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欧州連合のアプローチ

発ガン性物質暴露に関するデータベース
CAREX(発ガン性物質暴露調査システム)

資料出所:INRS発行「Travail and Securite(労働と安全)」2000年2月号
(訳 国際安全衛生センター)



:この件に関しては、以下の定期刊行物を参照。

資料文書ノート「Hygiene of Securite du travail(労働衛生および安全)」、
1999年、176号、第3四半期、5ページから9ページまで。
 本研究の結果は、以下のインターネット・サイトでも閲覧できる。 
http://www.occuphealth.fi/list/data/CAREX

 

CAREXは新しい国際データベースであり、その作成に当たっては国立安全研究所(INRS)も参加している。この国際データベースは、業務上発ガン性物質に暴露されている人々に関する情報がまとめられている

いったい何人の労働者が、その職業的環境において特定の発ガン性物質に暴露されているのか。いままでほとんどの欧州諸国では、この問いに対してなんの返事もできなかった。この点を明確にするために、欧州連合は「ガン撲滅に立ち上がる欧州」計画という組織の内部に、発ガン暴露を意味する英語 Carcinogen Exposureをイニシャル化したCAREXというシステムを創設した。CAREXは、1990年から1993年にかけての時期に限定した上で、139の発ガン性物質に業務上さらされている人々を、国別、産業部門別に分類した情報をまとめあげた国際的データベースである。スペインおよびフィンランドが中心となって実施された同プログラムには、15名の専門家が参加した。フランスから参加したのは、ナンシー市にある国立安全研究所であり、その研究センターの汚染物質計測学局のレーモン・バンサンであった。



発ガン物質に暴露されている労働人口数(1990−1993年)
(国別統計、CAREXシステムによる調査)


国名 労働人口 暴露労働人口 暴露労働人口/労働人口(%)
ドイツ 34,035,522 8,225,886 24.2%
オーストリア 3,086,425 786,116 25.4%
ベルギー 3,506,842 726,855 20.7%
デンマーク 2,812,902 684,032 24.3%
スペイン 12,162,830 3,083,479 25.3%
フィンランド 2,138,381 510,525 23.8%
フランス 21,786,228 4,937,345 22.7%
ギリシャ 3,332,580 910,484 27.3%
アイルランド 1,088,450 264,761 24.3%
イタリア 17,073,393 4,202,913 24.6%
ルクセンブルグ 186,493 47,526 25.5%
オランダ 6,463,694 1,090,280 16.9%
ポルトガル 4,019,845 974,926 24.2%
イギリス 22,821,375 4,973,126 21.8%
スウェーデン 4,003,674 815,536 20.4%

暴露対象労働者の割合は、国により大差はない。ただオランダだけは例外的に16.9%であり、最も低い推定値となっている。


CAREXから出た結果というのは、主にどんなものですか?

レーモン・バンサン:
 国際ガン研究センター(CICR)では、139の発ガン性物質をリストアップしていますが、これらの発ガン性物質に潜在的に暴露されている人々は、フランスでは労働力人口の22.7%である500万人に近いことが、この研究により判明しました。ここで問題になっている物質は、グループ1(人間にとって発ガン性あり)の全物質、グループ2A(人間にとっておそらく発ガン性あり)の全物質、グループ2B(人間にとって発ガン性がないとはいえない)の一部物質、さらには電離放射線および紫外線です。これらはあくまで潜在的暴露であり、労働者は当該物質と接触している場合もそうでない場合があるほか、暴露のレベルについては示されていません。


訳注)
International Agency for Research on Cancer(IARC)の発癌物質の分類は
第1群 --- 人に対して発癌性のある物質
第2群A --- 人に対しておそらく発癌性のあると考えられる物質で証拠がより十分な物質
第3群B --- に対しておそらく発癌性ありと考えられる物質で証拠が比較的十分でない物質
に分類している

 この研究によれば、先に引用された500万の労働者にとっての主たるリスクは、以下の通りとなっています。

 太陽光線への暴露については、150万人の労働者が、労働時間の75%以上の間太陽光線にさらされています。職場でのタバコの煙については、120万人の労働者が、労働時間の75%以上においてタバコの煙にさらされています。ラドンについては50万人、ディーゼル排煙については40万人、硫酸含有率が高い無機酸による霧については40万人、ホルムアルデヒドについては30万人、おがくずについては18万人、テトラクロルエチレン(パークロルエチレン)については14万人、アスベストについては14万人、鉛および鉛の鉱物化合物については14万人となっています。

 産業分野については、ほとんどすべての部門で発ガン性物質への暴露が見受けられます。筆頭にあげられるのは商業およびホテル業(両業界で働く人々の15.1%)、土木建築(10.9%)、農業(9.8%)、保健(6.7%)、公共機関および国防機関(5.9%)、陸上輸送(4.9%)、銀行・保険(4.7%)です。欧州レベルで、一定の均質性のあるこうした統計数字が出されたのは、今回が始めてのことです。初回の評価として、たとえどんなに不完全でも、暴露の現状をこうして提供することこそが、CAREXがめざしたことでした。



表1はフランス国内で、発ガン性物質への暴露という危険にさらされている労働者の推定数である。
(以下の人数は、発ガン性物質毎に分類されたものである)。

フランスの発ガン物質暴露労働者数の推計

発ガン性物質
暴露労働者数
発ガン性物質
暴露労働者数

フランスにおける最も一般的な暴露:太陽光線(150万人の労働者が、労働時間の75%以上の間太陽光線にさらされている)、タバコの煙(100万人の労働者が、労働時間の75%以上においてタバコの煙にさらされている)、ラドン(50万人)、ディーゼル(40万人)。


ここに紹介されている結果は、あくまで速報値なので、慎重に解釈をする必要がある。推測値を計算するに当たっては、フランス国内の雇用がいかなる構造を有し、雇用がどのような内訳になっているのかを参考にした。一定の産業活動に関しては、フランスに限っての特徴というものがあるが、比較の対象の他の国々とフランスとのこうした違いは、部分的にしか考慮しなかった。発ガン性物質への暴露調査システム(CAREXシステム)の結果得られた推測値を、現時点において妥当性を確認することは不可能であるため、全国レベルでこの調査作業を継続することが必要になろう。



これらの数字は、どの程度信用できるのですか?

レーモン・バンサン:
 CAREX計画から言えば、現時点では、結果として出された統計数字を有効だと認めることはできません。方法論自体から来るエラーの原因がいくつか存在します。アメリカとフィンランドという二つの統計調査の補外法を基礎としたため、定義の相違も残りましたし、産業別分類とか、あるいは暴露の推定における分類といってもいろいろあるので、それらを調整する際に、どれとどれなら同じものとして処理できるかという問題の影響も出ました。これまで各国に断片的なデータが存在する(たとえばフランスの雇用・連帯省が行っている職業上の危険に関する医学監視についての調査であるSUMERとか、あるいは国立安全研究所および地方疾病保険金庫の化学研究所が集めたデータベースで、全国的な暴露データベースであるCOLCHIC)とはいえ、こうした数字が出たことにより、今までの不明確な状況から一歩脱却する結果となりました。これら数字は、もっとさらに磨きをかける必要があります。しかし今後このCAREXを今後どうするかについては、なにも決まっていません。

このデータはどんな人の役に立つのでしょうか?

レーモン・バンサン:
 まず疫学者ならびに各国政府はこれらデータを使って、住民レベルでの全体的リスクを評価することができます。現場で予防措置に携わっている人にとってみれば、これらデータがすぐに役にたつというわけではありません。しかしCAREXの良い点は、その網羅的な性質、大半の産業活動がカバーされていること、使い勝手のよさにあります。

CAREX作成に当たってとられた方法論は、どんな方法論なのですか?

レーモン・バンサン:
 欧州レベルで早急にデータの数字を入手し、しかもその入手費用があまりに高くつかないようにするために、CAREXは現在入手可能な数字を使っての処理という形で統計を出したものです。スペインがこのプロジェクトの中心となったので、スペイン人であるM.コジェヴィナス博士を議長として、欧州ワーキンググループが組織されました。このグループは、発ガン性物質の一覧表、業務の体系化システム、得られた情報のリストを作成しました。アメリカとフィンランドの両国は、現場での暴露調査を実施しました。この両国の調査結果は、信頼できるものと考えられていますし、欧州連合のレベルでは同じような調査結果がなにもないという寂しい状況の下では、存在価値が高いものです。最初の作業は、このアメリカとフィンランドのデータを、CAREXが採用した職業分類(UNISIC命名法、改正その2、欧州連合向け)により再編成することでした。その後これらデータをもとに各国専門家が、欧州連合の統計をまとめ、経済活動の相互体系化作業を行ないました。CAREXは、欧州連合15カ国のそれぞれの国における暴露の最初の推定値を計算しました。各国の産業構造はまちまちなので、こうした推測値を手直しする必要があり、各国専門家がその作業に当たりました。

あなたご自身は、どのように関わったのですか?

レーモン・バンサン:
 最初は欧州連合向けのUN命名法により、1996年にフランス統計・経済研究所(INSEE)が出したフランスのデータ(産業部門毎の人員)の相互体系化処理を行う必要がありました。それにより最初のCAREXの推測値が出た後、フランス国内での研究および国立安全研究所の蓄積した知識をふまえて、各業務および各発ガン性物質別に、出てきた数字を有効化したり手直ししたりしました。この作業には600時間、つまり約4カ月かかったが、これは国立安全研究所のほかの専門家達との共同作業でした。

具体的には、この結果はどのような形で発表されるのですか?

レーモン・バンサン:
 それぞれの国について、55のセクターがリストアップされていて、そのセクター毎に労働者数、暴露件数、暴露対象者数が分かっています。たとえば製鉄業を例にとりますと、労働者数が81,700人、暴露件数が48,705件、暴露対象者数が、製鉄業に従事する総数の40.54%に当たる33,119人となっています。それから各発ガン性物質に関して、職業別に推定暴露対象者数および統計数字の出所、すなわちアメリカなりフィンランドの研究なのか、その両国の研究の平均値なのか、それとも各国専門家が推測した数字なのかが記載されることとなります。     

  以上の質疑応答の内容は、クリスチャン・ギヤールが担当してまとめたものである。

フランスにおける各産業分野で潜在的に暴露対象となっている労働者数推定


 

(*)他に分類されていない業務も含む。

暴露対象と推定される人々については、その58%の割合が、以下の7つのセクターに属する。すなわち商業・ホテル業、土木建築、農業、保健、公共機関・国防、陸上輸送、銀行・保健の7つである。