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1990年代の労働生活の変化にともなう健康状態の傾向

資料出所:「Newsletter of the Finnish Institute of Occupational Health」1999-3
(訳 国際安全衛生センター)

Mika Kivimaki
Jussi Vahtera


昔から人々の福利は、とくに年齢、職業、ライフスタイル、個性を抜きには語れなかった。1990年から96年にかけて自治体労働者をモニターした調査で、労働での変化から将来の健康に関する傾向を予測できることがわかった。つまり、労働のあり方の変化は健康に反映するのである。そこで、健康面での格差を減らすためには、労働生活に影響を及ぼす要因を解明することがもっとも重要な課題になる。

この自治体調査によると、病気による短期間の欠勤件数は、1990年に比べて約14%減少している。他方、医師の診断書が必要な長期間の病休件数は、病気の種類によって異なるが16%から31%、増加している。

専門家は、健康状態をはかる確かな指標として長期間の病休に注目する。一方、短期間の欠勤も、労働モラル、職場の精神風土を反映すると考えている。調査の結果、労働者の全体的疾病率は、1990年代中ごろから上昇したと考えられる。欠勤の増加は、企業にとっての大きなコスト要因だが、同時に労働者の福利が一般的に低下している兆候でもある。

1990年代、労働集約型の産業では、代替要員の削減、一定期間の労働契約の拡大、自然利用などを通じた人件費削減が進行した。

他方で企業部門やその一部の統合、消滅、縮小などの構造改革を通じた効率化の動きも広がった。その結果、激化する競争、国際化、コンピューター技術の活用により、労働者の負担が重くなった。

こうした変化のなかで、労働者の疾病率が一番高まったのは、もともと健康状態の良くなかった労働者である。自治体の調査で、このグループの健康悪化リスクは、他の労働者より2倍も高いことが明らかになった。


年齢はリスク

年齢は、きわめて大きなリスク要因であることが証明されている。若年者の欠勤数は、一般に高齢者より多いが、今回の調査によると、労働生活の変化にともなって病休件数が増加しているのは、ほとんど高齢者だった。若年者の病休の大半は短期間のものである。しかし長期間の病休の増加率は、高齢者のほうが高い。

年齢にともなうリスクは、部門別の調査からもわかる。人員削減は労働者の健康に負担を課すが、平均年齢の高い職場ではとくにその傾向が強い。20%の人員削減の結果、一人当たりの病休が増加するリスクは、50歳以上の比率が半数に達する部門の方が、同じく4分の1の部門より、3倍も高い。

部門別の年齢分布に付随する健康障害のリスクは、人材の再配置、組織的な支援対象の選定にあたって、また部門別の予防対策や能力強化策の選定にあたって、十分に考慮されてこなかった。この面で、同じ社内序列にありながら、年齢の差による不公平が生じていた。


ライフスタイルと個性が健康に影響を与える

健康を維持するうえで、ライフスタイルと個性は重要な要素になる。自治体調査によると、太りすぎの労働者は他の労働者より疾病にかかるリスクが40%〜60%高い。

1990年に実施した、いらいらしやすい傾向、短気、個人の生活環境への否定的態度に焦点をあてた性格調査からも、その後の健康状態を予測できる。このタイプの個人は、他の人たちに比べて、健康が悪化しているケースが明らかに多い。

離婚、深刻な病気、愛する人との死別といった個人的な不幸が、健康に悪影響を与えている。


労働と健康

年齢、基本的健康状態、ライフスタイル、個人的な不幸、さらには個性による影響があったとしても、労働が健康と疾病率に与える影響の強さは否定できない。これはきわめて当然のことである。成人の大多数は、起きている時間の大半を労働に費やしているからである。

ある調査によると、現在、3分の2の労働者が週40時間以上働いており、4分の1の労働者は週40時間労働の契約にもかかわらず週50時間以上働いている。

自治体調査では、健康に変化を生じさせる中心的要因は、当該労働者の職場または職種グループで実施される人員削減の規模だった。ごく小規模の人員削減が実施された部門と比較して、臨時採用による支援の中止、またはその他の人件費削減が行われた職場では、女性の疾病リスクが60%高まった。削減規模が大きくなるほど、2〜3年おいて発生する休業の件数も増加する。男性にみられる健康状態の変化の程度は、女性よりわずかに小さい。

したがって人件費の削減は、組織にとって絶対的なコスト節約策とはかぎらない。調査対象の自治体でのコスト削減効果は、数年後に休業件数が8〜13%高まったため、部分的に相殺された。

人件費削減によって健康へのリスクが高まることは、仕事量が増加し、プレッシャーや緊張などのために労働者が仕事をコントロールできなくなることと関係している。全国的な調査によると、1990年から、将来や職場での対立と競争に対する不安感が強まっている。ただ、1995年にはそれらが改善した業種もみられた。


仕事に対する取り組み方は重要

労働衛生をめぐる傾向に影響を及ぼしているのは、人員削減だけではない。労働の進め方も重要な要素である。自治体調査によると、1990年に、自分が仕事をコントロールできていると感じた労働者は、あまりコントロールできないと応えた労働者より、90年代中ごろを通じて良い健康状態を保つことができた。

先述した健康、年齢、職場の年齢分布、ライフスタイル、個性、専門的地位といった要因の大きさが統計で証明されたとしても、労働者の影響力と仕事に対するコントロールの度合いもまた、健康状態の変化を予測する重要な指標であることに変わりない。

外国で実施された疫学的調査で、仕事に対するコントロールができない状態で過重な労働負担が課せられると、労働者は心臓血管障害にかかりやすくなるとのデータがでている。このように、労働の進め方は、労働者の健康維持、全員の公平な健康促進に向けた取り組みのなかで、重要な位置を占めると思われる。


健康状態の格差を埋める

自治体調査の結果から判断すると、健康状態をめぐる傾向にはさまざまな要素がからんでいるようである。しかし、これらをすべて変えることは難しい。個人的な不幸はどうしようもなく、個性や年齢もしかりである。

他方で、ライフスタイルや労働に関連する要素は改善できる場合が多い。健康なライフスタイルに変えようと決めるのは本人である。労働生活を変えるには、一般に協力が重要になる。

労働が健康に影響することを、もっと説明していくべきである。そうすれば、修正できる可能性のある問題に資源を集中させることができる。職場での管理や、リスク・グループの把握と支援策の投入に際して、既存の研究成果を活用する余地はまだまだ多い。また、職場の改善のために現在とられている対策の実際的効果や、新しいアプローチについての、より全面的な研究も必要である。

健康状態における格差をへらすには、労働生活を豊かにすることが中心課題になる。


参考文献

Kivimäki M. Stress and personality factors. Työ ja ihminen - tutkimusra-portteja 9. Työterveyslaitos (Finnish Institute of Occupational Health), Helsinki, 1996.

Kivimäki M. Vahtera J, Tomson L, Griffiths A, Cox T, Pentti J, Psychosocial factors predicting employees sickness absense during economic decline. Journal of Applied Psychology 1997: 82; 852-872

Vahtera J, Pentti J. Voimavarat, terveys ja työelämän murros. Työ ja ihminen - tutkimusraportteja, Työterve-yslaitos (Finnish Institute of Occupational Health), Helsinki, 1995.