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安全プログラム策定の指針

労働災害と職業性疾病を防止するため、経営者、労働者の責任・役割・労働環境などを7つの基本要素を軸とした安全プログラムの概要についてご紹介いたします。

資料出所:労働雇用省発行「A guide to safety programming」
(訳 国際安全衛生センター)

 

安全プログラムとは

 安全プログラムとは、経営者(management)および職場の労働者の安全に対する認識を高め、災害または職業病を排除し、またはこれを最小限に抑えるための計画または活動の概要です。
 安全プログラムの任務分担は、災害防止の責任者を任命し、それを確実に実行させるために経営者が実施する方法です。

 

 

安全プログラムのにおける経営者の役割

 効果的な安全プログラムにより、企業は経済的で、効率的で、安全な作業環境を実現できます。
 これは基本的には、作業環境とそこに働く人々の活動を管理することで実現します。そうした管理を実施する権限は経営幹部だけにあります。

 

効果的な安全プログラムの基本要素

 効果的な安全プログラムの基本要素は、以下の7点です。
 
1. 経営者の指導性(責務、方針の発表)
 
 経営者は、職場の安全に対する姿勢を文書で告知する必要があり、具体的には、経営者の安全に対する姿勢を明示した簡潔な方針を作成します。
   

(a)

安全な作業慣行と条件を確立すること

(b)

企業方針を遵守すること

(c)

安全指示に従うこと

(d)

災害防止のため設備を十分に保守し、設備購入に際しては適切なものを選択すること

 
 方針では基本的に次の点を明示すべきとされています。
 

(a)

労働者、一般市民、企業活動の安全確保は、至上命題であること

(b)

安全は、簡便性や迅速性に優先すること

(c)

災害発生の可能性を抑えるためにあらゆる手段を講じること

(d)

企業として、安全に関するあらゆる法令、規則を遵守すること

 

 

2. 責任の分担
(事業実施担当幹部(operating officer)、安全担当管理者(safety director)、監督者(supervisor)、安全衛生委員会)
 
 安全方針が確立したら、経営者は方針に基づく日常活動を監督者、作業長、または安全衛生委員会に委任します。
 事業場の責任者は、率先して企業の安全衛生方針を守り、みずから範を示して安全衛生を生産、コスト、品質と同等に重視しなければなりません。具体的には、以下の点に責任を負っています。
 

(a)

各労働者が、貯蔵、処理、使用する原材料の化学的、物理的性質を理解するようにすること

(b)

設備を使用する際は、適切な安全装置と個人用保護具を使用するなど、必要な予防措置を講じること

安全衛生委員会の設置も、職場の安全・災害防止対策の策定、実行、維持にはきわめて有効な方策です。

 

3. 安全な労働条件の維持(検査員(inspector)−技術的見直し−購入−監督者)
 
工場内の安全な労働条件維持のための方法には、以下のものがあります。
 

(a)

危険を排除するための作業方式の見直し

(b)

機械的安全装置

(c)

作業場または貯蔵場所の隔離

(d)

個人用保護具の使用

(e)

適切な換気

(f)

器具と設備の適切な使用と保守

(g)

十分かつ適切な照明

(h)

衛生設備

(i)

防火対策

 
工場の安全衛生を確保するためには、以下の点を守る必要があります。
 

(a)

定期的な通常点検(inspection)

(b)

特別点検(inspection)

(c)

安全衛生確保のための勧告の遵守、実施状況の点検(inspection)

 

 

4. 安全研修の実施
 
研修コースは、監督者と労働者の双方を対象に実施すべきです。研修コースにはさまざまなものがあり、以下はその例です。

(a)

新規採用労働者向け − 新規採用の労働者のためのオリエンテーションまたは初期研修

(b)

OJT − 一定期間勤続した労働者向けの研修

(c)

再教育 − 長期勤続の労働者向けの再研修

(d)

監督者研修

(e)

安全活動への参加

  (1) 作業時間外
  (2) 会議
  (3) ワークショップ

 

 
研修における6つの必須事項
 

(1)

労働者に安全プログラムとは何かを周知徹底すること

(2)

勤務時間内外のあらゆる場所で、安全を学び、教え、実践するよう促すこと

(3)

疑問点を解明し、安全には見返りがあることを理解させること

(4)

労働者への必要に応じた研修を実施すること

(5)

誰の利益となるかを常に自覚させること

(6)

安全な作業の方法を示すこと

 

5. 災害記録制度負傷災害の分析報告−結果判定)
 
災害の内容を文書にしたもので、以下の目的があります。
 

(a)

安全担当管理者(safety director)がプログラムを客観的に評価する際の基準にすること

(b)

負傷発生件数の多い工場または部門を明らかにすること

(c)

負傷多発の原因について情報を得ること

 
 安全衛生基準の規則1050により、事業所は、障害を伴う負傷を引き起こした労働災害と職業病を報告するよう義務づけられています。DOLE/BWC/OHSD/IP-6様式(事業者労働災害・職業病報告)を作成し、地域労働事務所に提出(1通は労働条件局あて)しなければなりません。この様式は、労働災害・職業病の記録に必要な関連データを得るための包括的書類です。

 

6. 健康管理・救急制度(配置時の健康診断の実施−負傷の治療−救急措置−定期健康診断)
 
企業の健康管理部門は、以下の関連業務を行ないます。
 

(a)

適切な健康状態の検査と労働者の適切な人員配置のため、入社前の健康診断を実施すること

(b)

有害物質に暴露される労働者を対象に、定期健康診断を実施すること

(c)

新規の作業または工程を調査し、健康を害する危険性の有無を判定すること

(d)

負傷した労働者を遂行可能な業務に配置替えするための制度を確立すること

 

7. 労働者の個人的責任の受容(研修−関心の維持)
 
労働者も安全プログラムを成功させる義務を負っています。以下はその例です。
 

(a)

安全な作業慣行と手続きを守ること

(b)

同僚の安全を常に念頭に置くこと

(c)

災害防止のために、自分の知識と影響力を働かせること

(d)

危険な状況に気がついた場合、必ず監督者に報告すること

(e)

最大限の安全を確保するため、労働条件改善に向けたアイデア、提案を出すこと

(f)

安全衛生委員会の正規委員に指名された場合は、常に積極的に参加すること

 
  経営者が安全への関心を高めるための措置は、研修以外にもあります。安全普及対策
には以下のものがあります。
 
1.  安全会議 − 4種類
 

(a)

経営陣と監督者の会議 − 方針を策定し、安全プログラムまたは計画、特別安全活動を実施するもの。

(b)

全体会議 − 特別な目的のもとに開催するもの

(c)

部門別会議 − 部門特有の問題を討議し、キャンペーンを立案し、または災害を分析するもの

(d)

小グループ会議 − 日常作業を安全に行なうための計画を検討するもの

 
2.  安全コンテスト−以下のような例があります。
 

(a)

負傷発生率コンテスト

(b)

部門別コンテスト

(c)

グループ別コンテスト

(d)

工場内または部門内コンテスト

(e)

個人別コンテスト

(f)

負傷発生率ゼロ・コンテスト − 安全スローガン、ポスター、家庭内と地域社会でのコンテスト

 
3.  ポスター、掲示板、看板などを利用して安全を宣伝すること
 
4.  安全キャンペーン、安全研修コース、実演、放送、出版、提案制度などを活用すること
 

 

安全プログラム実施に際しての要点

 

1. 経営者の率先行動とリーダーシップ

 経営幹部みずから安全衛生の責任を負い、先頭に立って安全プログラムを開始すること

2. スタッフの配置

  経営幹部は企業の安全衛生方針を作成し、監督者の会議や手紙、広報、発表という形でそれを宣言します。安全衛生方針は、簡潔に経営者の姿勢と方針を明示しなければなりません。その際には以下の点を明確にしておく必要があります。。

(a)

経営者は何を望んでいるか?

(b)

方針は、職場の安全衛生、作業時間外の安全衛生、物的損害、火災、製品の安全性に関連するものか?

(c)

責任は誰が負うのか?

(d)

方針はどのような場合にどのようにして修正するのか?

(e)

企業組織内でどう位置づけられるのか?

(f)

委員会は何を行なうのか?

(g)

活動方針の変更、決定の権限は誰にあるのか?

(h)

会社が準拠する規則は何か?


3. 方針の大要と一般的な手続きの決定

  監督者、作業長、安全衛生委員会は、安全衛生方針実行の任務を引き受けること

4. 工場の災害実績と作業内容の研究

  安全プログラム作成の基礎のため、 工場の作業内容と災害実績の研究を行うこと

5. 安全衛生プログラムの作成

  上述の7つの基本要素を軸に安全プログラムを作成し、目標、監視システム、表彰、評価基準などの詳細を記載し、それを実行すること

6. 災害統計の綿密な検討

  プラントまたは工場内外の配置に及ぼした影響を評価すること

(a)

生産性は上昇し、コストは低下したかどうか

(b)

度数率、強度率と____との比較(期間別比較 − 昨年、2年前など)

(c)

労働者の志気は高まったかどうか

(d)

社会的評価は高まったかどうか


7. さまざまな部門間の連携(大企業の場合)
A. 健康管理部門
  1. 健康状態の検査と労働者の適切な配置のため、入社前の健康診断を実施すること
  2. 有害物質に暴露される労働者を対象に、定期健康診断を実施すること
  3. 新規の作業または工程を検査し、健康を害する危険性の有無を判定すること
  4. 負傷した労働者を遂行可能な業務に配置替えする制度を確立すること

B. 人事部門

  1. 作業中の損失時間、災害、疾病の記録を保管すること
  2. 人員配置に関連して健康管理、採用、安全の各部門と協力すること
  3. 負傷した労働者のリハビリテーションに協力し、援助すること
  4. 労働者が適任と認められていない作業に配置されるのを防止するため、部門を超えた管理を行なうこと

C. 技術部門

  1. 重大な危険性の除去をはじめ、安全作業のための要望を迅速に処理すること
  2. 新規作業の開始、建築物、工程、作業の新設または既存のものの変更、または設備導入の際は、事前に安全部門と協議すること

D. 購買部門

  1. 設備、器具、原材料、個人用保護具を購入する際は、必ず安全部門と調整すること
  2. 有害な物質、原材料を要求する場合は、安全部門に連絡して適切な調査、点検を行なうこと

 

注意: 安全は全員の協力によって実現するもので、経営者、労働者などが一致協力して、効果的な安全プログラムを作成しなければならない。