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騒音、振動及び聴力保護注)
NOISE, VIBRATION AND HEARING PROTECTION

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年2月号 p.32

(仮訳 国際安全衛生センター)


EUは最近、作業場における騒音及び振動の暴露防止基準に関し、より強化した法的責務を事業者に課すという2つの新しい指令を採用した。しかしながら、SM(Safety Management誌)が下記に説明するように、事業者が作業場の騒音及び振動危険を管理するために、今すぐ実行できる実用的な多くのステップがある。

 職業性難聴は、職場でも家庭でも聴力障害者の生活に深刻かつ永久的な影響を与える。職場における過度の騒音によって引き起こされる危険性は、ずっと以前から知られてきたが、多くの労働者は毎年未だに聴力障害を被っている。その理由は、事業者が職場での騒音暴露をコントロールする適切なシステムを取らなかったためである。

不安全な騒音レベル

 事実、最近の英国安全衛生庁(HSE)の調査によると、110万人の労働者が作業場で不安全な騒音レベルに暴露されていると見られている。一方2001/02年度HSEに代わって実行された新しい自己報告作業関連疾病調査(Self-reported work-related illness survey)によると、87,000人の英国人が、作業場での酷い騒音暴露の結果、聴力障害を被っていると思っていることが判明した。しかしながら、聴力障害は一般に過小に報告されるため、この数字はもっと高いものであると思われる。例えば、1997/98年度の医学研究会議(Medical Research Council)の調査によると、英国の50万人以上が、作業場における高レベルの騒音への暴露により、難聴を患っていると見られている。 
 一方、2002年、TUCによって行われた労働組合安全衛生代表者の調査では、質問した人の5分の1以上が自分の職場における過度の騒音による危険を心配しているということが判明した。最も騒音リスクが高いと思われる労働者の業種は、製造業、建設業であった。HSEによると、過度の騒音によって引き起こされた聴力障害は非常にゆるやかに進行している。毎日毎日悪化することに気付かないうちに、騒音の影響による難聴は回復しなくなる。永久的な難聴の結果、労働者は音や話し声が聞き取り難くなり、永久的な耳鳴りがし、発音が似ている言葉を区別することが困難になり、音量に対する感覚がゆがんでくる。
 職場の騒音によるリスクへの認識を深めるためにHSEは2002年9月、作業による難聴から労働者を保護する方法について事業者へのアドバイスを提供するため、新しいガイダンス集を発表した。

 これには、以前の4つの小冊子に代わる小冊子「事業者のための騒音に対する作業アドバイス(Noise at Work - advice for employers)」が含まれ、騒音の評価および管理、より静かな機器、機械の選択、聴力保護具の種々のタイプについて、包括的な情報を提供している。この小冊子は、労働者の聴力保護のための事業者の法的責務についても概論している。聴力検査計画がどのように行われるかについても説明している。
 更にガイダンス集には、労働者向けの新しいポケットカード及びポスター「自分で聴力を守ろう。聴力を失なわないように(Protect your hearing or lose it !)」もあり、騒音暴露のリスクを概説し、適切な聴力保護具の装着及びメンテナンスの方法を説明している。
 一方2002年11月、HSEは、聴力保護に対する労働者の姿勢に影響を及ぼす色々な要素、そして企業は労働者にどの程度聴力保護具を装着させることができているかということに関する調査研究を発表した。この調査研究によると、聴力保護具を装着していない労働者の主な理由としては、与えられた保護具が使い勝手が悪く、情報の伝達が困難であったことをあげている。

適切な聴力保護具

 その結果、調査研究は労働者が作業に対する適切な聴力保護具を装着し易いような簡単かつ実用的な幅広い範囲に渡る方法を推進しようとしている。
この中には、次のようなものがある。
  • 耳栓の十分なストックを用意し、磨り減ったり、損傷していたりするイヤマフの取換えを確実に行うこと。
  • 聴力保護具の選択の際は、労働者も参加すること。労働者が快適な保護具を選択できるような機会を作ること。
  • 聴力保護に関する短期集中訓練コースを労働者向けに用意すること。例えば、他の実用的な問題を含むツール・ボックス講習会にそのコースを含めるなど。
 HSEによると、聴力保護具の使用を促すための研究結果は、職場騒音への暴露防止に関するHSEの将来のガイダンスに統合されることになる。

 しかしながら、職場騒音への暴露問題の取組みに対する最近の最も重要な動きは、昨年12月にEUが職場騒音に暴露されている労働者の健康安全に対する最低基準を新しいEU指令として導入するのに合意したことである。

より厳しくなる法的責務

 この物理的因子(騒音)に関する指令(Physical Agents (Noise) Directive)により、この内容は2006年初め迄に英国の法に取り入れなければならないことになり、事業者は今後職場における騒音管理レベル及び労働者の聴力安全対策に対するより厳しい法的責務に直面することとなる。
 例えば、指令によって、労働者の聴力保護のために、英国の事業者が騒音からのリスクについて労働者に知らせること、適切な聴力保護具を用意することなどが法的に義務づけられる騒音レベルが引き下げられる。この指令は、労働者の週間騒音暴露量が、新しい許容限界量を超えないということを事業者に要求している。
 新しい騒音指令は、既存の1989年職場騒音規則(Noise at Work Regulations 1989)(英国における職場騒音に対する労働者の暴露をカバーしている主要な法令の1つである)に代わるものとなる。現在の規則の下では、事業者は職場での騒音レベルを評価し、ある一定の大きさの騒音に対する労働者の暴露を管理する対策を取ることが求められている。
 特に、規則は、事業者が労働者の健康、安全、福祉を守るために適切な対策を取らなければならない3つの異なった騒音レベルを設定している。これらは、アクション・レベルとして知られており、次のようなものである。
  • 第1アクション・レベル(First action level)
    一日の個人騒音暴露が85デシベルの場合:このレベルでは事業者は、労働者の要求に応じ、適切かつ十分な聴力保護具を提供する法的責務を負う。
  • 第2アクション・レベル(Second action level)
    一日の個人騒音暴露が90デシベルの場合:このレベルでは事業者は、合理的に実施可能な範囲で、音レベルを低くする措置を講じなければならない。耳防護具、イヤマフといったような適切な聴力保護具を提供しなければならない。
    更に事業者は、聴力保護具装着が義務付けられている職場区域に標識を掲示して耳保護区域を定めなければならない。労働者に聴力リスク及びリスク低減のために取られるアクションに関する情報、教育訓練を実施しなければならない。
  • ピーク・アクション・レベル(Peak action level)
    労働者が、ピーク音圧が200パスカル(約140デシベル)に達している大変高い騒音に断続的に暴露される区域:事業者は騒音を低減する手段を講じなければならず、聴力保護具を準備し、それを確実に正しく使用させなければならない。
過度の騒音レベル

 労働者が過度の騒音によって影響されないために、最初に事業者が確実に実施しなければならないことは、騒音暴露がアクション・レベルの1つに達しているような職場では、リスクアセスメントを実施しなければならないことである。このことは、適任者(competent person)---HSEの騒音アセスメントガイダンスを理解し、そして作業現場でそれを適用する方法を知っている人---が十分なアセスメントを実施することである。
 例えば、適切な騒音アセスメントを実施する十分な技能を有する技術者あるいは技術スタッフを指名してリスクアセスメントを行わせることができる。
 職場騒音のアセスメントを行う時に従わなければならない次のような多くの手段がある。
  • 職場に存在する騒音の異なるタイプ及び過度の騒音レベルに暴露されている労働者を特定すること。いかなる可聴音も騒音---話し声や音楽から機械及び通信機器が発する音まで---として考慮しなければならないということに留意することは重要である。
  • 第一アクション・レベル又はこれを超えた騒音レベルに暴露されているおそれのある労働者の一日の騒音暴露量を決定すること。
    あるいはピーク・アクション・レベルを超えた騒音レベルに暴露されているおそれのある労働者のピーク騒音暴露量を決定すること。
  • 作業場において騒音管理が必要な場所、必要な騒音管理の種類、いつ、どのような聴力保護具が使用可能かなど、必要と思われる追加的情報を特定すること。
  • もし簡単に説明したり、容易に繰り返したりすることができないような場合には、アセスメントの結果を記録すること。
  • 定期的に、あるいは重要な変更が行われる時には常にアセスメントを見直し、更新すること。例えば、新しい機械が導入されて、直近のアセスメントで記録された騒音値が変化するような作業場所等。
3つのアクション・レベル

 騒音暴露が1989年職場騒音規則で定められた3つのアクション・レベルのどれかに該当し、又はそれを超えるということがリスクアセスメントにより判明した場合、事業者は騒音危険の存在及び過度の騒音レベルへの暴露予防対策について労働者に知らせなければならない。しかしながら、労働者が第2アクション・レベル、又はピーク・アクション・レベルあるいはそのレベルを超えて暴露されているということをリスクアセスメントが示している場合、事業者は、騒音管理に対する具体的な手段を取る責務がある。
 事業者が職場での騒音レベルを低減するための最も効果的な方法は、はじめから静かな機械を購入またはリースすることにより、騒音源での騒音レベルを削減または低減することである。
 機械設備が届いてから、騒音が大変大きく、聴力保護具を装着しなければ安全に使用できないことがわかるよりも、購入時に作業現場機器に対して騒音低減対策が実施されるならば、多くの問題は避けられる。
 新しい機器が適切であることを確認するため、事業者が購入時に立てておくと大変役立つ対策には、次のようなものがある。
  • 機械設備仕様書を用意し、供給者に騒音関連法規について注意を向けさせること。
  • 企業の新しい機械設備に対して許容できると思われる騒音制限---実際的な騒音発散レベル---を決めること。
  • 購入する機械設備が騒音許容限界に合致するものであることについて、全ての入札者に尋ねること。
  • 騒音レベル及び機械設備要件について、使用する労働者と意見交換すること。
 加えて、騒音レベルを低くするためには、機械設備の特別な部分を囲うとか、新しく作業場のレイアウトを見直すことである。又、事業者が騒音問題解決のために取るべき企業全体の対策としては、危険区域で働く労働者数を削減したり、労働者がその区域にいる時間を短くしたりすることがある。その他、より静かな場所で作業を実施する可能性を見つけることである。

PPE(個人用保護具)

 しかしながら、いつでも、事業者がより静かな機械の使用、物理的なセーフガードの導入、作業のやり方の変更などによって、騒音レベルを十分に低減できる訳ではない。このような場合には、過度の騒音レベルの暴露から労働者を保護する最後の手段として適切なPPE---イヤマフ、耳栓など---を使用する必要がある。
 PPEが必要な場合は、事業者は次のことを確実に実施することが重要である。
  • 仕事に合った聴力保護具を選択すること。
  • 製造者の取扱説明書に従ってのみ、使用すること。
  • 労働者は管理者に対し、聴力保護具の問題点と欠陥を報告すること。
 利用できる聴力保護具には多くの異なる形状や型がある。正しい保護具の選択は次の要素にかかっている。
  • 必要とされる保護具の性能---音が大きくなればなるほど、保護性の高いものが必要とされる。
  • 快適であること---装着が困難な保護具は脱ぎ捨てられてしまうか、あるいは使用勝手が悪いと、仕事から注意を逸らすことになり、労働者により大きなリスクを課すことになる。
  • 聴力保護具が他のPPEと共に効果的に使われるかどうか。例えば保護帽が作業中に必要とされる場合、同時にイヤマフを装着することは不可能である。
使い捨ての耳栓

 イヤマフは、耳にフィットし、耳を取り囲む固いプラスチックのカップ状のもので、やわらかいシールがカップの周りに取り付けられている。カップの内部表面は、音を吸収する材料で覆われており、頭にイヤマフを保持したり、押し付けたりするために、色々なタイプのヘッドバンドが使われている。例えば、伸び縮みするヘッドバンドは快適で、イヤマフが必要ない時は、ずらせるようになっているが、保護帽をかぶる時には邪魔になる。保護帽の着用が要求される場合は、イヤマフを保護帽に直接装着するタイプが必要である。
 使い捨ての耳栓及び長く使用する耳栓は、耳の穴に直接差し込むもので、紛失防止のために、紐付き又は首紐付きとなっているものもある。しかし通常、耳に疾病がある人には向いていない。使い捨てタイプの耳栓にも再利用可能なものがあるが、聴力保護具の最も良く使用されるタイプの1つは、使い捨てのフォームタイプの耳栓である。使い捨てタイプの耳栓は圧縮状の材質でできており、専門家によるフィッティングを必要とすることなく、たいていの人の耳にフィットするという利点がある。
 長く使用できるゴム製あるいはプラスチック製の耳栓は通常色々なサイズがある。耳の穴を十分に塞ぐためには、正しい大きさのものが使用されることが重要である。又、半分程度挿入するタイプ(semi-insert)も使用されている。これは、ヘッドバンドに取り付けられているもので、予め成形された耳キャップで、耳の穴にキャップ部分を押し込むものである。聴力保護具のいずれのタイプを選択する場合でも、よく点検整備されてこそ、保護具として効果がある。
 事業者は、職場で暴露されている騒音レベル、聴力に問題を引き起こすリスク及び与えられたPPEを正しく使用する方法について、労働者に適切な訓練を行うことが重要である。

保護具着用区域

 保護具使用が必要な騒音レベルの場所では、保護具着用区域が明示されていることが重要である。短い時間であっても、この区域内に入る者は保護具を使用するということを認識しなければならない。
 PPE使用等は、過度の騒音源をコントロールする代わりの対策とみなしてはいけない。又、健康診断は職場の騒音リスクに対して重要な役割を果たすことができる。
 事実、1999年職場安全衛生管理規則(Management of Health and Safety Regulations 1999)によると、有害な騒音レベルに暴露されている労働者に対しては、健康診断の実施が求められている。  騒々しい環境下で働いている労働者に対しては、定期的に健康診断時にオージオメータによって、音の広範囲の周波数について、労働者の聴力感度を測定室で検査する。事業者は労働者に、聴力検査の結果を知らせ、その記録を保管しなければならない。事業者は、聴力障害が疑われる時には、更なる医学的診断を受診させることになる。

健康診断

 健康診断実施には3つの利点がある。
  • 労働者が聴力損失を被り始めているという前兆を知らせる役目を果たす。
  • 障害が進む以前に、危険を低減するための措置をとる機会を提供する。
  • 騒音管理対策が正しく機能していることをチェックする手段としての役目を果たす。

 聴力障害を引き起こす原因となる騒音リスクは、騒音レベルあるいは暴露時間が増加するにつれ、高くなるということは明らかである。しかし事業者は、1日の個人騒音暴露量が90デシベル(第2アクション・レベル)に達している全ての労働者に、定期的な聴力検査を実施することが良いことが解る。事業者は、騒音レベルが95デシベルを超える場合、暴露が毎年1〜2週間という短期的な場合を除いては、聴力検査を必ず実施しなければならない。

新しい騒音指令

 職場での騒音に暴露された労働者の安全衛生保護を目的としてEUによって最近合意された新しい物理的因子(騒音)に関する指令(Physical Agents (Noise) Directive)の下では、上述した法的要件は、より厳しくなるように定められている。この指令により、現在の騒音規則は次のように多くの変更がされることになる。
  • 個人騒音暴露に対する第1アクション・レベル値を85デシベルから80デシベルに低減すること。このレベルにおいては、事業者は労働者に情報を与え、訓練を行い、利用可能な聴力保護具を与える法的責務を有することになる。又、事業者は労働者の聴力にリスクがあるという証拠がある場合、労働者に対し、聴力検査を実施しなければならない。
  • 第2アクション・レベルは90デシベルから85デシベルに低減すること。このレベルでは、労働者は医者による聴力診察を受ける権利を有することになる。事業者は聴力保護具を労働者に必ず着用させなければならない。
 その一方、この指令は新しい騒音暴露許容値87デシベルを導入する予定である。事業者は週単位の騒音暴露レベル---聴力保護具などのPPE使用による保護レベルを考慮に入れた---はこの値を超えないようにしなければならないことが求められる。
 加えて、大きな断続的な騒音に対するピーク・アクション・レベルは、200パスカルから140パスカルへ低減されることになる。このレベルでは、事業者は騒音レベルを低減するために管理対策を実施し、保護具を労働者に必ず着用させなければならない。

娯楽部門

 新しい物理的因子に関する(騒音)指令(Physical Agents (Noise) Directive)は、2006年初めまでに英国の法令に導入されなければならない。HSEは2004年2月にその実施に係わる諮問文書を出すことにしている。しかしながら、音楽及び娯楽の部門は---この中にはコンサート会場、バー及びナイトクラブも含む---新しい暴露アクション値及びその許容値を遵守することは2008年初めまでその期間が猶予される。
 更に指令は、騒音規則を初めて海運業にも適用するが、海運業者が新しい暴露許容値を遵守することは、移行期間として、2011年まで猶予される。
 HSEの統計によると、職場での過度の騒音は、業務上の疾病の主な原因のひとつであり、毎年数万人の労働者が作業による聴力損失を被っている。新しい騒音指令に定められた厳しい法的責務は、職場の有害なレベルの騒音への暴露量を間違いなく低減する。しかし、職業性難聴の全てのケースは、すぐにでも予防可能であることは明白な事実である。

ガイドラインの順守

 施設での騒音リスクを適切に評価し、上に概略を示しHSEが包括的にガイダンスにまとめたガイドラインに従えば、事業者は、確実に過度の職場騒音問題に効果的に取り組むことができる。

リーフレット「事業者のための騒音に対する作業アドバイス(Noise at Work - advice for employers)」およびポケットカード「自分で聴力を守ろう。聴力を失なわないように(Protect your hearing or lose it !)」各1部は、HSE Books (Tel: 01787 881165)から無料で入手できる。 また、このリーフレットとポケットカードは、HSEのウェブサイト(www.hse.gov.uk/pubns/noisindx.htm)からダウンロードできる。

 新しい物理的因子(騒音)に関する指令(Physical Agents (Noise) Directive)に関する詳細情報は、HSEのウェブサイト(www.hse.gov.uk/hthdir/noframes/noise.htm)で見ることができる。


* HSEの騒音に関するウェブサイトはこちら

注)p41の振動に関する記事は省略しました。