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反復的負荷傷害防止のためのエルゴノミクス(人間工学)的な解決策

資料出所:「Newsletter of The Finnish Institute of Occupational Health」2000−2
(訳 国際安全衛生センター)

Ritva Ketola



たいていのリスク要因は、エルゴノミクス(人間工学)的手法を組み入れ、道具、作業方式、職場レイアウトを適切に設計することで軽減できる。各労働者の負担の度合いは,エルゴノミクス的要因だけでなく、作業方式(一人当たりの作業量、作業速度と勤務割り、休憩時間の長さと回数、職務ローテーションの活用など)によっても変化する。大規模な構造的変革から、作業量の見直しや休憩時間の再調整にいたるまで、あらゆる面から業務のあり方を再設計することで、安全で健康的な作業が実現できる。ただし、どのような変革が必要な場合でも、労働者、経営者、職場の安全責任者、労働安全担当官、人事部の協力のもとで計画を立てるべきである。

2〜3時間のエルゴノミクス的指示で、労働者は作業方式の問題点を認識、修正し、上肢への静的過重を軽減できるようになる。不慣れな作業による不快感は、作業に順応させることで減らすことができる。新規採用の労働者や休日明けの労働者には、短時間の反復作業を割り当て、段階的に増やしていくことで、徐々に順応させることができる。以下は、職場、道具、全体的な作業管理を、エルゴノミクス的に改善するための実用的なヒントである。


エルゴノミクス的な職場のデザイン

作業の流れを改善し、快適さに欠ける動作と姿勢を減らすためのヒント

  • 快適に作業でき、かつ資材を移動し、備品を一時的に貯蔵できる十分な空間を確保する。労働者が左利きの場合、職場と作業をそれに適合させるか、または労働者の必要に合わせて調整できるようにする(組み立てライン作業、使用するマウスなど)。

不必要な移動を排除し、負担の少ない容易な作業にするためのヒント

  • 組み立てるべき部品、コンポーネントの数を最小限にする。取り扱う備品と資材の種類を抑える(標準化したスクリューなどを使用する)。これにより備品在庫を縮小し、道具の数を減らすことができる。

  • 製品の頻繁な回転、移動、持ち上げを避ける(スーパーのレジなど)。

  • 光学式読取装置が適切に機能するようにする(図書館での本の貸し出しなど)。

  • 手でつかみやすい製品にする。手を負傷させるおそれのある滑りやすい表面、鋭利な先端や突起部を少なくする。

  • 生産における障害に対処する手続きは単純にする。労働者が廃棄物や不良品を処分するときに、労力を強いられたり、負傷のリスクにさらされないよう、適切な場所に廃棄物処分庫を置く。


作業のための適切な道具

労働者は、自分が快適に使用できる道具を選択できなければならない。また、適切な安全手続きの範囲内で、個人の好みに応じて道具を調整できるようにすべきである。わずかな構造的修正を施すだけでも、緊張と疲労は大幅に軽減する。

エルゴノミクス的に適切な道具とは、以下の基準を満たすものである。

  • 道具は軽量であるべきである。ただし、重い方が作業が容易か、または効率的な場合を除く。

  • 道具は、操作が軽快かつ容易で、過度の力を要しないものでなければならない。また、先端や突起部が手に圧迫の跡を残さないものでなければならない。

  • 設計は過度に細い構造であってはならない。ただし、道具を常に使用する特別な箇所に手を支える物が必要な場合を除く。

  • ハンドルは、握ったときに腕を伸ばす必要がない位置に固定し、手首は真っ直ぐに保たれ、力を入れて動かす場合にハンドルの指示方向と平行になるようにすべきである。

  • 道具の材質は作業仕様に準拠し、温度や気象条件に適合したものでなければならない。道具は、汚濁、高湿度、低温の条件下でも、また手の負傷のリスクのある作業において、保護手袋を着用して使用できるものでなければならい。

  • 道具は容易に移動できるものでなければならない。電気コード、ホース、ハンドル、リール、ブラケットなどは、職場に合わせて設計すべきで、視覚を妨げ、または緊張し、体を捻じ曲げた作業姿勢を強いるようなものであってはならない。

  • 圧縮空気、スプレー、散布物は、手首など露出した皮膚に向けて放出しないようにすべきである。


マウス、キーボードに関するヒント

  • 右利きの場合、マウスを左手で使用する練習をする(またはその逆)のはよい方法である。マウスパッドのための十分な空間を、キーボードのどちらかの側に確保すること。使用するマウスは、過度に解剖学的見地から考えられた特殊な形態のものは避けるべきである。マウスパッドは、マウスが軽快に動く滑らかなものにすべきだが、トラックボールが空回りするほど滑りやすくてもいけない。カーソルのスピードと倍率は必要に合わせて調整できる。精密な作業が必要な場合は、カーソルのスピードを落とし、手と手首の緊張を軽減する。常にマウスを使用するのでなく、キーボードによるショートカットキーの活用法もマスターすべきである。

  • 同じ仕様のものでも、キーボードによって使用感は異なる。キーの圧力を好みによって調整できるものにすべきである。キーボードのデザインは各種のものがあり、例えばテンキーが別になったタイプは、マウスをスクリーンの中心に近い場所におけるため、手を脇に伸ばす必要がない。


作業姿勢

作業姿勢は、通常は職場のレイアウト、作業の性格によって決まる。作業姿勢によって、上肢に加わる緊張の度合いが左右される。正しい作業姿勢をとると、首と肩をリラックスさせ、腕を楽な位置において作業ができる。

エルゴノミクス的な機能デザイン、上肢への緊張を最小化する正しい作業姿勢の基本原則は、次のとおりである。

  • バランスのとれた基本姿勢を維持し、必要な場合は十分な支えを確保する。

  • 自分の位置が容易に変えられ、職場を移動できなければならない。

  • 多大な労力を要する作業は立って行い、視力の集中や敏捷な手作業が必要な場合は座って行うべきである。

  • 備品、作業対象物の位置は容易に調整できなければならない。


エルゴノミクス的指導と職務ローテーション

不自然な姿勢、不快で労力を要する動作を強いられる原因は、職場のレイアウトや装置だけではない。習慣的なものが原因となっている場合もある。新規入社するすべての労働者に、姿勢と動作を調整して上肢に過度の緊張を与えないよう指導、奨励すべきである。

反復的な組み立てラインの作業には職務ローテーションの導入を慣例化すべきである。こうすることで、労働者は幅広い作業技術と、業務に対する総合的な視点を習得できる。業務の性格上、継続的な操業のために重労働が必要な場合、適切な間隔をおいて休憩時間を確保し、腕と肩を休ませるべきである。


出典

Launis M, Lehtela J. Tyopaikan ergonominen suunnittelu. In Hyva trokyky, Tyokyvyn yllapidon malleja ja keinoja. Niffish Institute of Occupational Health, Ilmarinen Pension Insurance Company Ltd. Helsinki 1995.

Ketola R, Viikari-Juntara E, Koshinen K, Malmivaara A, Huuskonen MS. Rasitusvammaopas, Ylaraajan rasitussairaudet ja ylaraajoihin kohdistuvan kuormituksen arviointi. Finnish Institute of Occupational Health, Ministry of Social Affairs and Health. Helsinki 1996.