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安全衛生の主要方針

「革新的な労働災害防止戦略(イノビジョン2005)」
−安全で衛生的な産業社会を実現するための戦略−

資料出所:季刊「韓国安全衛生ニュースレター」2002年秋号
(仮訳:国際安全衛生センター)

原文はこちら


最近の産業構造と環境の変化のなかで、小規模企業や臨時労働者が増大するなどの構造的要因により、安全管理への懸念が強まっている。企業が提供する顧客サービスへの要求は高まる一方であり、人的資源を守ることがいっそう重要になってきている。こうした傾向に加え、安全衛生対策の標準化に向けた国際的な流れが形成されつつあり、貿易障壁が全面的に導入されてきている。このように我々を取り巻く環境は急速に変化しつつあり、世界の産業界は、この動きに乗り遅れまいと全力をあげている。

こうした状況をふまえ、2002年7月9日に韓国産業安全衛生公団(KOSHA)が発表した「イノビジョン2005(Inno-Vision 2005)」は、産業界に対し、この機会をとらえて労働安全衛生を改善するための迅速な行動を促すメッセージを発している。

「イノビジョン2005」は、2005年までに災害発生率を先進国並に減らすことを目的とし、「安全で衛生的な産業社会を推進する」という使命達成のための具体的戦略を盛り込み、これまでの災害防止プロジェクトの総合的な実績を検証、評価するとともに、取り組むべき優先課題を定めている。

そのためにまず、ハイリスク企業を段階的に監視、支援するため、災害が繰り返し発生している15,000社を選別するとともに、労働環境のリスクが基準より高くなっている6,000社を特別に管理する。またKOSHAは、高いリスクにさらされ、安全対策が不十分な労働者の管理に重点を置き、農業、林業、水産業での安全衛生管理活動の支援、女性労働者の健康保護、従業員5人未満の小規模企業への「安全支援担当者」(Safety Helper)による支援に取り組む。以下は、この戦略の主なポイントである。
注:「イノビジョン(Inno-Vision)」」とは「イノベーション(Innovation)」」と「ビジョン(Vision)」」の合成語

1.背景

  • 低下しない労働災害発生率

    KOSHAは、15年間にわたる多様な災害防止対策の立案、実行を通じて、1995年以降は災害発生率を1%未満に抑えてきた。しかし近年は、発生率の改善がほとんど見られなくなった。

  • 労働安全衛生をめぐる環境の劇的な変化

    労働安全衛生をめぐる環境は急激に変化し、高リスクの小規模企業と臨時労働者が増えたために構造的な災害要因の増大につながっている。また顧客サービスへの需要増大に伴なう人的資源保護の重視や、国際的な標準化の動き、貿易障壁の強化といった要因もある。

    < 従業員5人未満の企業の増大 >

    2000年12月31日 2001年12月31日 増加数 率(%)
    企業総数
    (5人未満の企業)
    706,231
    (430,212)
    909,461
    (588,721)
    203,230
    (158,509)
    29
    (37)
    負傷者総数
    (5人未満の企業)
    68,976
    (8,139)
    81,434
    (17,324)
    12,458
    (9,185)
    18
    (113)
    (出所:労働省)
  • 変化に対処し現在の課題に取り組むための戦略

    こうした環境の変化に対応できる中核能力を高め、革新的な災害防止戦略をもつ必要があったため、我々は中期的な災害防止戦略として「イノビジョン2005」を策定し、実行してきた。

2.ビジョンと戦略
  • 我々はKOSHAの管理政策を、「企業活動」「顧客」「人的資源」「文化」の4つのカテゴリーに分類した。

    −最高の技術的能力を実証する
    −最高度の顧客満足を実現する
    −先進的な人的資源管理
    −革新的な企業文化

  • 「イノビジョン2005」では、「ナレッジベース・マネジメント(knowledge-based management)」「企業活動革新の管理」「顧客管理」という3つの管理戦略を策定し、KOSHAがかかげる「安全で衛生的な産業社会の促進」という使命の達成に向けて管理政策を実行する。
    < ビジョンと管理戦略>
3.主な活動
  • 労働災害の高リスク・グループの改善活動への支援

    「一般技術支援」を再編成し、災害防止を目的とする同種の技術支援プロジェクトを統合する。災害が頻発する高リスク企業を段階的、総合的に支援する(15,000社)。労働環境のリスクが基準を超えている現場を改善する(約6,000社)。職業性疾病防止システムの広域ネットワークを構築、運営する。安全対策の実施条件が不十分な建設企業を支援する。

  • 高リスクで安全対策が不十分な企業の災害防止活動への支援

    新興企業など、高リスクで安全対策が不十分なグループを、技術、資金、研修面で支援し、安全衛生への理解を促す。農業、林業、水産業および女性の安全衛生面での保護を支援する。危険有害物質の輸送問題に対処する。従業員5人未満の企業を安全支援担当者によって支援する。

  • 機械、装置、施設の安全性向上の支援

    機械、装置、施設の品質と使用における安全対策を支援し、企業の国内外での競争力を高める。製造物責任法に関連して品質、安全、リスクのアセスメントを支援する。工程と施設に対する精密診断システムを導入する。安全証明機関の設立と、総合研究所の運営を通して認証制度を拡充、再編成する。プレス機など危険な機械と工具を対象とした定期点検を再開する。独自の監督官を育成し、政府の資金支出による監督支援を拡大する。

  • 安全衛生技術に関する研究開発の活性化

    労働災害防止プロジェクトや国家的な安全衛生政策の確立と技術の標準化を通じて、衛生面から韓国の競争力強化を後押しする。問題点を絞った活発な実用的研究開発を指導する。研究活動を職業性疾病と関連疾病の分野で強化する。危険な施設と工程を改善するための技術開発と普及に努める。安全衛生対策を標準化する。労働災害に対する監督の範囲を拡大する。同種の災害の発生を防止するための対策を確立する。

  • 安全衛生に関する技術情報サービスの拡大

    多様な要求に応えて技術情報の拡充と普及をはかる。情報インフラを確保し、安全衛生関係者のコミュニティを拡大する。各産業別に安全衛生実践ハンドブックを作成、配布する。高速通信サービスのインフラを構築する。インターネット放送局を運用する。総合的なナレッジ・マネジメント・システムを実行する。有料または無料の技術情報サービスの一層の普及に努める。

  • 先進的な安全衛生マネジメントシステムの支援

    企業経営者を支援するための安全衛生サービスを拡充する。先進的な安全衛生マネジメント手法を開発、普及し、自主的な安全基盤の確立を促す。化学物質安全衛生情報センターの設立など危険有害化学物質管理システムを構築する。安全衛生マネジメントシステムを支援し、認証制度を活性化させる。工程安全報告書を提出する企業数を増やし、専門的検証を確保する。製造と設備、移転に関する事前コンサルティング・システムを導入する。リスク要因防止計画を提出する建設企業を増やす。

  • 研修生に重点を置く安全衛生研修の拡充

    労働者の要求に応えて安全衛生研修コースの内容を充実させ、労使の安全衛生活動を支援する。災害減少に大きく貢献するようなコースを設け、運営する。幅広い分野の研修支援センターを設立し、専門的な研修プログラムを拡充する。指導者プール制度を運用し、定期的なコースを開設する。企業内での安全衛生研修総合サービス・システムを導入する。危険な機械および施設の運用者向けのコースを開設する。冊子型の研修資料を作成し、活用する。

  • 安全衛生の具体化

    国民の安全衛生への認識を高め、実行内容の具体化を支援する。「良き隣人」制度(good neighborhood system)を通して「安全の日」を活発化する。学校での継続的な安全教育を支援する。「墜落・転落事故と疾病の半減」運動を促進する。KOSHAのイメージ改善に取り組む。研修、普及施設を備えた安全衛生展示館を建設する。民間の安全衛生団体の活動を支援する。

  • 労働災害防止プロジェクトの支援

    国家の安全衛生政策と災害防止プロジェクトの能率向上を支援するとともに、労働災害プロジェクトのために、現状に即した的確な戦略と情報を確保する。労働災害の原因に関する統計情報システムを完成させ、統計情報を改善する。国際的な交流と協力を拡大する。管理実績アセスメント・システムを確立する。ナレッジベース・マネジメントを導入し、安全関連規制の緩和につながる選択的な修正を主導する。

4.目標
  • 先進国並の災害発生率達成に向けた足がかりを確保する。
  • 環境的要因と顧客ニーズの変化に対応できる能力を確保する。
  • 管理方式の自発的な革新を進め競争力を強化する。