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アイルランドの建設業安全パートナーシップ(CSP)

(資料出所:European Agency for Safety and Health at Work発行
Systems and Programmes - How to Reduce Workplace Accidents」)

(訳 国際安全衛生センター)

原文はこちら


3.7 アイルランドの建設業安全パートナーシップ(CSP)

企業・貿易・雇用省

背景

建設業安全パートナーシップ誕生の契機になったのは、この産業の急激な拡大を背景とした死亡および重大災害への懸念が広がったことである。建設業はかつてない好況を迎え、1999年末までの8年間に労働者数は倍増して15万人に達した。

労働大臣、各企業、政府機関などでの議論をへて、1999年10月14日、労働大臣、建設業連合会会長、アイルランド労働組合会議書記長、安全衛生委員会(Health and Safety Authority)議長が協定を締結した。

キーポイント:

  • この取り組みは、アイルランドの建設業の長期にわたる好況を背景とした死亡および重大災害の増加に対する幅広い懸念が契機になった。
  • 政府と参加企業、団体は、建設業の一般的な安全意識を根本的に変化させるために努力することを確認した。
  • 具体的な展開方法は公開され、定期的に評価してゆく。
  • 死亡災害件数の現在の推移は効果が見られる。

建設業の一般的認識は安全衛生をあまり重視していないとみられている。安全管理体制は弱体である場合が多く、高所からの墜落・転落、現場用機械、電気、掘削にからむ死亡および重大災害の件数は、容認し難い水準になっている。死亡労働災害の10万人率は、1996年には同産業の欧州平均以下の10.9だったが、1998年には16と最悪の水準に達した。表1は主な統計データを示している。

表1. アイルランドの建設業の主な災害統計データ(1996年−2000年)

1996 1997 1998 1999 2000
アイルランド建設業の労働者数(注1) 101,000 110,000 126,200 142,100 166,300
負傷者数(休業4日以上)(注2) 1,500 1,900 2,300 2,100
業務上の負傷発生率(10万人率) 1,485 1,820 1,620 1,263
死亡災害(注3) 建設業の直接の被用者(自営を含む) 11 15 19 16 15
建設に従事していた他産業の労働者 1 3 2 1 5
建設作業で負傷した休業者 3 1 2 4
建設作業による死亡者数合計(1989年業務上の安全衛生福利厚生法の規定) 15 18 22 19 24
建設業の直接の被用者の死亡災害10万人率 10.9 13.6 16.0 11.3 9.0
備考:欧州共同体全体の建設業の死亡率は、入手可能な最新データである1996年で、10万人率13.3(注4)

(注1)四半期全国世帯調査(Quarterly national household survey : QNHS)、中央統計局(Skehard Road, Cork)
(注2)四半期全国世帯調査(QNHS)
(注3)安全衛生委員会データ
(注4)Statistics in Focus、 「EUにおける業務上の災害(1996年)」(ユーロスタット)

この計画の安全衛生上の目標

この取り組みの目標は以下のとおりである。

  • 経営者と労働者が安全な建設現場のために協力できる仕組みを提供すること。
  • 建設業の安全衛生に対する一般的意識を根本的に変革すること。
  • 災害発生率を、国内の他産業や、この面で最高の成績をあげているEU加盟国なみに減らすこと。
  • 建設労働者の健康保持レベルを向上する。又、同産業の福利厚生と労働条件全体を、国内他産業なみに引き上げること。

計画と実行

建設業安全向上計画

協定に基づき、三者機関としての建設業安全パートナーシップ(CSP)が設立され、その目的を、建設業内で考えうる最高の基準の達成に置いた。CSPは1999年11月1日に第1回会合を開催し、3カ月以内に全関係者が合意できる建設業安全計画を策定することを確認した。CSPは、2000年に定期的に会合をもって進捗状況を監視し、2001年4月に初年度の成果についての報告書を発表した。

CSPは、1999年11月から2000年2月まで集中した会合を連続的に開催し、2000年2月28日に、建設業の安全衛生と福祉の改善を目的とした2000年から2002年までの安全パートナーシップ計画が開始された。計画は意欲的で、建設業の安全衛生意識の根本的変革に向けた土台づくりを目的としている。

計画の実行

取り組みの対象は建設業全体で、業務のあらゆる側面に狙いを定めている。当初の計画は2000年から2002年までとなっているが、その目標は高く、実現には何年にもわたる関係者の継続的な取り組みが必要だと認識されている。計画を正式に開始したのが雇用・貿易・消費関係大臣であることを考えると、政府が計画をいかに重視しているかがわかる。

計画で合意された対策は、主に4つに分類できる。

  • 安全協議
  • 安全研修
  • セーフティマネジメント・システムなど
  • 安全衛生委員会の活動

安全協議

建設業安全パートナーシップ委員会

この委員会は、計画に基づいて、戦略の立案とその実行監視のために設置され、以下の団体メンバーで構成された。

  • 建設業連合会(CIF)
  • アイルランド労働組合会議(ICTU)
  • An Foras Aiseanna Saothair(FÁS)(注5)
  • 政府契約委員会(財務省)
  • 環境・地方政府省
  • 企業・貿易・雇用省
  • 安全衛生委員会(HSA)
(注5)アイルランド研修・雇用機関

安全な労働をめざす協議

労働者数が20人を超える現場では、安全代表者の設置を義務付けるという建設安全パートナーシップ計画の提案が実行に移されることになった。

安全代表者の先行プロジェクトにはHSAとCIFが資金提供し、2人の世話人を選任して2000年に実施された。世話人の1人はCIFが、もう1人はICTUが選任した。先行プロジェクトの目的は、選定した建設現場で、現場管理者と労働者間の協議を確立することにあった。世話人は、CIF、ICTU、HSAの支援を得ながら合同で建設現場を訪れ、安全代表者の選任を奨励した。

労働組合と事業者で構成する合同安全委員会が、計画に基づいて設置され、情報、普及、調査で協力することになった。

建設業での安全監査体制の継続的見直しが、HASとの協議に基づき、ICTUとCIFによって実施されている。

安全研修

「FÁS安全パス」は、FÁSがCIF、ICTU、HSAの協力で立案した1日安全自覚プログラムで、すべての建設労働者に義務付けられる。

また足場、プラント・オペレーター、クレーン運転手、玉掛け・合図担当など、きわめて危険な一連の作業担当者に対し、建設技術力証明書の保持を義務付けることになり、2003年中頃にかけて段階的に実施される。建設技術力研修プログラムは、すでに関連する分野で実施されているが、FÁSはこれらのプログラムの実施体制を検証し、需要に対応できるようにする。

CIFとICTUは、安全管理者と安全代表者向けの大規模な研修プログラムの実施を予定している。

セーフティマネジメント

CIFはセーフティマネジメント研修を増やし、セーフティマネジメント・システムを開発する。

安全衛生委員会の活動

CSP報告書の勧告を実行するための建設関連規則の改訂が進むなか、法律の見直しが行われている。HSAは建設業の監督に振り向ける資源を拡充し、監督回数を実質的に倍増する方針をとっている。監督官は現場訪問のたびに安全管理者、安全代表者と必ず面会し、あらゆるケースについて報告書のコピーをわたす。2001年末までに、屋根での作業、建設でのクレーンの使用、および福利厚生についての行動規準が策定される予定である。

得られた経験と効果

安全代表者普及試験プロジェクトのプロジェクト管理委員会が、2000年2月から同12月までの進捗状況の報告書(注6)をCSPに提出し、多数の結論を導き出している。

(注6)「安全代表者普及試験プロジェクト、プロジェクト管理委員会から建設安全パートナーシップに対する2000年2月から同12月までの年末報告書」(コピーはダブリンの10 Hogan Place、HSAライブラリーにある)

報告書ではいくつかの問題点が指摘された。建設産業の当初の支持と協力は積極的とはいえず、また世話人は、経営側の問題として安全を労使関係の道具に利用するおそれがあることを指摘した。労働者の信頼を強め、安全代表者の役割を担うよう奨励する点でも、問題があったとみられている。これらの問題を解決するため、プロジェクトへの懸念解消を目的とした指針が作成された。このようにプロジェクト開始後の数カ月間、世話人はもっぱらプロジェクトの意義を強調し、信頼を確立するために時間を費やした。結局、プロジェクト参加企業は2000年12月までに132社になった。プロジェクト開始以来、建設業での安全に対する自覚は目に見えて高まり、現場に活動的な安全代表者を設置することの利点が強く認識されるようになった。開始から1年で、100人の安全代表者がICTU・CIF合同研修講座を受講した。

現時点で成果があったといえるのは、以下の分野である。

  • 安全研修の分野。FÁS安全パス・プログラムが策定され、2000年上期中に試験運用および評価が行われた。下期の焦点は、CIF、FÁS、建設労働者の労働組合によるFÁS安全パス講師プログラムに当てられた。現在までに合計118人の講師が研修を経てFÁSからプログラム実施者として認定され、1,350人以上の建設労働者が研修を受けて登録されている。講師の研修は2001年も実施し、FÁSは需要に見合う形でプログラムを実行する。FÁSの推計では、建設業での安全パス研修を完全に実施するには、さらに200人の講師が必要になる。講師の仕事ぶりの監督は2001年中も続け、安全パスを発行する全講師が、必要な水準を維持できるようにする。FÁSの安全パスは、すべての実習制度に組み入れられる予定で、ダンドーク、ダブリン、アソロンなどの東部地域ではすでに組み入れられている。
  • 経営者向けの安全研修プログラムも大きな成果をあげた。CIFがセーフティマネジメント講座の数を増やしたからである。CSPの初年度中、1,000人を超える経営者が各種の講座を受講した。
  • CIFと労働組合が、安全管理者と安全代表者向けに大規模な研修プログラムを実施している。ICTUとCIFが、ダブリン、コーク、ゴルウェー、リマリック、ウォーターフォードで10の講座を開講している。
  • きわめて危険な作業に従事する労働者向けの建設技術力研修プログラムの回数を増やしており、2003年中頃までの証明書の義務化によって発生する需要に応える。各分野での研修の規模を、規則改訂で発生する需要に対応できるようにすることが、きわめて重要であると認識されている。
  • 安全研修に加え、CIFと、両アイルランドの事業者を代表する建設事業者連盟(CEF)が、2000年10月にSAFE-Tセーフティマネジメント・システムの運用が開始された。このシステムは国際的指針とCSP勧告をふまえたもので、独自に監査を受ける。
  • 労働者が20人を超える現場での安全代表者の設置促進、安全パスおよびCSCSの認証と監督、よりよい福利厚生施設の提供という条件を義務付ける建設関係の規則改訂が草案段階に至り、2001年には施行される見込みとなっているなか、これに関連した法律の見直し作業が進展した。

全体として、全関係者の緊密な協力が成功の誘因となっている。

効果

CSP報告書の主な勧告は以下のとおりである。

  • 安全衛生問題への労働者の意見を反映する機会を拡大すること。
  • 対象者全員の安全研修の義務化に法的裏づけを行うこと。
  • 規則策定と、回数を増やした立入検査実行の両面で安全衛生委員会の関与を拡大すること。

プロジェクト開始から1年経過し、CSPは、建設業の安全衛生と福利厚生について、事業者と労働者代表組織、そして政府機関の共同作業が大きく前進し、さまざまな形態で緊密に協力して活動するようになったことを報告できる。

特に、事業者と労働者代表組織のメンバーを世話人にした安全代表者試験プロジェクト実施を決定してから、100カ所を超える現場で安全代表者が選任された。FÁSの安全パスプログラムは、すべての建築業労働者に義務付けることになっているが、すでに大きな成果をあげており、多数の企業が自主的に参加している。安全衛生委員会は、活用できる人員が増加したことにより、立入検査の回数を2000年の4,500回から2001年には7,000回(計画段階)に増やすことができた。また1995年の労働における安全衛生および福利厚生規則(建設)の見直しを完了し、CSPの重要な勧告を義務化するための法的裏付けが整った。

死亡災害の発生率が、最高だった1998年の10万人率16から減リ続けていることは大きな励みになる。この傾向はプロジェクト以前からあったが、建設業の労働者数が増え続け、これに伴なって未経験の労働者の新規流入が避けられない状況をふまえると、減少傾向が維持できたことが重要なのである。CSPに基づいて追求されている各種の取り組みが効果をあげ始め、2000年の死亡発生率が1996年より減少した一因になったとみられている。

建設業における低水準の安全衛生および福利厚生を見過ごすことはできないとの認識が、プロジェクトを強く後押しした。関係者全体の誠意が、困難な問題についての合意形成を促した。

他の分野への適用可能性

主要な関係者の協力によるパートナーシップという手法は、他の分野でも十分に適用できるとみられる。産業の労使双方、関係する政府機関の緊密な協力が大きな信頼関係を生み、それが困難な諸問題についての合意形成につながったのである。

詳細は下記まで。

Jim Heffernan
Health and Safety Authority
10 Hogan Place
Dublin 2
E-mail: jim@has.ie

Fergus Whelan
Irish Congress of Trade Unions
31-32 Parnell Square
Dublin 1
E-mail: fergus.whelan@ictu.je