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シンガポールの職業性疾病に関する調査(1999年)
化学物質中毒と化学物質の過剰な吸収

資料出所:人材開発省発行「Annual Report 1999 Department of Industrial Health」
(訳 国際安全衛生センター)

化学物質中毒と化学物質の過剰な吸収

1999年には、化学物質による中毒患者が総計で48人確認された。これらの患者の大多数は、法定健康診断結果により発見された。過剰に吸収した労働者は明白な疾患の症状や臨床的徴候を示していなかった。しかし、これらの労働者は指定工場医師により、就労を一時停止された。化学物質中毒患者はまったく発見されなかった。

原因物質別の患者の内訳については、表を参照されたい。

表 化学物質による中毒患者の原因物質別分布

有害化学物質 化学物質による中毒患者数
金属 4
  コバルト 1
非金属 パークロルエチレン 12
  トリクロルエチレン 12
  有機リン酸エステル 10
  トルエン 8
  珪フッ化ナトリウム 1
  総  計 48

定期的な医学的検査で、鉛を過剰に吸収した労働者が4人発見された。

このうち2人は室内射撃練習場の射撃講師であった。換気装置のメインテナンスが不充分だったこと、頻繁に問題の物質にさらされる状態が発生したこと、訓練受講生と意思を疎通させるために呼吸用保護具を取り外す習慣があったことが原因として特定された。新しい射撃練習場に移動するまでの間、この射撃場での射撃訓練は中止された。適切な換気と呼吸用保護具の使用に関して勧告が行なわれた。

もう1人の労働者ははんだ製造工場で鉛鋳造を行なっていた。この労働者は作業方法と個人的予防法にずさんな点があることがわかった。個人用保護具の適切な使用法と各自の適切な予防法に関して労働者を教育するために、社内ワークショップを実施した。

4人目の労働者はポリ塩化ビニール合成工場の従業員であった。原因は個人用保護具の使用法を充分に遵守していなかったこと、工場内の整理整頓が悪かったこと、局所排気装置が効率良く作動していなかたことであった。この工場は改善措置を義務づけられた。


コバルト

1999年5月に硬金属肺病に罹った労働者が発見されたことを受けて、工場内で炭化タングステンのこぎりや裁断器の研磨を行なっている労働者を検査した。これらの労働者のうち1人が、コバルトを過剰に吸収していることが分かった。大気中のコバルトのレベルが過剰なものでなかったことから、個人的予防法が不充分なことがおもな原因とされた。事業者はコバルトにさらされている全労働者に個人的予防法について教育を行ない、呼吸用保護具と手袋を厳格に使用させるように助言を受けた。


パークロルエチレン(PCE)

定期的な医学的検査の期間中に、PCEを過剰に吸収した労働者が12人発見された。これらのうち、11人はドライクリーニング業界からで、もう1人は印刷業界からであった。過剰な吸収のおもな理由は、呼吸用保護具を使用しないかまたは使用法が不適当であったこと、またPCEの蒸留装置に異常があったことである。これらの企業は、労働者が適切な作業手順を確実に遵守し、適切な管理方法が整備されるようにという助言を受けた。印刷業界は別の溶剤に切り替え予定である。


トリクロルエチレン(TCE)

定期的な医学的検査の期間中に、TCEを過剰に吸収した労働者が12人発見された。これらの労働者は金属加工業界からであった(8人は医学的検査が初めて行われた5工場から)。すべての労働者が、金属部品からグリースを除去する仕事に従事していた。事業者はTCEにさらされている全労働者に個人的予防法について教育し、呼吸用保護具と手袋を厳格に使用させるようにという助言を受けた。従来に代わる対策が勧告された。


有機リン酸エステル(OP)

定期的な医学的検査の結果、OPを過剰に吸収した患者が全部で10人発見された。

5人は、すべての認可済み有害生物駆除事業者を対象とした環境省の要求事項を受けて、初めて医学的検査を受けた有害生物駆除会社の従業員であった。労働慣行がずさんであり、またOPの健康に対する危険性についての認識が欠如していたために、相当な皮膚接触が発生していた。

もう1人の労働者はまた別の有害生物駆除会社の従業員であり、さらに別の1人が、ゴルフコースでOPの取り扱いと散布に従事する監督者であった。

3人は殺虫剤を製造する二つの工場の従業員であった。個人用保護具の使用法が不適切であったことと偶発的な皮膚接触により、過剰な吸収が発生していた。事業者に対しては、皮膚吸収と吸入を防ぐ予防措置が勧告された。


トルエン

8人の労働者がトルエンを過剰に吸収していることが確認された。

3人は寄せ木張りの床の床張りに従事している労働者に対する継続的調査の結果として発見された。寄せ木張りの床にワニス塗りを行ない、勤務時間終了後の尿中の馬尿酸レベルが生物学的閾値(BTLV)の2.5 mg/mlと比較して、2.82 mg/mlから3.73 mg/mlの範囲内にあった。これらの労働者は、ワニス塗りの際に呼吸用保護具を使用するように助言を受けた。

4人は印刷工場の従業員であった。工場内の大気中のトルエンのレベルが許容濃度を上回っていた。事業者は換気装置に改善を施し、有機カートリッジ呼吸用保護具の使用を実行することが義務づけられた。

また別の印刷工場の機械作業員は、頭痛と疲労感がなかなかとれないと訴えた後、トルエンを過剰に吸収していることが分かった。この作業員の工場を訪問すると、大気中のトルエンのレベルが許容暴露レベルを上回っており、労働者は呼吸用保護具を支給されていなかった。この工場は作業区域の換気装置を改善し、労働者に適切な呼吸用保護具を提供するように助言を受けた。その後、事業者はトルエンをより毒性の低い溶剤に取り替えた。


珪フッ化ナトリウム(SSF)

水処理工場の労働者1人が、個人的予防法と仕事上の習慣がずさんであったことから、フッ化物を過剰に吸収していることが分かった。この労働者の仕事は、SSFをホッパー内に投入し、また機械を保守整備することであった。事業者は仕事上の適切な習慣と個人的予防法を実行させるようにとの助言を受けた。