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職場における救急−変化の時?
First-aid at work - time for change?

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年3月号 p.6

(仮訳 国際安全衛生センター)



 最近の英国安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)委託研究で、事業者の大半は、職場における救急についてその必要性は分かっているが、これに関するHSEのガイダンスは改訂が必要であるという結論になった。改訂すべき理由は、どうやって救急に関する法律を遵守するかについて、もっと明確な助言が必要だからである。


 HSEは、職場の救急についての規定を定めた現行法について産業界の意見を聞くために、2003年秋に検討用文書(Discussion Document)を発行するべく準備を進めている。

 これは2003年1月に公表された新しい研究結果で「英国の事業者の多くは、1981年安全衛生(救急)規則(Health and Safety (First-Aid) Regulations 1981)で規定されている事業者の義務を十分に理解しているとは言えない。」という結果が示されたことによるものである。

 この研究は2001年10月にHSEがCasella Group社に委託して行ったもので、目的は現行の救急規則の影響力、事業者が職場の救急を準備するに当たっての問題点、関連のガイダンスの有効性を調べることである。

 この研究では、事業者及び救急業にたずさわる人々から730の回答を得た。その結果多くの経営者が現在のHSEガイダンスは「職場における救急の準備に関する規定を満足させるという法的義務を十分明確にしていない。」と考えていることがわかった。

 特に事業者が混乱しているのは、自分の事業場の救急に関する要求事項についてアセスメントを行うという義務をどうやって遵守するかという点であることも判明した。実際、事業者の69%が正式のアセスメントを行ったと回答しているのに対し、救急業界の専門家の58%が、事業者は救急のニーズを正式にアセスメントしていないと考えている。

救急に対する備えはどれぐらいか

 1981年安全衛生(救急)規則で、すべての事業者は、労働者が職場で負傷したり病気になったりしたときに救急措置を行えるよう、適切な施設、機器、人員を備えておくことが要求されている。

 救急のための備えておくべき物の量、人数は、各職場の事情で異なるので、事業者は自分の職場に対して適切な設備や人員のレベルについてアセスメントを行わなければならない。
職場の「救急員(first aider)」の数について具体的な法的要求はないが、HSEはこの規則に対する公認実施準則(Approved Code of Practice : ACoP)を発行しており、これには事業者が用意しなければならない救急設備や要員の最低量を示すガイダンスが含まれている。

 しかしながら規則によれば、すべての職場(worksite)は、適切に内容が管理された救急箱を最低1個を用意し、救急の処置に対して責任をもつ者を1名指名しなければならないことになっている。

 この「指名された者(appointed person)」とは、労働者から選ばれた者で、救急備品を管理し、もし職場でだれかが負傷したり病気になったりした場合の処置にあたる者である。一方救急員とは、適切な救急訓練を受け、HSEが認定した組織が発行した、有効な証明書を持っている者である。

 しかし、前記の研究によると、1981年安全衛生(救急)規則にある具体的要求事項に対する事業者の理解度は一般に非常に低い。具体的には調査対象の事業者の29%がそもそもこの規則は自分のところには当てはまらないと考えていた。報告書によれば、これらの回答者の大部分は労働者5人未満の小企業で、自分たちの規模が小さいため規則は免除されると考えていた。

役割に混乱あり

 一方、質問した救急業界の専門家の四分の三以上が、事業者が「指名された者」の職場における役割について混乱しており、「指名された者」を「救急員」とみなしている企業もあると述べている。

 これに加えて、とりわけ中小企業で、なかでも職場があまり危険でなくて、救急員を置くメリットがあまり感じられない場合に、救急員を準備するための目に見えるコストが懸念されていると報告書では述べている。報告書によれば、この懸念は訓練の費用に対するものではなく、大事なスタッフを訓練に出さなければならないということに対してである。

 また、事業者と救急員の多くが、救急員に対する義務的訓練コースが現在3年ごとであるのは間隔が長すぎて、その能力が低下する結果になることもあると考えている、ということが報告書で判明している。

 報告書は、救急規則自体は基本的に効果があるが、この規則に対するHSEの公認実施準則「1981年安全衛生(救急)規則:公認実施準則及びガイダンス(L74)(the Health and Safety (First Aid) Regulations 1981. Approved Code of Practice and Guidance L74)」は、もっと明確にしなければならないというはっきりした根拠があると結論づけている。

 そして報告書は、規則の要求事項がもっとはっきり事業者に伝わるように、公認実施準則を改訂して発行すべきだと勧告している。

 さらに報告書は、現行の公認実施準則は、安全衛生教育を受けていない管理者や労働者が読んでも分からないような書き方になっていて、企業が規則の要求事項を誤解する結果になりかねないと付け加えている。

具体的には、報告書はHSEが次のように公認実施準則を改訂すべきだと勧告している。
  • その組織内の救急に関する要求事項についてどのように正式なアセスメントを行ったらよいかを、より詳細に・より分かりやすく説明する
  • 種々の職場のリスクレベルに応じた、救急員の想定数について、現行の公認実施準則に含まれている表(不適切で時代遅れだと多くの回答者が考えている。)に代えて、より明確なガイダンスを定める
  • 規則は労働者5人未満のものも含めた全企業に適用されるということを明確に述べる
 報告書はまた、特定の産業、例えば小売業、建設業、輸送業、化学工業などにおける救急に焦点をあてたガイダンスの導入を検討すべきだということを、HSEに勧告している。

新しいポジション

 さらに報告書は、完全な資格をもった救急員を配置するメリットが見えにくい、リスクの低い職場でも救急対策を行いやすくするために、新しく中間的なレベルの「初級救急員(Basic first aider)」制度を提案している。初級救急員は、基本的には、負傷者に救急措置を行う能力のある「指名された人間」ということになろう。

 しかし、もし英国安全衛生委員会(Health and Safety Commission:HSC)が新しい「初級救急員」レベルを導入しないと決定した場合、報告書は「指名された者」の役割を拡大し、基礎的な救急術も含めるよう勧告している。この場合は「指名された者」はHSEが認定する適切な訓練を受けることが必要であるとしている。

より頻繁な訓練

 また報告書は、救急員は、時間が経過するにつれて能力が低下しないよう、もっと訓練の頻度を上げるべきだとし、現在12年間で12日となっている義務的訓練の日数を16日〜18日とするよう勧告している。
 さらに報告書は、現在の1981年安全衛生(救急)規則が他の安全衛生マネジメント法制に統合できないかを検討している。しかし、この統合は長期目標として検討しなければならないが、現時点では救急規則は分離しておくべきだと結論づけている。論拠としては、現時点で統合すると、現在の規則の焦点を弱めることになり、事業者の目に重要性が下がったと映りかねないということである。

 一方、労働研究部(Labour Research Department)の雑誌「交渉レポート(Bargaining Report)」が行った、200の職場を対象とした最近の調査では、企業が救急に関するHSEのガイダンスを守っているか、また救急員が職場でその業務を行うことに対して手当をいくら払っているかが調べられた。

平均一人の救急員

 2002年12月に発表されたこの調査では、32人の労働者ごとに1人の救急員という結果であった。1992年に労働研究部が行った前回の調査では65人に1人であった。

 これに加えてこの調査で次のことが判明した。
  • 事業者の16%が職場の救急ニーズについてアセスメントを行っていない
  • 39%の職場で、救急員に対し手当を支払っていない
  • 職場の救急に関する規定の更なる情報は、以下のHSEのホームページで得ることができる。   www.hse.gov.uk/firstaid/index.htm