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平成16年度JICAセミナー カントリーレポート(モンゴル)

資料出所:平成16年度JICA労働安全衛生政策セミナー カントリーレポート(モンゴル)
(仮訳 国際安全衛生センター)



モンゴルにおける労働安全衛生の現況

背景

 モンゴルは156万平方キロメートルの国土を持つ農業国で、平方キロメートルあたりの人口密度は1.4人である。
 2000年の人口は250万人で、労働力人口は全体の48.4%であった。現在、769,600人の労働者が3万社あまりの企業で働いており、そのうち30%は農業、林業、狩猟業、27%は鉱業、製造業、43%は公務員およびその他サービス業に就労している。
 1990年以前、モンゴルにおける企業は全て国営であったが、最近ではその20%が国営、43%が合弁、37%が民間という内訳になっている。1990年の民主化を境に、モンゴル経済は中央集権的計画経済から市場経済に移行した。その結果、中央集権のもとで機能していた大企業の多くが崩壊、民営化され、小規模企業に分割された。一方、中小企業の数は継続的に増加しており、従ってモンゴルにおける86%の企業が従業員50名未満の小規模企業となっている。
 1991年以降、特に金、銅、ホタル石採掘、繊維、カーペット、カシミヤ製造業を営む企業数が増えている。また、化学物質の消費も増えており、目下10,270種類の化学物質が使用されている。

1. 労働安全衛生関連法および規則

 モンゴルの労働安全衛生活動の規制に関する法的根拠やガイドラインは、政府決議で承認された13法と9規定、規則、それら法律の施行に関連して発行された2つの全国プログラム、41の労働基準、28の政府命令、そしてILO条約の第155号、182号、138号から形成されている。
 モンゴル労働法は1999年6月に改正され、労働者の健康に関する基本概念と、事業主、労働者の権利の一部を規定している。1997年に改訂された労働者補償法は、職業性疾病の一覧表を含み、失業保険の割合(給与の40〜70%)、医療保険について規定している。
 全国労働安全衛生プログラムは1999年より施行され、2001年に改正された。
プログラムの主な活動は以下の通りである。
  • 労働安全衛生規則、国家基準の開発
  • OHS監督の効率性の向上
  • 人材能力の構築
  • 健康的な労働環境、労働慣行の奨励
  • 労働安全衛生サービスの強化
  • 登録、データシステムの確立
  • 研究分野の強化
  • 労働安全衛生に対する適切な支援サービスの確立
2. 労働監督制度

 モンゴルの労働監督制度は構築されてから30年以上経つ。1970年に国家労働委員会が設立され、その後1996年の政府決議により、労働社会福祉省管轄下の独立政府組織として再編成された。労働社会福祉監督部は労働者補償、労災補償、福祉補償の監督および労働法の施行を担当している。
 2003年1月より、労働社会福祉監督部は、それまで独立していた検査局や部を統合し、新しく設立された特種監督局管轄下の健康監督部内の一組織として機能している。保健省は労働衛生に関する政策、評価、計画を行っており、労働安全関連の政策は労働省の担当である。
 モンゴルの行政機構は21の県と首都に分割されており、各県にはインダストリアル・ハイジニストと安全技師が一名ずつ配属されている。首都ウランバートルは9つの地区から成り、各地区にはンダストリアル・ハイジニストと安全技師が一名ずつ配属されている。しかし、30名の監督官では人数が不足しているため、担当の県およびウランバートルの全工場に対し、必要な監督、助言を行いきれていない状況である。
 インダストリアル・ハイジニストの主な役割は、職業ばく露や深刻な職業性疾病の調査、労働法、規則、労働衛生基準の実施である。
 インダストリアル・ハイジニストはサンプルを採取し、ウランバートルとその周辺地区を担当する産業衛生研究所に送付する。研究所で分析化学者がサンプルを分析している。

3. 健康診断

 労働者補償保険会社の職業性疾病センターには、約20名の産業医と専門スタッフが勤務している。その主な役割は、採用時検査、定期健康診断の実施、また、補償に関する決定を行うことである。現在、22種類の職業性疾病に補償が支給されているが、ほとんどの作業関連疾患に対してまだ補償が行われていない状況である。
 労働者の健康診断には、採用時検査と定期健康診断の2種類があり、定期健康診断の頻度と検査項目は、健康診断規則第137号の定める産業毎のばく露する作業区分によって異なる。事務職など、勤務中に有害物にばく露する見込みのない労働者はこれらの健康診断を受けることが出来ず、上記の健康診断を受けるのは、労働者の37%を占める、勤務中に有害物にばく露する業務に従事している者のみである。また、モンゴル企業の5.6%に、産業医、インダストリアル・ハイジニストが配属されている。

4. 労災補償保険スキーム

 労災補償制度は労働法と保険法により規定されている。労働法第97条は、労働者が労働災害あるいは中毒、職業性疾病の被災者で、働く能力の一部を失った場合、月平均賃金に相当する金額を9カ月以上、また、働く能力を全て失った場合には18カ月以上補償するように規定している。労働者が労働災害あるいは中毒、職業性疾病を原因に死亡した場合には、遺族に対し月平均賃金に相当する金額を36カ月以上補償しなければならない。
 現行の保険制度では、働く能力を全て失った場合は補償額の100%を支給し、一時的な障害の場合には比例配分した額を支給している。

5. 労災データと労災データ収集システム

 政府の規定では、事業主は労働災害に関するデータの収集、登録を担当する常設委員会を設置しなければならない。また、その委員会による調査結果は国の労働監督官によって承認される。過去3年間に、全企業の8.4%が関与した832件の労働災害が報告されており、その結果866人の労働者がけがをし、56人が死亡した。労働災害の71.9%が鉱業、建設、火力発電所で発生している。

 労働監督官は、労働者の職業性疾病、急性中毒について、政府が承認した手順に従ってデータの収集、登録をしなければならない。
 モンゴルで発生した職業性疾病の内訳は、職業性気管支炎が56.3%、塵肺症が16.8%、薬物中毒が8.4%である。また、これら職業性疾病患者の35.8%が、鉱山でのトラックあるいはフォークリフトの運転に従事する労働者であった。労働不能程度の平均値は48.4%、平均継続雇用期間は14.1年、患者の平均年齢は46.5才である。炭坑とホタル石鉱山における総粉じん濃度は、それぞれ48.9mg/m3と、15.6mg/m3となっており、これらの粉じん濃度は、炭坑でモンゴルの定める許容ばく露限界(PEL)の4.8倍、ホタル石鉱山で2.2倍である。そのため職業性疾病の79%が炭坑とホタル石鉱山で発生しており、近い将来、鉱山粉じんの化学的特性および物理的特性、粉じんへのばく露が健康に与える影響について研究する必要がある。

産業別労働災害件数(1966-2002年)




1992年から2001年の間に、労働災害件数は1.3倍、死亡者数は3.2倍に増加した。

労働者1,000人あたりの労働災害件数(1992-2001年)


6. 労働安全衛生に向けた研修、教育制度

 モンゴル国立医科大学は政府系研究教育機関であり、医学保健専門職に就業するための研修を行う学部課程、大学院課程を備えている。同大学はモンゴルでも有数の衛生研究施設のひとつである。

 大学院課程の医師に対する研修カリキュラム(3カ月)

(1) インダストリアル・ハイジニストの労働衛生−講義92時間、実技184時間
(2) 産業医の労働衛生−講義48時間、実技24時間
(3) インダストリアル・ハイジニストの職業医学−講義48時間、実技16時間
(4) 職業医学(3カ月)−講義92時間、実技184時間
(5) 労働衛生の大学院課程−2年
(6) 労働衛生の博士課程−3年

 職業医学の研修は3カ月で、臨床コースが2カ月、職業コースが1カ月という内訳である。

研究活動

 1997年、皮革なめし工場における職業性疾病事例と労働環境に関する調査を行った。また、1998年から1999年にかけて、銅山一か所と、複数の鉱山、ホタル石鉱山において労働環境の評価も実施した。
我が国は設備の揃った産業衛生研究所や高機能の測定機器を備えていないため、その他の労働衛生分野の研究を行えずにいるのが現状である。

重要課題

 労働安全衛生に関する政策を実施する際の重要課題は以下の通りである。
  1. 労働災害、職業性疾病の原因を究明する総合的研究と、減少に向けたメカニズムの強化
  2. 珪肺撲滅に向けたWHO、ILOの共同計画の実施
  3. 職業性中毒、疾病を予防するIEC活動の実施
  4. 小規模企業や、インフォーマルセクターでの労働衛生の促進
  5. データ収集、報告システムの改良、強化、労働災害データベースの構築