)
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反復動作
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57%
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7
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食品および飲料製造
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機械操作員および組立工
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緊張を強いる作業姿勢
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45%
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6
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建設
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者
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重量物の持ち上げ/移動
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34%
|
9
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建設
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者
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姿勢および動作では、「重量物の持ち上げ/移動」の回答数がもっとも多く、9つのフォーカル・ポイントがリスク最小化のために新たな防止策の策定が必要だとみている。これに続くのが「反復動作」で、7つのフォーカル・ポイントが新たな防止策の必要性を指摘している。
産業分類では「建設」産業が「緊張を強いる作業姿勢」と「重量物の持ち上げ/移動」でリスクが最大であるとする回答数がもっとも多かった。いずれも職場のエルゴノミクス的要因の影響を受ける可能性がある。「食品および飲料製造」は「反復動作」によるリスクが最大であるとの結果になった。
職業分類では、「鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者」が「緊張を強いる作業姿勢」と「重量物の持ち上げ/移動」のリスクでもっとも回答数が多かった。「機械操作員および組立工」は「反復動作」のリスクを指摘する回答がもっとも多かった。
心理社会的労働条件
心理社会的
労働条件
|
欧州全体の暴露
労働者の状況
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新たな防止策の必要性を指摘したフォーカル・ポイントの数
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もっとも回答数の
多かった産業(注5)
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もっとも回答数の
多かった職業(注6)
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社会的要求に支配
される作業速度
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67%
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3
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ホテルおよびレストラン
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顧客サービス事務員
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高速での作業
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54%
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6
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ホテルおよびレストラン
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会社管理者、顧客サービス事務員
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単調な作業
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45%
|
6
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皮のなめしおよび仕上げ、ならびにかばん、ハンドバッグ、馬具、ハーネスおよび履物の製造、織物の製造、食品および飲料製造
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機械操作員および組立工、販売、サービスの初級職業
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機械に支配される
作業速度
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22%
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4
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織物の製造
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機械操作員および組立工
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いじめと個人攻撃
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8%
|
7
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医療およびソーシャルワーク
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販売、サービスの初級職業、個人、保安サービス職業従事者、顧客サービス事務員
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肉体的暴力
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4%
|
7
|
医療およびソーシャルワーク
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個人、保安サービス職業従事者、生命科学、保健関連の準専門職
|
セクシャル
ハラスメント
|
2%
|
2
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ホテルおよびレストラン、医療およびソーシャルワーク
|
個人、保安サービス職業従事者
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上の表から、新たな防止策策定の必要性を指摘するフォーカル・ポイントが過半数に達する心理社会的労働環境はなかったことがわかる。ただし「いじめと個人攻撃」と「肉体的暴力」は、7ヵ国の報告で新たな防止策が必要であると指摘されている。とはいえ、欧州全体の状況(ダブリン財団第2次調査のデータ)をみると、経験している労働者の比率は両問題とも低い。
心理社会的労働条件の7つの暴露指標すべてでもっともリスクが高いと指摘された単一の産業はない。「ホテルおよびレストラン」は「社会的要求に支配される作業ペース」「高速での作業」「セクシャルハラスメント」のリスクでもっとも回答数が多かった。「医療およびソーシャルワーク」は「いじめと個人攻撃」「肉体的暴力」「セクシャルハラスメント」のリスクで回答数がもっとも多かった。
心理社会的労働条件はあらゆる労働環境に適用できるが、そのすべてでもっともリスクが高いと指摘された単一の職業はなかった。実際には3を越える指標で指摘された職業が2つある。「顧客サービス事務員」は「社会的要求に支配される作業ペース」「高速での作業」「いじめと個人攻撃」で、また「個人、保安サービス職業従事者」は「いじめと個人攻撃」「肉体的暴力」「セクシャルハラスメント」で、それぞれもっともリスクが高いと指摘されている。
注4 ESWCのデータ、ダブリン財団第2次調査(1996年)。
注5 回答数のもっとも多かった産業だけを記載。回答数が同数の産業がある場合はすべて記載。
注6 回答数のもっとも多かった職業だけを記載。回答数が同数の職業がある場合はすべて記載。
OSH上の諸結果
OSH上の諸結果
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災害件数/欧州
全体の暴露労働
者の状況(注7)
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新たな防止策の必要性を指摘したフォーカル・ポイントの数
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もっとも回答数の
多かった産業(注8)
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もっとも回答数の
多かった職業(注9)
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3日を超える休業を伴なう災害
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4,757,611件(1996年)(ユーロスタットのデータ)
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7
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建設
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機械操作員および組立工
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死亡災害
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5,549件(1996年)(ユーロスタットのデータ)
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6
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建設
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者、運転手、
移動プラント操作員、
採鉱、建築職従事者
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職業性疾病
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欧州レベルのデータなし
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7
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建設
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金属、機械および関連職業従事者、鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者
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筋骨格障害
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30%
|
8
|
建設
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者
|
ストレス
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28%
|
10
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医療およびソーシャルワーク、教育
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生命科学、保健の専門職
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職業性の病休
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25%
|
5
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医療およびソーシャルワーク、行政および防衛、強制社会保険
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鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者
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OSH上の諸結果は、職場の特定の危険有害要因にさらされることによる最終的な影響である。上の表で、10のフォーカル・ポイントが「ストレス」に対処するための新たな防止措置が必要だと指摘している。パイロット調査のなかで、「ストレス」ほど新対策の必要性を指摘する回答が多かった問題はない。重要なのは、ストレスは結果(影響)であり、いかなる防止策も、その根本原因に向けられなければならないということである。根本原因は、これまで述べてきた暴露指標の一つか、もしくはそれらの組み合わせである場合もあるし、それ以外の職場の危険有害要因であるかもしれない。
OSH上の諸結果で、防止策の必要性が2番目に多く指摘されたのは筋骨格障害で、8つのフォーカル・ポイントがとりあげた。
産業分類については、「建設」が「3日を超える休業を伴なう災害」「死亡災害」「職業性疾病」「筋骨格障害」リスクでの回答数がもっとも多かった。「医療およびソーシャルワーク」は「ストレス」「職業性の病休」リスクで回答数がもっとも多かった。
職業分類については、「鉱業、建設業、製造業および運輸の単純労働者」ほどOSH上の諸結果の影響が大きい職業はなく、「死亡災害」「職業性疾病」「筋骨格障害」「職業性の病休」のリスクでとりあげられている。
注7 ESWCのデータ、ダブリン財団第2次調査(1996年)。
注8 回答数のもっとも多かった産業だけを記載。回答数が同数の産業がある場合はすべて記載。
注9 回答数のもっとも多かった職業だけを記載。回答数が同数の職業がある場合はすべて記載。
暴露労働者の数にみられる傾向
「高速での作業」「ストレス」について、暴露労働者の数が増加傾向にあると報告されている。
新たな防止策の必要性
フォーカル・ポイントが、リスクに対処するために新たな防止策策定の必要性があると指摘した主な暴露指標/OSH上の諸結果を下の表にまとめた。詳細な表は3.2に記載した。
暴露指標/OSH上の諸結果
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新たな防止策策定の必要性を指摘したフォーカル・ポイントの数
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ストレス
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10
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振動
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9
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重量物の持ち上げ/移動
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9
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化学物質の取り扱い
|
8
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筋骨格障害
|
8
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新たな防止策策定の必要性があるとの回答がもっとも多かったのは「ストレス」である(10ヵ国)。ストレスが最大の危険有害要因になっているのは次の産業である。「医療およびソーシャルワーク」「教育」「陸上輸送、パイプライン輸送」「行政および防衛、強制社会保険」「農業、狩猟および関連業種」。
もっとも回答数の多かったリスク産業
パイロット調査のすべての暴露指標/OSH上の諸結果について、回答数のもっとも多かったリスク産業を下の表にまとめた。詳細な表は3.3に記載している。
産業別
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のべ回答数
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建設
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112
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金属加工製品の製造
(機械および設備を除く)
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63
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農業、狩猟および関連業種
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62
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医療およびソーシャルワーク
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57
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食品および飲料製造
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52
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化学/生物学的危険有害要因については、14のフォーカル・ポイントが「医療およびソーシャルワーク」を感染性の生物学的危険有害要因であるB肝炎とC型肝炎への暴露のおそれがあると指摘している。
もっとも回答数の多かったリスク職業
パイロット調査のすべての暴露指標/OSH上の諸結果について、回答数のもっとも多かったリスク職業を下の表にまとめた。詳細な表は3.3に記載している。
職業別
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のべ回答数
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鉱業、建設業、製造業および
運輸の単純労働者
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123
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金属、機械および関連職業従事者
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80
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採鉱、建築職従事者
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76
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機械操作員および組立工
|
73
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定置装置および関連操作員
|
40
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性別
騒音、振動、高温、低温のリスクは男性の方が高いとする回答数がもっとも多かった。また3日を超える休業を伴なう災害、死亡災害、職業性疾病についても、男性の方がリスクが高いとみられている。
セクシャルハラスメントのリスクは女性の方が高いとする回答数がもっとも多かった。また国別報告では、単調な作業、肉体的暴力、反復作業でのリスクが高いとする回答も多数あった。
その他のリスク分類
自営業者、派遣労働者、短期契約労働者はリスクが高いと指摘し、コメントをつけた加盟国が多数あった。安全衛生研修への参加が限られるなど、利用できるリソースが少ないことが原因である。
在宅労働
在宅労働者の数は、加盟国によって労働人口の0.6%から9%までと幅がある。労働安全衛生上の問題としては、社会的隔離、長時間労働、職場のエルゴノミクス的設計、災害が自宅で発生した場合の証明負担と責任が指摘された。また反復性疲労傷害(RSI)の潜在的リスクも報告されている。
新たな脅威となりつつあるリスク
フォーカル・ポイントが報告した新たな脅威となりつつあるリスクに伴なう問題を以下にまとめた。これらについての詳細とその影響は3.5に記載している。
問題
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労働組織の変化
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若年労働者
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ストレス
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手作業
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>新化学物質の使用
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「医療およびソーシャルワーク」産業についての研究の必要性
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高齢労働者
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暴力
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変化する労働生活に関連した問題については、心理社会的、エルゴノミクス的、化学的な既存のリスク要因への懸念と合わせて関心が高い。
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