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社会保健省の労働安全衛生戦略

資料出所: 「Occupational Safety and Health Strategy
of the Ministry of Social Affairs and Health」
(訳 国際安全衛生センター)

社会保健省労働安全衛生部


はじめに

労働は福利厚生の基礎であり、健康は人々の生活のなかでもっとも大切なもののひとつである。この二つを職場で結びつけるのが労働安全衛生である。職場での健康と安全を促進する労働安全衛生は、第1に、労働者の労働能力の維持と、劣悪な労働条件に存在する安全衛生上のリスクの把握、評価、防止を目的にしている。第2に、既存の問題点を是正策を通じて除去することを目指す。

安全衛生活動の成果は、退職時まで労働能力を維持する労働者数の増加、労働災害と職業性疾病の着実な減少といった形であらわれる。また、労働安全衛生サービスの利用拡大、法定の労働衛生管理(occupational health care)の完全普及にもつながる。間接的な成果としては、生産性の向上、劣悪な労働条件のために生じていたコストの低下などもある。その基礎となるのは、家庭や学校段階からの安全重視という文化の定着である。こうした活動の基本的な姿勢として、フィンランドは欧州の労働安全衛生の先駆者であるとの自覚がある。

各省庁は、それぞれの担当分野で、社会開発の方向を示し、指導している。

社会保健省の労働安全衛生戦略の成否を左右する基本的要因は、少なくとも二つある。第1に、職場が労働安全衛生対策を主体的に実行する能力、技術、意思をもつことが重要なカギとなる。第2に、この活動では当局が職場と直接の接触を保つことが重要である。他の行政機関は、当局間および業界と労働市場組織の連携といった重要な取り組みを通じて戦略の実行を支援する。

この文書は、社会保健省労働安全衛生部が、他の省庁や労働安全衛生監督署と協力して作成した。文案作成のさまざまな段階で、労働安全衛生に関連するもっとも重要な各層の団体が、戦略についての有意義な意見を提出した。

今後数年の社会保健省の労働安全衛生戦略を示すこの文書は、二部構成となっている。第1部では戦略の概要を短くまとめ、第2部では戦略策定の動機と背景情報を示した。

社会保健省は、この戦略に沿って省内と下部行政機関で立案し、対策を進める。安全衛生にかかわる他の団体なども、この文書を活用して活動を立案し、各当事者間の協力を強めることが望ましい。

1998年4月、ヘルシンキにて

常任補佐官(Permanent Secretary) Markku Lehto

概要

社会保健省の行政部門の目的は、国民の労働能力と技能を維持、向上し、早期退職者を少なくすることである。労働安全衛生戦略の第1の目的は、労働条件の改善を通じて、労働者の健康と安全の維持、向上をはかるとともに、労働災害と、職業性疾病など労働に起因する健康障害を減少させることにある。この目的に基づき、職場が主体的に安全衛生問題に対処する能力、技術、意思を強め、労働者の仕事への満足度と労働生産性を増進することを目指している。また、地域の労働安全衛生行政の知識と資源強化も目標とする。この戦略は、労働市場の当事者との緊密な協力のもとに実行される。労働安全衛生行政の全体が、良好な労働環境に向けた欧州規模の環境と活動に沿って遂行される。

社会保健省の労働安全衛生戦略

はじめに

労働条件は、人々と社会全体の福利にとって決定的な重要性をもつ。労働者の安全衛生は健康に働き続けるための不可欠の前提であり、健康で意欲のある労働者は、自分自身と労働コミュニティ、社会のための福祉を創造する。企業などの組織にとって、優秀な労働者はもっとも重要な資源であり、生産活動の根本的前提である。労働に起因する健康障害による国民経済へのコストは、対GNP比でおどろくべき高さに達しており、また間接的な損失も大きい。労働条件の改善、男女を含めた労働者の労働能力と技能向上、とくに高齢者の労働能力の向上は、社会全体の必要に基づく課題である。

戦略的優先課題

「社会保健省が管轄する労働安全衛生行政の第1の目的は、労働者の労働能力と技能を維持、向上し、労働災害と職業性疾病を防止することである。具体的には労働に起因する筋骨格系障害の防止、労働における精神的福利と労働者の業務処理能力、また特に、これらの前提としての業務のコントロールが、労働安全衛生改善の目標になる」

戦略は現代的な労働安全衛生概念と欧州の環境に基づいている

労働安全衛生の内容は、良好な労働環境という概念に基づいており、そこでは最新の研究データ、労働市場にかかわる当事者の考え、さらに欧州レベルの協力が考慮されている。その範囲は安全、衛生、雇用条件、さらに精神的福利と仕事への満足度におよび、職場の安全慣行として具体化する。社会保健省は、とくに労働者の労働能力と技能の向上、労働災害と職業性疾病の防止に重点をおいている。

良好な労働環境の構築のためには、労働環境問題の管理、活力と効率ある組織、制度的な安全管理、能力と意欲のある人材を必要とする。安全への取り組みは、企業や組織の優れた理念としてだけでなく、安全な業務遂行において明らかになる。こうした考えに立ち、社会保健省は、労働安全衛生に関する研究開発、指針と助言、さらに監督と必要な法制化に取り組む。

職場の全体的、制度的、自主的な活動

「良好な労働環境は、なによりも職場の積極的取り組みによって創造される」。

この理念はすべての職場、すべての職種に当てはまり、したがって短期または臨時雇用の継続期間中も例外ではない。労働安全衛生行政は、労働安全衛生活動と職場の他の業務との一体化を支援し、促進する。他の業務でも、個々の労働者の能力、労働条件改善と労働能力向上への取り組みが重要なことに変わりはない。安定した作業と良質な労働および生産条件、すなわち良好な労働環境は、労働安全と仕事への満足感、製品とサービスの質、高い生産性のための基礎をなす。

労働安全衛生行政は、事業者等が労働における安全衛生とそれに関連する協力の義務を果たせるよう、労働安全衛生法が規定する事業者等の対応能力を下支えする。また、行政は職場自体が、あるいは職場の選んだ専門家の手で、そこでの優良安全規範を証明し、またその確認を得る手続きを進めるよう促す。さらに労働安全衛生行政は、労働条件が経済にもたらす影響を測り、労働環境の改善を実現するための財務面の刺激策を策定するものである。

企業の安全カルチャーと安全管理

労働安全行政は、職場の安全対策と安全管理を後押しする。安全管理は予防的な労働安全対策の重要な手段である。企業の安全理念は、総合的な安全訓練、安全姿勢の訓練、安全に関する知識の徹底によっても強められる。

利用者重視

労働安全行政の役割は、社会と労働生活上の必要性に基づいている。地域の労働安全行政のもっとも重要な利用者は、職場の事業者と労働者である。行政の務めは、法定の労働安全衛生規準の順守を確保し、改善することである。そのために事業者と協力し、労働者の権利である適切な安全衛生対策と労働環境を提供する。事業者には、必要な対策を効率的かつ経済的に実施する方法について、指針と助言を与える。また必要な場合は、労働安全衛生と他の安全対策や品質活動とを統合する方法についても情報と助言を提供する。

地域の労働安全衛生行政の改善

労働安全衛生の徹底は、社会に対し重要な役割を果たす。地域の労働安全衛生行政は、法律の最低要件を徹底し、職場の業務システムの改善を指示する。「社会保健省は、労働安全衛生監督署の機能と資源を拡充する」。地域行政機関の職員は、戦略の実行に必要な専門的、総合的能力を深め、広げる。こうした能力は、新職員採用の際の資格要件としても考慮される。

当局は期待される効果を得るよう監督内容を決定する

社会保健省と労働安全衛生監督署は、安全衛生監督の効果に重点をおいて、業務目標を討議し、合意する。監督所は、職場の安全衛生を促進するための監督実務について、他方では雇用関係など法廷要件の順守の監督という基本的任務について、目標を定める。

労働安全衛生監督署が実施する監督措置は、職場のニーズと地域のもっとも重要な安全問題に適合させる。大企業と中小企業、常用雇用と臨時および短期雇用では、ニーズや必要事が異なっていることを考慮する。社会保健省は、研究と調査を通じて監督の効果を点検するとともに、つねに最新の分析、評価方式を採用する。

今後も監督方式の多様化を追求

労働安全衛生行政は、内部統制と安全管理システムに必要な手続き、職場を重視した安全水準分析の手法を提案する。労働安全衛生監督署のもつ他の行政機関とのネットワークという利点が活用される。社会保健省は、今後も労働安全衛生監督署との間での業務および専門分野の区分けを進めていく。

現行の職場の法定システムは一体的に推進

社会保健省は、職場の安全管理と労働衛生管理(occupational health care)の一体的推進を通じ、両者の効果が高まるよう後押しする。

戦略の実行を支える社会保健省の施策

「社会保健省は、ネットワーク化と、合意目標に基づく下部機関の業績目標設定を通じ、労働安全衛生行政を強化する」。ネットワークの基本的参加者は、労働市場の関係者、安全衛生分野の研究・専門機関、保険会社、欧州のネットワーク参加者である。フィンランドは、高度な労働保護水準達成を目指す欧州労働安全衛生法の策定、実施に加わっている。

社会保健省は、必要な場合、同省の指示に基づいて他の行政機関が戦略実行に必要な任務を遂行するための措置もとる。これは製品管理と職場監督の双方に当てはまる。国の行政機関全体の権限を活用し、労働安全衛生に対する職場の認識を高める。

開発活動は戦略に基づいてプロジェクトを支援する

社会保健省は、この戦略に基づき、労働安全衛生に関する研究開発目標、管轄下の専門機関による研究の業績目標を設定する。また他の研究開発分野でも、これらの目標が考慮されるよう努力する。そして研究成果が職場で有効に活用されるようにする。同省が推進した研究開発プロジェクトの効果については、特に注目する。

省内の相乗効果を活用する

社会保健省は、省内の各部の機能を強め、各部の協力と業務分担を徹底して、これによる相乗効果の利点を活用する。

戦略実行の評価

社会保健省は、戦略の実行状況を評価する。フォローアップと評価に際しては、労働安全衛生諮問委員会を活用する。実行状況の評価は、以下の4つの側面から行う。

  • 労働災害と職業性疾病など労働に起因する健康障害に関する数値、これに基づく欠勤と早期退職に関する数値
  • 各種労働条件の実状に関する数値
  • 労働環境と労働コミュニティの活動方式の変化を示すデータ、労働安全衛生行政の役割と業務形態に関するデータ

労働安全衛生行政は、戦略に沿って監視システムを改革している。

戦略の実行期間

社会保健省と労働安全衛生行政は、今後数年で戦略を実行することを前提に、業務を指示し、目標を設定する。同省は業務の重点の大枠を示し、また労働安全衛生行政全体が、労働市場参加者と緊密に協力して、これに対応した措置を講ずる。