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喜色満面ともいかない歯科業務


エリヤ・カルッカイネン

資料出所:フィンランド労働衛生研究所(FIOH)発行
Work Health Safety 2002」 p.16-17
(訳 国際安全衛生センター)


アクリル化合物に対するアレルギーから新しい職業を探さざるを得ない歯科従事者は数多い。歯科用アクリル樹脂は、患者にとっては安全だが、歯科医や歯科助手にとっては、皮膚炎のよくある原因となっている。

過去10年間にフィンランド人歯科従事者の職業性疾病の数は3倍近く増加した。1975年から1998年にかけて、フィンランド職業性疾病登録簿に記録された歯科関連の皮膚病は合計630件に上った。フィンランドでは、7000人の歯科助手と5000人の歯科医が現役として働いている。

アレルギー障害が増加した主な原因には、プラスチック製の歯科充填材料の使用および天然ゴムラテックスを含んだ保護手袋の使用が挙げられる。プラスチック製歯科充填物に含まれるアクリル化合物がアレルギー性皮膚反応を起こす主因となっている。1998年だけでも、歯科用アクリル樹脂に過敏になったフィンランド人歯科従事者の数は58人に上った。

アクリルアレルギーが発症した歯科従事者の大半は、新しい職業を見つけざるを得ない。歯科業務において、プラスチックは歯冠、ブリッジ、歯科矯正器具、義歯など多岐にわって使用されているため、避けることは不可能である。

フィンランド労働衛生研究所の皮膚科医であるクリスティーナ・アランコ(Kristiina Alanko)医師は、「歯科業は、アレルギー性皮膚炎に罹る危険率の最も高い職業の一つです。作業関連の呼吸器疾患の罹患率も90年代に明らかに増加しています。」と語る。

最近実施されたフィンランド労働環境基金の出資によるFIOH研究では、自己報告による歯科従事者間の皮膚および呼吸器障害の症状を取り上げた。

「電話でインタビューを受けた歯科助手のうち、手の皮膚炎が着実に悪化していることを報告した人の割合は41%に上りました。歯科従事者の間で最も多い職業性皮膚病は、遅発型のアレルギー性接触皮膚炎であり、頻繁に手を洗うことが、刺激性の接触皮膚炎の一般的な原因です」とアランコ医師は言う。

皮膚炎と比べると、歯科従事者間の呼吸器系の症状は少なかった。FIOHの調査によると、回答者の34%が鼻炎を、31%が目の炎症を患っていた。これに加えて、喘息と再発性の喉頭炎または咽頭炎を患っていることを訴えた回答者も一定割合いた。

水銀に対する恐怖

プラスチック製充填物は、世界のどの地域よりも北欧諸国において人気が高い。フィンランドでは、1980年代後半に、アマルガムに代わる充填材料としてプラスチックが最もよく利用されるようになった。現在フィンランドで、歯科充填材としてアマルガムが使用される割合は10%に満たない。

プラスチック製歯科充填材の人気には二つの理由がある。第一に、美容上、前歯には金属合金よりも白いプラスチックのほうが好まれる。第二に、水銀中毒に対する懸念が広く行き渡るに伴い、奥歯にもプラスチックが使用されるようになったことがある。

アマルガムは、水銀と、銀など他の金属との合金である。患者によっては、水銀が口内でアレルギー反応を起こすことがあり、そのような場合にはアマルガム充填はプラスチックに置き換える必要がある。

剥がれ落ちる指の皮

アマルガムは、1870年代から歯科治療に使用されてきたが、歯科従事者の中でアマルガム関連の接触皮膚炎はごく稀である。

「ほとんどの歯科従事者にとって、歯科でアクリル樹脂に対するアレルギーが急増したことは、全くの驚きでした。新しい歯科治療法が開発される場合、そのうちのどれがアレルギー反応を起こす可能性があるかを予測することは不可能です」とアランコ医師は言う。

アクリル樹脂に誘発されるアレルギー性接触皮膚炎の初期症状は、親指、人差し指、中指がかゆくなり、皮膚の薄片が剥がれ落ちる。時には、指先に刺すような痛みとしびれが伴うこともある。

症状が悪化するにつれて、皮膚が剥がれはじめ、やがて完全な湿疹へと発展する。この段階で暴露を止めることによって、それ以上の悪化から防ぐことができる。

「手にアレルギー症状が認められる歯科従事者は、適切な保護を行ない、最も安全な製品を利用してください。大事なことは、素手でプラスチック充填材に決して触れないことです。また、アクリル樹脂は非常に簡単に保護手袋に浸透するため、手袋のしみに気づいたらすぐに新しい手袋に変えることが大切です」。

歯科医と歯科助手が、プラスチックアレルギーを起こすリスクは同等である。歯科医は、患者の口内の充填物に繰り返し接触することを通じて、歯科助手は、アクリル樹脂を含む材料を取扱うことを通じて、アレルギーが発症する可能性がある。

プラスチック充填材が患者に及ぼす健康リスクはごく僅かであり、いったん固まるとその後に有害物質が放出されることはない。

プラスチックは完璧でない

重度の治癒の遅い接触皮膚炎の場合、一時的に働くことが不可能にもなりかねない。

「プラスチックアレルギーが理由で職場を変更せざるを得なくなった歯科従事者は大勢います。また慢性的な手の発疹は、頻繁に手を洗うことを要するどの仕事においても、大変不都合です」アランコ医師は語る。

しかし悪いニュースばかりでない。「いったん問題を完全に理解すれば、より安全な製品を開発し、自らを保護するためのより有効なガイドラインを用意することができます」と付け加えた。

健康上の問題を除いても、プラスチック製充填物は完璧からはほど遠い。プラスチックは、磨耗に対する耐性が低く、固まるにつれて縮むほか、プラスチック製充填物の端に近い腔を修復するのは難しい。現在、セラミックファイバー、グラスイオノマー(glass ionomers)、各種の代替のプラスチック化合物など、新しい白色の歯科充填材料が開発、試験段階にある。

ゴム手袋で息がつまる

歯科従事者がアレルギーと職業性皮膚病を発症するもう一つのよく知られた原因が、保護手袋である。

「一般的な刺激源、アレルゲンや、HIVや肝炎などの感染症から歯科従事者を保護するには、保護手袋の使用は欠かせません」とアランコ医師は語る。

ゴム手袋に対するアレルギー反応は、遅発型と即時型という二つの形で起こる。ゴムに含まれる化学物質に対する遅発型反応は、アレルギー性接触湿疹を起こし、天然ゴムラテックスに対する即時型アレルギー反応は、突然の発疹や、接触じんま疹を引き起こす。

「即時型反応には、呼吸器系の症状を伴うこともあります。鼻炎や喘息を起こしたり、極端な場合には、致命的なアナフィラキシーショックを起こす可能性もあります。天然ゴムラテックスへの暴露は、塩ビ(PVC)製の手袋に変えることによって回避できます」。