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グローバル化と弱い立場に置かれた人々の安全衛生(フィリピン)

資料出所:Republic of the Philippines Department of Labor and Employment
Occupational Safety and Health Center
Report of Proceedings #1
23 January 2002
「Globalization and the Safety and Health of Vulnerable Sectors」
(仮訳 国際安全衛生センター)



序文

 uZAPangOSHは、労働安全衛生に関するさまざまな政策、問題、傾向について、情報や知識の交換の場を提供することを目的としたフォーラムです。気楽な討議形式で行われ、取り上げられた問題について、参加者の経験や専門知識を共有することを目的としています。このuZAPangOSHは、労働安全衛生(OSH)に関する労働雇用省(Department of Labour and Employment: DOLE)の最も重要なプログラムの一つであるゼロ災害プログラム(Zero Accident Program: ZAP)の下にあります。

 1998年に導入されて以来、uZAPangOSHは、労働安全衛生に関する多くの問題に取り組んできました。HIV/AIDSと職場、建設安全、火災安全、学校安全、職場の女性に対する暴力、労働安全衛生を通じた児童労働の排除、農薬の安全、そして障害を持つ労働者のOSHに関する問題などです。

 討議の結果は、調査、情報資料やトレーニングの土台となります。2002年1月にTCTP(Third Country Training Program)中に開催されたこのフォーラムでは、グローバル化と弱い立場の人々の安全衛生がトピックに選ばれました。

 インフォーマルセクター、女性労働者、若年労働者、および児童労働といった弱い立場に置かれた人々に、なぜOSHサービスの提供が大変重要なのか、このリポートを読み進めながらお気づき下されば幸いです。

Dr. Dulce P. Estrella-Gust
Executive Director



はじめに

 1980年代初頭にグローバル化が始まって以降、ビジネスのいたる所に劇的な変化がもたらされた。大きな経済規模を持つ大会社への合併が進み、競争力をもたない小さな個人経営の企業を排除した。そして、それはしばしば小企業の閉鎖や縮小につながった。非熟練労働者、およびインフォーマルセクターの女性や若年労働者を含む弱い立場の人々は、特に疎外、排除、または失業の影響を受けた。

 不平等(それが正当化されようが、されまいが)が認識されるにつれて、グローバル化が社会に与えた意味について、世界的に調査が行われるようになった。

グローバル化と、弱い立場の人々の安全衛生

 2002年1月、uZAPangOSHは、グローバル化そしてそれが弱い立場に置かれた人々に与えた(プラスとマイナスの)影響について重点的に議論した。SMEs(中小企業)のためのOSHに関するTCTP(Third Country Training Program)(注:1997年からOSHCがASEAN及びアジア太平洋地域の一定の国々を対照に実施している、中小企業の安全衛生のための研修プログラム)を受講している研修生を含む、多くの分野からの参加があった。

 肩の張らないフォーラムであったため、参加者は、予防や規制措置によって保護されない労働者の安全衛生について、自分たちの意見を自由に述べるよう奨励された。そうした労働者の中には、子供、女性および移民労働者のようなインフォーマルセクターの労働者が含まれる。

 労働安全衛生センター(OSHC)の長である Dr. Dulce GustとMr. Ernesto Ceciliaが、フォーラムの司会を行った。グローバル化の長所と短所に関する認識について、TCTPの参加者は討議を行い次のような問題が明らかになった。

参加者 長所 短所
Mr. Mujeeb(インド)
  1. 新しい技術の導入
  2. 輸出の増加
  3. 大会社からの発注により、SMEsの景気がよくなった。
  4. OSHに関し、新技術が労働者に危険をもたらすようになった。(訳注:短所の誤りと思われる)
  5. 労働者に危険を及ぼす化学物質の輸入増加(訳注:短所の誤りと思われる)
  1. 民間企業への助成金の中止
  2. 緊縮財政、委託業務
Mr. Fernando(フィリピン)
  1. ISOを取得しないと、会社は外国人に製品を販売できない。
  2. 企業でOSHのチェックリストが実施されるようになった。
生産コストの上昇により、多くの会社が閉鎖した。投資家達は、人件費の安い中国に移行した。
Mr. Rahman(バングラデシュ)
多くの種類の危険な農薬が輸入されるようになった。
Ms. Dinah B. (MatulacPhilExport代表) 企業に競争力をつける教育が行われるようになった。 労働者はノルマの達成を気にかけ、OSHはグローバル化の中で問題となっていない。
Mr. Indika(スリランカ)
投資家がコストを削減するため安全が危うくなっている。スリランカでは、投資家は、安い人件費を求めてバングラデシュや中国に移っている。
Ms. Cristy Merto (GTEB代表) 会社がさらに競争力をつける。 外国人バイヤーの強制的な要求により閉鎖せざるをえない会社もある。
Ms. Tesorio(フィリピン)
コンピューターの使用による危険性があるが、労働者は、このような危険性の説明を受けていない。
Ms. Leonides Macaspac (ISSI代表)
  1. 事業者がより生産性を気にかけるため、健康がおろそかにされる。
  2. 外注が増加し、中小企業が急増した。


問題点

 以上をふまえ、Dr. Gustは、参加者にグローバル化と弱い立場にある人々の安全衛生に関する問題点を挙げるよう要請した。以下のような問題が挙げられた。
  • 統計の不足
  • 多くの者が失業し、生きるために仕事を選ばないため、グローバル化の中でディーセントワークに就くことは不可能である。
  • 事業者は、OSHを追加経費と考えている。彼らは、災害がどんなに高くつくか気づいていない。労働者は容易に置き換え可能だと考えている事業主もいる。
  • OSHに関する法の多くが、十分に施行されていない。
  • 災害は、労働者の態度や考え方によって発生する。人々は、自分が災害の犠牲者になるとは思っていない。
  • 事業主の考えは「仕事をしなければ支払わない」というものだ。これは、「事業者は、労働者が災害の犠牲者になろうとなるまいと構わない」ということを意味する。なぜならば事業主は、出勤しなければ支払わないからである。したがって、会社は何も失わない。
  • 労働者は、団体交渉協約にOSHを盛り込まず、そのことは、OSHが彼らにとって優先事項ではないことを表している。
  • OSH規則をはじめ労働法に対する認識の低さ(繊維製品輸出委員会(GTEB)のメンバー)
  • 会社と労働者の双方が、OSHを理解していない。
  • アジア太平洋諸国は人口が多いため、トレーニングの実施が困難である。
  • OSHを実施するための人材が不足している。
  • OSHを実施する者がごく限られている。
  • OSHに関するトレーニングプログラムは、労働者から始めるべきである。

回答

 これらの主要問題を前提とし、Dr. Gust と Mr. Ceciliaは、上記に述べた問題に関し各セクターの回答例を挙げるよう参加者に要請した。

 以下はその回答である。

  • インドは、事業主の社会的責任を重視するOSH基準を導入している。ある会社では、OSHに投資することにより320万ルピアの出費を減じた。
  • 国際安全衛生センター(OSHC)と労働者補償委員会(Employees' Compensation Commision)は、「災害防止は、補償を支払うよりも安価である」という知識の周知に取り組んでいる。1996年から2000年だけで、フィリピン政府はおよそ82億ペソの損害賠償を支払った。にもかかわらず、労働者が障害者になった場合、彼の就業する機会は減り、家族もまた影響を受ける。
  • フィリピンの地方労働局(Bureau of Rural Workers)は、ディーセントワークを推進するため、農業における理解を高めるプログラムを行っている。
  • フィリピンの大企業は、労働災害を発生させないことによって節約した工数によって、費用便益を測っている。
  • フィリピンの小規模産業協会(The Institute for Small-Scale Industries)は、企業家向けのトレーニングコースのトピックに安全衛生を加える計画をたてている。
  • フィリピン労働組合会議(Trade Union Congress for the Philippines)の調査によると、衛生に関する地域密着型のプログラム費用は、1日たった38ペソである。これは家庭全体の安全衛生を対象とし、予防は治療費よりも経済的であるということを示している。
  • タイは、2002年1月に「30バーツ健康保険制度 (30 Baht Law)」を始めた。これにより、全ての労働者は国の保険制度の対象となった。
  • フィリピンの「小規模企業における作業改善(Work Improvement for Small Enterprises)」は、OSHと生産性との密接なつながりを示した。
  • ILO(国際労働機関)は、アジア開発銀行とともに、OSH基準の実施コストに関して調査を行っている。
  • 繊維製品輸出委員会(GTEB)は、OSHを含む年次監査を行うことによって、グローバル化に備えている。彼らは、作業リスク評価プログラム(Work Risk Assessment Program)とよばれる標準監査システムを使用している。監査は、SGV(訳注:フィリピンの国際的な会計監査法人)やその他民間監査会社によって行われている。
  • すべての労働者の安全衛生達成にむけて取り組むべきである。

現場での支援方法

 さらに、Dr. Gustは、とくに以下のような分野において、あらゆる関係団体による一致団結した取り組みの必要性を繰り返し述べた。
  • 弱い立場に置かれた労働者に対する現場支援システム
  • 多国間イニシアティブの批准の必要性

 その後、現場の支援方法に焦点を当てて討議が行われ、弱い立場で働く労働者の緊急医療のみならず、適切な衛生、暮らし、医療保険の問題に話が及んだ。Dr. Gustは、「政府、事業主、労働者組合、教会団体およびその他のNGOは、弱い立場で働く人々のための福祉および監視センターの設立・運営のために、ともに協力して取り組むべきである。」と述べた。

 すべての労働現場に、弱い立場で働く人々のための情報提供センター(resource center)を設立すべきである。以下はセンターの目的である。
  1. カウンセリングと法的サービスの提供
  2. 特に女性や外国人労働者のニーズに役立つ、ジェンダーを意識したプログラムや活動を計画する。
  3. 福祉援助の提供
  4. 人材開発を高めるために企画されたプロジェクトの展開
  5. 災害危機準備のための改善を支援する

多国間イニシアティブ

 一方、Dr. Gustは、「すべての移住労働者およびその家族の権利の保護」に関する1990年の国連条約を例として挙げ、多国間イニシアティブの批准の必要性について詳しく述べた。

 Dr. Gustは、「この条約には、緊急医療をうける権利、拷問や虐待の禁止、非人間的なまたは品格を傷つける扱いまたは処罰、差別を受けない権利、社会保障を受ける権利に関する条項が盛り込まれている」と述べた。この重要な条約は、これまで必要20ヶ国のうち14ヶ国が批准しただけで、いまだ効力を発していない。

 条約に謳われている権利は労働者の安全衛生の基本であるため、この条約および関連する条約の批准のためのキャンペーンはぜひとも必要である。

 最後に、Dr. Gustは次のように述べた。「毎年、国連開発計画(United Nations Development Program: UNDP)の人間開発報告書(human development reports)は、男性、女性、さらに弱い立場に置かれた人々は、一様にグローバル化の恩恵を全く受けていないという事実を明らかにしている。UNDPのレポートは、グローバル化が適切に進むなら、世界中の労働者や消費者はリスクよりさらに多くの恩恵を受けるはずだと楽観的に結論づけている。」