労働監督官向け
石綿の健康影響
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 石綿へのばく露から生じる健康リスクについて、情報伝達や注意喚起(貼り紙やビラなどの手段による)を行っているかどうか調べること。
- 喫煙と石綿ばく露を同時に行った場合にリスクが相乗的に高まることについて、作業者に十分な情報を与えているかどうかを確認すること。例えば、ビラや貼り紙を調べたり、関係者に話を聞いたりするなどする。
- このような問題について、国の規制を遵守しているかどうかを確認すること。
石綿を含有する物質
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- メンテナンス労働者が十分な訓練研修を受け、石綿を含有している可能性のある物質を識別できるようになっていること。
- 石綿を含有する物質、含有しない物質について、十分な情報が提供されていること。
- 石綿含有が疑われる物質の試料の分析を依頼し、結果を得るための体制が整っていること。
- 石綿含有が疑われる物質に遭遇した場合に、直ちに作業の停止を命じる責任者が配置されていること。
- このような問題について、国の規制を遵守しているかどうか。
リスク評価と作業前計画
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 作業者やその他の人員の石綿ばく露に関して、十分かつ適切なリスク評価が十分に現場で行われているかどうか。
- 現場固有の詳細事項を記した指示書(作業計画書)が、現場に用意されているかどうか。
- 緊急計画があるか(例えば、作業計画の中に)。
- 被雇用者がリスク評価や作業計画を十分に理解しているかどうか。
- リスク評価や作業計画に、被雇用者から得た情報が盛り込まれているかどうか。
意思決定プロセス
石綿含有物質の存在している現場で検査を行っている労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- その物質を残留させる決定判断に確かな根拠があったかどうかを調べること。
- リスク評価により、届出義務のない作業であると判断した物質でも、第6.3節に示す基準(砕けないこと、分解しないこと、良好な状態にあることなど)を確かに満たしているかどうかを確認すること。
- 残留物質を監視、管理する体制が整っていることを確認すること。
- 石綿ばく露の可能性の推定に用いたデータに妥当性があったかどうかを確認すること。リスク評価で、ばく露の可能性が小さいという結果が出ている場合には、特にこの確認を重視。
訓練研修
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 作業現場に、各作業者の訓練研修の受講証明書を置いていること。
- 各作業者について、再訓練の必要性を定期的に再検討してきた記録があること。
- 外国人作業者に訓練研修を行うに当たり、本人が十分に理解できる言語で訓練研修を実施したこと。
- トレーナーとなった機関または個人に、トレーナー資格があったこと。
器具
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 器具の作動状態が良好かどうか。器具の整備、点検が適切かどうか。適正な点検記録が残っているかどうか。
- 呼吸用保護具の使い方が適切かどうか。
- 作業者ごとに、着用する呼吸用保護具のタイプに見合った顔面密着性テストを行っているかどうか。
石綿ばく露を最小限に抑えるための原則
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 訓練研修の証明書(作業者の氏名が記入されているもの)により、各作業者がそれぞれの仕事に適する訓練研修を受けていることが示されていること。
- 作業者の写真付き身分証があり、訓練研修記録との照合が行えること。
- 適切な器具の支給、管理、定期点検が行われていること。
- 監督と管理が適切に行われていること。
石綿を伴うおそれのある作業
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 上記の勧告事項を実施していること、その内容が指示書の作成、内容、被雇用者の認識などに反映されていることを示す根拠があることを確認し、さらに手順が実施されたことを確認すること。
- リスク評価により、被雇用者および他の者の受けるリスクが十分に検討されていることを確認すること。
- 作業計画や作業要領の中に適切な予防措置が定められており、実施されていることを確認すること。
- 事故の発生を未然に防止する管理手順を徹底的に検討するよう奨励すること。
- 事故が発生した場合
- 健康リスクの程度に応じた措置を取ったことを確認すること。
- 事実にもとづき、元気づける態度により、健康リスクについての助言を与えること。
- 事故の記録を残す(全般的ガイドラインの改善のため、法的手続きのため)。
- このような問題について、国の規制に準拠しているかどうかを確認すること。
石綿を伴う低リスク作業
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 石綿作業を行うと思われる作業現場のいくつかを、抜き打ちで監査、視察するシステムを持っておくこと。
- 指示書を備えてあること、内容が明確であること、ここに示す勧告事項を指示書に盛り込んでいることの確認。
- トレーニング、器具、呼吸用保護具、個人用保護具の記録を備えていること、記録が最新の状態にあること、記録内容が適切であることの確認。
- 上述の実用上の手順(粉塵の飛散を最小限に抑えるもの、石綿ばく露を防止するもの、汚染の拡大を抑止するもの)を十分に、定期的に実施したことを示す根拠があるかどうかの調査。例えば、除去した石綿断熱板が無傷であること、ネジ穴(包みを通して見る)が、丁寧にネジを抜いた状態にあることなどを確認する。
- 実際の作業とリスク評価に矛盾がなかったことの確認。
- リスク評価で、他の者の安全についても十分に検討したことの確認。
- 届出義務のない作業について、正確に定めていたことの確認。
- リスク評価での予測石綿ばく露量を裏付けるために適切なモニタリングを行っているかどうか、石綿ばく露量を正しく記録していることの確認。
- 石綿ばく露量モニタリングの結果により、実際のばく露量とリスク評価での 予測値に矛盾がなかったことの確認。
- 石綿取扱側の記録を厳密に管理しており、保管履歴をたどれることの確認。
- このような問題について国の規制に準拠しているかどうかの確認。
低リスク作業の例
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 作業ごとの勧告事項(作業計画や訓練研修に反映されていること)を実施したこと示す根拠があるかどうかの確認。
- 高所作業の対策を十分に講じていることの確認。
- 低リスク作業全般に関する確認。
届出義務のある石綿取扱作業
準備
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 大規模、複雑なプロジェクトでは先を見越して行動し、プロジェクト開始前に作業計画を精査検討すること。
- 大規模プロジェクトの立案者や、模範的方法を実行できないでいる者などの相談相手になれるようにしておくこと。
- 届け出に、本ガイドで指定している情報(特に、石綿の種類と量、作業者数、作業開始日、作業者の石綿ばく露を抑える方策など)を記載していることを確認すること。
- 現場を訪れた時に、労働監督官自身の石綿ばく露リスクを防止するための訓練研修を受け、対応できるだけの器具を整備しておくこと。
石綿除去
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 壁、標識、統制手段などを用いて、作業場の隔離が効果的であること。
- 除染設備が良好な状態にあること。作業開始時から現場に除染設備を用意していること。
- 緊急計画書が容易に入手できること。緊急計画書に、現場固有の情報を記載してあること。
- 現場にある器具(粉塵抑制装置や真空掃除機など)と、作業計画に記されている方法が矛盾していないこと。
作業
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 囲い込みの点検記録や確認記録(目視、負圧、換気、煙テスト)があるかどうかの調査。
- 廃棄物などを撤去する部外者のいることの確認。部外者が、適切な呼吸用保護具と防護服を着用していることの確認。
- 視察に適した覗き小窓のあることの確認。
- 視察用の覗き小窓や有線テレビを用いて、例えば視認範囲に不足のないこと、作業計画に従って作業を実行していること、材料の撤去時に廃棄物が片づけられていることなどを確認すること。
- 運搬経路(囲い込みから除染装置まで、囲い込みから廃棄物貯蔵施設まで)が、目的に合った最短経路であること。
- 運搬経路を清浄に維持していること、運搬経路が作業計画の指定どおりであること、運搬経路上に廃棄物を放置していないことの確認。
石綿除去の完了
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 法定要件に従って事前に作業届けを出していること。
- 作業計画書が入手できること。内容が明解であること。ここに示す勧告事項を作業計画に記載していること。
- 訓練研修、再訓練研修を行っていること。
- 適正な業務方法を教えていること
- 作業の範囲を、作業計画に定めてある作業範囲に準じたものにしていること。
- 作業者の写真付き身分証があり、医療記録や訓練研修記録の照合が行えること。
- 現場管理や現場監督について、工程、手続きが適正であること。
さらに、以下の事項も確認しなければならない。
- 現場で、全員が、分かりやすい作業計画書の最新版を持っていること(例えば、その国の言語が分からない作業者がいる場合に、作業者に理解できる言語で書いた作業計画書を配布していること、監督者と意思の疎通を図ることができ、作業計画に記された作業に関する質問への回答が得られることを確認する)。
- 粉塵飛散を最小限に留め、石綿ばく露を防ぎ、汚染拡大を抑制するなどの目的で実際的手順を使用していること。例えば、除去後の石綿断熱板(訳注:AIB, asbestos insulation board)が無傷であること、ネジ穴(覆いを通して見る)が丁寧にネジを抜いたときの状態にあることなどを確認する。
第11.2.2節に示す実地の確認項目(石綿含有物質をできるだけ無傷のまま除去するなど)についても、検討する。
模範的方法を実施できない場合は、必要な措置や推奨事項について明解な指示を与えること。模範的方法を実行できないため作業者などの石綿ばく露が重大になる場合には、作業を中止することが一番安全である。
建物の解体
労働監督官は、以下の事項を確認しなければならない。
- 建物の解体と石綿除去作業をうまく調整するための効果的な体制を整備してあること。
- 解体作業者に対して次の措置を取っていること。
- 事前に石綿に関するリスクを教え、理解させること。
- 事前に石綿含有物質に関する訓練研修を行い、石綿含有物質を見わける方法を教えること。
- 第12章に示した模範的方法で石綿除去作業を行うこと。
- このような問題について、国の規制に準拠していること。
作業者と作業環境
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 高温環境を軽減するために効果的な措置を取っていることの確認。
- 呼吸用保護具の使用が効果なくなるほどの作業環境であるかどうかの確認。
- このような問題について、国の規制に準拠しているかどうかの確認。
廃棄物の処分
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 適切なリスク評価を行っているかどうかの確認。
- 石綿ばく露リスクの防止、軽減となる作業方法を文書にして準備していること。
- 作業者の石綿ばく露をモニタリングした結果を記録しているかどうかを調べること。
- このような問題について、国の規制に準拠しているかどうかの確認。
モニタリングと測定
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 石綿作業の性質、程度、場所、複雑さに適したモニタリングであることを示す根拠があることの調査。
- 有資格の第三者機関または個人により随時、必須テストを行っていることの確認。
- 定期的にパーソナル・モニタリングを実行し、パーソナル・モニタリングの記録を最低40年間保管するよう定めること。
- 作業者の業務と石綿ばく露を示した記録簿を点検すること(例えば、記録簿が真実であり、基準にかなったものであることの確認)。
- 空気モニタリング・テストの結果を精査し、繊維濃度の上昇の報告を受けた時点で直ちに措置を取ったことを確認すること。
その他の関係者
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 石綿へのばく露の防止、軽減のため、関係当事者全員が各自の役割を行うことを示す根拠(下請契約の規定、物資運搬経路の変更手配、点検記録、点検スケジュール、石綿含有物質に関する記録の入手など)があるかどうかの調査。
- 国の法律や規制により必要な免許、証明書を当事者全員が持っていることの確認。
その他の場所(車輛、機械類)にある石綿
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 十分で適切なリスク評価を行っているかどうかの調査。
- 石綿ばく露の防止、軽減のための効果的な方法を指示書に記載していることの確認。
- 文書化した作業方法を行うため、適切な器具(粉塵抑制や身体保護のための器具など)を準備していることの確認。
- 器具の作動状態を良好に維持するため、器具の点検、整備を短い周期で行っていることの確認。
- このような問題について、国の規制に準拠しているかどうかの確認。
医学的監視
労働監督官は、以下の事項を行わなければならない。
- 本ガイドの勧告を実施していること、その実績が、健康影響についての被雇用者の理解、必要なフィットネスの基準についての雇用者や被雇用者の認識、健康記録の完全性・明瞭性などに反映されていることを示す根拠があるかどうかを調べること。
- このような問題について、国の規制に準拠しているかどうかの確認。