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世界一安全な職場
サムソン電子、「勝利の方程式」を手中に

資料出所:National Safety Council発行「Safety + Health」2000年12月号p57〜59
(訳 国際労働安全衛生センター)

National Safety Council(全米安全評議会) 国際ビジネス・ディレクター、トニー・スミス


韓国のトップ半導体メーカー、サムソン電子(三星電子)は、1991年から1998年8月にかけて時間的な損失を伴う労災を招くことなく、無事故操業2億1160万時間を達成した。彼らの記録は、世界一安全な職場として1999年の『ギネスブック』に載った。

それ以降も、同社は無事故操業を継続しており、2億5000万時間を超えている。

サムソンは、どのようにしてこのようなすばらしい記録を維持できているのだろう?韓国人は人と自然に対する敬意を非常に重視しているが、同社は、すぐれた成功を収める事業を経営するということが、こうした価値観と相反してはならないという信念を持っている。同社は、経営陣が安全衛生環境の問題に責任を持つと確約し、自社が環境に与える影響を評価し、包括的な安全衛生環境プログラムを作成することによって、問題に取り組んだ。


全社員の理解を得たコミットメント

継続的改善のプログラムに経営陣が責任を担うことが、この活動のもっとも重要な点であった。

「私たちは、安全衛生環境の問題に対しては一切予算の限度を設けません。安全で衛生的で環境に優しい工場の管理を確実なものとするために行うべきことがあれば、それを実行すべきです――それには議論の余地も制限もありません」と、社長兼最高経営責任者の李潤雨(Yoon-Woo Lee)は述べている。「何かを行うときに、安全で衛生的で環境に優しい方法でできないのなら、サムソンは一切それを行いません」

経営陣はこの理念を受け入れ、全労働者が理解している。その実践を確かなものとするため、李社長は、毎土曜日の朝、全部で60ある工場のそれぞれの上級管理者を集めて会議を行い、安全衛生環境の成果など、前週の成果について話し合うことにしている。

管理者たちは、自分たちの工場における前の週の成果をパワーポイントで発表し、惨事の一歩手前の事故と、安全衛生環境の問題に関連する基準から逸脱したすべての事柄を報告する。こうした事故と、それらが絶対に繰り返されないようにするためになすべきことについて、管理者が常に調査を更新していくことも必要である。こうした点で管理者が失敗を繰り返すと、出世にもひびきかねないのである。

会議は、問題や懸念事項を検討するために活用される。最近の会議では、EHSの取締役Min-Sik Kuが、全員に対してコンベヤーシステムのモーターの過熱を原因とする、新たに確認された危険を説明し、一方で該当する工場の管理者が、そうした事態が生じた経緯を発表した。討議の後、問題を排除するためにコンベヤーシステムを交換しなければならないということで合意に達した。

これらの会議の間、社長は前週中の労働者の実績に対する表彰も行う。「私たちは、安全衛生環境に労働者が関わっていくようにし、またそうした関わりを永続的なものとしなくてはならないことを認識しています。私たちは、身をもって適切な範例を示すことによってのみ、労働者の安全衛生環境への関与を実現できるのです」と、李社長は強調する。


緑を考える

環境に責任をもって取り組む経営陣により、サムソンのプログラムにおける次のステップは、環境への影響を最小限にすることであった。

まず、製品の正確なライフサイクル・アセスメントを確保するために、周到なプログラムが実行された。こうしたアセスメントにより、製品と部品の耐用年数を予測する。

次にこの情報は、製品または部品の耐用年数が終了した際の分解、再利用、および適切な廃棄方法へとまとめられる。サムソンはさらに再生可能な包装材料に切り替え、使用する包装を減らし始め、エネルギー効率が良く、エネルギー節約につながる製品の製造を開始した。

第2に、サムソンは環境にさらに優しい製造工程を採用した。これには、従来よりクリーンな燃料へと変更して、二酸化炭素、すべての空中の粒子、およびすべての形態の温室効果ガスの排出を削減することが含まれる。同社はさらに、地球のオゾン層を破壊するおそれのある化学物質を製造工程から締め出した。

さらに、サムソンは水を消費する工程を排除し、産業用水を最大限に再利用することによって水資源の保護に焦点を合わせた。同社の化学的再生システムがこの例であり、半導体工程に使用された廃水を処理して、硫酸を回収して再利用する。この方法だけで、サムソンが使用する硫酸の量は50%減少した。

こうした努力の成果として、同社の環境に優しい製品は、米国のEnergy Star、ヨーロッパのVDE Energy Label、ドイツのBlue Angel、およびスェーデンのNordic Swanの各規格を満たした。1996年には、同社は原料およびエネルギー利用の効率を最大限にするために設計されたプログラムについてISO 14001認証を取得した。

職場の改善が、「緑化」の第4番目の領域であった。サムソンは、快適で安全で衛生的な作業環境を確実に存続できるよう、あらゆる努力をしている。労働者は自分の行動を通じて環境への悪影響が一切発生しないようにすることに特に力を入れるよう求められている。人間が時々間違いを起こす傾向があるという認識に立って、この活動は水や空気の品質を常に監視する、遠隔測定システムによって支えられている。

第4番目の「緑化」運動は、地域社会に焦点を合わせることであった。サムソンは、地域社会と共存して繁栄を分かち合わなければならないことを理解している。同社は、サムソンとその請負業者で職を創出することにより、また環境保護や再生計画によってこれを達成するよう励んでいる。

たとえば、各工場は、環境浄化活動のために川と山をひとつずつ管理するよう要求される。ちょうどソウル郊外のキフン(Kiheung)にあるサムソン工場による最近の構想のひとつは、ハン川をきれいにすることであった。この川はソウルを流れているだけでなく、韓国でも指折りの大河川であり、サムソンの多くの工場敷地に沿って流れている。

サムソンは政府当局者、市民グループ、教師、学校の生徒、および地域市民に対し、環境問題に関する教育と研修を行った。同社は生態系保護地域の保護に貢献している。この工場は地域の学校との密接な関わりを構築し、環境への関心と行動を促進し、地域の大学において汚染に関する調査活動を支援することを義務としている。

サムソンはまた、同社が基本的な環境問題と環境保護の必要性について確実に理解するよう、供給業者や下請業者と密接に協力している。同社の構想の一つが、供給業者や下請業者がサムソンと同じ基準と方針に従うことを確実にするために、彼らと協力して作業を進めることである。供給業者は、可能性のあるすべての害を確実に確認しサムソンに連絡するよう、詳細な評価を実施する必要がある。


効果を発揮するプログラム

サムソンの安全衛生環境プログラムには、総合的な研修プログラムと健康推進プログラムの両方が含まれる。キフン工場でその具体例が見られる。ここではコンピュータ製造メーカー向けに高性能D-RAMチップが製造されている。

キフンでは、最新式の安全教育研修センターにおいて全労働者を対象とした研修が開始されている。ここでは新しい労働者が携帯式消火器の使用を実践することができ、実際に消火器を使用する感覚を得られる。これは圧縮空気を使用することによってシミュレートされる。

労働者はスプリンクラーシステムの作動する様子を見学し、個人用保護具の使用方法、バルブシステムやその他の安全装置の操作を学ぶ。新入社員は、化学物質の取り扱いについて特別な研修を受け、救急研修および人命救助のシミュレーションに参加する。これは特注仕様で準備された、広い火災・救急研修場で展開することができる。

各労働者は安全衛生環境の手順とルールに基づいて指導を受け、研修を行う担当者はすべての業務が標準的な操作手順に従うことによって遂行されるということを明確にする。キフン工場には独自の有人災害管理センターがあり、これが火災、爆発、洪水、その他の可能性がある災害を含め、敷地内の環境安全問題を常に監視している。社内には十分に設備が整った防火部門、現場の医療設備、および十分な研修を受けた緊急対応チームがあり、センターを支えている。

この工場は1日24時間稼動しており、現場には160人の安全衛生環境スタッフを抱えている。スタッフには、医師2人、看護師8人、歯科医、および皮膚科医1人が含まれている。防火設備には、消防車3台、消火器8,500個、消火栓1,500ヵ所、およびスプリンクラーヘッドが100,000個より多くある。こうした継続的な努力に加え、特別な作業環境評価および管理チームが年2回、工場の詳細な測定と評価を行う。

「私たちは、自分たちが危険な化学物質を取り扱っていること、そして自分たち自身と環境に対する悪影響を防ぐためにはかなりの配慮が必要であることを知っていますが、これまで優れた研修を行ってきましたし、事業主や職場の同僚からの支援を得ています」と、11年の勤続歴を持つサムソンの組み立て作業員Lim Pyung Sukは述べている。「別の会社に勤める友人に話すと、友人たちは私たちの活動に驚き、自分たちの事業主はサムソンのように熱心に安全問題に関心を持ってはいないと言います」

サムソンでは労働者の健康増進計画を進めているため、キフン工場にも、現場に最新の設備を備えた健康増進相談所がある。発生のおそれのあるバイオ・ハザードを確実に適切に管理するために、公衆衛生の面で厳密な監視が行われている。

さらに、全労働者が、2年に1回の総合的な健康診断と、毎年実施される定期的な健康診断を受けるよう義務づけられている。同社は、請負業者の長期被雇用者も、このスクリーニング・プログラムの対象としている。