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工作機械の災害リスクの認識
(職業訓練校の安全管理)
国立高等職業学校における調査(*)

資料出所:INRS (Institut National de Recherche et de Securite, France)発行
「Hygiene et securite du travail」 vol.182, ND2145, 2001, pp.73-80
(季刊誌「資料解説雑誌:労働安全衛生」第182号、2001年第一四半期)

(訳 国際安全衛生センター)


C. ルソー
INRSセンター(ナンシー、ロレーヌ)労働者部


本稿は技術教育施設である国立高等職業学校(職業リセ)における災害管理方法と災害リスクの認識に関する教育の成果を検討したものである。1995年と1996年に実施されたフィールドスタディは、国立賃金労働者健康保険金庫(CNAMTS)、教育省、技術教育庁の間で1993年2月1日に締結された協定の枠内で行われた。協定の目的は「職業上の不安全作業を避けることを職業資格の不可欠の要素とする」ことにあった。

以下に述べる結果は、工作機械(数値制御または手動制御)を使用する部門の、学生と教官に対して行われた一連のインタビューの結果を要約したものである。インタビューは災害リスクの認識とその制御を中心に行われた。主に以下の点が取り上げられた。

- 施設の日常的な安全管理
- 機械類による災害の可能性とその防止手段
- 企業内での実地研修時の安全

この調査から、学校における労働災害の防止教育を長期的に強化し、確実に推進するためには、「安全文化」の育成が望ましいことが明らかにされた。技術教育に従事する教官は、その態度や教育方法が学生にとっての日常のモデルとなるため、この面で非常に大きな役割を担っている。
さらにこのインタビューからは、企業内の実地研修が特に重要な機会であることも明らかになっている。リセの学生たちは将来における自分たちの環境で災害のリスクに直面するからである。この実地研修の際に、学生たちは企業の安全に関する状況を直接的に「受け継ぐ」のである。すなわち、安全慣行には企業の規模によって大きな差違があり、実習生はまだ多くの改善を要する点があることを理解する。


キーワード 工作機械 職業教育 労働災害リスク認識 リスク管理



1985年職業教育法に基づいて設けられた職業バカロレア(大学入学資格)は技術者の資格、すなわち職業資格についてこれまで提起されていた要求の全体を、さらに検討する新しい枠組みを提供している。1987年には職業バカロレアは14に上り、これに22,000人の若者が就学した。1988年には47,000人の学生が19の課程に登録した(1)

職業訓練は2学年にわたって実施され、教育施設と企業とで1年ずつ行われる。すなわち

- 教育施設で52週間
- 企業で16週間
となっている。

教育は専門教育と一般教育の二つの部門に分かれている。職業訓練の最も多くの部分を担当するのは技術教官(professeur d’atelier)で、実習主任(chef de travaux)は職業教育の監督と技術教官による教育を継続して行う。さらに社会・家族経済教官による衛生、予防および救急に関する選択科目が2年間に平均して2週に1時間の割りで実施される。(2)


(*)この論文は「職業教育における安全管理:リセにおける調査」(筆者同)からの抜粋である(ナンシー、INRS、科学技術ノート叢書、1998年2月、NS 165)。

(1)「教育と職業訓練」、1989年、21、25-35ページ



1. 職業リセにおける安全体制の内容

職業リセは若者の職業訓練の場であり、教育省が推進する教育路線と、実業界の職業路線という二つの路線の交差地点に位置する。こうした接点としての立場ゆえに職業リセは、労働監督局と学区監督局という二つの監督官庁による介入の対象となっている。両局は、現行法規を遵守させる監視役と、事故予防の相談役という二つの役割を果たしている。


衛生安全委員会(1991年11月27日付政令)


本政令の規定により、四半期ごとに衛生安全委員会の通常会議が開催され、職業リセ校長の発議により委員会が招集される。衛生安全委員会は、任務行使の一環として、視察が必要と思われるたびごとに校内の視察、そしてとりわけ作業所の視察を実行する。この視察は少なくとも年に一回行われる。


看護師


職業リセに寄宿生を抱えている場合には、看護師の配置が義務づけられている。


予防理論の授業(1988年4月11日の省令により改正された1987年6月16日の省令の付則V:当該授業に関する試験の定義)


高校生は2年にわたって平均週1時間の割合で、衛生、予防、救急法の授業を、選択科目として受講できる。この科目は、バカロレア試験では選択科目であり、実際の試験は持ち時間2時間の筆記試験の形式で行われる。この試験は受験者が、職業活動に必要な衛生、予防、救急法の実施に不可欠な微生物学および生理学の基礎知識をマスターしているかどうかを確認する目的で行われる。設問の中には、救急法に関する各種質問が含まれていなければならない。


この論文に紹介されている調査結果は、職業教育を担当する学校における災害リスクの個人的および集団的な管理に関する研究(1998年のルソーの著作)を基礎としている。この論文を書くために使用された調査方式は、職業リセにおける各種インタビュー対象者の視点および慣行をわかりやすく分析する方法である。最初に、職業リセで実際に安全問題を任されている何人かの教員の観点を紹介する。それから工作機械での災害のリスク認識と、現在行われている保護手段について述べる。すなわち技術教官と実習主任という教員側の認識と、第1学年(日本の高校2年)に在籍する14名の高校生の認識との対比させてみる。


これら14名の高校生は、機械生産工学のバカロレア試験を準備している高校生である。この高校生たちは職業教育免状(BEP)を、それもほとんどの場合「機械加工(オペレータ/レギュレータ)」の職業教育免状を持っている。というのも彼らの大半が、機械工学に興味を抱いているからである。職業リセの第1学年である彼らの平均年齢は19才となっている。全員が少なくとも、第6学年(日本の中学1年)か、第5学年(日本の中学2年)の段階で、一年留年した経験を持つ。学業面での遅れの結果、第4学年(日本の中学3年)の段階で技術系へ進路変更している。職業教育免状を選択した彼らは、当然の結果として機械生産工学コースを選択した。


職業教育免状の結果獲得する技術面での彼らの能力は、主に旋盤やフライス盤といった手動制御の工作機械を使っての機械加工能力であり、バカロレア試験の準備段階に入ってから数値制御工作機械の作業を学ぶ。


災害予防研究の分野にとって、こうした将来の職業人は興味深い存在である。職業人としての経験が皆無に近いか全くないことから、労働災害の危険性を高校生たちがどう認識するかを研究すれば、職業経験の蓄積が危険性の把握に対していかなる影響を及ぼすかに関する研究の良い材料になろう。


(2)「企業内職業訓練指針」(パリ、国立教育文書センター、1989年10月)。衛生・予防・救急課程は1987年6月16日付省令(法令)によって規定され、1988年4月11日付省令で修正され、その後も改訂された(2000年7月11日付省令)。BEPおよび職業バカロレアは1995年に改訂され、学生の資格証明書に安全衛生に関する能力が含まれることになった。


2. 教授陣による安全管理の認識 (囲み記事1)


日常の安全管理の現実を評価するために、我々は校長、技術教官、作業主任、社会経済・家政経済の教官、看護師などにインタビューした。テーマごとの分析を行うことで、明確な特徴をいくつか引き出せたし、当該職業リセに植え付けられている「安全文化」の目安もいくつか判明した。

どんなテーマが扱われたかをまず紹介し、その過程で判明した特徴を紹介する。インタビューの抜粋の中からどの部分を取りあげるかについては、扱われたテーマを考慮して、実状を十分に伝える内容であるかどうかを基準とした。


インタビューの分析


安全管理というとすぐさま学校側がその責任を負うと考えがちであるが、こうした安全管理の改善の観点に立つ場合に、今回のインタビューを分析して判明したのは、職業リセにおいて安全管理問題ならば他の誰よりもこの人に相談すべき「優先的責任者」を配置し、個人的安全問題なり、散発的安全問題に責任をもって取り組んでもらい、対処方法を調整することが重要であると判明した。


しかしこの提案には、いくつかコメントをつける必要がある。というのも安全問題では、企業に対して災害予防を担当する部局を、従来のように一極集中するかわりに生産もしくは保守機能のレベルに分散化させるべきとする説や、さらに一歩進めて「希薄化」すべきとする説が一部で唱えられているからである。実際面からすると、企業がどの程度まで危険性を減らしているのかで(*3)、それぞれの企業の多様性に応じていくつかのタイプの安全組織体制が存在する。当該職業リセにおける安全管理の責任のレベルに関しては、安全問題担当の責任者を定め、その人に情報を集中させて、対策のフォローをさせるのが適切な措置と思われる。


言うまでもないが責任者となる人の機能は、情報提供、訓練教育、各方面との調整という各分野での目標がはっきり定まっていればいるほど、効果的となろう。十分な資金と特定予算の存在こそが、本格的に安全を改善するために必要十分な条件となっている。


もちろんこうした方法は、どんな改善成果があがったかを見極めた上で、再検討の対象とすべきである。安全衛生委員会の構成については、高校生代表と教育省代表がそれぞれ同数参加する形がふさわしいと思われる。こうした委員会への高校生参加は人間形成活動の一つであり、職業訓練と一体化して考えられるからである(*4)


(*3) モントー(雑誌「人的および技術的パフォーマンス」の1992年11月−12月号、29頁−34頁)の考えによれば、「企業内での労働災害の制御は、安全概念の移り変わりと、そうした推移から生まれる慣行によって初めて可能である。すなわち安全には3つの大きな段階があり、第1段階がテクニカル・リスクの制御、第2段階が組織リスクの制御、第三が各種機能不全から生じる万が一の制御である。」とのことである。

(*4) 囲み記事の注(**)を参照。




囲み記事1

教職員へのインタビュー抜粋:学校内の安全管理に関する教職員の認識

災害防止に関心を持つ理由

刑事責任(*)

「校長はいろいろと様子を調べている。学校の中にやっかいな事故が起きることを心配している。問題が起きたときに責任を取らされるのは校長だからね。他の人間は校長をバカにしている」



安全衛生委員会(CHS)の実情(**)

一定の有用性

「CHSは1987年から活動している。最初の年にまず心配したことは学校内の事故だった。多くの重大な事故が起きていたし、どうして多数の事故が起きるのか、原因を突き止めようとしていた。私はセクターごとに事故リストを作り、どこで事故が多発しているかを調べた。事故が一番多いのは木工場であることが分かった。多くの人にとって危険な機械を使って働いていたからだ。また多くの運搬作業を行っているが、そこでは板で指を挟む、転落などの事故が起きている」

「CHSにはいい面もある。ポスターを使ったキャンペーンができたし、機械の保護装置の点検もできたから」

国の教育に適合しない事例:負わされた義務

「私は(CHSのメンバーに対して)最も批判的で、文句の多い人間です。CHSが企業の(CHSCT)を真似ているのは残念なことです。本来ならば、安全はすべての人々の、すべての一般教育の教官、体育教官の問題であるべきです。CHSは年に2回の会議を開きますが、人々は書類を作らねばならないために集まってくるだけです。CHSは作らねばならなかったから、作られたものです。CHSには失望ばかりでした。CHSの目的はともかく、「面倒なことは言わずに、他の人の邪魔はしない方がいい」と言われてね。直接に言われなくても、行動で分かるものです。それでも社会保障が事故に口を出すようになってから事態はよくなりました。この事故はどうして起きたのかなどと調査するから、憲兵のように恐れられています」

安全衛生委員会の推進:発見し、管理するエネルギー

「CHSの活動に慣れるために、教官がCRAMによる研修のために派遣された。しかし教官はそれほど権限を与えられているわけではない。彼は率直に言って、訓練を望んではいなかったが、それでも興味を持った。しかしいったん学校に戻ると、CHSに出ることもなく、他の仕事をしている。最終的には私が代わりにCHSを動かした。推進者がいなければ、組織は動かないから」



安全予算

安全予算はないに等しい

「仕事の予算はあって、材料やそれを加工する工具を買うことができる。しかし安全のための予算はない。予算は非常に限られていて、管理も難しい」

安全に大きな問題がある場合、われわれは管轄する組織、つまり地域圏の行政に話を持って行くことになる。しかし危険な機械に関連する問題を早急に処理しなければならない場合、手元の予算に手をつけなければならなくなる。予算を使ってしまうと、各作業場を良好な状態で稼働させることができなくなる」

「優先すべきは教育だ。診療室ではない。診療室や予防活動はつけたりのもので、いわばぜいたく品だ」

予算管理の論理

「財政手段が早く施設に利用できるようになることが望ましい。しかし行政の動きは遅い。たとえば、3年前から寄宿舎のシャワー室で何人もの生徒が足を滑らせて、足や手首を骨折している。その原因はなによりも、地域圏が欠陥工事を行った企業の保証について争っていることにある。工事をできるだけ安くする必要があったのだ。工事を完了するまでに3年も待たされた」



*リスクとそのための予防手段の数字は、生徒によって取り上げられた回数。

(*)インタビューの際に取り上げられた責任は「民事」であったが、この場合はむしろ「刑事」責任が問題になる。

(**)法規の条文では、CHSは今後生徒も参加する各当事者同数の構成となっている。さらに1998年以降、公立の各職業教育学校では、ACMO(実行機関)が安全の組織、調整に当たり、「学校レベルでは各学区の安全衛生監督官」(IHS)に報告する。


3. 工作機械操作の際の危険性と予防手段の認識



このテーマで我々が知りたかったのは、職業リセの機械作業所内ではどんなリスクが存在し、どんな予防手段がとられているのかという点である。機械生産工学の技術教官、第1学年(日本の高校2年)の高校生、実習主任を囲んで、個別的ではあるがこちらが半ばリードする形でのインタビューを通じ各種情報を収集させてもらった。その結果としてここで紹介する内容は、相手側の発言内容をそのまま書き留めたものである。


機械作業所の簡単な描写


機械作業所は、ガラスの仕切壁で二つのスペースに区分されている。


■■一方の側には旋盤、フライス盤、グラインダーといった手動制御機械が置かれている。手動制御機械は主に職業教育免状(BEP)と職業適性証書(CAP)課程の高校生により使用されていて、第1学年の高校生がここに足を踏み入れる機会はほとんどない。この手動制御機械のスペースは、どちらかといえばいろいろな物が置かれすぎの感があり、場所によっては油のせいで床が滑りやすくなっている。技術教官の一人は、こう話してくれた。「・・・きちんと動いてくれる装置なんて、なに一つないときている。ポンプは水漏れし、連結管や蛇口からも水が漏れ、どこもかしこも漏れるといった具合で、泥水がところかまわず散らかっています。汚ければ汚いほど作業所らしいせいか、教師の方も汚い方が多分働いている実感が強いのでしょう」


■■もう一方の側には数値制御機械が置かれている。すなわち機械加工センター、リアルメカT200という旋盤(実際工場などで使用されている旋盤と比べて、一回り小さく出力も押さえてある)、さらには工場で実際に使用されるタイプのフライス盤が設置されている。これら機械は、主に第1学年および最終学年(日本の高校3年)の高校生により使用され、職業教育免状および職業適性証書課程の高校生がここを利用する機会はまれである。こちら側は、作業所全面積の約四分の一を占め、整理整頓されて清潔に保たれている。


表Iは、職業リセの高校生および2名の教官によって作成された機械の危険度番付で、危険な度合いが強いものから弱いものの順に機械の名称をあげてある。


高校生側の見方と教官側の見方を比較してみると、実際に使う立場である高校生と、危険性があるかないかを観察・分析する立場にある教官との間での、よく知られている視点の相違がよく現れている。


こうしたとらえ方について、インタビューをした相手の誰もが、「リスク」と「危険」をはっきり区別せずに使用している。ここで改めて定義すれば、「危険」は電気とか、作動中の部品、製品の毒性といった本来個人の落ち度のなさとは両立しない要素として定義されるし(デュメンヌの1985年の著作)、「リスク」は危険が起こりそうな確率、つまり損害が実際に発生しかねない確率と定義される(ルプラの1995年の著作)。換言すればリスクというのは、たとえば手足切断ややけどのリスクといったように、人間と危険が接触してしまう可能性である。このように定義した場合、危険が確認されるものであるのに対して、リスクは評価されるものとなる(パランの1991年の著作)。


結果として表Iにある、高校生が選んだ順序は、リスクという条件での観点を反映した危険度の順位である一方、教官側の観点は危険分析により近い形の順序となっている。作業所訪問の際、3つの機械についてどれにも同じような危険の存在を確認した。すなわち動く要素、手を切る要素、そして高熱でやけどをする要素の3つである。これら機械には、防御装置(ここでは機械を覆うカバーケース)の有無および防御装置のサイズという点で違いがある。教官がつけた順序は、こうした防御装置が設置されている状態を考慮している。


高校生の意見の方は、機械の危険な性質もさることながら、危険にさらされる時間の長さを考慮した結果である。インタビューを通して得られたデータから再構築した結論だが、グラインダーを一番危険のない機械としてあげているのは、まさに作業時間の短さが原因なのである。というのも実際上高校生は、仕上げ作業の際にグラインダーをほんの短時間しか使用しないからである。


表IIは、機械生産工学の技術教官と実習主任の、作業所にある工作機械の3つのタイプについて、どれにも共通する災害リスクとそれに対する予防手段に関する観点を総括したものである。


すでに以前の研究(ルソーとモントーの1991年の著作)において「その場に応じた対応」という概念が指摘されているが、この概念をここでも強調する必要があると思われる。「その場に応じた対応」は同じリスクを前にしながらも、仕事の状況に伴う要素次第で変化する対処方法を意味する。


以下のインタビューの抜粋は「その場に応じた対応」というややわかりにくい概念の実像を浮き彫りにしている。


「私には不可欠と思われるプロテクターがあり、それは危険を感じさせる回転部品である心棒のプロテクターである。・・・工具が使われる場所をカバーするツール・プロテクターは、一定のタイプの作業では不必要である。カーバイド製工具を使い、やけどをしかねない切り屑を多数はじく場合には、プロテクターは必要品である。・・カーバイド製工具は切り屑を発生させ、しばしば白熱した青い切り屑を出すが、これは危険な切り屑である」


「防御用めがねについては賛否両論がある。一定のタイプの機械加工で、切り屑が細かいときには防御用めがねが役に立つ。グラインダーのときは必需品であるが、(・・・)ふつうの機械加工では必需品ではない」


切り屑の危険な性質は、とりわけ加工素材により評価が異なっている。もちろん扱う素材による違いが、防御面での対応に影響してくる。たとえば加工作業中に機械カバーを閉じたままにするとか、一人一人が防御手段を装備するといった方法である。1997年の著作でクラウスキーとダヴィエールが述べているように、「・・・身を守る必要があるかどうか決める鍵となる、リスクについての知識、リスクの把握と推定、リスク面での対応などは、個人個人の情報レベルおよび経験レベルに左右される要因である」。


表IIIは機械生産工学部門に属する、第1学年で学ぶ高校生の見解を示している。


リスクの認識


高校生は各自がリスクについて異なる認識を持っているので、ある高校生がふと思いつくリスクが、同じクラスの他の高校生があげたリスクとぴったり一致することはない。一番引き合いに出される回数(都合3回)の多かったリスクは、プログラミングのエラーに関連した、部品の飛び出しなり工具の破損というリスクである。同じ3人の高校生が、機械カバー(障害物の設置により防御を実現する目的でとくに使用される機械の要素)の信頼性を疑問視している。これと同じリスクを取りあげなかった他の高校生たちは、機械カバーこそは自分たちを完全に守ってくれるプロテクターと思いこんでしまっている。換言すれば、100%有効と考えられている予防手段があると、その結果として当該リスクに対する認識を、いわば不必要としてしまいかねない。これは世間でよく言われる「防御されていればいるほど、その分ますます注意を怠りがちになる」という、人間の心理プロセスと同じである。


防御手段に対する完全な信頼感があると当該リスクへの認識がかえって薄まるという仮説が存在する。職業リセの機械スペースの技術的防衛に関して一定の限度が望ましいかどうかについては、とくに学区監督局のもとに疑問が存在する以上、仮説が正しいかどうかをここではっきり確認しておきたい。職業的リスクをなくす方向で高校生を教育すべきとする観点からすると、完全に機械カバーを施したプロテクト付きの機械ばかりを作業所に装備するという方針が、本当に適切かどうか疑問がわいてくる。


インタビューをした高校生たちからは、リスクについてほとんど指摘がなく、各自が取りあげたリスクの数は平均して一つだけである。


高校生たちがリスクについて語っている場合でも、事故は起きていない上、防御手段が設置されていることを理由に、すぐさま問題のリスクを重要なリスクではないと、一方的に決めつけてしまっている。一部高校生たちは、通常より一回り小さい学校用機械は、自分たちが実地研修の際に工場で実際に使う機械と比較すれば大したことがないと述べ、学校の作業所で自分たちが受ける危険のレベルがかなり低い理由はそこにもあるとしている。


全体的にみると、数値制御機械に対するよりも手動制御機械の方が、事故を防ぐ面で保護が薄いために、より危険であると認識している。4人の高校生は、数値制御機械についてはまったくリスクがないと宣言している。


防御手段の認識


当然のこととして、リスクの個人的な認識が、ここでもまた問題となる。一つのリスクに対して、高校生は通常一つだけの予防手段を結びつけて考える。教官とは異なり、緊急停止ボタン(このボタンは、メカニズムをストップさせたり、停止したままにする機能を持つ)が3度にわたって予防手段として引用されている。作業所で観察したところでは、高校生が緊急停止ボタンをどれほど大切と考えているかがわかる。機械加工の作業中部品と工具が衝突した際にすぐにも押せるようにと、高校生が緊急ボタンのすぐ横か、または緊急ボタンの上に指を置いたままにしている姿をよく見かける。


以下に掲載するインタビューの抜粋の数々が示すように、高校生は自分たちの身を危険から守るために、作業において経験的に学んだ危険の兆候を活用している。「切り屑が高く飛ぶときには、スピードを遅くする必要がある。」「高速で機械加工をするときには、切り屑が熱いまま飛び散るが、その度合いは素材により変わってくる。一番熱くなるのは鉄鋼で、一番熱くならないのはアルミニウムである。防御用めがねは、これらすべてを考慮してかけたりかけなかったりする」、「フライス盤は、上の方が円錐形になっている。歯がついた部分をつかまずに、円錐部分をつかむと危険である。主軸にフライス盤を置く場合には、その上にぼろぎれを乗せた方が良い」「機械加工をするときには、部品の正面に体を置かないようにする」


安全に関する二つのカテゴリーの実践慣行が現に存在することを、もう一度念を押す形で述べておきたい。すなわち以下の二つである。


一つは「その場に応じた対応」であり、これはオペレータが規定安全対策を選択するという特徴を持っている。

もう一つは先を予測して対処する慣行であり、これは作業の進展段階における偶発事故を最初から見越した形で管理する方策である。


インタビューの席上話題にあがった「その場に応じた対応」は、もっぱら職業教育免状の段階で獲得した知識を参考としての話しであった。高校生は職業教育免状課程において、完全に機械カバーにより保護されていない機械を使って機械加工を行うのである。


職業訓練中の高校生の安全管理については、教員レベルおよび生徒レベルの両方において、決してお仕着せではないあくまで自然体の対処方法が実践されていると言われてきたが、現場でこのように「その場に応じた対応」がきちんとなされているのを目にすると、その通りであると確信が持てた。


コメント:表Uと表Vの比較


一般的には、教官側と生徒側から示されたリスクと予防手段は完全に一致している。高校生たちはその所属・学年を問わずに、教官と同じリスクと同じ予防手段を認識している。例外は緊急停止ボタンについてであり、これは高校生により引き合いに出されているだけで、教官の側では高校生が機械を怖がっているから設置したと説明している。


この結果災害リスクに対する教育には、これでOKという一つの公理が存在しないにもかかわらず、災害リスクについてのメッセージは伝わっているし、心に留められている。この件に関しては技術教官と行われたインタビューの抜粋が、その間の事情を簡潔に説明している。「・・・安全レベルで問題が生じて、私がそれに気づくと、みんなでどうするか相談する。あそこは危ないから、めがねをかけなくては・・・ここも電流が流れているから注意しなくては・・・ここもあれやこれやの危険があるから要注意だ・・・。目に映った危険に対して、タイミングよくその都度注意を促す方法をとっている。担任の14名を全員集合させて、今日は一時間安全について話をするから・・・などといった方法は、一度もとったことがない」


高校生に対して安全への配慮を徹底させる教育の面で、こうしたケースバイケースの対応は、非常に実戦的であるというメリットを持つ点については疑いがなく、それゆえに高校生たちに対する効果も高い。しかしながらケースバイケースの対応という方法は、一つの機械を扱うにあたって、その機械に伴うリスクがなにかを包括的に頭に思い浮かべるという習性を徹底させる意味ではマイナス効果もあり、知られざるリスクが存在するような場合には、個人的な評価のみに偏りがちになるという性質もある。



表I

3種類の工作機械の「危険性」による認識区分


機械の「危険性」評価



生徒による評価


作業所教官および実習主任による評価


最も危険度が高い

手動制御旋盤およびフライス盤

数値制御旋盤およびフライス盤

グラインダー


グラインダー

手動制御旋盤およびフライス盤

数値制御旋盤およびフライス盤

最も危険度が低い


表II

災害リスクと予防手段の認識:作業所教官および実習主任の見方


推定「危険度」による機械区分
(危険度の高いものから低いものへの順)

特定されたリスク リスクに対する予防手段

1.グラインダー
削りくずの飛散
保護メガネの使用を厳格に義務化
教官のコメント:
「機械生産科目のバカロレア生徒は時折ここで働き、しかも最終仕上げの作業をするだけなので、彼らはメガネの使用を義務づけられていない」


2.手動旋盤、
フライス盤

裸の手作業による

- 棒材(加工材)
- 切断片
による衝撃


加工、清掃、機械運転中の切片、工具破片の飛散

- 手袋の着用

- 安全靴、一般の靴(テニス靴を除く)の使用

- 作業服の着用

- 機械を停止した後の清掃

- ケーシングの閉鎖

3.数値制御旋盤、
フライス盤

工具の取り付け、取り外しの際の衝撃


プログラム・エラーによる加工の際の加工品の飛び出し


- 「機械を警戒する」

- プログラムを確実に制御する

- 最初に工具を加工品に近づける時は低速で始動する



表III

災害リスクと予防手段の認識:第一年次「機械生産技術」課程生徒の見方


推定「危険度」による機械区分(危険度の高いものから低いものへの順)

特定されたリスク(N*) リスクに対する予防手段

1.手動旋盤、
フライス盤

- 削りくずによる切り傷(2)

- 削りくずの飛散(2)

- 電気:古い、保守の悪い機械(1)

- マンドレル上のスパナ(1)

- 長い髪(1)

- 作業服(3)

- 履き物(3)

- かぎ(1)

- 手袋(1)

- メガネ(1)

- 加工の間、加工品の正面ではなく、斜めの位置にいる(1)


2.数値制御旋盤、
フライス盤

- プログラム・エラー、加工品、工具破片の飛散(3)

- ハンマーで手を打つ(1)

- プログラム・エラーで工具が加工品に戻る。加工品がはずれる(1)


- ケーシング(全生徒)

- 緊急停止装置(3)

- 内部テスト(2)

- 始動速度(1)

3.グラインダー

- 切りくずの飛散(1)


- メガネ(1)

(生徒14人に聞く)

*リスクとそのための予防手段の数字は、生徒によって取り上げられた回数。



4. 企業研修


これら高校生は教育訓練課程の途中で、2年間にわたり16週間に及ぶ企業研修を行わねばならない。職業バカロレアのための企業研修に関するガイドブックが述べているとおり、企業研修は職業訓練の重要な一部となっている。

研究という面からすれば、企業研修がそれだけで完全な調査対象の一つとなることは明白である。企業研修ともなれば、高校生といえども現場の安全条件にすっかり浸かる宿命なので、我々としてもすぐにも質問を連発したくなる。この最初の実地体験は職業生活の手ほどきに他ならず、高校生たちに特別な意味を与えている。たとえばとりわけ安全面での労働条件に関する体験が、学校の作業所の労働条件にどう影響するかを考えてみることができよう。この場合とくにぴったりとあてはまる、高校生が賛同しやすい安全問題解決モデルが果たして存在するのであろうか。

今回のこの調査においては、我々は企業研修を受けた高校生に対して、個人的経験に基づいて判断する限り、職業リセ内の作業所における作業と企業研修のどちらがより有効な就職への下準備となったかを尋ねた。

研修の間に14名のうち11人の高校生が、実際に製造工場で働いた経験者であるという点を断っておきたい。旋盤及びフライス盤といった手動制御の機械が大半であるが、曲げ加工および溶接加工の機械でも作業している。残りの3名の場合は、塗装から石工事に至るまでの雑多な作業を経験した。

14名が意見を述べてくれた。14名のうち8名は、学校の作業所の方が良い訓練になるとしている。というのも彼らの話では、企業研修では手動機械での大量生産をこなす仕事をさせられるからである。「企業ではとくにこれは良い経験になるというような作業をするわけではなく、従来通りの流れ作業の場に配置され、大量生産の作業を担当することになる」。2名の高校生は、企業研修が将来の職業、もっと正確に言えば将来自分たちを待ち受けている現実に対する格好の準備となるとしている。4名の高校生は、学校の作業所と企業研修の両方が役に立つと述べ、両者の補完性を強調している。企業では作業の現実的条件で参考になるし、学校の作業所では手動制御機械による研修が参考となるという。

技術教官は研修期間中に、企業研修が順調に進行しているかどうか確認することになっていて、その名目で研修現場を訪問できるとされている。我々も機械部門の4企業(大企業1社と中小企業3社)を訪問した結果、高校生たちが企業の安全への考え方をそのまま鵜呑みにしている事実を確認した。わかりやすく言い換えれば、安全管理部が設置されている大企業の場合、研修生の職業訓練に際して一連の災害リスク関連資料が研修生に配布されていて、その配布された資料の内容が研修終了時の報告書の中にまるまるコピーされる頻度が高いのである。

我々が訪問した中小企業においては、作業員の安全性は訓練対象ではなく、中小企業は経済的困難さに直面していることから、熟練した腕を持ちしかも無料で使える研修生という労働力を、即座に生産現場に配置するというやり方も仕方がないものと思われる。

研修中に自分たちがさらされるリスクについて質問されると、研修生の大半は切り屑が飛び散る危険をあげ、個人的には毒物のトリクロエチレンを使った塗装、手や足の切断、アークの飛び散り、心棒にはさまりやすい洋服の袖、機械まわりのスペースの狭さといったリスクをあげる。こうした職人の卵たちの話しぶりを聞く限りでは、こうしたリスクはすでに「普通」と考えられていて、職業生活の一環をなし、特別な情報なり訓練の要請を生むこともないようである。

リスクに対するこうした態度は、事故にあった高校生に対して行われた対面調査においても見受けられる(テボー=モニーその他の1995年の著作)。10に及ぶ専攻論文からなるこの研究では、当該高校生たちが労働災害をどうとらえているかについて述べている。ほとんどの場合労働災害は当該高校生による個別責任と受け止められているか、たまたま運が悪かったからであるとされている。25才未満とまだ若い当該高校生たち全員は、これは個人的問題であり各自が自分なりに管理すべき問題であるとしている。高校生の誰一人として、労働災害が作業の当然の結果発生したとか、作業のセッティングミスによるという見方をしてはいない。それゆえテボー=モニーその他からなる著者たちと同じように、我々もまた職業リスクに対する情報提供という面での職業リセの役割を考えてみることにした。たとえば、この役割が教官に割り当てられたと仮定した場合、教官は高校生たちに対して危険な状況の際に説明を求めるように教えたり、説明が聞けないような場合には危険からの撤退権を利用して、労働拒否さえもするように教えることが果たしてできるのであろうか。同じように、研修員を受け入れてくれる企業を見つけ出すのに四苦八苦しているのに、たとえリスク分析の観点から必要な論理的解明のためとはいえ、高校生が研修先から職業リセに戻ってきた時点で、念のために高校生各自が研修現場で経験した状況をもう一度教室で再現してもらうような、いわば相手を疑ってかかる方法を推進しても良いのであろうか。

タンギー(1991年の著作)が述べているように、企業はなによりもまず生産の場であり、一定の条件がそろって初めて見習い研修を受け入れ可能となる事実は、今更いうまでもない。とくに必要なのは、中等教育機関(中学その他)における職業オリエンテーションのプロセスにおける、地元企業の代表の積極的参加条件である。



結論


職業リセにおける安全管理の導入は、まず安全衛生委員会(CHS)のような規制担当機関を通じて行うべきであり、各種機関のパートナーシップ(教育省、INRS、CNAMTSが職業リスク予防教育のために行う相互協力)を制度化する意欲を打ち出すことで強化されよう。しかしながらこの論文で紹介された分析によれば、学校機関が引き受けるこうした機運を永続化し増幅するためには、「安全文化」を発展させることが望ましいことが判明している。「安全文化」の追求というのは事故や偶発事の分析を行い、作業所で行ういくつかの労働状況に共通する、事故を生みかねない要因を突き止めることを意味する。予防のための分析方法をとれば、衛生・安全委員会の前で安全問題の解説をする機会にもつながるし、そうした動きを通して災害リスクに詳しい各関係者の反応および論争を呼び起こすきっかけともなる。我々の観点からすると、第三者による災害予防研究作業に対して、校長、教官、高校生といった関係者がもっと強く関わりをもって支援する必要があるし、当該研究を行う第三者の側も、もっぱら安全面を中心としつつ、決定、訓練、調整の各段階をしっかりフォローする役割を果たしてほしい。

 

企業研修は、安全についての責任問題の潜在的な大黒柱の一つとなっている。なぜなら企業研修は、高校生たちが将来の職場環境で災害リスクと向き合う良い機会であり、とりわけ重要な時期に他ならないからである。研修生を受け入れてくれた企業を訪問した際に確認できたように、高校生は企業が持っている安全への考え方を直接鵜呑みにしてしまっている。災害リスクに関心の高い人間を研修生の教育係として選ぶことがいかに大切であるかは、リスクに関する各種論文においていかなる異論もなしに主張されている。しかしリスク分野での慣行は、全く旧態依然たる状況である。一般的にみると、企業研修に参加する研修生をどのように迎え入れるかは、ほとんどのケースで現場チームにその問題に関わるだけの余裕がないという事情から、手つかずのままである。何人かの教官は、職業リセの実業界に対する依存関係を指摘してくれた。職業リセには実業界と対抗できるだけの力がなく、実業界の前には弱い立場でしかないという意識こそが、安全面で企業側にあまり強いことは言えず、かなり受け身な立場をとる原因となっている。

 

生徒側に関して言うと、リスク管理に関する教育訓練が行われていないにもかかわらず、職業リセの高校生にはリスクについてそれぞれ個別の認識が備わっていることが、今回の調査により判明した。この状況からして、技術教官がなんといっても一番重要な役割を与えられていることがわかる。技術教官は高校生が自然に模範とする人間であり、技術教官がリスクに対してとる態度・慣行こそが、高校生が日常的に目にする良き参考例なのである。こうした理由からして技術教官は、間違いなく鍵を握る人物であり、リスクの制御に関する職業訓練システム設置において、避けて通れない人物なのである。



参考文献一覧



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