事業場の安全衛生自主管理システム
傅還然
資料出所:中華民国工業安全衛生協会発行「工業安全衛生月刊」1999年3月号
(訳 国際安全衛生センター)
要 旨
労働災害を減少させるため、政府や企業は長年、労働安全衛生法の規程に基づいて労働安全の推進に努めてきた。しかし、各業界の重大労働災害発生件数の推移を示す図に表されるように、労働災害には顕著な下降傾向は見られない。その原因は、政府の労働検査員が不足し、公権力による他律的な規制が発揮されてないほか、事業場が安全衛生自主管理能力に欠け、自律的な改善がなされないことにある。このため労働災害が高い水準にあると思われる。
事業場が安全衛生自主管理体制を整備し、企業の安全衛生管理を改善するには、安全衛生管理制度を企業の経営戦略、人事制度、請負制度、品質管理制度などに適応させることが必要である。それにより、人身事故を減少させ、企業経営効率を改善し、企業のイメージアップを図るという目的を達成するのである。
本論は安全衛生対策、組織、制度企画、計画実施、結果審査及びシステムの評価などについて、具体的な管理行動を提案するもので、事業場が安全衛生自主管理システムを構築する時の参考にしていただければと思う。
I.前書
事業場、例えば建築業などは製品の多様性、複雑性及び環境の多様性から、もとより高いリスクを持ち、それに業務分担による何段階にも及ぶ下請けは安全管理に不都合である。他の業界にもこれと同様の危険性がある。そのため、労働災害は依然として高い水準のままである。
現行の労働安全衛生法及びその附属法規は事業場や請負業者がなすべき安全衛生管理及び必要な措置について詳細に規定している。労働災害を減少させるため、政府や企業は長年、当該法律の規程に基づき職業安全の推進に努めてきた。しかし、各業界の重大労働災害発生件数の推移を示す図に現れるように、労働災害には顕著な下降傾向は見られない。その原因は、政府の労働検査員が不足し、公権力により他律的な規制が発揮できないほか、事業場が安全衛生自主管理能力に欠け、自律的な改善がなされないことにある。このため、労働災害が高い水準にあると思われる。
事業場が有効な自律メカニズムを構築し、労働災害の発生を防ぐには、1994年11月にイギリスで完成され、1996年4月にBS8800と命名された「労働安全衛生管理システム標準」を参考にすることができる(イギリスのBS5750、BS7750はそれぞれISO9000とISO14000国際標準となっている)。本標準では安全衛生管理が企業成績、結果管理と結び付けられ、対策、組織、制度企画、計画実施、結果審査及びシステム評価などの管理により、事業場の安全衛生自主管理の目標を達成するものである。
II.自主管理システムの構造
事業場が安全衛生自主管理体制を完備し、企業の安全衛生管理を改善するには、安全衛生管理制度を企業の経営戦略、人事制度、請負制度、品質管理制度などに適応させることが必要である。それにより人身事故を減少させ、企業経営効率を改善し、企業のイメージアップを図る目的を達成するのである
企業の規模、組織の大小や企業の経営品目に関わらず、成功するためには安全衛生管理システムは次の基本構造を備えなければならない。表1を参照。
表1
III.安全衛生の対策
1.企業経営者は安全衛生の意識を持つべきである
事業場が安全衛生自主管理機能を構築できるかどうかは、経営者の意識と決定的な関係がある。経営者として持つべき安全衛生意識は次の通りである。
(1)生命尊重の意識。作業計画の作成及び生産または施工の進行に生命尊重の意識を採り入れ、事業主はどんな時でも、どんな利益よりも人命最優先の原則を堅持するべきである。
(2)事故防止は可能であることを確信する意識。労働災害は天災と違い、必ず予防できるものである。
(3)安全政策の履行を意思決定する。生産や施工の順調さ、人身安全こそ企業存続の礎であることを認識する。もし安全政策に妥協が許されるなら、企業経営はもはや賭博と同じである。
2、安全衛生の対策
組織の上層部により制定されるべきである。そのポイントには次の諸点が含まれる。
(1)経営理念に安全意識を採り入れること。企業の経営理念には品質、効率、コスト、信用のほかに「安全」を採り入れ、更にトップに位置付けるべきである。経営理念の明確化により、経営、人命最優先の共通認識に達する。
(2)ハイレベルの安全衛生の成果を追求すること。法規遵守は最低の基準であり、損失抑制の認識で、持続的に成果の向上をはかるべきである。
(3)対策を実行するために適切な投資をすること。
(4)安全衛生目標及び各管理規定を制定し、公布すること。
(5)上層部から第一線の管理監督層にまで、安全管理をその主要な責任とすること。
(6)全員参加の意見交換を行ない、各職階が対策を理解した上で実行する。
(7)確実に対策を実行するため、審査を行う。対策及び管理制度の実行性について定期的に検討し評価すること。
(8)各職階の人員とも必要な訓練を受け、確実に与えられた任務を遂行できるようにすること。
IV.安全衛生組織
安全衛生の対策を実現するため、企業組織は安全衛生が完全に組織の各活動に採りいれられるように、適切な措置を講じることが必要である。安全衛生組織は危険抑制、協力促進、安全衛生に関する知識の交換及び人員の適切な配置などの機能を備えるべきであり、言い換えれば、安全衛生組織は安全評価、制度企画、計画作成、参加と意見交換、責任分担、指揮実行、教育訓練、実績評価、監督指導などの多機能を備えるべきである。
1.幹部組織――安全衛生管理部門
事業場本部:優良事業の安全衛生管理部門を設立し、事業の規模により安全衛生業務責任者及び安全衛生管理員を配置する。理事長、社長は安全衛生幹部なので、会社全体の対策の策定、制度企画、計画作成、教育訓練、監督指導の評価の責任を負う。
現行の労働安全衛生管理法及び自主管理法では、次のように規定されている。建築業を例として、労働者を百人以上雇用する場合、労働安全衛生管理部門を設立し、甲級労働安全衛生業務責任者を配置する。三百人未満の場合、別に労働安全衛生管理員を一名以上、三百人以上の場合、別に労働安全(衛生)管理技師及び労働安全衛生管理員各一名以上配置する。
作業現場:雇用労働者数が百人以上の場合、上述の規定により実行する。三十人以上百人未満の場合、乙級労働安全衛生業務責任者及び労働安全衛生管理員一名を配置する。三十人未満の場合、丙級労働安全衛生業務責任者を配置する。現場担当者は安全衛生幹部として、現場の労働安全衛生計画、巡回検査・監督、教育訓練及び組織運営などの安全衛生管理に責任を負う。
上述の方法により、労働安全衛生管理部門及び担当者の業務内容は次の通りである。
(1)労働災害防止計画を作成し、関係部門がそれを実行するように指導する。
(2)安全衛生管理規定を企画、制定し、各部門がそれを実行するように監督する。
(3)安全衛生設備の点検や検査を企画し、監督する。
(4)関係者が巡回、定期点検、重点点検及び作業環境を整備するように指導し監督する。
(5)労働安全衛生教育訓練を企画し実施する。
(6)労働者健康診断を企画し、健康管理を行う。
(7)労働災害調査やその後の措置を監督し、労働災害統計をとる。
(8)事業者に労働安全衛生管理の資料を提供し、提案を行う。
(9)他の労働安全衛生管理に関する事項。
2、衆議式(話し合いによる)組織――労働安全衛生委員会
参加と意見交換、衆知を集めるため、一定規模以上の事業を行う企業は、本社または現場に労働安全衛生委員会を設け、安全衛生業務について検討、調整して提案する。現行の労働安全衛生組織管理法及び自主管理法では、次のように規定されている。労働者を百人以上雇用する建築事業者を例として、労働安全衛生委員会を設け、委員を七人以上配置する。委員会は事業者、労働安全衛生担当者、各部署の責任者、監督者、指導者、医療関係者、土木技師及び労働組合または労働者が選んだ代表からなる。そのうち、労働組合または労働者の代表は三分の一以上とする。委員会は三ヶ月ごとに会議を開き、主任委員が議長となる。必要に応じ、臨時会議を招集することができる。
3.ライン式(上からの指示による)組織――各職階の責任者及び管理員、指導者、監督などの関係者
安全衛生は経営管理の一部であり、「安全衛生は一人一人に責任あり」の高い意識を持ち、安全衛生を各職階の責任者、各請負業者及び各現場作業者が実行して始めて、安全衛生活動が順調に遂行される。言い換えれば、ライン式の安全衛生組織を構築し、責任者が指揮権を行使することにより、安全衛生活動を現場で実践することが、安全衛生成功の唯一の道である。
現行の労働安全衛生法では、次のように規定されている。事業機構の労働安全衛生管理は事業者または管理権限を持つ事業者代理人が総括し、各部署の責任者が実行に責任を負う。労働者を三十人以上雇用する作業現場では現場監督者を指定する。建築業を例として、足場組立作業、シャッター・サポーター作業、型板サポーター作業、鉄鋼品組立作業、トンネル掘削作業または切断作業及び異常気圧・高圧室内作業などの第一線の作業では、施工の危険性を減少させるため、適切な訓練を受けた作業責任者が現場で直接監督指揮にあたる。
各職階の責任者及び管理、指揮、監督関係者が実行すべき事項は次の通りである。
- 労働災害防止。
- 安全衛生管理。
- 定期検査、重点検査、点検その他の検査に関する監督。
- 定期的または非定期的巡回。
- 作業方法改善についての提案。
- 安全作業基準の制定。
- 部下に対する安全作業基準・方法の教育と監督。
- 雇用主が命じた安全衛生管理に関する他の事項。
4.安全衛生協議組織
建設事業では専門業者による何段階もの請負業務がしばしば見られる。そのため、建設現場での請負関係は一段と複雑化し、元の事業場が最善を尽くして調整と統括の責任を果たさず、各請負業者が勝手に作業することを放置すれば、労働者が烏合の衆となり、無規律、指揮官不在の状態で命を危険に曝すことになる。
労働安全衛生法第十八条では次のように規定されている。事業場と請負業者、孫請業者が別々に労働者を雇用して共同作業を進める場合、労働災害防止のため、元の事業場は次の措置を取らなければならない。
(1)協議組織を設立し、現場責任者を指定し、指揮及び調整に当たらせる。
(2)作業の連絡と調整。
(3)作業現場の巡回。
(4)関係請負業者への安全衛生教育の指導協力。
(5)労働災害を防止するためのその他の必要な事項。
事業場は2つ以上の請負業者に仕事を委託して共同作業をさせ、自らは作業に加わらない場合、請負業者の一方を指定し、前述の元の事業場の責任を負わせなければならない。
実務的には安全衛生協議組織運営の重点は次の通りである。
(1)目的。元の事業場は労働災害防止及び施工管理責任を果たすため、調整及び指揮を取る。
(2)設立時期。危険を伴う作業場所の場合、作業前に施工安全評価チームを成立し、施工計画について事前に危害を防止するための対策を講じる。その他の場合、起工後、直ちに協議組織を設立し、関係業者は積極的にその組織に加入しなければならない。
(3)組織のメンバー。元の事業場、請負業者または孫請業者など、請負関係にあり共同作業をする者。
(4)統括責任者(Organizer)。法令では元の事業場が協議組織を設立すると規定されているので、総括責任者は現場の責任者である。
(5)指導者。法令では元の事業場が作業現場の責任者を指定し、労働災害防止のための調整及び指揮をとると規定されている。
(6)組織の特徴。
- 総協議組織。元の事業場が各請負業者を召集し、組織を設立する。
- 下部協議組織。総協議組織に属する請負業者が、仕事を孫請け、再々請負に出した場合、総協議組織に対し、それに属する協議組織を設立する。
(7)協議組織運営機能。
- 協議会議。定期会議、非定期会議及び毎日の施工安全会議。
- 連絡調整。毎日の巡回より発見された問題点を連絡し改善する。
- 作業現場巡回。安全当番制度、作業責任者、現場監督及び各責任者による巡回。
- 教育訓練。安全教育訓練の実施に協力し指導する。
- 立ち入り許可。危険作業現場立ち入り許可の基準。
- 共同検査。各請負業者が共同で安全検査を行う。
- 指揮権の行使。作業停止、料金値引き、罰金、料金計上中止または解約などの指揮権機能。
5、安全評価チーム
工事の危険性を減少させるため、企画設計、計画の段階で安全評価チームを組織する。計画実施に伴う作業手順について、逐次(Step
by Step)その危害を予想し、予防の為の対策を講ずる。このチームは作業前に各専門家によりシュミレーションを行ない、安全手順を打ち立てるための組織である。
労働検査法では次のように規定されている。中央主管機関に指定された危険性の伴う工事の施工現場では、労働検査機関が審査し合格と認定した場合を除いては、労働者に作業をさせてはならない。危険作業場所は甲、乙、丙、丁に分類される。丁類危険建設場所を例として、中央主管機関は次のように定義している。
(1)建築物の天井の高さが50メートル以上の建設工事。
(2)橋脚の中心と橋脚の中心の距離が50メートル以上の橋梁工事。
(3)高圧ガスを使用する工事。
(4)長さ1000メートル以上または15メートル以上の竪穴を掘る必要のあるトンネル工事。
(5)掘り込み深さが15メートル以上、または地下が四階以上、かつ掘り込み面積が500m2に達する工事。
(6)工事の型板サポーターの高さが7メートル以上で面積が100m2以上、かつ当該階の型板サポート面積が60%以上の工事。
(7)中央主管機関が目的事業主管機関と協議して指定された他の工事。
丁類作業場所は事前に次のメンバーより施工安全評価チームを組織し評価する。
(1)作業現場責任者。
(2)専任技師。
(3)労働安全衛生管理員。
(4)作業現場作業担当者(請負業者の担当者を含む)。
(5)施工安全評価訓練に合格した人。
V.安全衛生制度
事業場に対する詳細な作業規定及び厳格な品質保証制度がありながら、安全衛生規程がなければ、現場の関係者は必然的に「物」の品質を重視し、「人」の安全を軽んじるようになる。安全第一という安全宣言も単なるスローガンに過ぎないものとなる。
理事長または社長の安全衛生専門幹部として、安全衛生管理業務責任者及び担当者の最も重要な仕事は会社全体に適用する安全衛生管理規定を企画、制定し、各職階の責任者を指導し実績をチェックすることである。また、関係者がそれを実施するように管理、指揮監督しなければならない。表2を参照。
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