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パキスタンにおける労働安全衛生の現状

By Muhammad Akram

資料出所:American Industrial Hygiene Association (AIHA)発行
「The Synergist」 2003年7月号 Vol.14 No.7 p.16-18

(仮訳 国際安全衛生センター)



 パキスタンは南アジアに位置し、人口1億4,700万を擁するアジアで4番目、世界で6番目に人口の多い国である。人口構成の大半を若者がしめ、最近の予測によると、総労働力約4,040万人のうち、およそ3780万人が、様々な経済分野で働いている。

 産業の中核は農業であり、労働力の44%が従事し、GDPに占める比率は26%である。労働力の残り56%は、サービスと工業分野に従事している。

 多くの発展途上国同様、パキスタンには、現在、包括的な労働安全衛生法が存在しない。多くの労働者が、日常的に危険化学物質に暴露し、そしてさらに多くの労働者が、建設業のような危険を伴う産業に従事しているために、労働災害や業務上疾病が非常に多くなっている。しかし、事故の大半が監督機関に報告されないため、信頼できるデータがほとんどなく、また監督機関は、効果的な法の実施方針、または職場における傷害や疾病の報告に関する厳しい強制力を持っていない。

労働安全衛生法令とその制約

 現在、労働安全衛生に関する法と規則を概観すると、以下のようなものが登録されている。
1. 鉱山法 Mines Act, 1923
2. 労働者災害補償法 Workmen's Compensation Act, 1923
3. 港湾労働者法 Dock Laborers Act, 1934
4. 工場法 Factories Act, 1934
5. Hazardous Occupations Rules, 1963
6. 州被雇用者社会保障法 Provincial Employees Social Security Ordinance, 1965
7. West Pakistan Shops and Establishments Ordinance, 1969
8. 州工場規則 Provincial Factories Rules

 しかし、現在ある規則は細分化されており、労働安全衛生を扱う単一の包括的な法令は存在しない。新しい基準、実施規則(code of practice)、および業務上の暴露限界を決めるための公式な立法制度が整備されておらず、たとえ整備されていたとしても、それは、たび重なる戒厳令の発令にしばしば阻まれてしまう。
 1934年に制定された現在の工場法が義務づけているのは、非常に基本的な安全衛生対策のみである。産業における、最低限の資格や安全衛生の専門家の雇用のためのガイドラインも策定されていない。農業、建設、インフォ−マルセクター、自営のような重要な分野を対象にする法はない。

 いくつかの制約がパキスタンの労働安全衛生文化の発展を阻んできた

 炭疽病、綿肺症、潜函病、テトラエチル鉛中毒、窒素ガスによる中毒、鉛中毒、リン中毒、水銀中毒、ベンゼン及びその同族体による中毒、クロム潰瘍、砒素中毒、X線による病的障害、ラジウムあるいは放射性物質、初期の皮膚上皮腫癌、珪肺症のような多くの業務上疾病は、社会保障法や労働者災害補償法によって補償されているが、これら疾病の報告を行うという機能が働いていないため、その恩恵を受ける者はいない。

 いくつかの制約が、国の労働安全衛生文化の発展を阻害してきた。公的教育の不足、労働者の識字率の低さ、トレーニングやアドバイスを提供する国の中核機関の欠如、信頼できるデータ収集や報告義務の不足、法の強制力の弱さ、そして労働災害を認識し評価できる技術的資格を持った検査官の不足等、すべて問題である。そしてその上、政府機関相互の強調不足、安全衛生プログラムに対する政府資金の不足及び政府の政策立案レベルにおける専門的技術の不足が、安全衛生文化をパキスタンに根付かせる以前に対処しなければならないハンディキャップとなっている。

最近の展開


 パキスタンは、ここ数年のうちに世界貿易機関(WTO)に加盟する予定である。WTOの要求に応じ、外国人投資家や輸入業者は、国際標準化機構(ISO)基準のような国際基準を遵守することを現地産業に求めるだろう。

 しかし、現在のパキスタン政府側には、包括的な環境安全衛生法を展開するための、はっきりとした取り組みが見られない。数年前、政府は労働政策-2001年を発表し、現在の法を見直し更新するために、国家労働安全衛生委員会を作るよう提案したが、何も実現しなかった。政府のこのような怠慢と現地産業の認識不足は、国際貿易において、何十億という損失を被る可能性がある。

 パキスタンに環境安全衛生の文化を築く可能性を探り、現在の法の改正に関して当局を支援するという特別の使命を持ち、2002年に私はパキスタンのAIHA大使(ambassador)に任命された。この使命遂行のために、私は最近パキスタンを訪れ、危険廃棄物管理、および企業の産業安全衛生に関するトレーニングを行った。両コースとも、官民から高いレベルの多くの管理職の参加があった。

 さらに、"パキスタンにおける安全、労働衛生および環境への挑戦(Challenges and Opportunities in Safety, Occupational Health and Environment in Pakistan)"と題した1日限りの会議が、1月4日にパキスタンのLahoreで開催された。会議は盛況に終わり、電子、活字メディア双方の取材を受けた。国内の環境安全衛生専門家達は、終日続いた会議に参加していくつかの勧告を決定し、それらは連邦政府及び州の労働環境省に送られた。

 私は、また、Lahoreに本部を置くパキスタン環境労働安全衛生協会(Pakistan Environmental Occupational Safety and Health Association: PEOSHA)の設立に係わった。この協会が、パキスタンにおけるOSHへの認識を高めるための基礎を提供することを、大いに期待している。また、PEOSHAは、今年末にOSHに関する会議を予定している。

 私は、労働安全衛生の普及に努めてきた。いつの日か、先進国の法にひけをとらない、そして国際基準を遵守する、労働安全衛生と環境に関する包括的な法の制定に、PEOSHAが国の役に立つことと確信している。

謝辞

 著者は、この計画に関するAIHAの支援に感謝している。また、会議開催中のAbdul Khalid氏の協力と危険廃棄物管理コースの指導、および、これらのコースや会議の調整に関しPunjab、 Lahoreの州政府、労働状況・環境改善センターの所長であるSaeed Awan氏に大変感謝している。

 また、Pfizer Inc.のKeith Tait氏、Metro NY Section の長であるElsie Tai氏、AIHA国際委員会(IAC)の前議長であるBhawani Pathak氏、IACの現議長であるAndrew Cutz氏、そして、AIHAの常任理事であるSteven Davis氏の、引き続く協力に心より感謝している。


Akram博士の略歴

Akram, PhD, CHMM, is associate director, Environmental Health and Safety Office, Columbia University Health Sciences, New York. He is AIHA's ambassador to Pakistan (see the April Synergist, pp. 39-42, for more on AIHA's ambassador program).