労働者補償プログラム入門
(1999年版)
労働者が労働災害に被災した時に、その労働者および扶養家族を救済することを目的とし、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料等の補償給付をするためのプログラムが各国それぞれに法制化されていますが、ここではフィリピンのケースをご紹介します。
資料出所:「The Employees' Compensation Program」
(訳 国際安全衛生センター)
労働者補償プログラム
労働者補償プログラムとは
公的部門と民間部門の労働者、およびその扶養家族を対象に、労働に関連する災害が発生した場合の補償を行う総合対策です。1975年1月に発効した大統領令(Presidents Decree)第626号により創設されました。
労働者補償プログラムの主たる目的
労働に関連する負傷、疾病、障害、または死亡に見舞われた労働者とその扶養家族を支援するため、有効かつ十分な所得給付(income benefit)、医療または関連サービス、およびリハビリテーション・サービスを迅速に提供すること。
労働者補償委員会(ECC)とは
ECC(Employees' Compensation Commission)は、法律に基づき、労働に関連する災害に見舞われた労働者に、有効かつ十分な補償を提供する権限を与えられた政府機関です。その主たる役割は、労働者補償プログラムの改善のための政策と指針の作成、補償を却下されたすべての請求の不服申立ての審査と決定、労働環境における十分な労働安全衛生と災害防止のための、政策とプログラムの実施です。
ECCは政府公社(government corporation)であり、政策調整と指針を受けるため、労働雇用省に付属しています。
労働者補償委員会の構成
ECCは7人の委員で構成され、その内5人は職務上の資格により任命されます。残り2人は大統領が指名し、任期は6年です。具体的な内訳は次のとおりです。
- 労働雇用相(議長)
- 社会保障システム(SSS)総裁兼最高執行責任者
- GSIS総裁兼ジェネラル・マネジャー(GM)
- 国民健康保険(National Health Insurance)会長
- ECC事務局長(Executive Director)
- 労働者代表
- 事業主代表
労働者補償プログラムの適用
労働者補償プログラムは以下の人に適用されます。
- 1人以上の労働者を雇用するすべての事業主(政府部門、民間部門とも)は、資本金、
事業の種類、内容を問わず、事業を開始した日から適用される。
- 60歳以下のすべての労働者(政府部門または民間部門)
労働者補償プログラムが適用される労働者
以下をはじめ、公的部門と民間部門のいずれに属する労働者にも強制適用されます。
(a). 以下の事業所に雇用された常用、期間限定、臨時、緊急、代理または契約労働者
- 政府、その下部組織または出先機関
- 国有または国営の公社
- フィリピン結核協会
- フィリピン赤十字社
- フィリピン退役軍人銀行
- フィリピン国軍軍人
- 選任された公務員(elective official)で定期給与を受け取る者
(b). 社会保障システムが適用される民間部門のすべての労働者
労働者に労働補償プログラムが適用される日
労働者には雇用された最初の日から適用されます。
労働者補償プログラムの執行機関
ECCの実務は以下の機関が行ないます。
- 公的部門に関しては国家公務員保険システム(Government Service Insurance System,GSIS)
- 民間部門に関しては社会保障システム(Social
Security System,SSS )
これ以降、「システム」というときは、場合に応じてGSISまたはSSSをさします。
GSISとSSSの双方による適用が可能な労働者への適用
GSISとSSSの双方による適用が可能な労働者の場合は、どちらものシステムも強制適用されます。
外国で雇用されているフィリピン人への適用
- 外国で雇用されているフィリピン人には適用されません。労働者補償プログラムの適用対象は、SSSが強制適用されている船員だけです。
- 陸上作業の契約労働者は、自然人または法人の事業主がフィリピンで商業、工業、または事業を行なっている場合にのみ、労働者補償プログラムの適用対象になります。
労働者補償プログラムで補償される災害
新しい労働者補償プログラムで補償の対象となるのは、労働に関連する負傷または疾病、および労働に関連する負傷または疾病から生じた障害または死亡です。
負傷、疾病、障害または死亡に対する補償の形態
補償形態は以下のとおりです。
- 現金による所得給付(cash income benefit) - 障害または死亡の場合
- 医療および関連サービス - 負傷または疾病の場合
- リハビリテーション・サービス(現金所得給付月額に付加して)
- 永久障害の場合
具体的には、労働者またはその扶養家族に、以下の形態で給付が行なわれます。
-
一時的就労不能(Temporary Total Disability,TTD)の場合、現金所得給付日額を給付。
-
永久障害(終身就労不能)(Permanent Total Disability,PTD)の場合、現金所得給付月額を終身給付。
-
永久障害(部分障害)(Permanent Partial Disability,PPD)の場合、現金所得給付月額を給付。
-
死亡の場合、現金所得給付月額を1次的受給資格者に終身給付。ただし1次的受給資格者がいない場合には、2次的受給資格者に、60ヵ月以下、1500ペソ以上の年金月額を給付。
-
負傷または疾病の場合、医療サービス、医療器具と治療材料を給付。
-
永久障害の場合、リハビリテーション・サービスを給付。
-
永久障害の場合、介護手当を給付。
負傷が補償される場合
業務中に、業務に起因して発生した災害による負傷が補償されます。
業務中に、業務に起因して発生した災害
業務中に、業務に起因して発生した災害とみなされるのは、以下の場合です。
-
労働者が、業務上必要な場所で、または事業主の指示を遂行しているその他の場所で、正規の業務を遂行しているときに発生したもの。
-
労働者が、定められた就業の場所で、就労時間内に、喉の渇き、空腹感、またはその他の身体的欲求を満たし、または極度の寒さから身を守るなど、個人的の生理的必要性を追求しているときに発生したもの。
-
労働者が就業の場所との間を往復しているときに発生したもの。ただし通常の経路を利用しない場合は除く。
-
労働者が、ハイキング、ピクニック、運動会、その他の事業主の主催する行事に参加しているときに発生したもの。
-
労働者が、事業主の提供するシャトルバス、またはその他の車両に乗車しているときに発生したもの。
疾病が補償される場合
ECCが「職業病」に指定した疾病は、すべて補償されます。
「職業病」に指定されていない疾病が補償される場合
労働条件が原因で、当該疾病にかかる高度なリスクがあると証明された場合には補償の対象になります。
高度なリスクがある場合とは
当該疾病が、労働者の業務と労働条件に特有の性質を原因として発生し、または発生が助長された場合、高度なリスクがあるとみなされます。ただし、既往症が悪化した場合は除きます。
高度なリスクの概念による補償適格性の提示方法
高度なリスクの概念により補償適格性を示すには、請求者は業務起因性を証明する必要があります。結論を支持するに足ると合理的に判断できる実質的証拠さえあれば、証明されたとみなされます。
障害とは
障害とは、肉体的または精神的機能の損失または損傷で、労働者の業務遂行、または就労して収入を得ることを妨げるものをさします。
障害が補償される場合
障害が、業務に起因する負傷または疾病から生じた場合に補償されます。
一時的就労不能障害(Temporary Total Disability,TTD)とは
- TTDとは、労働者が継続して業務に就けない期間が120日以内の障害で、120日を超えて240日以内の治療が必要なものを除きます。
- 障害が負傷または疾病から生じた場合、当該負傷または疾病にかかった第1日目から補償対象期間に算入します。
TTDの労働者が受け取れる所得給付額
TTDの場合、所得給付の額は、システムが定める労働者の平均給与日額の90%です。所得給付は、日額の上限を民間部門の労働者の場合は200ペソ、政府部門の労働者の場合は90ペソとし、給付期間の上限を120日とします。ただし負傷または疾病についての治療期間を、さらに120日以上240日以内で延長する必要がある場合、延長期間中はTTDに対する給付が継続されます。
TTD所得給付を受給中の労働者の義務
システムに毎月、診療する医師が証明した障害治療報告書を提出しなければなりません。提出しない場合、その義務を果たすまで所得給付は中止されます。
有給休暇と労働者補償プログラムの給付の関係
労働に関連する疾病または負傷を負った労働者が、未消化の有給休暇をもっている場合、当該災害が発生した初日から、有給休暇と労働者補償給付を同時に受給できます。
永久障害(終身労働不能)(Permanent Total Disability,PTD)とは
永久障害(終身労働不能)とは、以下のいずれかに該当する状態をさします。
-
一時的就労不能障害で定める期間を超えて持続する障害で、労働者が通常に就労して収入
を得ることを妨げるもの。
-
両眼を完全に失明したもの
-
手首以上の両上肢、くるぶし以上の両下肢を失ったもの
-
両上肢、両下肢が恒久的に、完全に麻痺したもの
-
脳の負傷により不治の障害または精神異常を生じたもの
-
その他、システムが決定し、ECCが承認したもの
PTD労働者の所得給付額
PTDの労働者には、システムから所得給付月額が終身ベースで支払われるとともに、扶養の子供には、年少順に、かつ代替を認めず、5人を上限として一人につき、その10%が支払われます。
民間部門の場合、PTDの所得給付月額はSSS給付の15%増しです。
政府部門の場合、所得給付月額はGSISの年金基礎月額の20%増しです。
SSSの年金月額、GSISの年基礎月額が変更された場合、労働者補償プログラムの所得給付月額は、SSS給付との15%の差額、GSISの年金基礎月額との20%の差額を維持するよう、自動的に変更されます。
所得給付月額の決定方法
民間部門の労働者の所得給付月額は、「平均給与月額に置換率を乗じたもの」に「10年を超える対象勤続期間1年につき、平均給与月額の1.5%」を足した額の115%に相当する額です。
「置換率」「対象勤続期間」とは
「置換率」とは、20%+300÷(340+平均給与月額)です。
「対象勤続期間」は、労働者の資格取得時期によって異なります。1975年1月以前に資格を取得した労働者の場合、資格取得年から1975年まで、および1975年1月以降、災害発生前の学期を含む年までの、保険料が6回以上納付されている歴年数をさします。
1975年1月以降に資格を取得した労働者の場合、資格を取得した年から、災害発生前の学期を含む年までの、保険料が6回以上納付されている歴年数をさします。
この計算式により、平均給与月額3,000ペソ、対象勤続期間10年の民間労働者の場合、年金月額は約1,000.50ペソになります。
政府部門の労働者の所得給付月額(MIB)
政府部門の労働者のMIBは、大統領令第1146号(国家公務員保険システム法)による年金基礎月額の120%に相当する額です。
年金基礎月額(BMP)計算方法
- BMPは、再評価平均報償月額(RAMC)の37.5%に、15年を超える勤続期間1年につき、その2.5%を合算した額に相当します。
- RAMCは、平均報償月額(AMC)に140ペソを合算した額です。
- AMCは、直近の3年間の報償総額を同期間の月数で除した額で、3,000ペソを上限とします。
- 上述の計算式により、勤続10年、災害発生前の直近3ヵ月に月額3,000ペソ以上を受け取っていた政府職員が、PTDを負った場合、労働者補償法による所得給付月額は1,413ペソになります。
永久障害(終身労働不能)(PTD)の所得給付を受給中の労働者の義務
PTDの所得給付を受給している労働者は、システムに対して以下の義務を負います。
-
四半期ごとに、診療する医師が証明した治療報告書を提出しなければなりません。
-
1年に最低1回、システムの通知に応じて、検査に出頭しなければなりません。
PTDの所得給付の支払いが中止される場合
以下の場合、永久障害(終身労働不能)(PTD)の所得給付の支払いが中止されることがあります。
-
労働者が四半期ごとの治療報告書を提出しなかった場合
-
労働者が年次検査に出頭しなかった場合
-
永久障害(終身労働不能)が回復した場合
-
就労して収入を得た場合。ただし他の法律または大統領令で免じられた場合を除く
永久障害(部分障害)(Permanent Partial Disability,PPD)とは
労働者の身体の一部が損失して、恒久的に使用できなくなる障害です。
PPDの労働者が受け取る所得給付額
PPDの労働者の所得給付月額は、PTDの所得給付月額と同額で、傷害を負った月から以下の期間まで給付されます。
完全または恒久的な機能の損失
|
給付月数
|
1本の母指
|
10ヵ月
|
1本の示指
|
8ヵ月
|
1本の中指
|
6ヵ月
|
1本の薬指
|
5ヵ月
|
1本の小指
|
3ヵ月
|
1足の第1の足指
|
6ヵ月
|
1足の他の4の足指
|
3ヵ月
|
一手
|
39ヵ月
|
一上肢
|
50ヵ月
|
1足
|
31ヵ月
|
1下肢
|
46ヵ月
|
1耳
|
10ヵ月
|
両耳
|
20ヵ月
|
1耳の聴力
|
10ヵ月
|
両耳の聴力
|
50ヵ月
|
1眼の視力
|
25ヵ月
|
PPDの労働者が一時金給付を受給する場合
PPDの労働者は、障害の期間が12ヵ月以内の場合、一時金給付を受け取ることができます。
労働者が、身体の1以上の器官または部分を同時に失った場合の所得給付額
失った各々の器官に適用される月数の合計の月数の所得給付月額を受け取ることができます。
したがって、所得給付月額400ペソを受け取る資格のある労働者が、母指(10ヵ月)と小指(3ヵ月)を同時に失った場合、400ペソの所得給付月額を13ヵ月受け取れることになります。
PPD所得給付を受給している労働者が、就労して収入を得るか、またはその地位を維持した場合
就労して収入を得ている場合でも、資格がある限り所得給付月額の受給を継続できます。
死亡が補償される場合
労働に関連する負傷または疾病を原因として死亡した場合です。
労働者が死亡した場合の所得給付受給者
当該労働者にかかわる受給資格者です。
当該労働者にかかわる受給資格者とは
受給資格者は以下に分類されます。 a. 1次的受給資格者
b. 2次的受給資格者 受給資格者の地位は労働者の死亡時に決定されます。
1次的受給資格者とは
以下のものが1次的受給資格者です。
-
労働者が死亡した当時に生計を同じくしていた正当な夫または妻。ただしその後再婚した場合は除く
-
嫡出子、嫡出子の身分を取得した子、合法的に養子縁組みまたは認知した私生子で、未婚かつ就労による収入を得ておらず、21歳以下の者
- 21歳を超える嫡出子、嫡出子の身分を取得した子、合法的に養子縁組または認知した私生子が、1次的受給資格者とみなされるためには、先天的または未成年時に負った身体的または精神的障害により、就労不能で自立不可能でなければなりません。
2次的受給資格者とは
-
労働者に全面的に扶養されていた正統な両親。
-
正統な直系卑属および非嫡出子で、未婚かつ就労による収入を得ておらず、21歳以下
のもの
21歳を超える正統な直系卑属、非嫡出子が、2次的受給資格者とみなされるためには、先天的または未成年時に負った身体的または精神的障害により、就労不能で自立不可能でなければなりません。
労働者が死亡した当時、1次的受給資格者と2次的受給資格者が同時にいた場合
死亡給付の最先受給権をもつ1次的受給資格者だけが受け取ります。1次的受給資格者がいる場合、2次的受給資格者は死亡給付を受け取ることができません。
1次的受給資格者が受け取ることのできる死亡給付額
1次的受給資格者の所得給付月額は、永久障害(終身労働不能)の所得給付月額と同額で、資格があり、5年間の保証期間内であれば支払われます。
1次的受給資格者(または埋葬費を支払ったもの)は、葬祭給付も受け取ります。
扶養中の子がいる場合、現金所得給付
扶養中の子がいる場合、給付額は扶養中の子1人につき10%増額されます。ただし、最年少の子から数えて5人を上限とし、代替は認められません。
扶養中の子が5人を超えている場合の給付配分方法
所得給付月額は、指名された5人に数えられない扶養中の子を含めた1次的受給資格者全員で等分します。指名された子が失権した場合、一人につき10%を減額し、残額を受給権のある1次的受給資格者全員でふたたび等分します。
永久障害(終身労働不能)の所得給付を受給中の労働者が死亡した場合の所得給付月額
死亡原因にかかわりなく、システムは1次的受給資格者に所得給付月額の80%を支払い、扶養家族に扶養家族年金(dependents' pension)を支払います。
2次的受給資格者が死亡給付を受け取れる場合
労働者が死亡した当時、1次的受給資格者がいない場合のみです。
2次的受給資格者は、当該労働者の所得給付月額の60ヵ月相当の年金月額を受け取ります。ただし、15,000ペソを下回らないものとします。
死亡した労働者が永久障害(終身労働不能)年金を受給しており、かつ死亡当時に1次的受給資格者がいない場合、2次的受給資格者は5年の保証期間の残存期間のみ支払いを受けられます。ただし、永久障害(終身労働不能)年金の受給者が、保証期間の5年をすぎて死亡した場合、2次的受給資格者は給付をいっさい受けられません。
労働者が死亡した当時、受給資格者がいない場合
死亡給付は国家保険基金に組み入れられます。この基金から、適用労働者に対する死亡給付が支払われています。
負傷、疾病、障害または死亡が補償されない場合
-
これらが労働者の泥酔、意図的な自傷または自殺など、または重大な過失による場合。
-
これらが労働に関連していない場合。
労働者補償プログラムの給付と、他の法律に基づく給付との調整
ECプログラムの補償支払いは、システムまたはその他の政府機関が他の法律に基づいて給付を支給するのを妨げるものではありません。
つまり、SSS、GSISまたはNAPOLCOMの給付を受け取った請求者は、労働に関連するものである限り、同一の災害に関して他の請求を行なうことができます。
医療または関連給付とは
- 医療給付とは、労働に関連する疾病にかかり、または労働に関連する負傷または傷害を負った労働者に対し、医療、リハビリテーション・サービス、入院治療を提供した医療提供者へのすべての支払いです。
- 関連給付とは、労働に関連する負傷を負い、または労働に関連する疾病にかかった労働者に提供される医療器具と治療材料のためのすべての支払いです。
-
労働者が受給できる医療または関連サービス
労働に関連する負傷を負い、または労働に関連する疾病にかかった労働者は、以下のサービスが受けられます。
-
認定病院に入院中の病棟サービス(ward service)
-
退院後の認定医による訪問治療
-
薬剤
病棟サービスの内容
病棟サービスとは、患者が病院内で通常に受けるすべてのサービスで、具体的には以下のものがあります。
-
病室内のベッドの提供(1室当たり6ベッド)
-
特別食を含むすべての食事
-
通常の看護サービス
-
病院が提供する薬剤
-
血液検査、尿検査などの検査サービス
-
X線などの放射線治療サービス
-
添え木、ギブスなどの治療用具
-
車椅子、松葉杖、装具など、病院が提供する医療器具と装置の使用
-
麻酔処置
-
手術室使用料
-
手術
-
医師による処置
労働者が個室または準個室を利用できる場合
負傷または疾病の労働者を隔離する医学的必要が生じた場合、個室または準個室を利用できます。
病棟料金(ward rate)以上の医療サービスの負担
通常、負傷または疾病の労働者が病棟料金以上の治療を受けた場合、システムからは病棟サービス分の支払いしか行ないません。したがって、超過費用は労働者が負担することになります。
「通院可能者サービス」とは
通院可能者サービスとは、簡易な外科治療、または入院期間が24時間以内のその他の治療を受ける患者に適用されるサービスで、治療時間、ベッドを使用したか否か、日付を超えて病院に滞在していたか否かを問いません。
通院可能者サービスが認められる場合
通院可能者サービスは、負傷の場合にのみ認められます。
医療および関連サービスの受給資格者
上述のとおり、労働に関連する負傷を負い、または労働に関連する疾病にかかった労働者はすべて、医療および関連サービスを受けられます。
労働者が医療および関連サービスを受ける段階
負傷または疾病を負った労働者は、負傷または疾病を負ったその日を起点に、その後の障害期間から回復するまで、医療および関連サービスを受けることができます。
システムはの支払対象
システムが支払いを認める医療および関連サービスは、ECCが認定した病院と医師によるものだけです。
病院の認定要件
以下の要件に合意した病院は、ECCから認定されます。
-
病棟サービスの料金を、患者からはいっさい徴収しない
-
公正なサービスを提供する
-
労働者補償と国家保険基金に関する法令を遵守する
- フィリピン病院協会(the Philippine Hospital
Association)の会員資格があること
医師の認定要件
以下の条件に合致する医師は、ECCから認定されます。
-
現在、専門職規制委員会(Professional Regulations Commission,PRC)の免許をもっていること
- フィリピン医師会(Philippine Medical Association,PMA)の会員資格があること
-
MEDICAREの認定を受けていること
-
労働安全衛生の大学院課程を修了していること
-
専門医の場合
-
専門レベルIの病院の認定研修プログラムを卒業していること
-
専門レベルIIの病院の専門家協会の会員か、または資格をもつこと
認定医は、以下の条件にも従わなければなりません。
-
入院した労働者補償プログラムの患者の治療費は、労働者補償委員会が承認した料金に従って、SSSまたはGSISに請求すること
-
ECの患者に、十分かつ良質なサービスを公正に提供すること
-
認定規則、ECCが定めるすべての規則と規制を遵守すること
-
天災、人災が発生した場合、または労働安全衛生に関するECCの特別活動プログラムとプロジェクトに際して、ECCまたは労働雇用省の要請に応じて医療サービスを提供すること
-
不正請求を常に監視し、防止に努めること
認定されていない病院と医師の医療または関連サービスに対する支払い
緊急事態の場合のみに支払われます。
緊急事態とは
労働者の死亡、または深刻な健康障害を防ぐために、医療または関連サービスが必要な場合です。
ただし、緊急事態が終了した後に行なわれたサービスには支払いません。
緊急事態が終了したとみなされる場合
当初の状況にかかわりなく、患者を認定病院へ転送し、または退院させても、医学的に安全であると考えられる場合、緊急事態は終了したとみなされます。
緊急事態の存在または終了の決定方法
緊急事態の存在または終了は、医師の状況判断に加え、必要な場合は患者の治療記録など、病院が提供する追加データを基にして決定されます。
認定病院または認定医師が、認定を取り消される場合
認定条件に違反した場合は、認定を取り消されます。
認定医に支払われる医療給付
民間部門では、認定医が負傷または疾病の労働者を治療すると、初診の場合、一般開業医には最高100ペソ、専門医には最高150ペソが支払われます。その後の受診1回につき、一般開業医には80ペソ、専門医には100ペソが支払われます。(公的部門には旧料金が適用されます)
認定病院と非認定医が緊急事態の治療を行なった場合の支払い方法
非認定病院と非認定医は、システムに直接に、医療または関連サービスの給付を請求します。
請求には、医師による以下の報告書を添付します。
-
緊急事態の内容の説明
-
患者についての関連医療情報の提供
-
治療が、患者の死亡または深刻な健康障害を防ぐために必要であったことの説明。緊急事態が存在したとの報告だけでは不十分です。入院治療を施した場合は、緊急事態
が終了したと医師が判断した日付を記す必要があります。
リハビリテーション・サービスとは
- リハビリテーション・サービスとは、サービスを受ける資格のある労働者が負傷し、または障害を負った場合に、なるべく早く身体的能力を最大限に回復し、社会の生産的で有用な構成員であり続けられるよう支援するサービスです。
- 労働法は、システムができるだけ早く、「負傷、または障害を負った労働者の回復のための継続的なリハビリテーション・プログラムを行なうものとし、労働者は、負傷により障害を負った場合の医療器具を含め、内科的、外科的、または入院治療を受け、身体的自立のための支援を受ける権利がある」と定めています。
- 労働法はまた、できるだけ早く「システムは、矯正治療、職業能力調査、準備の均衡のとれたプログラムを提供するための設備と人員を備え、もてる資源の範囲内で個々の矯正者が精神的、職業的、または社会的潜在能力を開発するのを支援することを含め、傷害を負った各労働者の適切な雇用回復に資することのできるセンターを確立する」とも定めています。
リハビリテーション・サービスの受給資格者
労働に関連する負傷または疾病により、永久障害を負ったすべての労働者です。
労働者が、現金所得給付、医療または関連サービス、リハビリテーション・サービスを受ける場合
労働者が、現金所得給付、医療または関連サービス、リハビリテーション・サービスを受けるための条件は、以下のとおりです。
-
システムに正式に登録されていること
-
負傷し、疾病にかかり、または負傷もしくは疾病を原因として障害を負うこと
-
負傷、疾病、または障害が、システムに正しく通知されること
労働者はがシステムに登録される方法
労働者は、自分でシステムに登録するのではありません。
事業主が、定められた様式を作成してシステムに登録します。
事業主が労働者を登録する場所
-
中央政府、政府の下部または出先機関、国有または国営公社の職員はGSIS
-
民間部門の労働者はSSS
労働者登録時期
GSISが適用される労働者は、採用から1ヵ月以内に登録します。
SSSが適用される労働者は、以下の指針に従って登録します。
-
すでにSSSに登録されている労働者は、自動登録のため再登録の必要はありません
-
SSSに未登録の労働者は、雇用された最初の日に登録します
GSIS/SSS、メディケア、労働者補償プログラムへの登録
1度登録するだけで、GSIS/SSS、メディケア、労働者補償プログラムが適用されます。
労働者補償プログラムが適用される事業主
GSIS、SSSが適用される事業主は、労働者補償プログラムに登録する必要があります。
事業主が労働者補償プログラムに登録する時期
事業主は、以下の指針に従って労働者補償プログラムに登録します。
-
GSISが適用される事業主の場合
(1)1975年1月以前から事業を行なっている事業主は、1975年3月31日までに登録
(2)1975年1月以降に事業を始めた事業主は、事業開始から1ヵ月以内に登録
-
SSSが適用される事業主の場合
(1)すでにSSSに登録している事業主は、自動登録のため再登録の必要はありません
(2)SSSに未登録の事業主は、事業開始の最初の日に登録します
労働者を登録しない、または登録を拒否した事業主に対する処罰
違反者には1,000ペソ以上10,000ペソ以下の罰金が科せられ、違反が継続するか、法律を遵守しない場合は、裁判所の判断で収監されます。
補償対象の災害が発生した時点で、適用対象の労働者がシステムに報告されていなかった場合
その場合でもシステムから正当な給付を受けられます。ただし事業主は、当該労働者またはその扶養家族に支払われる給付額相当分をシステムに納付する義務が課せられます。
労働者が労働者補償プログラムに納付する保険料額
労働者は、労働者補償プログラムに保険料を納付する必要はありません。
労働者の賃金または給与から、保険料を徴収する契約または規則は無効です。
事業主が労働者補償プログラムに納付する保険料額
事業主が労働者補償プログラムに納付する保険料の額は、以下のとおりです。
-
GSISが適用される労働者の場合
労働者が月末に受け取る実賃金または給与の1%相当額。ただし、労働者1人につき
30ペソを上限とする
-
SSSが適用される労働者の場合
以下に定める労働者給与月額の1%相当額。
給与種別
|
賃金・給与水準
|
給与月額 (ペソ)
|
事業主保険料 (ペソ)
|
I
|
1 - 49.99
|
25
|
|
0.25
|
|
II
|
50 - 99.99
|
75
|
|
0.75
|
|
III
|
100 - 149.99
|
125
|
|
1.25
|
|
IV
|
150 - 199.99
|
175
|
|
1.75
|
|
V
|
200 - 249.99
|
225
|
|
2025
|
|
VI
|
250 - 349.99
|
300
|
|
3.00
|
|
VII
|
350 - 499.99
|
425
|
|
4.25
|
|
VIII
|
500 - 699.99
|
600
|
|
6.00
|
|
IX
|
700 - 899.99
|
800
|
|
8.00
|
|
X
|
900 - 1,099.99
|
1,000
|
|
10.00
|
|
XI
|
1,100 - 1,399.99
|
1,250
|
|
10.00
|
|
XII
|
1,400 - 1,749.99
|
1,500
|
|
10.00
|
|
XIII
|
1,750 - 2,249.99
|
2,000
|
|
10.00
|
|
XIV
|
2,250 - 2,749.99
|
2,500
|
|
10.00
|
|
XV
|
2,750 -
|
3,000
|
|
10.00
|
|
保険料をシステムに納付する時期
事業主は、1975年1月以降、雇用の最初の月から、労働者が所得を得る限り毎月、保険料を納付しなければなりません。
保険料を期限内に納付しなかった事業主への罰則
SSSが適用される事業主が滞納した場合、罰金として、期限内に保険料が納付されなかった日以降、1月につき3%が保険料に加算されます。
負傷、疾病または死亡が発生したとき、システムへの通知義務者
これらの災害が発生した場合は、事業主がシステムに通知しなければなりません。
通知する際の手続き
負傷、疾病または死亡の場合、以下の手続きに従ってシステムに通知します。
- 労働者、その扶養家族または代理人が、災害発生から5日以内に事業主に通知します。
-
事業主は、すべての災害について、それを通知された日、または知った日から5日以
内に、記録簿に記録します。
-
ついで事業主は、労働に関連しているとみられる災害のみを、記録簿に記録した日
から5日以内に、定められた様式を使用してシステムに通知します。
事業主の記録簿(log-book)とは
すべての事業主は、労働者のすべての負傷、疾病または死亡事由について、補償が適用されるか否かにかかわらず、通知されたとおりに、または自分が知ったとおりに、発生日付順に記録簿に記録します。
記録の際は、労働者の氏名、災害発生の日付、場所、内容、労働者の欠勤状況を記入します。
災害を知り、または通知された日から5日以内に、記録簿に記録しなかった事業主への罰則
裁判所の判断により、労働者が受け取るであろう所得給付の50%相当の一時金もしくは罰金を科せられ、または収監されます。罰金は500ペソ以上5,000ペソ以下、収監は6ヵ月以上1年以下です。
労働者が事業主に通知する必要がない場合
以下のいずれかの場合、労働者は事業主に通知する必要がありません。
-
災害を事業主またはその代理者が知っているとき
-
災害が事業主の職場で発生したとき
期限内にシステムへ通知することの効果
労働者または事業主が、補償対象の災害発生から3年以内に、どんな形態であれシステムに通知すれば、時効による消滅が中断されます。
補償対象の災害を事業主に通知した労働者が、災害発生日から3年以内にシステムに請求しなかった場合の効力
事業主が、補償対象の災害を通知されてから3年以内にシステムに通知した場合、請求者は3年の有効期限が経過した後も請求できます。事業主が通知をしなかった場合、請求者は給付の50%しか受け取れません。
3年の有効期限内にシステムに通知しなかった事業主の責任
システムに通知しなかった事業主は、請求者に支払われるべき給付の50%を負担しなければなりません。この給付はシステムが前払いしますが、事業主は同額をシステムに納付します。
労働者の所得給付受給に際しての手続き
労働者自身、その扶養家族、または労働者の代理の事業主が、システムに所得給付を申請してはじめて、所得給付を受け取ることができます。
労働者の請求先
請求は以下に行ないます。
-
GSIS - 中央政府、その下部または出先機関、国有または国営公社の職員
-
SSS - 民間部門の労働者
労働者の所得給付請求時期
システムへの所得給付の請求は、事業主への災害の通知、または請求事由発生時から3年以内に行なわなければなりません。ただし、労働者補償プログラムの補償対象とみなされているものと同一の災害への請求が行なわれた場合、3年の時効が中断されます。
行方不明者の死亡推定が宣言された場合、請求時効の3年は、公式な死亡推定の宣言があった日から起算します。
請求の受理と処理
労働者は所定の様式を使用して、システムに直接、請求できます。
システムは受け取った請求を処理し、災害への補償の適用の可否を決定します。適用を決定するための書類が不足している場合、システムは労働者もしくはその扶養家族、または災害について知っている公的な、もしくは民間の事務所、法人、もしくは代理人に、追加の証拠の提出を求めることがあります。
システムは、要件を完全に満たして提出された請求を審査し、補償の可否を迅速に決定します。
システムから補償を却下された請求者の再審査請求
請求者は、システムに追加証拠を提出して請求を支持するよう求めることができます。
不服申立先
補償が却下された時、または却下が確認された場合には、労働者補償委員会にシステムの決定に対する不服申立をすることができます。
システムの決定に対する不服申立の時期と方法
決定を受け取ってから30日以内に、決定に対する不服申し立ての意思をシステムに文書で連絡します。
請求者が、システムの決定受け取りから30日以内に不服申し立てを行なわなかった場合
システムの決定は最終決定となり、有効となります。
ECCへの不服申し立ての処理方法
請求者が、ECCに決定への不服申し立ての意思をシステムに連絡した後、以下の処理を行ないます。
-
システムは5労働日以内に、当該事由の全記録をECCの審査のために提出します。
-
委員会は、証拠提出から20労働日以内に、申し立てについて審査と決定を行ないます。
-
システムは、ECCのすべての決定に従い、決定通知を受け取ってから15労働日以内に実行します。
ECCの決定に対する裁判所への控訴
ECCの決定に対して、決定の通知から15日以内に控訴裁判所に訴えることができます。控訴裁判所の決定に対しても、最高裁判所に上告できます。
|