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HSE安全衛生管理ガイダンス(妊娠中の女性労働者)
Expectant mothers

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年2月号 p.18

(仮訳 国際安全衛生センター)


 英国では6人の妊婦のうち、1人が流産しているという調査結果に基づき、英国安全衛生庁(Health and Safety Executive: HSE)は、職場での妊産婦に対するリスク低減策に関する事業者向けの新しいガイダンスを発表した。 David Axbeyが報告する。

 最近、HSEは職場における妊産婦に対する安全衛生対策を事業者が確実に実施するための最新のガイダンスを発表した。
 小冊子「職場における妊産婦:事業者に対するガイド(New and expectant mothers at work: A guide for employers)」は、妊婦に対する企業の安全衛生対策を記したガイドで、母親及び胎児に影響を及ぼす作業場の危険について詳しく述べている。
 また、産婦に対する労働安全衛生法で定められている事業者の責務についても記述されている。今回の修正ガイダンスの発表において、Colleen Bowen(HSE健康管理課長)は、事業者は作業場での危険、リスクから子供を産む年代の女性を保護するという法的かつ道徳的な責務を負っていると言っている。
 HSEは、職場での安全衛生関連申告を調査し、安全衛生法で定められた必要な措置を実施する。母親対策を設定することは難しい事ではない。新しいガイダンスは対策設定の方法を説明し、事業者にも労働者にもそれが大変有益となる。事業者がその責務を行わない場合、安全衛生関連法違反となり、HSEによって訴追されることになる。又、事業者は、労働裁判所で補償支払を命じられることにもなる。
 HSEの発表は、2001年の機会均等委員会(Equal Opportunities Commission : EOC)の統計によると妊娠・出産に関連した差別に関して提訴が見込まれる1,434件中97%に何らかの安全衛生関連法違反があるということによっても裏付けされている。加えて、 「機会均等レビュー(Equal Opportunities Review)」という 法律ジャーナル誌の統計によると、性差別事件で事業者はますます高額となる補償費を支払っていて、妊娠による解雇を含む裁判における平均支払額は9,871ポンドとなっている。

妊婦に関する問題点

 一方、HSEは1997/98年度から2001/02年度の間、396件の妊娠に関連する申告を受理し、そのうちの60件は正式な安全衛生調査を実施した。しかし、HSEの新しいガイダンスは、企業が妊娠を病気として捉えてはいけないと明言している。更に、妊娠に係る安全衛生事項は、企業の通常の安全衛生マネージメント手順で適切に処理することとなっている。
 事実、1999年職場安全衛生管理規則(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)は、子供を産む可能性の有る年代の女性を雇用する企業は妊産婦に影響を及ぼす恐れがある作業でのリスクアセスメントを実施しなければならないと定めている。ここで言う妊産婦とは、妊娠中、産後6ケ月以内、あるいは授乳中のすべての労働者のことである。
 ガイダンスによると、このリスクアセスメントは、物理的、生物学的、かつ化学的な要因、作業工程、労働条件等をカバーしているもので、可能性のあるリスクとは次のものを示す。
  • マニュアル・ハンドリング(人力作業) − 妊婦には特にマニュアル・ハンドリングによる傷害リスクがある。例えばホルモンの変化が靭帯に影響を及ぼし、傷害に対する感受性を増長し、また、妊娠が進むにつれて、作業姿勢の問題が大きくなってくるといったことなど。
  • 感染症 − 多くの生物学的要因は、胎児に影響を与える。多くの労働者にとって、感染リスクがそれ程高くない職場であっても、実験作業、医療関係、食肉加工作業といった職場では大きなリスクをもたらす場合がある。
  • ストレス − 妊産婦は職業ストレスに特に弱いものである。妊娠についての女性の心配が職場でのプレッシャーによって助長される場合は特にストレスを受け易い。
  • 一般的な動作及び姿勢 − 例えば作業で一日中立ち続けているような場合、眩暈がしたり、気が遠くなったり、疲れたりし易い。更に長時間座り続けていることで腰痛が増長される。
妊娠可能年齢

 事業者は、リスクアセスメントで特定された潜在的なリスクについて妊娠可能な年齢の女性労働者に伝え、このリスクを削減したり、低減したりするための対策について、彼女達の意見を聞かなければならない。更に、ガイダンスによると、妊娠可能な年齢の女性労働者は、妊娠しているとか、授乳中であるとか、この6ヶ月以内に出産したといったことを書面で事業者に知らせなければならないとされている。この書面を事業者が受領した時には、特定のリスクアセスメントを実施しなければならない。このリスクアセスメントで、重大な安全衛生リスクが特定された場合には、事業者は、妊婦の労働条件及び労働時間について、一時的に調整を図らなければならない。しかしこの方法ではリスク回避が出来ない場合や、合理的に実施可能でない場合は、事業者は同一賃金で適切な他の仕事を提供しなければならない。最終的にこれらのことが実施可能でない場合は、妊婦は、自分と子供の健康安全保護のために必要とされる範囲で有給で作業を中止するべきである。
 又、このガイダンスは、夜間労働及び授乳に関する安全衛生リスクについてもカバーしており、同時に、職場における妊産婦の安全衛生の確保を事業者の法的責務としている他の法規、例えば1996年雇用権利法(Employment Rights Act 1996)の情報についても提供している。

優良事例

 更にガイダンスは、事業者が労働者が妊娠したことを知らされた時の良い事例及び悪い事例の3つのケーススタディについても記述している。ガイダンスは、妊産婦の安全衛生対策に関する有益情報及びオンライン情報についても記述している。
 EOCの議長Julie Mellorは、最近発表されたガイダンスに次のようにコメントした。妊婦に関係する安全衛生対策をとらない企業は、体調が悪いために辞職しなければならなくなった貴重な労働者を失うだけでなく、性差別法(Sex Discrimination Act)違反ともなる恐れがある。労働裁判所に持ち込まれる可能性のある多くの申し立ては、殆どの事業者がなすべきことについて十分に理解していないことを示している。
 この簡易なガイドは、事業者の混乱を避けるために役立ち、職場において妊娠にどう対応するかという面で、事業者及び妊婦にとって有益なものである。
 一方、乳幼児のための慈善団体「Tommy's」のJane Brewin理事長は、今回の修正ガイダンス発表への支持を次のように表明した。
 妊婦が極めて苛酷な労働が要求される職場環境及びストレス環境下で働く場合、早産のリスクが高いという事実が多いので、この新しいガイドは歓迎する。事業者が、作業現場での妊婦に正当な労働環境を提供する時に役立つでしょう。

ガイダンス「New and expectant mothers at work: A guide for employers」(HSG122, ISBN 0-7176-2583-4, 9.50ポンド)は、HSE Book(Tel : 01787 881165, Fax : 01787 313995)で購入できます。

妊娠中の労働者の安全衛生管理については、HSEのウェブサイトwww.hse.gov.uk/hthdir/noframes/mothers.htmを参照してください。

妊産婦の雇用権利に関するアドバイスは、EOCのウェブサイトwww.eoc.org.ukを参照してください。


* 妊産婦の労働安全衛生管理については、HSEのウェブサイトhttp://www.hse.gov.uk/MOTHERS/でご覧になれます。