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職場における騒音

資料出所:欧州安全衛生機構ホームページ
http://osha.europa.eu/topics/noise

(仮訳 国際安全衛生センター)

* 欧州安全衛生機構は、騒音問題を2005年の安全衛生テーマに取り上げ、各種の活動を展開してきた。この問題に関する概要が「騒音」のホームページに掲載されているので紹介する。

* また刊行された「Fact Sheet」「Report」「Magazine」 のリストを併せて示す。

* 新指令2003/10/ECと旧指令86/188/EECとの要点の比較

職場における騒音

問題の範囲

 欧州においては、何百万人もの労働者が毎日、職場における騒音とこれに伴うリスクにさらされている。騒音が製造業や建設業などの産業において、問題であることは明白なことだが、コールセンター、学校、オーケストラボックスからバーにいたるまでのさまざまな労働環境でも問題となることがある。

 欧州の労働者の5人に1人は、作業している時間の半分以上で大きな声を出す必要がある。また、7%が職業性難聴となっている。騒音性難聴は、欧州において最も広範に存在する職業病である。

 

騒音とは何か?

 騒音とは好ましくない音である。騒音の強さ(大きさ)は、デシベル(dB)で示される。デシベルの目盛りは対数であるため、3デシベルの騒音レベルの増加は、騒音の強さが2倍であることを示す。例えば、普通の会話はおよそ65dBであり、大声を出した時は、およそ80dBとなる。この違いは15dBだが、大声は30倍強い。人間の耳の感受性は、周波数によって異なるので、騒音の大きさまたは強さは、A特性のデシベル(dB(A))によって示される。

 騒音が有害であるかどうかが決まるのは、強さだけではなく、ばく露の時間も極めて重要なので、時間加重平均騒音レベルが用いられている。職場の騒音は、通常では、一日の労働を8時間としている。

騒音はどんな問題をもたらすか?

 騒音は、作業場で問題を起こすほどに、大きくてはならない。騒音は、作業場の他の危険と組み合わさることにより、労働者のリスクを増大させる。例えば、

警告信号の妨害となって事故のリスクを増大させる。
一部の化学物質に対するばく露との相互作用により、聴力障害のリスクを増大させる、
または、作業におけるストレスの原因となる要素である。

 このように、騒音へのばく露は、労働者にさまざまな安全と健康へのリスクを引き起こすのである。

聴力障害: 過度の騒音は、内耳の一部の蝸牛殻毛細胞に損傷を与え、聴力障害を生じる。「多くの国々において、騒音による聴力障害が、最も数の多い不可逆的業務上疾病である。」欧州における難聴の人々の数は、フランスの人口より多いと推定されている。
生理的影響: 騒音へのばく露によるカテコールアミンの生成と血圧の上昇により、心血管系に影響が生ずるとの証拠がある。血液中のカテコールアミン類(エピネフリン(アドレナリン)を含む)のレベルはストレスに関係がある。
作業に関連したストレス: 作業に関連したストレスの原因は、ひとつであることは少なく、いくつかのリスク因子の組み合わせから起こることが多い。オフィス環境における騒音は、かなり低いレベルにおいても、ストレス要因となることがある。
事故のリスク増大: 高い騒音レベルは、聞き取りと意志の疎通を妨げ、事故の可能性を増加させなる。作業関連のストレス(騒音もこの要素でありうる)は、この問題と複合することがある。

だれにリスクがあるか?

 騒音にばく露する人には、だれにでも潜在的なリスクがある。騒音のレベルが大きく、ばく露の期間が長いほど、騒音による障害の生じるリスクが大きい。製造業と鉱業では、40%の労働者が、その労働時間の半分以上において、いちじるしい騒音レベルを経験している。建設業においては、この数字は35%で、農業、輸送、情報を含む他の多数の部門では、20%である。騒音が問題であるのは、製造業と他の古くから存在する産業だけではない。教育、ヘルスケア、バーやレストランなどのサービス産業においても、騒音が問題であることが知られている。

幼稚園における騒音の研究では、平均騒音レベルが85dBを超える例がいくつか見られた。
「白鳥の湖」の上演中、指揮者のばく露は、88dBであった。
トラック運転手は、89dBにばく露することがある。
ナイトクラブのスタッフのばく露は最大100dBとなる。
養豚場における騒音は、115dBに達した。

騒音の抑制

 雇用者は、法律上において、作業における騒音によるすべてのリスクから、労働者の安全と健康を守る義務がある。雇用者のなすべきこととしては、下記がある。

リスクアセスメントの実施:これには、騒音測定が含まれることがあるが、騒音によるすべての潜在的なリスクについても検討することが必要である。(例えば、聴力障害と事故の関連)
リスクアセスメントに基づいて、以下の対策を実施する。

可能な限り、騒音源を除去する。
騒音を発生源において抑制する。
85dB(A)を超える騒音レベルに、労働者がばく露するおそれのある作業場所においては、作業組織、レイアウトの改善、表示、立ち入りの制限などによってばく露を抑制する。
最後の手段として、労働者に対して保護具を提供する。

労働者に対し、存在するリスク、低騒音とする作業方法、騒音に対する防護の手段を知らせ、話し合い、訓練をする。
リスクを監視し、予防策を見直す。これには、健康診断が含まれることがある。

法規制

  機械および機器のメーカーもまた、騒音レベルを抑制する責任がある。理事会指令98/37/ECによると、機械は「空中への騒音の放出によるリスクが最も小さいレベルに引き下げられるよう、設計し組み立てる。」ことが必要である。

  物理的要因(騒音)によるリスクを生ずる労働者のばく露に関する、欧州議会と理事会の安全衛生最小要件指令2003/10/ECが2003年に、採択された。この指令は、指令86/188/EECと置き換えられるもので、2006年2月15日までに全加盟国における法律に取り込まれる。

  この指令の第5(1)条においては、技術の進歩と発散源におけるリスク抑制手段の利用を考慮に入れ、「騒音へのばく露によるリスクは、その発散源で除去するか、最小限度まで抑制する。」ことを求めている。また、この指令における一日平均の新しいばく露限界は、87dB(A)である。

 


* 最近の騒音問題に関する欧州安全衛生機構出版物には下記がある。

「Fact Sheet」

「Fact Sheet」 第56号 職場の騒音対策入門 (PDF)  11/04/2005
このファクトシートは、職場における騒音をめぐるリスク、法的責任とその解決策を含む、主要な問題について概説する。他のファクトシートは、その他の詳細な問題に関するものである。

「Fact Sheet」 第57号 職場の騒音による影響 (PDF)  11/04/2005
職場における騒音へのばく露は,労働者の健康に害を生じることがある。職場の騒音による影響について最もよく知られている問題は、1731年に銅細工師において見られた聴力障害である。騒音は、ストレスを増加させるとともに、事故のリスクを増大させることがある。このファクトシートは職場騒音の影響について説明する。

「Fact Sheet」 第58号 騒音の低減と抑制 (PDF)  11/04/2005
職場における過度の騒音を除去するか、または抑制することは、雇用主にとって単に法的義務であるだけではなく、組織の事業上の利益にも影響がある。作業の環境が安全であり、健康的であるほど、大きな損失の原因となる長期欠勤、事故および成績不振が避けられる。このファクトシートは、職場における騒音を減少、抑制するために行う必要がある主要な方法について概説する。

「Fact Sheet」  第59号 職場の騒音によるリスクの低減 (PDF)  10/10/2005
2005年のヨーロッパ安全衛生週間に際し、欧州安全衛生機構は、指令の仕組みとこれを補足する規格が、騒音による労働者へのリスクを低減させ、騒音ばく露による疾病と事故のために生ずる個人的、社会的、経済的なコストの削減に貢献したかを記述したレポートを作成した。

「Report」 

「Report」 TE6905723ENC 騒音に関する数字 (PDF
サービス部門で働く労働者の比率は増加しつつある。このレポートでは、従来から知られている建設業、製造業または農業などの伝統的な部門ばかりでなく、教育やコールセンターのように、女性が多くサービス指向的な業務についても取り上げている。

「Report」 TE6905812ENC 職場の騒音によるリスクの防止(事例集) (PDF
このレポートは、欧州の企業と組織が行った労働者の騒音へのばく露を抑制するための行動に関する実例を掲載している。種々の作業場所で達成された実例を示すことにより、企業所有者、管理者および労働者を奮起させるはずである。これらは、限定的ではなく、詳細な技術内容の提供を意図するものでもない。事例のすべての要素が成功したというわけではないが、これらの要約においては、仕事がどのように進められ、どのように達成されたかの特徴が示されている。企業の中には、社内の専門技術者によって独自の解決策を見いだした例もあったが、他においては、騒音へのばく露を防ぐ専門知識と実用的経験を有するコンサルタントの使用が役に立ち、費用対効果もよかったところがある。大部分の例においては、問題を特定して、解決策を見いだすための労働者とその代表の参加があった。労働者に直接の経験があることが成功のために重要である。

「Report」 TE6805535ENC 職場の騒音によるリスクの低減 (PDF
騒音は、金属製造、建設などの産業においては、明らかに問題であるが、その他の空港、農場、コンサートホール、コールセンターなどのさまざまな作業場においても問題が存在し得る。欧州安全衛生機構は、指令の仕組みとこれを補足する規格が、騒音による労働者へのリスクを低減させ、騒音ばく露による疾病と事故のために生ずる個人的、社会的、経済的なコストの削減に対して、いかに貢献したかを検討した。

「Magazine」 

「Magazine」 第8号 職場における騒音(PDF) 20/07/2005
騒音を防止することが必要なのは明白である。数百万の欧州の労働者は、作業に起因する聴力障害による被害に苦しんでいる。騒音による聴力障害は、欧州における最も一般的な職業病であり、聴力障害以外の害に関しても騒音ばく露に留意する必要がある。有害化学物質は、耳へ障害に関して相乗作用があるし、コミュニケーションを妨げることによって、事故のリスクを増大させる。騒音が問題である仕事と作業場の範囲は、一般的に考えられているよりもはるかに広いのである。

上記の資料は、いずれも http://osha.europa.eu/publications/index2.stm からPDFファイルをダウンロードできる。他に、オンラインの情報とアドバイス( http://osha.europa.eu )も利用されたいとある。


* 新指令2003/10/ECと旧指令86/188/EECとの要点の比較
 http://www.hse.gov.uk/noise/compare.htmを一部省略

条項   1986年の旧指令   2003年の新指令
リスクの低減   合理的に実施可能な限りの最低レベル   発散源の除去または最低に低減
ばく露の評価場所   騒音がある場所   騒音があるか、ばく露リスクのおそれのある場所
ばく露を評価する期間   8時間   8時間または一週間
作業者の教育訓練   85dB(A)(平均)および   80dB(A)および112dB
200dB(衝撃)  
作業者の聴力検査受診の権利   85dB(A)または医師の判断   85dB(A)または医師の判断およびリスクがあるときは、80dB(A)および112dB
健康診断     リスクがあるとき実施
聴力保護具の準備   85dB(A)および200dB   80dB(A)および112dB
聴力保護具の着用   90dB(A)および200dB   85dB(A)および140dB
リスクがなくなるか、最低となるものを選定
ばく露限界     耳において
87dB(A)および200dB
低減計画策定   90dB(A)および200dB   85dB(A)および140dB
境界を設定、表示、立ち入り制限   合理的に実施可能なとき、90dB(A)および200dB   85dB(A)および140dB
技術的に可能で、リスクが許容できるとき
適用除外   海上、航空輸送   公共サービス活動に支障があるとき