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障害を持つ労働者の安全衛生

資料出所:Republic of the Philippines Department of Labor and Employment
Occupational Safety and Health Center
Report of Proceedings #3
22 July 2002
「Safety and Health Concerns of Working Persons with Disabilities」
(仮訳 国際安全衛生センター)



序文

 今日、労働安全衛生(OSH)に関して新たに生じている問題のひとつに、働く障害者(persons with disabilities: PWDs)の問題があります。皆さんはこの報告書の中で、多くのPWDsが賃金労働者として、あるいはその他のさまざまな形態でメインストリーム化されようとしていることに気づかれるでしょう。

 当然ながら、どんな仕事においてもそうですが、PWDsは生計を立てる上で多くの危険有害要因に直面しています。今後さらに多くのPWDsが労働力に参加し、社会の生産的な一員となることから、今がこの問題を調査する好機と言えるでしょう。

 uZAPang OSH フォーラム(訳注:職場における安全衛生に関する意見交換の場)は、働くPWDsの労働安全衛生に関する問題について討議することを可能にしました。政府、NGOの代表、その他の関係者、そしてとりわけ働くPWDsが、「National Disability Prevention and Rehabilitation Week」期間中に開催されたこのフォーラムに参加しました。

 uZAPang OSHは気楽な討議形式で行われ、労働安全衛生についての様々な政策、問題および趨勢に関する情報や知識の交換の場を提供しました。このuZAPang OSHは、労働安全衛生に関する労働雇用省(Department of Labor and Employment: DOLE)の最も重要なプログラムの一つであるゼロ災プログラム(Zero Accident Program: ZAP)の下にあります。

 1998年に導入されて以来、uZAPang OSHは、HIV/AIDSと職場、建設安全、火災安全、学校安全、職場における女性に対する暴力、労働安全衛生を通じた児童労働の排除、農薬の安全など、労働安全衛生に関する多くの問題を扱ってきました。

 障害を持つ労働者の労働安全衛生問題にスポットを当てようとする私達を支援して下さっているNational Council for the Welfare of Disabled Persons およびBureau of Local Employment に深く感謝致します。

Dr. Dulce P. Estrella-Gust
Executive Director




障害に負けず、精一杯生きる人生


Jun
視力障害があるが、コンピュータの技能を持つ

 彼は、毎日約12時間をコンピュータ作業に費す。長時間労働により腰痛を患っているが、ただ我慢している。Junは「長い時間働いた後は、寝るだけです」と語る。コンピュータ作業が安全衛生対策を必要とすることに彼は気づいていない。さらに、コンピュータ作業には、首、肩、腰および手首の痛みといった多くの健康問題が伴うということも認識していない。手首では、最悪の場合は手根管症候群に進展する。

Prescilla
両腕損失の障害を持つが、トレーナーとして働く

 4年間、Prescillaは貿易産業省(Department of Trade and Industry)の家内工業技術センター(Cottage Industry Technology Center)で生活プログラムのトレーナーとして働いている。彼女は2本の足を使い、他のPWDsに古雑誌から装飾品を作る方法を指導している。この仕事でつま先や足に負担がかかるかもしれないことを、彼女は自覚していない。目の酷使によって、目にも問題が生じる可能性がある。


Rey
片足切断の障害を持ち、家業を手伝っている

 Reyは長年セールスマンとして働いていたが、1997年にBurghers disease(動脈の病気)を患い、片足を切断した。身体的、精神的に回復するのに1年を要した。人生が一番充実していた時に片足を失ったため、自分の障害を受け入れることは、彼にとって身体の回復よりもさらに困難であった。1998年、彼は勧誘員(canvasser)として義兄の仕事を手伝うようになったが、その仕事は固定給ではなかった。Reyがフルタイムの勧誘員あるいは買い手(purchaser)として一般市場で働く勇気が出たのは今年になってからである。大卒なので、彼はきっと仕事を見つけることができるだろう。現在のところ、彼は自分の雇用のことで頭がいっぱいで、労働安全衛生には関心がおよばない。



時を得て

 フィリピンの労働安全衛生史上初めて、働く障害者(PWDs)の安全衛生の問題が、uZAPang OSHフォーラムで明らかになった。通常の雇用にPWDsを組み入れようという支援活動の増加もまた、作業中の彼らの安全衛生状態についての関心を高めた。

 1995年に国立統計局(National Statistics Office)に登録された919,332人のPWDsのうち、総計105,698人の雇用可能なPWDsが、労働雇用省のTULAY 2000プログラムに登録された。地方雇用局(Bureau of Local Employment: BLE)が先頭に立ち、TULAY 2000は、PWDsが固定賃金を得られる仕事を見つけ、生計プロジェクトで訓練を受ける手助けをしている。

 2000年現在、11,591人のPWDsが賃金労働者として職を得るようになり、BLEの努力が実を結んでいる。同年、さらに4,350人が自営業に就いている。

 多くの事業者が、PWDsの権利拡大を表明し始めているため、さらに多くのPWDsが一般市場へ参加することが期待されている。今年、BLEは7つの地方で1,500以上の求人を行っている。これは、PWDsのジョブフェアに参加している約140名の事業主からのものである。たとえば、フィリピン最大手のファーストフード店であるJollibeeは最近、聴覚や言語に障害のある9,000人の人々を、管理スタッフ、レジ係、全国のレストランの給仕などとして雇用した。その他には、現在多くのPWDsを正社員として雇用している一般小売店のBenchが知られている。

 このデータから考えると、働くPWDsは作業関連の危険有害要因にさらされていることが予測される。そうなると問題は、PWDsがどのていど健康で安全な状態にあるかということである。

 この問題はuZAPang OSH開催中に取り上げられ、具体的には次の事項が話し合われた。
*PWDsが直面する現在の問題
*事業主がPWDsを支援するために守るべき安全衛生対策
*各種機関がPWDsに提供している援助の種類
*働くPWDsの福祉を改善するための提言



最前線

 PWDsが資格を持っていないことは、彼らが一般市場に参加する上で障害となっており、そのため多くが自営の道を選んでいる。しかし、彼らがフォーマルセクターとインフォーマルセクターのどちらで働こうと、安全衛生の問題は常についてまわる。

 全国障害者福祉評議会(National Council for the Welfare of Disabled Persons : NCWDP)の副局長Mateo Lee氏は、PWDsの安全衛生状態を認識することにおいて、他に先がけて活動を行ったuZAPang OSHを承認することで、これを証明した。NCWDPの現在の目的は、PWDsが社会の生産的な一員になれるよう支援し、彼らの権利拡大をはかることであるため、労働安全衛生にはあまり重点が置かれていなかった。

 しかし、ゆっくりではあるが、障害者のための大憲章(Magna Carta for Disabled Persons)すなわち国法344(Batas Pambansa 344)を実施する準備が整い、PWDsの安全衛生の問題が社会に提起されるようになっている。

 uZAPang OSHは、PWDsが職場で抱える問題に焦点をあて、フィリピンのPWDsの福祉と保護の向上のための洞察や提言を生み出すことができた。


物理的改善

 Lee副局長は、施設はその建設に先立ち、障害者のためのMC(大憲章)の条項を遵守しなければならないと強調した。

 彼は、大憲章に規定されているものから、以下を挙げた。
  • 聴覚障害者のために、信号灯や視覚信号を設置する。
  • 車椅子に乗った障害者のために、通路をあけ、テーブルの下に物入れをつけない。
  • 階段に手すりを取り付ける。
  • 急な階段を設置しない。
  • 床をすべりやすい材質にしない。
  • 車椅子用のスロープは安全に設置され、以前見られたようにマンホールや国道の前に設置してはいけない。
  • 視力障害者のために、壁の突起物(釘など)を避けるとともに、廊下のフラップ付きの窓を開けたままにしておく。
  • PWDsにトレーニング(食品加工などの)を行う人々のために、機械に適切なガードを設ける。

 労働安全衛生センター(OSHC: Occupational Safety and Health Center)の長であるDulce P. Estrella-Gust博士によると、労働安全衛生基準(Occupational Safety and Health Standard: OSHS)は、すでにいくつかの規則を義務づけている。しかし、多くの法と同様に、OSHSの実施には問題がある。労働雇用省(Bureau of Working Conditions)のJerry Gatchalian氏によると、年間の事故報告はたった8000件である。国内に800,000以上の会社があることを考えれば、これらの報告書のデータが正確なものではないことがわかる。さらに、事故報告書は、犠牲者が障害者かどうかを明らかにしていない。

 同様に、マニラ首都圏開発局(Metro Manila Development Authority: MMDA)の長官であるEdna Godinez氏によれば、彼らは現在、歩道から障害物をすべて取り除くことに取り組んでいる。これによって、通行人はもとより、歩道の障害物により主要道路を苦労して進まざるをえないPWDsを巻き込む、全ての事故を防ぐことができる。彼女によると、これは、新しくMMDAの議長に任命されたFernando Bunye氏が、就任直後に指示した最初の指令である。彼らは今、すべての自治体に、歩道から障害物を除くために年間予算の6%を割り当てるよう命じる決議に取り組んでいる。



衛生の必要

 労働者の主な障害の例として、喫煙がフォーラムでとり上げられた。Godinez長官によると、MMDAは、公共の場での喫煙を禁止する規則を公布した。

 しかし、規則を破った者に対する厳しい罰則がないため、これは厳密に施行されていない。規則がうまく機能するためには、罰則としてチケットを発行される交通違反者と同様に、喫煙をした者は罰せられるべきであると彼女は提案している。

 また、PWDsの精神衛生状態についても、フォーラムで討議された。Gust博士はとくに、障害者となった人々が、みずからの障害にうまく対処できるようになるまでに要した時間を尋ねた。社会福祉開発省(Department of Social Welfare and Development:DSWD)のEdith Junio氏によると、身体障害者になった事実を受け入れるのに、通常1年を要する。全国のリハビリセンターには、PWDsが自身の状況を受け入れる手助けをするために、精神科医とカウンセラーがいる。さらに重要なことは、DSWDの職業訓練が、障害への対処のメカニズムを早めることである。また、訓練の期間中に他のPWDsと出会うことで、現状を受け入れるための適応力が促進される。


PWDsへの支援

 労働雇用省(DOLE)の労働者補償委員会(Employees' Compensation Commission: ECC)は、業務上の障害を負った労働者に社会復帰のためのサービスを提供している。

 社会復帰プログラムにより、職業コースのトレーニングまたは生活プログラムの受講を通して、これまで700名以上の労働者が恩恵を受けた。ECCは、業務上傷害の犠牲となった労働者を再教育するために、DTI(貿易産業省)およびTESDA(労働省技術教育技能教育庁)と連携をとっている。



補償は可能か、不可能か?

Oscar
片足を切断した、もと運転手

 路上での口論が暴力に発展し、彼は片足を失う結果となった。当時非番であった兵士と往来で口論になった際、公用で会社の車を運転していたOscarの運命は変わってしまった。状況に腹をたてたその兵士が、争いの最中にOscarの両足を撃ったのである。幸いにも、右足は助かったが、左足は切断を余儀なくされた。彼はその兵士を訴え、今も裁判は続いている。

 当初、彼の障害は人との争いから生じた結果であったため、業務との関連性に疑問がもたれた。しかし、事故が起こった時に勤務中であったという事実により、労働者補償プログラム(Employees' Compensation Program: ECP)に基づき補償を請求する権利を得た。

 所得給付とは別に、医療支援と義足がECPから提供された。Oscarは現在、男性用の理髪の職業コースを終えようとしている。

 9月に、彼は女性用の美容師コースに再び登録した。受講中、彼は支給金を受けている。これら全ての援助は、彼が奨学生となっているECPのおかげである。

 障害者のためのMC(大憲章)の下、技術教育・技能開発当局(Technical Education , Skills and Development Authority)に割り当てられた助成金の2〜5%が、PWDsのトレーニングに使用される。社会福祉開発省(DSWD)は、PWDsの社会復帰と職業訓練のためにそのプログラムを継続している。一方、BLE(Bureau of Local Employment)は、雇用の面でPWDsを支援し続けている。DTI(貿易産業省)のCITI(家内工業技術センター)もまた、PWDsの訓練を行っている。貿易産業の専門家であるRomeo M. Galamgam氏によると、PWDsのトレーニングは機械を使用するため、作業中の安全衛生に配慮している。

 マニラ首都圏開発局(MMDA)の下、各地方自治体は、特にMC(大憲章)の条例に関するPWDsのためのプログラムを持っている。彼らは、高齢者用プログラムと同じように効果的な、PWDsのためのMCの策定に取り組んでいる。高齢者用のプログラムとは、IDを持っている者は、医療を含み商業施設で特別割引を受けられるというものである。

 一方、労働安全衛生センター(OSHC)は、隔年開催されるGKK(Gawad Kaligtasan at Kalusugan)のための追加基準として、PWDs用のプログラムに取り組んでいる。GKKとは、労働安全衛生に優れた会社に賞を授与する国家表彰制度である。実際、昨年の第3回GKKの受賞者はすべて、障害者用の設備を設けている。Gust博士は、全国障害者福祉評議会(NCWDP)が障害者の福祉や保護を提唱する手助けをするとともに、PWDsのためのMC(大憲章)を推進すると表明した。


継続的努力

 uZAPang OSHは、労働安全衛生に関する労働雇用省(DOLE)の最も重要な事業の一つであるゼロ災害プログラム(Zero Accident Program: ZAP)の下で行われる。労働安全衛生センター(OSHC)は、7月17日から23日に開催された「第24回全国障害防止週間」で、PWDsにとって必要な安全衛生についてのこのフォーラムの趣旨に大きく貢献した。これまで、9つのフォーラムが開かれ、特にHIV/AIDSと職場、火災安全をはじめとするトピックをとり上げてきた。フォーラムから得られたデータは、情報資料の作成、労働安全衛生に関する調査研究、またはトレーニングプログラムの実施に使用される。




安全衛生の秘訣

コンピュータの使用に関して

目の疲労防止
  • 1時間毎に10〜15分目を休ませる。
  • 目を休ませる一つの方法は、数分間遠くを見ることである。


コンピュータの使用から生じるその他の健康問題の防止
  • 目を休ませている間、身体のストレッチを行う。
  • 効果的に身体の痛みを予防し、生産性を増すために、作業環境を適切に整える。
  • 労働者の身体サイズやニーズに、設備や組織を合わせる。

目を酷使する仕事に関して

  • 1時間毎に10〜15分目を休ませる。
  • 目を閉じるか、他の仕事をする。これを「work enlargement」という。たとえば、一日中コンピュータを使用するなら、目を休ませながら書類のファイルを行う。
  • 首から肩にかけての凝りと腰痛を防ぐために、設備と仕事を自身の身体に合わせる。

生活習慣病の防止

生活習慣病の例
  • 糖尿病
  • 心臓病
  • タバコに関連する肺の病気


生活習慣病を防止するために、会社が労働者を支援できる対策
  • 会社の構内において、一定の喫煙場所のみでの喫煙に制限する
  • 社内食堂での適切な食事の提供
  • 興味を持つ労働者に向けて、生活習慣病に関する情報と教材の提供
  • レクリエーション・運動設備の設置
  • 会社のクリニックでの診断と専門医への紹介