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ポルトガルの繊維・衣料産業での予防キャンペーン

(資料出所:European Agency for Safety and Health at Work発行
Systems and Programmes - How to Reduce Workplace Accidents」)

(訳 国際安全衛生センター)

原文はこちら


3.10 ポルトガルの繊維・衣料産業での予防キャンペーン

背景

このキャンペーンは、ポルトガルの繊維・衣料製造産業(綿、ウール、ニットウェアなど)の労働条件改善と、予防に対する一般的認識を高めることを目的としている。予防キャンペーンは、農業と建築産業を対象に実施したことがある。成果は上々で、よい経験も得た。一つの産業全体を対象にした個別的キャンペーンとしては、まさに初めてのものである。提唱者は労働開発研究所(Instituto de Desenvolvimento e Inspecçao das Condiçoes de Trabalho : IDICT)である。キャンペーンは1999年6月に始まり、2002年1月に終了する予定で、予算規模は250万ユーロである。

繊維・衣料製造はポルトガル最大の産業である。第2次産業の企業数の21%、総労働者数の29%を占め、2001年時点で約8,000社、26万人を抱えている。ポルトガルの同産業は欧州で7番目の規模である。そのほとんどが中小および零細企業で占められる。ポルトガルは、欧州の繊維産業労働者数の13.5%を占めるが、生産量では4.5%にすぎない。これは同産業の生産性の低さを表している。

繊維製造部門を資本集約型とするならば、衣料品の縫製部門は労働集約型と表現できる。最近、技術開発投資に大きな力が注がれてきたが、訓練はあまり重視されていない。この点も生産性の低さの原因といえる。こうした状況から、この産業には労働災害の予防活動の理想的な対象となる理由がいくつもあり、それが同時に同業界の社会との対話を促すことにもなる。

当時、活動成功に必要な措置をとると公の声明で確約したすべての参加集団が、1999年5月18日に開始されるキャンペーン協定に署名した。協定には、キャンペーンの対象が企業、経営陣、労働者であり、また同産業向けの機械、化学製品、あらゆる設備の製造および販売者、同じく訓練センター、さらに世論全般であることが明記された。

キーポイント

  • 目標は、労働災害の予防への一般的意識を高めると同時に、繊維産業での具体的取り組みを行うこと。
  • 労働災害予防の方針は、業務上の負傷・疾病件数の減少、および社会的対話の促進にある。

安全衛生の目標

キャンペーンには、補完し合う二つの段階の目標がある。

一般的目標は以下のとおりである。

  • 労働条件を改善し、業務上負傷の件数を減少させること。
  • 参加集団と、労働安全衛生分野の学術関係者および行政当局による関与の体制を強化すること。
  • 予防、生活の質の改善と企業の競争力の重要性について、産業界と一般国民の認識を高めること。

具体的目標では、騒音、化学製品、荷物の手運搬、作業設備など物理的要因に関連したリスクの予防を重視した。また強度の、反復性の、単調労働といった新しいリスクも取り上げている。後者については、産業界の認識を高め、労働災害の予防に関する情報を提供する必要性がある。

キャンペーン構想と実行

全体の取り組みは、IDICTを中心としたパートナーシップの形態で実施され、7つの業界団体、2つの労働組合連合、経済省産業局、ポルトガル繊維・衣料産業技術センター(Citeve)が協力した。

このキャンペーンの枠組のなかで、社会的対話が維持され、労働災害減少活動の評価段階でさらに発展したことをみておく必要がある。労働災害減少という課題では、経営側と労働組合側は一致している。キャンペーンの行動プログラムは共同で立案され、その際、IDICTがそこに積極的に関与して、パートナー間の意見交換を強く勧めた。

フォローアップとキャンペーンの十分な実行を確保するため、上記4者のパートナー代表の参加で常設の諮問委員会が設置された。委員会は独自の活動方式と規則をもち、専用に用意された会場で随時、会合を行っており、そこがキャンペーンの推進本部になっているといえる。

これに加えてよいのがIDICTの内部機関であるプロジェクト・グループで、キャンペーンの最終的な仕上げ、十分な実行と調整に専念している。このグループは、繊維産業が集中する各地域の代表で構成されている。内部的な行動計画、特にプログラムの運用を担当するIDICTのスタッフの内部研修を立案する。これに基づき、合計105人の労働監督官と技術者が、キャンペーンの具体的課題について研修を受けた。

実行

上述のように、キャンペーンには専用のオフィスと特別チームがある。すべての関係者が全力で任務に打ち込んでおり、それぞれのスキルを提供している。キャンペーンの連絡文書は、専用のレターヘッド付きの用紙が使用された。

社会パートナーの促進という目的を達成するため、IDICTはキャンペーン開始当初、業界団体と労働組合の講師を対象とした訓練を実施した。また各組織はキャンペーンの課題を内部に広げるとともに、主要な取り組み内容を組織独自の課題と結びつけた。

ポスター、リーフレット、ステッカーが作成され、キャンペーンの中心的メッセージ(単調労働、化学汚染、騒音、粉じん)を訴えたが、これは参加集団が共同で取り組んだ成果だった。

使用されたキャンペーン資材のなかでも、特筆すべきは連絡用公報である。キャンペーンの一般的問題を取り上げつつ、具体的な技術的解決法を提起した。公報の各号には、具体的な技術的質問が掲載された。それに対してリスクを分析し、解決策を提起した。第1号では、綿梱包を手で開梱する場合の問題を取り上げた。

予防のためのマニュアルは5種類が作成される。それぞれ具体的な作業を対象にしていて、ウール、綿、綿布、衣料品縫製、ロープ製造の5種である。第1号のマニュアル(ウール)は、現在印刷中である。マニュアルは、それぞれの分野に特有のリスクを取り上げ、一覧表の形で示している。業務ごとの一覧表でリスクの性格を説明し、適切な予防策も示している。原材料から完成品にいたる各段階について、労働災害予防の観点から分析している。

このキャンペーンのざん新な点の一つは、全国紙を活用したことにある。まず最初はキャンペーンを宣伝すること、次いでキャンペーンへの物理面での提供を呼びかけることが目的だった。具体的には情報および研修セミナーの準備、研修用冊子とCD-ROMの作成を要請した。だが一般紙に掲載した呼びかけは、繊維産業での予防キャンペーンに関連した科学的な研究・調査も対象にしていた。これによって、専門知識の分野を拡大するという本来の目的が達成できたが、同時に安全衛生の分野を研究している学術関係者と大学の関心が高まるという副産物もあった。これらの活動資金はすべて、IDICTとプロジェクト後援者が共同で提供した。

予防への一般的認識を高めるために、テレビ広告が制作され、ゴールデンタイムの公共および民間放送で放映された。

このキャンペーンで得た経験と効果

キャンペーン構想の内容は、しっかりした合意に基づいているかぎり、なんの問題もなかった。

難点のひとつとして、技術的な能力にばらつきがあった。そのため、協力要請に応えた予防策開発者のプロジェクトは、政府の支援を得て実行された。そこから事業者側と労働者側、両方の参加集団が、政府に労働災害予防分野の講師の研修を要請することになった。

もっとも重要なのは、100を超えるプロジェクトを完全に実行することにある。プロジェクトには研究と調査、訓練と宣伝活動、専門家と企業経営者の研修が含まれ、その実施状況がキャンペーンの現段階を規定する。

キャンペーンの最初の成果は、2001年6月21日に開催されるイベントで発表される。そこではキャンペーンの目に見える成果である製品、ツール、出版物第1号(ウールのための予防マニュアル)が公開される。開発された作業方式、具体的には織物の欠陥を自動的に発見する機械の実物宣伝が行われる。

このイベントは企業が優良規範を発表し、どのように予防活動を導入したかを説明する機会にもなる。

効果

開始当初から企業の労使が参加したことが、キャンペーン成功の大きな要因になった。経営者と労働組合だけでなく、技術および学術関係者、さらにすべての利害関係者が協力した。労働災害予防への一般的関心を高める活動は、学術関係者と大学による労働災害の研究を刺激する効果があった。以前は、この問題に対する研究・調査はきわめて少なかったが、いまではキャンペーンを後押しする力になっている。

今回の方式は、社会的対話を促すとともに、労働災害の予防を企業経営と製造工程に統合するものである。その結果、繊維産業では、参加した企業内での集団対話と会社の機能組織をめぐる議論が大きく進展した。

このキャンペーンは、労働災害予防にかかわる諸問題を明らかにするなかで、情報交換の意味するところと、関係者間の相互協力という一段高い視点を導入し、労働者の力をともに強める効果があることを示した。

この方式は、労使をはじめ、関係団体間の対話が機能しているかぎり、いつでも他の業種・業界にも適用できると考えている。


詳細は下記まで。

Mr. Paulino Pereira
Head office of the textile campaign
Av. da Boavista 1311-6°
P-4149-005 Porto
Tel. (35-22) 606 09 15
Fax (35-22) 606 09 16
E-mail: campanha.textile@idict.gov.pt