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国家労働安全衛生プログラムと労働監督
(シンガポールの事例)
Ho Sweet Far、Ho Siong Hin、Tan Kia Tang、シンガポール

(資料出所:資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
Volume 12, number 2 , July 2005)
(仮訳 国際安全衛生センター)


改善傾向

1965年の独立以後、シンガポールは幸運に恵まれて高度な経済成長を遂げている。労働安全衛生の改善傾向は、2004年における職場での事故発生頻度が100万人時あたり2.2件(度数率2.2)という災害発生率の低下によって示されるとともに、職業性疾病の発生率も就労者10,000人あたりで2.0件となっている。このような成果は、強力な政治的リーダーシップや、経済問題および人的資源問題への対処における効果的な三者協調関係を背景として達成された。

緊密な連携

人材開発省(Ministry of Manpower)は、労働安全衛生の管理における重要な役割を担うとともに、労働災害の補償、労働関係および労働福祉、雇用の促進、外国人労働力の管理といった各関連分野の業務の監督も担当する。これらの各分野を担当する人材開発省の各部局と、事業者および労働者の組織、各種専門機関、その他の政府機関との間で時間をかけて構築された緊密な連携が、国家レベルでの労働安全衛生プログラムの成功に寄与している。

プログラムと戦略

これらのプログラムの実施における優先項目は次のとおりである。

  • 法的枠組み
  • 基準の設定と施行
  • 調査とハザード管理
  • 主要担当者の研修と職場の整備
  • 啓発および奨励の仕組み

法的枠組み

多くの場合、職場での災害は複雑な性質を持つことから、労働安全衛生問題を最も適切に解決できるのは、事業とそれに関連するリスクの内容を把握している事業者である。シンガポールは、職場ごとの自主規制の推進を法的枠組みと採用している。この自主規制体制には安全管理システム、安全担当者、安全委員会、および安全監査などの機能が含まれる。安全な職場の確保を目的としたこれらの機能の確立やシステムの整備は、事業者の責任となる。政府は、これを推進するための枠組みや社会基盤の整備を担当する。
 シンガポールにおける労働安全衛生に適用される主な法律は、職場の安全衛生を確保するために工場所有者および事業者の義務と責任を定める工場法(Factories Act)である。現在、この法律は、建築現場を含む16,000を超える工場で働く650,000人以上の労働者に適用されている。
 各産業での意識を高めるため、造船および船舶修理、建設、金属加工の3つの業界にそれぞれ諮問委員会(Advisory Committees)が設置されている。これらの業界における安全衛生の大幅な改善の実現は、この自主的な取り組みによるものである。2005年初頭には、4つめの諮問委員会が医療業界に設置された。

基準の設定と施行

通常、労働安全衛生の基準は、国際的な進捗状況を踏まえて再検討および改訂される。より確かなプロセスで政策を策定し、実行可能な要件を定めるために、その各段階で、関係三者、業界団体、および専門機関が、対話セッション、フォーカス・グループ、技術委員会を通じて助言を提供する。
 法律上の要件や基準への準拠を確実に実現するために、目標を明確にした監督プログラムを実行する。まず、すべての新工場が監督対象となり、その登録および操業開始の認可前に最低限の労働安全衛生基準が設定されていなければならない。監督頻度は、各産業のリスクレベルに基づいて決定される。造船および船舶修理業、金属加工業、および化学工業については、特別な監督が行われる。工場で使用される圧力容器や(クレーン、ホイスト、リフトなどの)リフト機械については、その評価および登録が義務付けられるとともに、資格を有する担当者による定期的な検査を受け、その機器の整備状態が安全な使用に適していることを確認する必要がある。特に中小企業については、職場の監督時に労働安全衛生監督官が、安全および災害管理の方策に対する一般的なガイダンスなど、法律準拠に向けた支援を提供する。
 重大または深刻な事故や危険が発生した場合や、労働環境に対する苦情があった場合には、必ず調査を実施して、その原因の究明と再発防止策の策定を行う。職場が不安全な状態にあり、労働者が深刻な危険にさらされる場合には、「操業停止」命令を出すことができる。違反企業に対する法令準拠強制策には、告発や厳格な罰則などがある。建設業界で成果をあげた事例に、減点システムを使用する禁止制度がある。これは、安全面での取り組みを臨時労働者の雇用権にリンクするもので、安全面での取り組みの評価が低い建設業者は臨時労働者の雇用を禁止される。

調査とハザード管理

事故および疾病に対する統計に加え、特定の作業場所のハザードに対するばく露レベルは、労働環境の状況を示す優れた指標となる。リスクの高い工場の効果的な識別、安全衛生に対する潜在リスクの評価および監視、労働者の健康状態の観察、および費用対効果のよい解決策の研究など、これらのリスクを最小化するための方策の実行を網羅する総合的な調査戦略の整備が有効であることがすでに確認されている。この戦略の基盤となるのが、職場での疾病、事故、および危険の発生の届け出だけでなく、健康診断結果や特定の補足規定(http://www.mom.gov.sg/OHD/Legislation/)に基づくばく露評価結果の提出である。この補足規定には、「工場(騒音)規則(Factories (Noise) Regulations)」、「工場(有害物質の許容ばく露限界値)命令(Factories (Permissible Exposure Levels of Toxic Substances) Notification)」、「工場(健康診断)規則(Factories (Medical Examinations)Regulations)」などがある。
 人材開発省は労働上のばく露のデータベースにより、リスクの高い職場における騒音および化学物質のばく露に関する情報を提供する役目がある。このデータは、高リスクの職場から提出された現場監視データと人材開発省の評価結果によって構成される。人材開発省はこのデータを使用することによって、騒音および化学物質のばく露レベルが高い工場の識別や管理戦略の策定、これらのリスクの低減または解消に役立つ費用効果のある解決策の研究を実行できる。現在は、2,000以上の工場で現場監督が実行され、騒音へのばく露を中心に、1,600を超える工場で働く労働者に対して年間75,000件を超える法定健康診断が行われている。長年にわたるこのような総合的かつ重点的なアプローチや各工場の取り組みにより、ばく露レベルおよび健康診断における業務に起因する異常の発見の両方について、大幅な削減を実現している。
 ハザードについての情報コミュニケーションも、重要な中心戦略である。化学物質の表示に関する要件により、化学物質の供給業者は利用者に対して化学物質安全性データシート(MSDS)を提供する義務を負うと同時に、工場所有者は労働者によるMSDSの利用を可能にする責務を負う。利用者や供給業者に対する人材開発省の長年にわたる遵守支援プログラムの実施は、MSDSの有効性や質に対する遵守率の向上に効果をあげている。

主要担当者の研修と職場の整備

労働安全衛生についての情報を、あらゆるレベルの対象者、すなわち経営管理者、監督者および労働者に行き渡らせるための研修に重点が置かれている。災害リスクが高い職場では、安全教育が必須である。たとえば、関連する労働安全衛生コースに参加していない労働者は、造船所に勤務することはできない。また建設業界では、建設現場における臨時労働者の割合が高いため、すべての臨時労働者が建設安全オリエンテーション・コース(Construction Safety Orientation Course)への参加を義務付けられている。
 労働安全衛生に配慮した職場の整備には、専門家や資格を有する担当者が研修に関与することが重要である。人材開発省は、研修コースに応じたさまざまな認定研修センター制度(Approved Training Centre Scheme)を設定している。これによって、安全管理者、指定産業医、職業性聴力検査技師、騒音状況の監視や管理および化学物質の管理や監督を担当する有資格の担当者などを対象とした研修プログラムを、三者機関または民間機関が提供できる。また、インターネットを活用し、人材開発省のウェブサイトや電子メールによる労働安全衛生アラート(OSH Alerts)を通じて職場や労働安全衛生専門家に最新の知識を提供している。
 人材開発省内部での能力開発は、同省に所属する労働安全衛生監督担当者が有効に機能するための重要なポイントとなる。継続的な専門家の育成、海外研修および補足プログラム、外部パートナーとの研究協力、ソフト面での技術研修によって、担当者の能力向上や世界レベルでの進歩と歩調を合わせた最新知識の提供を実現している。

認定および報奨制度

認定制度や税金制度は、事業者が法律で求められる基準を上回る成果を目指す上での有効な動機付けとなっている。ここ数年、労働安全衛生において高い実績を残した企業に授与される年間安全優秀実績賞(Annual Safety Performance Award)は、シンガポールにおける労働安全衛生の改善に効果を発揮している。1999年に導入された騒音管理賞(Noise Control Award)の成功に基づき、2004年には対象範囲を拡大した労働衛生ベスト・プラクティス賞制度(Occupational Health Best Practice Award Scheme)を立ち上げ、化学物質のハザードや人間工学上の問題点など、より広範な職場の健康管理に対する企業の取り組みを奨励している。これらの受賞は、その授賞までの手順や重要な労働安全衛生イベントへの参加、人材開発省大臣による授与など、極めて具体的な政治的サポートを伴うことから、職場では大変な名誉と見なされている。
 税金報奨制度は1999年に導入された。この制度は、騒音や化学物質のハザードを抑制するための装置および技術の導入について、事業者に1年間の加速減価償却の適用を認めるものである。これによって事業者は工学的抑制対策の実施に要するコストを全額負担する必要がなくなるため、特に中小企業にとって利用価値が高い制度となっている。
 ベスト・プラクティスや成功例から学ぶことは、意欲の喚起に有効であり、さらなる改善策の創出につながる場合もある。またこれによって、労働安全衛生が事業に役立つというメッセージを力強く発信することができる。人材開発省と関係三者は、このような情報を共有するために、経営管理者、部門管理者、労働組合役員、および労働安全衛生の専門家が参加する会議、ブレックファスト・ミーティング、昼食会などのさまざまな機会を整備している。健康被害防止に成果をあげたケース・スタディは、世界保健機構労働衛生協力センター (WHO Collaboration Centers in Occupational Health)の事業情報を特集しているWHO Global Web Portalのシンガポールのリンクで参照できる。
新しいウィンドウに表示しますhttp://www.whoocchealthccs.org/SGP/en/index.html

今後の展望 - 新たな規制の枠組み

今年後半の新たな労働安全衛生の枠組みに対する規制の導入により、現在の自主規制アプローチが強化される。新しい規制においては、人材開発大臣は労働安全衛生対策の範囲を工場以外の職場にも拡大できる。この規制の焦点は、職場での安全性確保に向けた新たな対応の構築である。たとえば、リスクの発生源となる人物は、そのリスクを特定し、リスクの低減および事故や疾病の防止に役立つ適切なシステムを整備する責任を負う。つまりこの法律は、リスクの責任者とその責務を明確に規定し、責務に対する怠慢や他者を危険にさらす行為について、その責任者への罰則を強化するものである。またこの法律は、すべての関係者、すなわち事業者、労働者、供給業者、生産者、および設計者に適用される。不安全な状態に関連する違反行為だけでなく、事故原因となる可能性のある貧弱な安全管理についても罰則が強化される。規制への遵守を促すため、操業停止や安全面での欠陥の報告など、安全担当者の権限が強化される。
 労働安全衛生評議会(Workplace Safety and Health Council)は、各産業が自主規制を推進し、事業目的を達成するための安全な運営方法を見つけ出すためのさまざまな計画を策定している。業界リーダーによる主導体制を確立するため、評議会は各業界の諮問委員会の業務を監督し、規制導入前に関係者が問題提起や情報交換をするための機会を提供する。
 国際諮問委員会(International Advisory Panel)を設立し、シンガポールでの規制体制、実行内容、および基準について検討評価し、国際的なベンチマーク(基準)を提供する予定である。これによって、シンガポールで実施される規制の長所や短所を正確に把握し、システムや法律の継続的な改善が可能になる。

連絡先

Occupational Safety and Health Division
Ministry of Manpower
18 Havelock Road
Singapore 059764

Dr. Ho Sweet Par
Deputy Director (Medical)
E-mail: 新規メールを作成します ho_sweet_far@mom.gov.sg

Mr. HO Siong Hin
2 Divisional Director
E-mail: 新規メールを作成します ho_siong_hin@mom.gov.sg

Mr. Tan Kia Tang
Deputy Director (Hygiene)
E-mail: 新規メールを作成します tan_kia_tang@mom.gov.sg