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さまざまな仕事の職業関連疾病のリスク

資料出所:「Newsletter of The Finnish Institute of Occupational Health」1999−3
(訳 国際安全衛生センター)

Antti Karjalainen



職業性の健康障害には、さまざまな呼び名をもったものがあるが、フィンランドで公式に職業性疾病と定義されているのは、その一部にすぎない。すなわち業務上、特定の物理的、化学的、または生物学的危険要因に暴露し、かつ職業性疾病への補償の法的基準に合致したものである。「労働に起因する」または「労働に関連した」疾病の定義は、もっと幅広い。この場合、業務上の危険要因がかならずしも疾病の主たる原因ではないが、多数の複合要因のひとつであるか、または他の原因による疾病を悪化させる可能性があるといったものを指す。さらに、労働に関連した社会的な、またはライフスタイル上の要因で悪化した疾病まで含めることもできる。


フィンランドでは、全国的統計を利用して、労働に関連した疾病リスクの職業別の差異について調査が行われた。同国の科学者は、統計を基礎に、職業性疾病、労働災害、労働に起因する身体障害、作業関連の死亡に関し、職業別の発生率を比較した。しかし、これらの統計では、公式に職業性疾病と定義されず、また労働障害退職または死亡に至らない職業関連疾病の有病率は調査できない。各種の筋骨格障害、精神衛生上の諸問題などがこの範疇に入る。だが、これらの疾病の発症には作業関連の要因が大きな役割を果たしている可能性が高く、疾病によって労働者は間違いなく大きなハンディを負う。ところが統計的証拠だけでは、作業関連の要因が果たす明確な役割を明らかにすることは難しい。

職種別の職業性疾病リスク

■ フィンランド労働衛生研究所は、労働年齢の農業者と給与所得者の1986年から1991年の職業性疾病発生率を調査した。各職業グループを、労働年齢人口全体と比較した。

複数の職業性疾病に対して、平均より高い発生率を示す職業が多数あった(表1参照)。建設労働者、金属労働者、食品取り扱い業者、農業者は、作業関連性筋骨格系障害、アレルギー性呼吸器疾患、アレルギー性および刺激性皮膚疾患で高い発生率を示している。また、これらのグループの多数の人々が、何十年か前の反復暴露に起因する健康障害も負っている。騒音による聴力損失、アスベストによる疾患、珪肺などである。しかし今日の労働条件は以前に比べて一般に安全になり、1980年代から90年代に明らかになった多数の後発性疾患の発生原因に対する暴露は少なくなった。

表1.8種類の職業性疾病のうち、4種類以上で統計的に有意な高いリスクをもつ職種。1986年−1991年に報告されたケースに基づく(信頼限界95%)
職種 年齢調整後比較リスク

職業性疾病(総件数) 聴力喪失 反復的負荷傷害 呼吸器アレルギー アスベスト疾患 珪肺 アレルギー性皮膚炎 刺激性皮膚炎 感染症
7種の疾病に高リスク                  
塗装工、ラッカー塗装工 732 × × × × × × ×  
6種の疾病に高リスク                  
他の建設労働者 1681 × ×   × × × ×  
溶融、冶金、鋳物業 495 × ×   × × × ×  
5種の疾病に高リスク                  
鉄および金属製品製作 5379 × ×   × ×   × ×
農業、園芸、畜産業 4820 × ×     × × ×  
食品、飲料製造業 1303 × × ×     × ×  
他の製造業 987 × ×     × × ×  
梱包、包装業 778 × × ×     × ×  
映像製作 472 × × ×     × ×  
4種の疾病に高リスク                  
木材業 2732 × ×   ×   ×    
裁断、縫製、布張作業 931 × ×     × ×    
繊維業 315 × × ×     ×    
ガラス、陶磁器業 152 × ×   × ×      


ベーカリー労働者と農業従事者に多発する呼吸器アレルギー

■ フィンランドでは、職業性の喘息、職業性の鼻炎、アレルギー性肺胞炎は職業性疾病と認められている。これらは、毎年1,000件の新規発症が報告されている。表2には、ハイリスクの業種の職業性呼吸器アレルギーの比較リスクが示されている。

ベーカリー部門の全労働者に対する職業性喘息の発生率は、他の労働者の平均より20倍も高い。ベーカリー労働者の職業性喘息の最大の原因は小麦粉の粉じんである。農業従事者、それにアレルギー性化学物質への暴露をともなういくつかの職業でも、職業性喘息の発生率が平均の3〜5倍である。農業従事者の職業性喘息の最大原因は雌ウシ上皮(cowepithelium)である。ハイリスクの職業の場合、職業性鼻炎の原因は職業性喘息と同じである。農業従事者は、アレルギー性肺胞炎のリスクがもっとも高い。調査対象期間中、きわめてまれなケースとして、湿気による建物の損傷の補修にともなう作業関連の呼吸器アレルギーが、フィンランド職業性疾病登録署(Finnish Register of Occupational Diseases)に報告されている。


多数の職種に共通する皮膚病

■ 毎年、1,000件の職業性皮膚病の新症例が報告されている。原因は刺激性およびアレルギー性物質である。少数だが皮膚の感染症もある。特定の職業では、職業性皮膚病の発生率が労働年齢人口の平均より4〜6倍も高い(表2参照)。

ハイリスクの職種のほとんどで、職業性皮膚病の発生率を高める原因となっているのは、刺激性とアレルギー性の両物質であるが、歯科医の場合、報告されている皮膚病の過半の原因をアレルギー性接触皮膚炎が占めている。アレルギー性接触皮膚炎の最大の原因は、作業中に使用するプラスチック、金属、それらの化合物(クロム化合物、ニッケル)、ゴム製保護手袋、その他のゴム製品中の化学物質であり、またホルムアルデヒド、その他の感作性の抗菌物質への暴露である。接触性皮膚炎を起こす主たる刺激性物質は、有機溶剤、洗剤、オイル、切削油、食品、およびプラスチック中の化学物質である。

表2.職業性喘息、職業性皮膚病、作業関連の腱鞘炎のリスクがもっとも高い10の職種(1986年−91年)
(比較リスク=全労働人口に対する年齢調整後疾病発生率)
職業性喘息 職業性皮膚病 腱鞘炎
  リスク
因数
  リスク
因数
  リスク
因数
ベーカリー労働者、
ケーキ職人
17 皮革作業 5.5 食肉処理、
ソーセージ製造など
18
農業、園芸、畜産業 5.7 合板、
ファイバーボード作業
5.4 缶詰製造作業 17
プラスチック製品作業 4.8 コンクリート製品作業 4.9 加工食品作業 15
塗装工、
ラッカー塗装工
4.6 入浴介助者 4.8 その他の製靴作業 6.7
石油精油作業など 4.4 セメント、
コンクリート作業
4.5 チョコレート、
菓子製造作業
6.7
ヘアードレッサー 3.9 食肉処理、
ソーセージ製造など
4.0 電線、
パイプ敷設作業
5.9
食肉処理、
ソーセージ製造など
3.5 歯科医 3.6 木材表面仕上げ 5.8
合板、
ファイバーボード作業
3.0 歯科看護師 3.6 裁縫師 5.7
溶接、ガス切断工 2.9 ゴム作業 3.6 靴裁断 5.7
梱包、包装作業 2.8 プラスチック製品作業 3.5 靴伸張、底張り 5.7


食品加工業での反復負荷傷害(RSI)

■ 反復的負荷傷害は、1990年代を通じて報告件数が減少しているが、それでも作業関連の疾病のなかではもっとも多い。1996年には約1,600件のRSIの新規症例が報告されている。その過半数は、作業中の反復動作を原因とする腱鞘炎または上顆炎である。特定の食品取り扱い業種でのRSI発生率は、平均より20倍も高い。これらの職種では、反復動作に加え、低温、手首と腕の不自然な姿勢といったリスク要因のあることが多い。

他にも、報告された腱鞘炎の発生率が平均より4〜7倍高い工場労働のタイプが多数ある。外上顆炎のリスクの高い職種は、腱鞘炎の場合とほぼ一致している(表2参照)。

労災補償の制度上、フィンランドで職業性疾病として報告された疲労障害の総数は、実際の発生率を正確に反映していない可能性がある。事務労働者、現金出納係、コンピューター労働者、清掃労働者、裁縫師は、通常、労災補償の対象にならないからである。その結果、これらの雇用セクターの疲労障害で、保険会社またはフィンランド職業性疾病登録署に報告されている件数は、実際よりはるかに少ないと思われる。


騒音に起因する聴力損失とアスベスト疾患

■ 騒音に起因する聴力喪失と、アスベストに起因する疾病も、職業性疾病の大きな部分を占める。しかし、最初の暴露から発症までの期間が前述の他の疾病より長く、数十年かかるのが普通である。したがって1980年代と90年代に報告された症例は、何十年も前の労働条件の反映である。とくにアスベストに起因する疾病の場合、退職後に発症するのが一般的であるため、労働年齢人口に絞った現在の調査では把握できないケースが多い。

報告された騒音に起因する聴力喪失の発生率が、平均よりかなり高いのは、重工業と軍隊である。アスベストに起因する疾病の発生率が平均より高いのは、断熱材を扱う労働者だが、建設、造船の労働者も高い。


統計は実情の一部しか表さない

■ 職業性疾病の発生率は、いまも職種によって大きく異なる。しかし職業性疾病に関する統計からは、作業関連のリスク要因と有病率との関連性を、ごく部分的にしか把握できない。災害発生件数にも差がある。工場労働者の災害発生率は、事務労働者より20倍以上も高い。また死亡率の傾向、労働障害統計でも職業別に顕著な差がある。こうした差は、ある面ではライフスタイルの要因によるものだが、作業関連の危険要因が影響していることは間違いない。

各種調査の結果によると、回答者が寄せた作業関連の健康問題のほとんどは、上述の統計の対象となっておらず、職業別の有病率を比較できないものばかりである。最近の欧州連合の労働条件に関する調査(1996年)によると、回答者が寄せた作業関連の健康問題でもっとも多いのは、腰痛(30%)、ストレス(28%)、全身疲労(20%)、筋肉痛(17%)、頭痛(13%)である。これらの症状すべてに作業関連の要因が作用しているのは間違いなく、その有病率は職業別、雇用形態別に異なる傾向にある。こうした作業関連の健康問題の防止と監視は、労働衛生当局にとって新たな課題となっている。同時に、職業別の職業関連疾病の発生率に差がある事実は、従来からあった業務上のリスクの排除が、いまも十分な効果をあげていないことを示している。


参考文献

Antti-Poika M (ed.). Työperäiset asiraudet. Finnish Institute of Occupational Health. Helsinki 1993.

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