労働中のアスベストの取り扱いによる危険性をめぐり、上級労働監督官委員会(Senior Labour Inspectors' Committee: SLIC)が主催したアスベスト・セッションが2000年、スウェーデン、スペイン、英国、およびフランスで開催された。このアスベスト・セッションの報告書がきっかけとなり、2003年アスベスト会議(Asbestos Conference 2003)がドレスデンで開かれた。同じく2003年、欧州連合(EU)の修正アスベスト指令が採択された。このような背景をふまえ、ドレスデン欧州アスベスト会議(European Asbestos Conference)は、以下のとおり宣言する。
EUのすべての加盟国と加盟予定国、欧州以外の諸国(ブラジル、タイ、および日本)、さらに欧州委員会とILOから、160人を超える参加者が会議に出席した。参加者は、監督局など各国の当局、労使団体、学術機関、および災害保険機関の代表者らであった。会議は、アスベストが依然、大半の国において職場の重要な発がん物質である事実に対し、注意を喚起する。アスベスト繊維によって引き起こされる疾病は、最も重篤で費用のかさむ職業性疾病のひとつである。欧州も含め、世界全体では数百万人の労働者と消費者がアスベストにばく露している。西欧、北米、日本、およびオーストラリアの先進工業諸国においては、毎年20,000例のアスベストに起因する肺がんと10,000例の中皮腫が発生していると見積もられている(*)。移行期にある諸国と発展途上国では、今やそのリスクは市場経済が確立された諸国よりも高く、これらの諸国では20〜30年後になって、アスベストが健康を脅かす「時限爆弾」であったことが明らかになるであろう。
欧州およびその他の地域の27か国は、労働者と一般公衆の健康保護のために、アスベストの生産、取り扱い、および使用を禁止する必要があることをすでに認めている。これらの諸国では、アスベストの消費は無視できる水準にまで下がっている。しかし、アスベストは現在も毎年200万トンが生産されており、世界中の発展途上国でアスベストの消費は増加傾向にある。
アスベストに対する保護は、労働安全衛生に対する欧州連合の取り組みにおいて、特にアスベストを含む建物・工場・設備の更新、保全、または修理の面で、今後も重要課題であり続けると会議は確信している。修正アスベスト指令の採択は、こうしたEUの予防戦略を強化するものである。
労働安全衛生に関する欧州戦略2002〜2006年は、労働災害発生件数の削減、職業性疾病の予防強化、教育を通じたリスクに対する意識向上、該当法令の適用の促進、および革新的アプローチの推進を目的としたものであるが、会議はこの戦略を実現するため、欧州委員会と上級労働監督官委員会(SLIC)に対し、以下の行動を取るよう求める。
- 次のことを目的とした各種のガイドラインを作成する:
- アスベストを含む原料のEU域外諸国からの輸入禁止など、関係当局による法令の執行徹底および包括的監視を確実に行う。
- 工場・設備・建物の使用、整備、修理におけるアスベストおよびアスベスト製品の特定を容易にし、アスベストおよびアスベスト製品の存在に対する意識を高める。
- アスベストの除去方法(特に粉じんの抑制、封じ込め、および保護具)、ならびにアスベストセメント製品および廃棄物の取り扱い方法に関する作業方法(good practice)を示す。
- 保護具や防護服に関し、ヒューマンファクターと個人差を考慮したアプローチを推進する。
- 加盟諸国における現在のアプローチを考慮に入れつつ)医学検査に関する経験の共有および一貫性の向上を図る;特に、ばく露が終了した後の継続的医学検査と、各国レベルでの登録制度の確立を推進する。欧州職業性疾病一覧(European List of Occupational Diseases)の改善へ向けて、アスベスト関連疾病の認定に関する指針を用意する必要がある。
- 欧州委員会作業グループが作成した、アスベスト作業従事者と労働監督官の教育訓練に関する既存の各種ガイドラインの普及を図り、これらのガイドラインに盛り込まれた勧告を2006年までに実現する。
- アスベストの除去をめぐる経済的要因を見直し、効果的な予防に逆行する「危険手当て」の支払いをやめさせる。
- 修正アスベスト指令導入の推進へ向け、労使団体と協力して2006年に欧州レベルでキャンペーンを展開する。
- アスベストに汚染された廃棄物の第三国への輸出を停止する。
会議は、EU加盟国と加盟予定国、およびこれらの国の労使団体に対し、以下のことを求める。
- 職場でのアスベストばく露に対する労働者の保護を優先課題とする。
- アスベストに対する保護に関し、各国の労働監督局および関係省庁・機関の活動との連携を推進する。
- アスベストと関わりを持つ企業に対し、効果的な監視と助言を確実に行う。
- 労働者の保護と労働監督官自身の保護の両面を念頭に置いて、労働監督官の教育訓練に特別な注意を払う。
- アスベストを取り扱う労働者が、そのための能力を有し、適切な訓練を受けていることを確実にする。
- アスベストの危険性とこれに関連する検診、職業性疾病の診断、さらに必要な場合にはその治療に対して、必要なインフラ、サービス、および医師の能力の整備を確実に行う。
- 経済サイクルからのアスベストとアスベスト製品の除去、およびより有害性の少ない製品への代替を目的としたあらゆる手段を講じ、これらの手段を支援する。
会議はILOに対し、次のことを求める。
- ILO条約第162号「アスベスト(石綿)の使用における安全に関する条約」の批准、および遵守すべき最低基準としてこの条約の内容を実現することを、引き続き加盟各国に働きかける。
- アスベストの管理、規制、および労働・社会環境からの究極的除去へ向けた加盟各国の行動プログラム策定を支援する。
- 欧州委員会と協力し、アスベスト含有製品、アスベスト代替製品、およびアスベストの管理と除去に関する作業方法(good practice)について、これらを網羅した国際データバンクを確立する。
- その他の国際機関(WHO、世界銀行など)および非政府組織(NGO)(IALI、ICOHなど)と協力して、アスベスト使用をやめるための適切に管理されたプロセスに関する指導、支援を行う。
アスベストに関連した健康リスクの根絶には、欧州がこれまでに経験したことを広く知ってもらい、これをほかの諸国のニーズに合わせて適用するのが一番である。2003年欧州アスベスト会議は、最終目標とすべきはアスベスト製品とその使用の世界的禁止であるとの信念をここに表明する。
(*) Consensus Report; Asbestos, asbestosis and cancer: the Helsinki criteria for diagnosis and attribution. Scand J Work Environ Health 23 (1997) 311-316
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