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ポーランド労働監督局の活動に関する労働監督局長報告

資料出所:ポーランド労働監督局ホームページ
http://www.gip.pl/angielski/sprawo%20_ang/sp_ang.htm



ポーランド労働監督局の活動に関する労働監督局長報告(2002年)
要約


 ポーランド労働監督局(National Labour Inspectorate:NLI)は、労働関係法令、特に労働安全衛生関係法令の遵守に関する管理と監督を行う機関である。その活動範囲、権限、内部組織は、1981年3月6日付けポーランド労働監督局法(その後の改正も含め法律ジャーナル誌2001年No.124の1362項参照)及び2002年10月25日付けポーランド労働監督局の地位に関するポーランド下院議長規則に付属したポーランド労働監督局規則(2002年執行規則ジャーナル誌No.54の740項)で規定されている。

 ポーランド労働監督局は下院(Sejm)の下部機関である。NLI法に定められた範囲におけるNLIの活動については、下院議長が任命する労働保護評議会が監督する。

 NLIの組織は中央労働監督局、16の地方労働監督局、及びその下で活動する42の地区事務所で構成されており、各地方労働監督局はその地域的特性を活かして1つの行政区画(voivodeship)を担当する。

 NLIは、労働監督局次長と地方労働監督官の補佐をうけて、労働監督局長が管理する。

 2002年にNLIの活動範囲を拡大するための法律が下院を通過した。拡大された範囲は次の通りである:

・ 製品が持つべき必須の要件について適合性評価を行う(2002年8月30日適合性評価システム法)。ポーランド労働監督局は、専門機関の一つとして競争・消費者保護局の監督の下でこの業務を行う。
・ 労働安全衛生に関して国際的な要件を満たしているかどうかの観点からの船舶の監督(商船における作業及び海上安全に係る法律の改正に関する2002年12月20日法律)。

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 中央統計局の予備的データによると、2002年には80,494人が労災で負傷したが、これは前年より4,781人(5.6%)減少している。

 労災の被災者の総数は明らかに1997年以来減少傾向にある。

 2002年には労災による死亡者数も減少し、520人となっている( 6.1%の減少)。重傷者数も減少しており1,037人( 9.8%の減少)となっている。

 労災被災者数の減少は、長年、災害が多発するとされてきた業種も含めて大多数の業種でも見られることである。中央統計局の速報値によると、特に製造業では9.2%、建設業では18.3%それぞれ減少している。

 依然として災害件数が多いのは鉱業と採石業である。従ってそれらの業種で行われている企業再構築プロセスは作業条件の改善にはあまり効果がなかったということである。

 労災被災者数の減少とともに、全災害の発生率(ポーランドで働いている人1,000人あたり負傷者の数)も3.5%低下した(2001年の7.84から2002年の7.57へ)。

 労働監督官は2002年に、2,480件の労災事故の状況及び原因調査を行った。これらの事故では3,245人が負傷し、うち590人は死亡し、1,038人は重傷を負っている。

 調査を行った災害の中で、18歳未満の若年労働者に関しては、39人が負傷し、うち死亡が2人、重傷が17人であった(2001年は負傷が38人、うち死亡が1人、重傷が16人であった)。

 労災に関連するか、或いはその直接原因となる事故の型については大きな変化はなかった。事故は機械、設備又はそれらの一部若しくは輸送設備により激突されるか、それらに挟まれることから発生することが最も多いが、一方、死亡災害の最大の原因は交通事故である。

 労災被災者は業務経験が1年未満の者が非常に多い。他方、その企業で業務の期間が長くなると災害のリスクは明らかに減少する。

 労災に関連する要因については、組織・管理的なもの37%、技術的なもの12%であるが、51%もの多くがヒューマンファクター(労働者の行動)に関係するものであった。

 2002年に、中央統計局は、10人以上の労働者を雇用する約59,000の企業を対象として、作業条件の調査を行った。その企業が雇用している数は全部で4,734,000人で、すなわち国の働いている人(私的な農業を除く)の44.5%を占めている。これらの企業で働いている人のうち637,400人(13.5%)が労働災害の危険がある環境で働いていた

 ハザードのレベルを示す割合(労働者1,000人あたりの危険な環境で雇用されている人の数)は前年に比べて6.3%低下し134.7であった。

 リスクに曝されている人たちの中で一番多いのは作業環境に起因する有害要因への暴露(労働者1,000人あたり83人)、きつい作業(同38人)、及び機械的な要因(同14人)であった。

 健康に対して最もハザードが大きい職場は、航空輸送業、鉱業と採石業、林業及びそれらに関連したサービスである。これらすべての業種で、2002年には上記の割合は低下している。

 2002年に職業病と診断されたケースは4,915件で、前年よりも18.2%減少している。

 職業病の約94%は、最低10年間有害な又は激しい作業に従事した結果発症したものである。これは職業病の年令層別構成に反映されており、50-59歳(46%)が最も多く次いで40-49歳(26.5%)となっている。

 近年、疾病率(労働者10万人あたりの職業病罹病者数)は明らかな低下傾向にあるが、2002年もその傾向が継続して、その率は53.6となった。

 ポーランドの職業病の約1/4は −これまでもそうであったが− 発声器官(voice organ)に関連するもので、2番目に多いのは聴力損失(18.6%)である。

 次の職業性疾病の認定は減少した:過度の使用による発声器官(voice organ)の慢性障害、聴力損失及びじん肺。

 増加した疾病は、振動による症候群と、物理的又は化学的要因による視力障害である。

 2002年に疾病率が高かった業種は次の通りである:林業、サービス業、鉱業、採石業、金属精錬業、輸送業、教育業。

 2002年に、民間農業(private farmers)では農業社会保険基金に対し51,495件の事故を報告し、このうち、30,720件(前年より約3%多い)が、農作業中の災害であるとして補償の支払い根拠があると認められた。

 災害件数の増加にもかかわらず、保険契約者1,000人あたりの率は20.1から19.9へと1%減少した。しかしこの率は依然として他の業種よりずっと高い(農業における災害の頻度は他の業種の2.5倍である)。

 このうち死亡災害は209人であった(2001年の死亡災害は220人であった)。

 前年同様、最も頻度の高い災害原因は、転倒又は墜落・転落(fall)、動いている機械・器具による激突され又は挟まれ、動物によりつぶされる・激突される・咬まれるなどである。

 多くの懸念を集める現象は子供の災害率である。15歳未満の子供の災害報告数は、2001年の1,456件から2002年の1,432件へとわずかに減少し、1.6%の低下となった。1,432件の71.2%即ち1,019件は労働災害と認定されている。このうち3人の子供が死亡した(2001年には5人であった)。

 2002年に農業社会保険基金は、職業性疾病が原因である健康障害に対し135件の補償一時金を支払った(2001年−113件、2000年−116件)。

 前年同様、疾病の主なものはアレルギー性肺気嚢炎(「農夫肺」farmer's lung)及び気管支ぜんそくといった呼吸器系のものであった。増加しつつあるのはダニが媒介する疾病(ライムLyme病、脳炎、脳脊髄膜炎)である。アレルギー性皮膚炎の数も増大している。

 上記のデータは、農業社会保険基金に加入している民間農業従事者のみを対象としたものであり、これはすべての民間農業従事者(2002年12月31日現在で約400万人)の約37%である。残りの農業従事者の労働災害は公的統計に含まれていない。

 2002年、労働監督官は73,761の事業者に対し、94,982回の巡回監督指導を行った。事業者数と回数が違うのは、同じ事業者に対し複数回の巡回監督指導を行う必要があったためである(前に行った決定と結論に従っているかのチェック、労働者の不満が正当であるかのチェック、労災の状況と原因調査などのため)。またこの違いは、ある企業で異なる事業を行っている事業所、又は別な地域の事業所に巡回監督指導を行った場合、1人の事業者に対し数回の巡回を行ったことになることもその理由である。監督指導を行った企業は、約490万人を雇用している。監督指導を行った企業の半分は従業員9人以下、約1/3は10人〜49人、4%が250人以上の労働者を雇用する大企業(3167)であった。

 監督指導を行った事業者の1/3は商業と修理業、1/4は製造業、1/9は建設業であった。

 労働安全衛生法令の違反の発見に伴い、労働監督官は651,000件の「決定」を発行したが、このなかには「即時、作業の停止決定」が17,000件、「労働者の作業転換の決定」が6,400件含まれており、後者については、法令に違反して危険な、禁止された又は有害な作業を行っていた者、若しくは必要な資格なしで危険な作業を行っていた者約15,000人(女性約800人と18歳未満の労働者261人を含み)が対象となった。

 労働安全衛生に関する「決定」の他に、労働監督官は給与又は労働者が当然受け取るべき別の便益の支払いを命じる28,234件の「決定」を発行した。この命令は、214,937人の労働者の給料に関するもので、その総額は約2億6650万 PLN(ズロチ)となる。

 発行された「決定(労働安全や給料その他の便益の支払いに関するもの双方)」に対して事業者が対応を怠ったため労働監督官が執行手続きを開始したのは347人の事業者に対する378件であった。

 2002年に労働監督官は全部で72,877通の通知(letter)を発行した。72,759通は事業者に対する改善勧告という形式であるが、他に118通を国の機関や団体に発行した。このa/m通知には469,674件の指摘事項(motion)が含まれている。

 2002年に労働監督官は、43,164人の違反者による労働者の権利に対する違法行為101,740件を明らかにした。結果として、労働監督官は:

- 4,986件に関して処罰の告発(motion)を裁判所に行い、その結果、2,227件、総額1,713,455 PLNの罰金が宣告された(罰金の平均は770 PLNであった);
- 33,591件、総額970万 PLNの即時行政罰金を課した(行政罰金の平均は290 PLNであった)。
 即時行政罰金は、違反者処罰のための裁判所への告発に対し6倍の件数となった。これは違反発見直後に低額といえども罰金を課すことが、長期にわたる法廷手続きよりも効果的で抑止力もあることが多いということを労働監督官が確信しているからである。

 助言、警告、又は譴責という形で教育訓練的手段を適用した対象は4,587人である。これは事業者(事業者の代行をしている者又は労働者を管理している者)に労働法令を守る気にさせるためにそのような手段で十分であると考えられる場合、巡回監督指導が事業が始まった直後の最初のものである場合、違反が状況によっては正当化されるような軽度のものであった場合などである。

 2002年に労働監督官が犯罪の疑いで検察庁に告発した事例は846件である。このうち最も多いのは刑法225条§2に関係するもの、すなわち労働監督官に対する公務執行妨害で448件である。この犯罪は、刑法218条、すなわち雇用関係に基づく労働者の権利を故意にかつ繰り返し侵害するという別の犯罪と同時に行われることが多い。218条のみに基づいて検察庁に告発した事例は280件である。

 検察庁からの起訴の結果、裁判所は36人の事業者に対し刑を宣告したがこれは主として罰金及び執行猶予付き禁固刑である。他に32件、刑が宣告されているが、これは労働監督官の2000年と2001年の告発に基づく起訴によるものである。

 犯罪の疑いのある行為で監督が困難になるにつれて、告発の件数は年々増加している。 2000年にはわずか89件であったものが、2001年には237件、2002年には448件となっている。

 2002年に、労働監督局長は労働安全衛生に対する新しい規制と既存のものの改正のために、関係閣僚に対し13件の立法提案を提出した。

 監督指導の業務の他に、労働保護に対する予防的業務及びこれを促進する業務は、ポーランド労働監督局の活動の重要な部分となっている。

- 120万件のアドバイスを行ったが、その78.5%は法律関係、21.5%は技術的なものであった。
- 事業者と企業を管理する機関に対し7,410件の参考情報及び啓発のための書簡を発行した。
- 操業中の企業に対し6,520件の監督を行った。
- 労使双方を含め、次のように教育訓練を行った。
・ 労働組合担当者約1万人
・ 事業者5,500人以上
・ 地方自治体代表者2,300人以上
- 専門的な出版物を21点、合計84,000部出版した。
- 特にNLIについての基本的な情報を含めてホームページwww.pip.gov.pl)の更新を行った。
- 労働保護問題を一般に普及させるため、NLIは次のコンテストを主催(又は共催)した。「事業者−安全な仕事のオーガナイザー」、「安全な工事現場」、「労働保護の法的知識コンテスト」、「訓練のため徒弟として働いている若年労働者のためのOSH規則知識コンテスト」
- NLIのスタッフは、見本市、展示会等の普及行事に参加した(訳注:個々の行事の地名、固有名詞は省略)
まとめと結論

 公的統計の分析により、全国的なスケールで労働安全衛生状況が全般的に改善している徴候が示されている。

 1997年以来労災被災者数が低下傾向にある。2002年には過去12年で最低となっている。

 災害発生率(働いている人1,000人あたり負傷者の数)も減少している。2002年には全災害発生率(7.57)、及び重傷災害発生率(0.10)が1991年-2002年の間の最低値となっている。

 1998年以来、職業性疾病率(働いている人100,000人あたりの罹病者数)も明瞭に低下している。2002年には53.6であり(2001年63.2)、最近12年の最低値である。

 2000年から2002年の間に、労働者の生命又は健康に差し迫った危険を与えるような不法行為は減少した。これは労働監督官が発行する「決定」の数にはっきり反映されており、作業中断の決定は24%、労働者の作業を変更させる決定は27%、それぞれ2001年に比べて減少している。

 しかしながら、労働安全衛生に関する公的統計及びNLI自身の統計に見られる良好な傾向をあまり楽観視することはできない。統計資料は、製造業における減少と、労働災害のリスクが高いという特徴のあった業種で雇用が減少したということの双方に基づく一般的な状況を表しているに過ぎない。状況を評価するに当たって、満足できない安全レベルが何年もの間依然として変わっていない業種もいくつかあるということを記憶しておく必要がある。これらは特に下記の業種である:

・ 鉱業及び採石業。1994年以来見られていた全災害発生率の減少傾向はストップした。この発生率は2001年の15.15から2002年には15.60と上昇し、国内で全産業の2倍を超える最高値となっている。2002年の死亡災害率は0.211という非常に悪いレベルに達し、これは2001年の1.5倍、製造業の4.5倍となっている。
・ 農業、狩猟業及び林業。これらの業種では、2000年から2002年にかけて死亡災害発生率が一貫して非常に悪くなっている。2000年には0.061であったが、2001年には0.090、 2002年には0.125にもなっている。重傷災害発生率は2000年に0.21、2001年-2002年に0.24で、鉱業及び採石業及び製造業の率を上回っている。

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(訳注:以下の部分は抄訳である)

 監督指導の結果や労働者からの不満申し立てによれば、全国的に労使関係の法律の遵守状況は満足すべきレベルとはなっていない。

 2002年には、労働監督官に提出された労働者の不満申し立て件数がここ数年で初めて減少した。しかしその数(32,000件)は1991年(約8,000件)に比べて無視できない。

 法的アドバイスの件数もまだ約120万件と高いが、やはり減少した。

 NLIの担当のうち労働保護に関する法律違反の件数は増加傾向である。1995年には全違反件数の17%であったが、2002年には41%となっている。

 2002年にはさらに悪い現象が起こった。多くの企業、時には従業員数千人といった造船会社も含め倒産がした。何ヶ月もの給料不払いが頻発した。また給与保証基金が、大企業の従業員に支払いをしなければならなかったため、小企業の従業員への支払いができなくなった。

 高い労働コストのため、事業者は新規雇用を控え、法定の給料以下でも残業してでも働きたいという労働者の弱みにつけこんで、人数を必要数以下に減少させることさえ行った。

 監督指導で発行された決定から逃れるため、また罰を逃れるため、企業を清算し、別な名前で同じ仕事をする新しい会社を設立するということは珍しくない。

 いわゆる自営現象が増加しつつある。例えば、ある地区では2001年に5万であった会社数が2002年に19.7万社となっており、うち19万社で7万人しか雇用していない。大多数が1人の企業で、これらは清算した会社の労働者である。

 他に、仕事はそのままで雇用契約を民法による契約に変える例もある。

 また、たくさんの構成要素があった給与体系を簡素化し、残りの要素は事業者の随意裁量であるボーナスとする例もある。

 懸念される違反の分野は次の通りである:

  給与その他の支払い

 2002年には、給料不払い又は給料引き下げといった法律違反増加した。不払いは数ヶ月に亘るものもあり、さらによくないことには事業者にその能力がないということもしばしばであった。

 2002年に監督指導を行った企業の労働者の2/3(68%)が給料を期日までに受け取ることが出来ず、遅延した給料の額は前年より32%も増加した。

 これらは、建設業などに多く見られた。

  労働時間

 労働時間についての違反も依然として多い。主な理由は合理化による人員削減である。他の理由として事業者が法改正を知らなかったとか、法律自体に抜けがあったり、解釈の余地があるなどの場合もある。

 種々の業種の監督結果から2002年には事業者の34%が、実際に労働者が働いた時間を隠すために、労働時間の記録を正確に行っていないことが発見された。

 特によくなかったのは運送業で、労働時間の記録のないものが32%、記録はあるが、正確な実体をつかめないものが48%であった。運送業で違反が多いのは需要にくらべ運転手が少ないこと、事業者が法改正を知らないことなどによる。

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 ポーランドが欧州連合に加盟することに関連して、ポーランド労働監督局は、監督の方法をメンバー国に合わせるとともに、関係法令も調整しなければならない。

 これまで何年もILO、ISSA、EU加盟国の監督担当と接触してきた範囲では、業務の方法、質、効率、担当者の能力と質に関しては心配したり劣等感をもつ必要はない。一方、監督に必要な技術的な機器や予算の点では、ポーランドの労働監督局は不利な立場にある。

 しかし基本的に、監督官のリソースを監督指導的な仕事と助言啓発的な仕事にどのような割合で割り振るかという問題はある。EUでは処罰という立場から予防へと大きく変わっているが、転換期のポーランドとしては、このバランスについては慎重に考えなければならない。

 なぜならば次のような要因があるからである:労働保護のレベル、改正が多く不安定な労働法令、安全衛生法令の軽視、不十分な法令遵守など。

 事業者は労働法令が不安定であるというが、新しい法律を作ったり改正したりするのはEUに合わせるためである。また新しい知識、技術も取り入れなければならない。

 法律を尊重する意識は以下の例によって示されるように期待からほど遠い:

・ 非常に多くの不満が毎年労働者からNLIに申し立てられ、しかもその80%以上は正当なものである;
・ 事業者が巡回監督指導を困難にしたり、場合によっては不可能にしたりするという現象が珍しくなくなっている。2002年にNLI監督官が検察庁に告発したものの2件に1件はそのような公務執行妨害であり年々増加している。(2000年は6件に1件、2001年は3件に1件)
 労働監督官は労働者の権利侵害に関し、検察庁に対して846件の告発を行ったがその20%以上は対応されず、34%については調査を開始しなかったか、調査をやめてしまった。検察は労働者の権利侵害は重要ではないと考えているようだ。

 事業者の中には(特に非常に利幅の薄い事業を行っている者)、労働保護は費用がかかり不必要な官僚的事務だと思っている者もいる。事業者によると労働保護は最も「節約しやすい部分」でもある。安全衛生教育訓練、健康診断、リスクアセスメントと労働者への周知、作業環境測定などがそうである。労働時間や給与、休暇についても規則逃れをする。失業率も高く、労働者も働きたいからこういうことが容易になる。

 労働安全のシステミック(全体的)なマネジメント活動が重要視されている。EUでも適切な安全衛生水準を確保し、国・企業ともに経済的にプラスとなる方法であると証明されている。

 ポーランド労働監督局と中央労働保護協会(Central institute for Labour Protection)が広範囲に強力な活動をしているにもかかわらず、ポーランドの事業者のOSHMSへの関心は低い。グダニスク地方労働監督局のアンケート調査では、60%の事業者がOSHMSを実施する必要はないと答えている。これは経済的に困難だからという理由で正当化できるものではない。

 労働安全マネジメントの重要要素は、アセスメントリスクの文書化・周知であるが、事業者はまったくやっていないか、法的義務を形式的に行っているだけである。

 このような理由から、ここ当分、ポーランド労働監督局のアプローチの基本は監督指導的なものとならざるを得ない。一方、NLIの能力、リソースに見合って予防・啓発活動も展開していく。90万とも見積もられるNLIの監督対象企業数を考えるとそれは非常に重要である。

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 ポーランドにおける労働保護のレベルを見るとNLI の2001年報告書で述べた全般的結論が現在でもあてはまることを示している。

 ポーランドの労働保護が継続的に改善されていくための条件は、国の経済状況の根本的改善、労働法規に関して安定して統一されたシステムの創設、その法規の遵守のための一貫した監督指導である。

 社会全体が労働問題に対する見方を変え、安全な生活スタイル・労働スタイルを習慣化することが必要である。そのため農業も含め普及啓発が重要である。

 労働監督でキーとなるのは監督の品質、有効性、実行である。

 最善の結果を達成するためには、組織における活動だけでなく外部のパートナーとの協力も必要である。

 外部パートナーとNLIの協力に関する基本的な方向性は次の通りである:

・ 次のような機関との協力の強化:
- 労働条件の管理・監督を行っている他の機関;
- 経済省、労働社会政策省、中央労働保護協会(国の研究機関でポーランドの事業者が労働安全衛生マネジメントを実施するのを支援する)
- 民間農業セクターで安全衛生改善協力協定の参加者
NLI内部の活動は次のものに重点を置く:
以下に述べる監督指導の形式・方法の改善:
- 次のものに対する特別管理の改善:発電所、鉱山、鉄鋼業、化学産業、鉄道、医療、建設
- チェックリストの活用(労働監督官の業務効率化、事業者の自主活動支援)
- 状況・原因に応じ、事業者を適切に指導する手段の選択。新規起業者への助言、情報提供、教育。繰り返し違反者の監督指導。
・ 次の手段による予防措置の開発:
- 労働監督局の中に予防を扱う部署の新設検討。
- 「小企業における労働法の遵守キャンペーン」を広げ、事業者に対しNLIが労働法遵守の認定を与える。企業規模・業種に合ったOSHMSの検討。
- 主としてハザードの高い小企業の事業者が予防活動を行うための情報・教育資料の開発
- メディアとの協力の開発・改善  
 2002年にNLIが実施したアンケート調査では、事業者と労働者に対する労働法の基本的情報ソースは36%のマスメディア、34%がポーランド労働監督局ということであった。
・ NLIスタッフの専門的能力向上:
- 最新の技術、他の機関の例を考慮した内部教育訓練の開発と改善。
- 労働保護に関する会議、シンポジウム、及び見本市等への積極的参加の支援。
- 労働監督に関するEU担当部署及び国際機関との協力。
 NLIはその活動に際し、リソースの最大限の活用を図る。これを支える技術的手段(IT、コミュニケーション、交通)を開発することが必要である。NLIに対する期待は様々で、優先順位を付けがたいものも多い。しかしそれらは互いに排除し合うものではない。そのような期待の中には、より強力な監督指導と特に小企業に対する助言・支援の双方が含まれている。