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欧州調査−欧州労働者の雇用・就労事情の動向

Pascal Paoli
生活労働条件改善欧州財団(注28)

資料出所:European Agency for Safety and Health at Work(欧州安全衛生機構)発行
「Safety and Health and Employability」1999年度版 p.51-53
(訳 国際安全衛生センター)

この記事のオリジナルは下記のサイトでご覧いだだけます。http://osha.europa.eu/publications/conference/conference99/proceedings.pdf


標記のテーマについて述べるにあたり、最初に数多くの先入観を取り除いておかねばならない。欧州では、量的および質的調査により、労働条件の改善が自然に発生するものではないことが明らかになっている。それは技術面の進歩や雇用構造の変化により自動的にもたらされることはない。

労働条件の変化のテンポは千差万別である。たしかに大多数の労働者にとっては状況は比較的良好であるものの、残された労働者にとってはそうではない。労働条件に関する統計調査によると、労働者の過半数は各種のリスク要因への暴露水準は低いと考えているが、10%はリスク要因に過度に暴露していると考えている。この10%は約1,500万人に相当することを忘れてはならない。

このことが突き付ける問題を、基本構造の一定の変化の面から検証する必要がある。これにより特定の問題が発生する理由も、それに対する予防および対処の方法も明らかになる。

以下の点について、特に触れる必要がある。

  • 労働者の高齢化:労働環境を、加齢とともに変化する能力に適合させるという問題が発生する。ほとんどの業務は、若年の完全に健康な人を想定して構成されている。高齢労働者にとってはそれが障害となり、障害または健康上の問題を抱える労働者を統合するのを妨げる大きなリスクになる。
  • 女性の被雇用者数の増加:機会均等と職場における差別の問題が発生する。
  • 雇用構造の変化:雇用における第3次産業化が南欧諸国を中心に急速に進行している。工業部門の雇用は、そのリスクとともに減少を続けている。最後に、過去数年間に臨時雇用が大幅に増加した。1996年の欧州連合の給与労働者の15%が、臨時または有期契約だった。
  • 労働の再構築:その結果、伝統的な労働構造が多様化し、分散化している。とくに外注化と自営業の増加、在宅勤務の比重の高まりを指摘すべきである。
  • 職場と外部社会との接触の拡大:労働者、顧客、一般市民間の接触が拡大しており、それが労働条件に影響を与えている。

以上をふまえ、労働条件の面で、以下をはじめとする多くの問題点が発生していることに注目すべきである。

  • 労働密度の増大:総労働時間短縮に向けた一般的傾向の一方で、労働のペースは明らかに高まっている。労働密度の増大とストレスの発生の間には明確な関連がある(全労働者の3分の1近くがストレスを訴えている)。労働の自由度が高まっても、労働密度が増大する現状を補うには不十分である。
  • 反復作業:筋骨格系障害の増加は、この問題に明確に関連している。
  • 非定型的で予測のつかない労働時間:需要に応じて柔軟な生産体制のための労働時間柔軟化(flexible working time)に向けた強い動きがある。しかし今後は、こうした傾向が労働者の生活の質に有害な影響をもたらさないようにすべきである。この点は、二重の労働負担(家族などについて)を負う人々、労働時間の予測がつかないことが深刻な問題になる人々にとってはとくに重要である。
  • 職場における暴力:この問題の主な被害者は女性、若年者、臨時労働者であり、もっと注目すべきである。
  • 雇用の不安定:調査によると、不安定な地位にある労働者(臨時または有期契約)の労働条件は平均を大きく下回っている。しかし雇用不安を経験する労働者は増加している。また調査によると、こうした労働条件の直接の原因は、雇用の不安定というより、困難な業務が主として不安定な地位にある労働者に割り当てられることにある。
  • 最後に、これらの「新しい」リスクを検討する際は、「伝統的な」リスク(騒音など)も忘れてはならない。こうしたリスクが減少する気配はみられない。把握と予防に関する情報が豊富に存在することを考えると矛盾している。情報を研究段階から企業に普及させる点で、明らかに問題がある。

上述した変化とこれに伴なう新たなリスクは、職場の衛生の方針確立に新しい一連の課題を投げかけている。これらの課題は以下の4つのグループに分類できる。

監視における課題

この問題は、小企業や超小型企業とピラミッド型下請契約の拡大に伴なって労働の分散化が進行したことから発生する。そして不安定な雇用形態への依存と、これに伴なうリスクが表面化する。その結果、伝統的な形態での監視(労働監督官など)がきわめて困難になる。第1に、監視困難な状況が増え、そうした状況で採用される労働者数も増加した。第2に、監督官の人数が十分でなく、減少している場合さえある。また欧州連合内でも大きな差がある。(注29)

こうした問題をふまえ、規則、管理、制裁の3原則に基づく伝統的な防止システムについての再検討が求められている。現状の制裁規定は不十分で、ほとんど効果がないことが明らかになっているためである。この問題には2つの対処法がある。

  • 外部から実行する監視機能を内部に移行する方法がある(たとえば監督官から企業自身に)。この方針はノルウェーで試みられており、監督官は基本的な規則を監視し、企業が十分な防止策を導入しているかを点検する。これは「結果に対する監督」から「手段に対する監視」に移行することを意味する。ただし、衛生上の目的を定めるべき公的機関の役割は何かという問題は残るだろう。とくに、労働者の意見表明の機会がなく、大半が社会的対話や団体交渉が存在しない小企業に関してそうである。
  • 監督機能を奨励と助言の機能に転換する方法がある。監督官は社会的パートナーや専門家などによるネットワークの中心に位置づける。監督官は職場での業務は継続するものの、協力とパートナーシップのための中継、入口、または触媒の役割を担う。

総合的アプローチの課題

事前に対処すべき諸問題がますます複雑になっているため、総合的なアプローチ、リスクアセスメント、規則の必要性が高まっている。

多種多様なリスク(具体的には身体的リスク、エルゴノミクス的リスク、環境要因、社会的リスク)への事前対応をはかり、克服するためには、予防対策で総合的アプローチをとることが不可欠となっている。このため、特定の予防機関による「一面的」な手法には疑問が投げかけられている。たとえばフランスやイタリアの機関は、主として労働条件に対する医学的またはケース・バイ・ケースのアプローチを基に業務を進めている。最近は総合的アプローチを採用する例が目立って増えており、オランダの場合、予防業務は産業医学、エルゴノミクス、作業組織、エンジニアリングの4つの専門分野を包含しなければならない。

リスクと労働条件の評価はますます複雑になっている。単に空気や身体的リスクを測定するだけでは十分ではなく、心理社会的リスクも測定しなければならない。したがって、その評価には労働者の参加が不可欠である。評価はもはや「専門家」の専売特許ではなくなった。

最後に、規則の果たす役割の問題がある。労働状況が複雑かつ多様化したため、目的とその実現手段を詳細に規定することがますます困難になっている。「1989年枠組み指令」(注30)と一部のEU加盟国の法律にならい、北欧諸国などの当局は大まかな指針と一般原則を策定するだけにとどめている。したがって、詳細な防止策を実行する責任は、主として企業自身と社会的パートナーに委ねられる。

予防のための課題

リスクに対する共同補償から予防への方針転換は保険制度の再検討を必要とするが、ここでも事前のリスクアセスメント、リスク予防と労働条件改善に果たすべき企業の役割、初期研修の役割が問題になる。

保険制度は、完全民営(フィンランドなど)、一部民営(ベルギーなど)、または公営(他のEU加盟国)のいずれであれ、一般に損害を埋め合わせ、補償を行うものとされている。保険の役割を、リスクを予防し、奨励金タイプのインセンティブによって企業にリスク発生前の対策を促すものに転換する動きが進んでいる。

これは潜在的なリスクとリスク要因の把握が可能であるとの前提に立っており、やはり事前のリスクアセスメントが問題になる。「1989年枠組み指令」はこれを法的義務としている。いまや、それをいかに実行するかを決定しなければならない。

最後に、事前研修の役割に取り組まなければならない。予防が企業活動の一環として統合されれば、本質的に「衛生、安全および労働条件」業務は終了する。これは技術的、財務的選択がすべてなされた後の最後の業務とされるのが一般的である。予防業務は、生産、管理、財務、保守業務のなかに再統合されるべきである。そのひとつの方法が、技術者と管理者のための事前研修であることは間違いなく、したがって当局はこの点に制裁規定を設けるべきである。

監視のための課題

効果的な予防は、詳細データの蓄積がなければ不可能であり、そのためには労働条件とリスク要因に関する適切な指標が不可欠である。伝統的な指標は、いまや複雑な労働条件の把握には不十分である。労働の場における死傷災害と職業性疾病に関する統計データは氷山の一角を示しているにすぎず、とくに一部の産業または国のそれは実態を過小評価していると思われる。たとえば職業性難聴は最大の健康問題にランクされているが、精神的障害と筋骨格系障害が広がっている労働の現状を反映していない。またマクロ経済レベルでは、発生している変化とそれに伴なう問題、合わせて公共部門をはじめとする労働衛生問題対策の効果をより正確に計測するための指標を確立すべきである。

結論として、ここで明白な事実を述べておきたい。職業上のリスク予防は素晴らしい成果を生むという見方は広まる勢いを見せているが、予防と労働衛生の促進には、まず第一に研修、監視用のツール、研究のための資金と手段を用意する必要があるという点である。国によっては、労働衛生の研究にかかわる多数の公的機関の運営が市場に依存しているという事実があり、これは筆者の考えでは大きな問題である。

労働環境のリスクの予防に取り組む政治的意思があるかないかは、最終的にはそのための資金が用意されているかどうかで決まる。一部では改善の兆候もみられるが、他の部分では急速に悪化しているように思える。

最後に、労働条件の改善と新たなリスク予防は、労働者の健康だけでなく(健康が確保されれば安いものだ)、企業の業績をも改善する。この点は、予防のコスト効果に関する1997年のハーグ会議で証明された。つまり、労働条件の改善は疾病による欠勤を減少させ、したがってコスト削減につながるのである。


注28  http://www.eurofound.eu.int/
注29  EUにおける監督官のリソースについての表は、欧州機構のウェブサイトの「News4」(http://osha.europa.eu/publications/newsletter/4/en/se03.html)で閲覧できる。
注30  職場における労働者の安全衛生向上を奨励する手法導入についての欧州理事会指令89/391/EEC(1989年6月12日付)。公報No. L 183, 29/06/1989 P.0001-0008。


この記事の出典「Safety and Health and Employability 1999」(英語)は国際安全衛生センターの図書館でご覧いただけます。