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ナイジェリア南西部の都市、農村部における腰痛
Low back pain among rural and urban populations in Southwest Nigeria
F. O. Omokhodion NIGERIA
資料出所:フィンランド労働衛生研究所
(FIOH:Finnish Institute of Occupational Health)発行
African Newsletter on Occupational Health and Safety
Volume 12, No.3, December 2002 「Work-related diseases」 p.57)
(仮訳 国際安全衛生センター)
原文はこちらからご覧いただけます



はじめに

 腰痛は、さまざまな職業において認知されている作業関連疾患であり、職場において最も一般的な筋骨格系障害である。腰痛は、工場労働者(Ref. 1, 2 )、医療従事者(Ref. 3, 4)、インフォーマルセクター(Ref. 5)の労働者の間で報告されており、悪い作業姿勢、かがむ、持ち上げる、そして厳しい肉体労働のような様々な職業上の要因が、腰痛に関連している。(Ref. 6
 先進工業国の報告によると、一般住民の間での罹患率は、香港(Ref. 7)21%、イギリスのブラッドフォード(Ref. 8)39%、デンマーク(Ref. 9)では 69%を示している。工業化があまり進んでいない国からの調査報告はほとんどないが、一般に罹患率はかなり低いものと思われる。このような低い数字は、これらの国で実施された一般健康調査に関する報告に基づいた結果である。こうした国々において罹患率が低い理由は、伝染病や貧困の結果起こる健康問題に直面する中、腰痛はたいして重大な問題ではなく、国民の間で実施される健康調査に報告されないからだということが言われている。腰痛の発生の具体的調査を行い、これが国民の間でどの程度の問題なのかを明らかにすべきである。住民の腰痛についての4つの調査が、ナイジェリア南西部の都市と農村部において実施された。

調査方法

 オヨ州イグブーラ(Igboora, Oyo State)の、農村地域の病院で働く医療従事者(74人)と一般住民(900人)の2グループを農村部における調査対象とし、一方、イバダン(Ibadan)の公務員(事務職員)(840人)とイバダンのイディカン(Idikan)地域の一般住民(474人)を、都市部における調査対象グループとした。
 4つの調査グループにスケジュールに基づいたアンケートを行い、年齢・性別・職歴・喫煙状態・学歴などの社会人口統計学的な数に関する情報を求めた。回答者には、調査に先立つ12ヶ月以内と調査時に起きた腰痛について情報を提供するよう求めた。腰痛の原因と防止に関する彼らの知識が記録され、4つのグループそれぞれについてアンケートをコード化し、分析した。

腰痛罹患率

 医療従事者の間で1年間に起きた腰痛の罹患率は46%で、腰部の痛みは、男性(37%)よりも女性(64%)の方が多く、年齢とともに罹患率は増した。最も高い罹患率は看護師の69%で、秘書・一般事務がそれに続き55%と報告された。(表1
 イグブーラの一般住民の間では、1年間の腰痛罹患率は55%であり、調査時点での罹患率は33%であった。女性(36%)より男性(44%)の方が高い罹患率を示した。農村部の住民は、大部分が零細商人、農業従事者、職人で、腰痛罹患率の最も高かったのは農業従事者の46%、最も低かったのは、零細商人の34%で、職人は40%であった。この調査においては、罹患率と年齢との関連性は認められなかった。職業として農業に従事している男性は、腰痛と密接に結びついていることが判明した。


表 1  農村地域の病院で働く労働者の腰痛
職業 男性
(人)
腰痛患者数
(人)(%)
女性
(人)
腰痛患者数
(人)(%)
総罹患率
(%)
医師  1 1(100) - - 100
看護師  2  1(50) 14 10(71)  69
技術者 17  4(25)  2  1(50)  26
秘書/一般事務  9  4(66) - -  55
清掃/助手 10  5(50)  7  3(43)  47
運転手  5  1(20) - -  20
その他  5  2(40)  2  2(100)  57
合計 49 18 25 16 46


表2  都市住民の間での職業別腰痛(LBP)
職業 総数 腰痛の人数 (% with LBP)
主婦  19   6 32%
商人 189 64 44%
職人 111 52 47%
農業従事者  27 23 85%
事務所/フォーマルセクターの労働者  52 18 35%
その他  68 24 35%
回答無し    8   1 13%
合計 474 208 44%


 都市部の調査対象グループにおいては、事務系労働者の1年間の腰痛罹患率は38%で、一方、調査時点での罹患率は20%であった。そして、女性の34%より男性は40%と、より高かった。若手社員の28%に比べて管理職は42%と、罹患率はより高かった。腰痛の罹患率は喫煙と密接な関係があり、非喫煙者の36%に比べ、最も高かったのは、今現在喫煙している人々の57%であった。
 都市部の一般住民グループでは1年間の腰痛罹患率は44%で、一方、調査時点での罹患率は39%であった。女性の39%に比べ男性は49%とより高く、そして、年齢が上がると共に高くなっている。腰痛罹患率は、農業従事者が85%と最も高く、主婦が32%と最も低かった。統計的な分析によると、この住民の間における腰部の痛みは、農業という職種と外傷の病歴に関係しており、腰痛を患っている人々の約80%が、彼らが従事している仕事に腰部の痛みを関連づけている。
その腰部の痛みは、厳しい肉体労働、かがんだり、物を持ち上げたり、長距離歩行が原因となっている。
 腰痛の治療は、主に鎮痛剤と休養である。腰痛で開業医療従事者の診察を受けた者は、都市部の住民では77%で、農村部の住民の42%より高く、激しい腰部の痛みも伴っていた。昨年、休みを取った日数は、都市部の一般住民(3日)、事務従事者(4.7日)、農村部の病院の医療従事者(5日)、農村部の一般住民(13日)であった。
 調査を受けた都市部、農村部の住民の腰痛罹患率は、先進国とほとんど同じかそれと肩を並べるものだということが、判明した。

腰痛の危険因子

 腰痛は、一般に加齢に関係していると考えられている。(Ref. 8, 10, 11)発表された報告によると、腰痛と性別の間には一貫した関連性は見られない。一方、ある報告書は、女性に多く起こると報告しているが(Ref. 9, 12)、他は、性差(Ref. 13)に関連性はないとしている。腰痛とタバコの関連性は物議をかもしだす課題ではあるが、にもかかわらず、いくつかの調査は、腰痛はタバコと結びついていると報告している。(Ref. 1, 9)生物学的な仕組みは十分に分かっていないが、喫煙は、潅流の低下と、脊柱の内部や周囲の組織に栄養不良をもたらすと考えられており、その結果、これらの組織はストレス(Ref. 14)に効果的に対処できなくなる。又、腰痛は過去の外傷にも関連している。
 職業上の因子に関して、ナイジェリアでの調査は、腰痛と農業の関連を強調している。又、同じような結果がレソト(Lesotho)(Ref. 15)で報告されている。職業上の動きが、かがむ、持ち上げる、そして過酷な肉体労働を要求しているため、驚くことではない。機械工や職人のようなインフォーマルセクターの小規模産業の労働者も、同じ理由で腰痛の危険にさらされている。フォーマルセクターにおける看護師、秘書、事務管理職も同様である。看護師の腰痛は、持ち上げる事と長時間にわたる立ち仕事によるものであり、一方、事務従事者と秘書の腰痛は、通常, 設計の悪いイスに長時間座っていることが原因である。

腰痛の防止

 腰痛防止に関する職場教育は、この問題の減少に役立つかもしれない。インフォーマルセクターにおける職場教育の必要性は、発展途上国の労働衛生従事者にとっては、引き続き大変な仕事ではあるが、労働者間の情報普及のために労働組合、労働団体を活用することができる。
 種々の仕事上の動作に関して正しい姿勢をとることは、筋骨格系の肉体的ひずみを抑えるであろう。マテリアルハンドリング装置は、通常発展途上国では普及しておらず、仕事を再度計画し直すことは非現実的であるため、持ち上げるということに関する技術を、職場の看護師や重い物をマニュアル・ハンドリング(人力作業)で扱わなければならない労働者に教えるべきである。そして、仕事で長時間にわたり座り続け、立ち続けるような長期に渡って同じ姿勢をとることは, 避けるべきである。事務所に設置してある管理職用のイスは、通常あまり良い設計ではなく、エルゴノミクスの観点から見て不適切な場合は使用を避けるべきである。
 腰痛の治療は、依然として満足のいくものではない。急性の腰部の痛みは、安静(Ref. 16)にすることにより軽減されるかもしれないが、一方、一部の研究は、運動(Ref. 17, 19)と継続した活動(Ref. 19)が、腰痛に効果があることを実証した。腰痛を患っている多くの人々は、症状が重く無い限り医師に見せることはしないだろうが、この医師への訪問は、作業関連の腰痛であることを証明するものである。

(Ref.)
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