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フィンランド労働衛生研究所
(Finnish Institute of Occupational Health, FIOH)

1999年度報告書

資料出所:Finish Institute of Occupational Healthのwebsite
(訳 国際安全衛生センター)


活動分野

ミレニアム最後の年は、フィンランドにとって歴史的な1年になった。はじめて、そして今後しばらくはないと思われるが、欧州理事会の議長国になったのである。フィンランドは十分態勢を整えて臨み、立派に責務を果たした。同時に、欧州理事会の活動に関して多大な経験を積み、多くの分野で他の加盟国との関係を築くことができた。フィンランド労働衛生研究所(FIOH)は、その専門分野において、これらの活動に積極的に参加した。

1999年、フィンランド経済は急速な成長を回復した。国内総生産は6.6%の伸びを達成し、鉱工業生産は16%増加した。国民所得は3.5%増加し、被雇用者数も運輸を除く主な産業のすべてで増加した。被雇用者数の伸びはホテル・飲食業、工業、建設、その他サービス部門で顕著であった。『Statistics Finland』によると、失業率は10.2%に低下し、失業者数は24,000人減少した。被雇用者数の伸びは、その2倍の5万人に達した。暫定データによると、労働災害件数は前年比で約2,200件(1.6%)減少した。職業性疾病と労働災害による死亡者数の合計は171人で、前年より8人減少した。このうち職場の災害によるものが33人、職業性疾病(主にアスベスト関連のガン)関連が107人、輸送による業務関連の死亡が10人、通勤途上での死亡が21人であった。

職業性疾病の総発生件数は、前年比で4%減少した。減少したのは、騒音による障害、重度のアスベスト障害、アレルギー性呼吸器障害などである。「発ガン性物質に業務上暴露した労働者の登録簿」(ASA登録簿)で対象となった職場のうち、31%が登録によって危険な暴露とガンのリスクが減少したと考えている。

急激に変化する労働生活と多数の産業での生産拡大、さらに激化する競争と国際化、新しい技術と生産方式により、労働者全体、とくに高齢労働者の労働能力が試練にさらされている。1999年4月、新内閣は、その政策に労働生活、労働条件、労働衛生、労働能力と業務対応力の向上を目指すいくつかの目標を加えた。社会保健省は、これらの目標を以下の7つの活動にまとめた。

  1. 行動を促す社会政策の導入と社会進歩をもたらす経済の確立。
  2. 労働能力向上と労働期間延長の促進。
  3. 社会的疎外の防止。
  4. 健康的な生活習慣、居住機能、良好な住環境の促進。
  5. サービスの利便性確保と健康管理業務の改善。
  6. 平等の促進。
  7. 社会的部門の運営と管理の改善。

これらの活動のなかで、FIOHに関連するのは第2項から第5項までである。また社会保健省も5年間の活動プログラムを策定し、そのなかでFIOHが担当すべきいくつかの研究開発業務を定めた。FIOHは、社会保健省の社会・衛生部門諮問委員会(TUKE)の2つのプログラムの調整にもかかわった。一つは「社会および衛生サービスの職員の労働環境、労働能力および福利」で、もう一つは「労働能力と技能の維持」である。以前からFIOHは、医療関係者の高齢化、その労働能力の向上、疲労の防止、労働条件の改善に関する行動プログラムにも取り組んでいた。政府のプログラムには、情報社会の発展に関する目標も含まれている。FIOHには「Brain@Work Laboratory」があり、高度情報業務の条件最適化に関する研究を行っていたため、「高度情報業務」に関する国家プログラムの一つを準備する任務が与えられた。幅広い国家的プログラムを具体化するものとして、FIOHは特別行動プログラム「情報社会の労働における人間的側面」を決定した。2000年はじめには実行に移す予定である。

『Statistics Finland』によると、フィンランドの研究活動への投資額は220億マルカ、GNPの3.12%である。対GNP比でみると、フィンランドはスウェーデン、日本、韓国と並んでトップ4にはいる。研究投資の内訳は、67%が民間企業、19%が大学、13%が公的部門である。ただし労働安全衛生研究のための公的支出は、公共投資全体の減少に伴なって減っている。大学の研究資金はこのところ増加しているが、大幅に増えたのは民間企業である(1999年で15%の伸び)。EUからの労働安全衛生への研究支出は増えているが、国の支出減を補うほどではない。全体の動向から、今後の研究では市場から調達する外部資金への依存度が強まると予測できる。

最近の風潮をふまえれば、労働生活や、ストレスが強まる労働者の健康、安全、労働能力向上のための投資と、高度な生産設備への投資を同水準にする必要があるのかという疑問がわくかもしれない。しかし前者を後回しにすると、生産活動における人間的要素が阻害され、その結果、技術利用自体に支障をきたすおそれがある。

労働衛生と労働能力の向上

FIOH内では、資金の投入比でみると労働衛生の向上がもっとも重要な活動分野である。FIOHの資金の約50%が、この分野に投じられている。もっとも重視しているのは、労働衛生サービスの改善、労働能力の向上、そして研究、研修、評価、職業性疾病の診断と労働能力評価業務などである。研究対象としても労働衛生の分野がもっとも大きく、全研究資金の約49%を投入している。

社会保健省の要請により、また1997年の労働市場組織間の労働協約に基づき、FIOHは、国内の労働現場での「労働能力の維持」(MWA)を促進する活動を調査した。「労働能力バロメーター」によると、国内の賃金所得者の80%以上が、なんらかの形でMWAの実施企業に勤務しており、MWAを組織している企業の85%の事業者と労働者が、健康と労働能力の両面で、また企業の生産性の面で、この活動は有意義であると考えている。

労働衛生サービスの充実に向けた取り組みの一環として、その機能と内容に関する研究を継続した。1997年の労働衛生サービスに関する調査結果は、『フィンランドにおける労働衛生サービス(Occupational Health Services in Finland)』にまとめられた。この報告書によると、労働衛生サービスの普及状況は、1995年からほとんど変化していない。もっとも大きく変化したのはその内容、つまり労働衛生サービスの実務的改善と労働能力の促進である。この他、自治体労働者の労働衛生、労働条件、生活習慣、医者の労働能力、加齢、労働条件、労働量、小企業での労働衛生サービス、身体障害者の労働能力、労働条件、専門能力についても調査を実施した。

労働関連および職業性疾病についての研究では、上肢の筋骨格障害、とくに手根管症候群と業務との因果関係、腰椎の椎間板悪化に関連付けられるリスク要因、看護サービス利用の際の身体的負荷の重要性に焦点をあてた。身体的負荷全般、とくに腰椎への負荷が原因で、入院治療が必要な労働者は倍加しているように思える。アレルギー性の呼吸器疾患と皮膚病について詳しく調査した結果、たとえばイソシアン酸塩への暴露により職業性喘息に罹患した労働者の労働能力は、容易に回復しないことが分かった。有機粉じんと病原体への暴露のリスクが高い労働者群(医療労働者、農民、清掃業者など)のなかでは、肺炎または副鼻腔感染のリスクが高まっていることが明らかとなった。歯科関係者では、職業性皮膚病のリスクがきわめて高かった。1999年にFIOHは、職業性アレルギーの原因となる5種類の化学物質を新たに発見した。

アスベスト関連の疾病の研究と早期発見の活動が継続され、アスベストを原因とするガンのスクリーニングの有効性が証明された。毒性物質への暴露に関する細胞遺伝学的研究も継続し、ガンのリスク予測手法が改善された。

情報技術、管制室、運転業務に従事する労働者の非常待機、睡眠不足、業務成績、疲労困ぱいの相互関係についての調査を実施した。多くのフィンランド労働者(42%)が睡眠不足に陥っていることがわかった。

労働環境の改善

FIOHの資金の35%が、労働環境についての活動に投入されている。欧州連合内でのリスク評価へのニーズと、フィンランドの林業の重要性をふまえ、FIOHは資金の一部を木粉の健康への影響、アレルギーとガンのリスク、呼吸器疾患と塵埃抑制の研究に振り向けることを決定した。これらの問題は、FIOHと「化学物質の健康リスク評価のためのフィンランド科学委員会」が共催した木粉に関する全国セミナーで討議された。この分野の研究成果として、木の粒子の化学的性質に関する重要な新情報を得た。これは木材加工での木粉排出物、各種の木材を伐採する際に出る化学的排出物の組成と量に関係してくる。

FIOHは、社会保健省の要請で、タバコの煙への暴露、1995年の職場における喫煙抑制に関する法律の効果を調査した。法律の修正により、大規模職場ではタバコの煙への暴露が大幅に減少した。ただし、残念ながら小規模職場ではそれほどの効果は上がらなかった。

湿気の被害を受けた建物から生じるリスク、建物および建築資材から放出される黴毒、カビの胞子、これに関連した化学物質に関する調査を強化するための新しい研究プロジェクトを開始した。換気に関する研究では、国際的にも例のない調査が完了し、ベイズ・モデルを使った「学習室内空気分析モデル」(learning indoor-air analyzing model)を開発した。

「低温化での労働プログラム」の範疇に属するものとしては、低温への各種の暴露とそのリスク、低温に対する人間の身体的および心理的反応、低温による危険性の防止、低温からの保護について調査した。

労働安全に関して、いくつかの研究プロジェクトが進行した。一つは、サービス部門と刑務所職員をはじめとする労働における暴力の脅威についての幅広い分析である。「ゼロ災害」推進運動は、大企業で大きな成果をあげた。生活のあらゆる局面(労働、余暇時間、交通、学校など)での災害を防止するコミュニティ・プロジェクトは、フィンランドの中規模の都市で引き続き成果をあげた。

労働組織の改善

FIOHの資金の15%が、労働組織改善の分野に投入された。「学習する組織−革新性と新情報」(Learning Organizations-Innovativeness and New Information)と「労働のための人的資源」(Human Resources for Work)という二つのプログラムに取り組んだ。

数件の研究を通じ、効果的な組織と労働能力、健康と福利のための前提条件は何か、それらはどういう関係にあるかを調査した。そして効果的な労働組織および福利と、企業が変化に対応し、発展する能力との間には、実際的な関連があることが分かった。組織変更に伴なうストレスと混乱は、労働者を変更の立案過程に参加させ、積極的な研修と情報の共有で防止できる。労働能力向上活動の有効性は、組織の改善という面からも証明された。

1998年−1999年の労働協約の一環としてのプロジェクトでは、労働における平等に取り組んだ。いくつかの企業で、平等と、業務における雰囲気との関連を調査した。男性に比べ、女性は職場の平等状態に対する不満が大きく、また差別、能力軽視、またはセクシャルハラスメントに遭遇する機会が多かった。労働における競争は激しいが、平等を徹底することで労働者は仕事に取り組みやすくなると思われる。

失業と健康との関係を調査した。長期失業のリスクは、精神的不安定とストレスの原因になる。失業期間の長期化につれ、ストレス症状は増す。ただし病的状態が深刻化することはなく、生活習慣は改善さえする。

失業の減少および防止対策として実施される「JOBS」と呼ばれる不定期の職業訓練は、若年者のエンプロイアビリティ(雇用条件にかなう適性)、労働市場内での就職、健康と福利の面から効果のあることがわかった。

2件の独立した調査により、1990年代の労働生活の全体的変化(人員削減、外注化、失業、労働における強度のプレッシャー)が健康に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。こうした状況は、病休や明らかな業務量増大などに示されている。今後の労働組織の発展に際しては、とくに労働生活における精神的なストレス要因への注目度を高める必要がある。

研究活動

1999年中、FIOHはその資金の40%を研究活動に投じ、230件の研究プロジェクトが進行した。完了したプロジェクトは25件、新たに開始したプロジェクトは32件である。投入された資金のうち、49%が労働衛生、35%が労働環境、15%が労働組織の研究に費やされた。主にEUの資金提供の増加があったことにより、外部から調達する研究資金が増えた。木粉、職業性の呼吸器疾患、高度情報化業務など、新たに重要な研究も開始された。

研究報告書の数は前年とほぼ同数だったが、会議での発表の件数は減少した(1998年は360件で1999年は297件)。FIOHとして発表した研究件数は増加しなかった。その主な理由は、上級研究者同士の研究をはじめ、共催形式の会合とコミュニケーションへの参加が増えたことにある。EUと標準化団体も、上級研究者の関与拡大を求めたが、これらは研究件数の増加につながらなかった。ネットワークを使った共同研究の人気が高まったことも、同様の影響をもたらした。研究活動の焦点は、ますます調査と開発プロジェクト志向となり、それら自体は大きな価値があるものの実際の研究件数増加にはつながらない。こうした傾向のひとつとして、人気の高い論文数が目標を86%上回った事実がある。FIOHは、優先すべき研究課題を分析し、研究資金を点検し、研究の生産性と質の背景となる要因を探るため、別個のプロジェクトを立ち上げたところである。

研究者の教育支援には、研究者向け大学院などの形で、おおいに力を注いだ。1999年、FIOHで6件の博士論文が発表された。

研修活動

研修活動の件数と、これによる収入は前年より若干減少した。FIOHの研修プログラムを通じて提供するものよりも、個別の顧客に合わせた研修の重要性が増した。労働安全衛生担当者の世代交替による研修需要の増大により、いわゆる長期講座の需要が若干増えた。FIOHの研修プログラムの内容は、国としての労働能力の重視、「高齢労働者のための国家プログラム」、労働組織改善の研修を指針として考案されている。

サービス活動

FIOHは、資金の34%をサービス活動に投じている。サービスへの需要は、とくに労働衛生学、労働組織の改善、性格試験の分野で驚くほど高かった。専門的コンサルティング・サービスは、計画および予想の段階では前年並だったが、実績はこれを100%上回った。職業性疾病に関するサービスは、若干減少した。サービス活動の質的改善と、組織内部での適切な業務分担を進めた。利用者重視の姿勢を強化し、インターネットでの情報提供など、サービスの利便性を改善した。試験の認定サービスは継続した。労働組織、労働衛生学、労働衛生サービス、情報などの分野で、いくつか新しいサービスを導入した。

情報の普及

情報普及活動は、量的には前年と同水準だったが、内容は変化した。フィンランドが欧州理事会の議長国になったことで、労働安全衛生、とくに高齢労働者とエンプロイアビリティの問題をとくに重視した。またインターネットと電子メディアを通じた電子的コミュニケーションの増加も重要な変化だった。たとえばフィンランド放送協会は、FIOHと合同で労働生活に関する特別番組を編成し、反響を呼んだ。

1999年の出版件数は記録的な量にのぼった。EUのニーズに応え、多彩な科学的出版物を発行した。具体的には『欧州連合の高齢労働者:労働能力の状態と向上、エンプロイアビリティと雇用』などを、フィンランド語と英語で出版した。

優良規範に関する指針が、フィンランド語で何種類か出版された。内容は、職業性のガンの予防、職業性アレルギー、燃え尽き症候群の予防、労働衛生サービスを通じた室内空気中のカビによる障害の防止、高齢労働者の労働能力の維持、農民向けの労働衛生サービスにおける実務などを扱ったものである。また労働能力の維持に関しては、4種類のガイドブックを出版した。その一方、FIOHの情報センターのサービスも、内外双方のサービス利用者を念頭において改善した。

国際協力

1999年はフィンランドが欧州理事会議長国であったため、いつにも増して国際的活動が活発だった。議長国期間中、FIOHは直接に5件のイベント準備にかかわり、またドイツが議長国であった1999年上半期をふくめ、5件のイベントに間接的にかかわった。FIOHは「現代社会における安全」と「欧州人の労働衛生」の二つの専門家会合で主要な責任機関となった。3つ目の「The Organic PsychoSyndrome」は、オランダのデルフトで同国雇用省と合同開催した。フィンランド政府は、これらの会合で得られた結論と勧告を欧州委員会に提出した。

FIOHは、関連する専門分野にも積極的にかかわり、4カ国が競合するなか「PHARE-Twinning」プロジェクト実行機関に選任された。このプロジェクトの目的は、エストニアに労働衛生研究機関を設立し、同国の労働衛生サービス全般を改善することである。

また引き続き、従来から続けてきた世界保健機関、同機関の「労働衛生協力センター・ネットワーク」、および国際労働機関の「安全な労働」プロジェクトとの協力に取り組んだ。

EUの研究機関、Bilbao Agency、EUのダブリン財団とのいくつかのプロジェクトとネットワーク戦略を継続した。ネットワーク活動がますます中心となりつつあるのは、EUのプロジェクトだけでなく、他の国際協力プロジェクトでも同様である。この結果、多数の相乗効果と情報交換の発展がもたらされており、協力が深まっている。しかし、コミュニケーションと会合のための時間も十分に確保すべきであり、こうした形態の協働の利点も正しく評価する必要がある。


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