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新しい職場騒音規制に関する諮問
Consultation on new noise limits

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年5月号 p.6-8

(仮訳 国際安全衛生センター)



 安全衛生委員会(Health and Safety Commission: HSC)の新しい規則案によると、2006年以降、職場騒音へのばく露対策に関し、事業者により厳しい責務が課されることになりそうだ。David Axbeyがレポートする。

 作業関連で聴力損失を被る人の数を減少させるために策定されたHSCの法案の発表により、職場騒音管理に関するより厳しい法的責務が、一歩前進した。

現行規則に代わる規則

 2004年4月に発表されたHSCの諮問文書「物理的要因(騒音)に関する指令を実施する新職場騒音規則の提案(Proposal for new Control of Noise at Work Regulations implementing the Physical Agents (Noise) Directive)」は、現在の「1989年職場騒音規則(Noise at Work Regulations 1989)を「2005年職場騒音管理規則(Control of Noise at Work Regulations 2005)に置き換える提案に対する人々の意見を求めるものである。
 新しい規則は、英国法令に欧州の「物理的要因(騒音)指令」を導入し、労働者の聴力保護のために事業者が措置を講じなければならない騒音レベルを低くするものである。2006年2月に施行予定の新規則ではまた、企業が労働者の騒音ばく露が新しく設定される限界値を超えないようにしなければならない。HSCは、この新規則でさらに100万人の労働者に対し、職場の有害騒音からの保護に手を差しのべることになるだろうと予測している。
 規則案の発表は、労働組合から暖かい歓迎を受けた。TUC(英国労働組合会議)の安全衛生部長であるHugh Robertsonは次のように述べた。「我々は、騒音の影響から労働者を保護する対策の強化を求めて長年にわたりキャンペーンを展開してきた。今回の諮問は我々にとって歓迎すべきものであり、仕事に起因する聴力損失を防止するための新しくより効果的な対策が導かれるであろうことを期待する」
 HSCによると、英国の110万人以上の人々が職場で85db(A)を超える騒音レベルにさらされている。これは、長い間ばく露することにより聴力障害の原因となる可能性があることが明らかな数値である。現在、総計17万人が職場での騒音ばく露により、難聴、耳鳴りその他の症状に苦しんでいる。

ばく露アクションレベル(Exposure Action Value: EAV)

 そうした人々の人数を減少させるため、HSCは下記の内容を含む新規則の導入を提案した。
  • 日常の個人騒音ばく露の下限EAVを85db(A)から80db(A)に下げ、衝撃騒音(高エネルギー音の短い破裂音)に対するEAV――は、200から112パスカルに下げる。
  • 上限EAVを90db(A)から85db(A)に、インパルス雑音については200から140パスカルに下げる。
  • 87db(A)のばく露限界値、あるいは衝撃騒音については200パスカルを導入する。
騒音リスクの低減

 規則案では、事業者は合理的に実施可能な限りにおいて、(例えば代替的作業工程の採用やより静かな機器の使用等によって)騒音によるリスクを排除あるいは低減することが義務づけられることになる。
 第一段階として、下限EAV以上の騒音に従業員がばく露されるおそれのある作業を実施する企業は、潜在的なハザードを特定するリスクアセスメント及びそれを抑制するために必要な対策の実施を義務づけられることになる。
 HSCによると、事業者は常に職場における騒音レベルの精密な測定を行わなければならないわけではない。騒音レベルが上限EAVを下回りそうな場合は、事業者はその他の情報源(例えば、HSEによって提供されたデータシート等)を使用して騒音レベルを推計してもよい。
 しかし規則案では、職場の騒音ばく露レベルが上限EAVを超えているおそれのある場合、事業者は精密にばく露レベルを測定することが義務づけられる。
 一方、HSCによると、事業者は従業員の騒音ばく露がEAVを超えるかどうかを決定する場合に、イヤーマフ及び耳栓といった防音保護具の効果を考慮に入れてはならない。しかし、ばく露限界値を評価する際には、事業者は防音保護具による保護効果を考慮に入れることが可能である。
 さらに、騒音ばく露は通常は平均的な8時間の枠で測定されるが、規則案では、その日によって騒音ばく露が変動する場合、事業者は一週間にわたって測定したばく露平均値によることができるものとされている。

対策プログラム

 HSCによると、騒音リスクのアセスメントはまた、職場騒音レベルの変化を確実に考慮するため、進行中の対策プログラムの一部分として定期的に再評価されなければならない。
 もしリスクアセスメントによって、職場の騒音ばく露が、80db(A)という下限EAV以上の値になっていることが判明した場合、規則案では、事業者は騒音障害防止用保護具を必要とする労働者にそれを提供することが義務づけられる。
 一方、事業者は、職場での過度の騒音レベルによるリスクに関し、適切な教育、情報、訓練を全てのスタッフに提供する義務を負うことになる。
 しかし、職場での騒音ばく露が新たな85db(A)という上限EAV以上の値である場合、事業者は正式な対策プログラムを導入することが義務づけられる。対策は騒音リスクアセスメントの結果により変化するが、対策としては次のようなものが挙げられる。
  • 騒音が少ない工具、機器、設備を選択すること
  • 技術的な手段(囲い、遮蔽物または吸音カバーの設置)によって、ばく露される騒音の量を減少すること
  • 職場の設計及びレイアウトを変更すること
  • 全ての機器及び職場システムが適切にメンテナンスされているようにすること
  • 労働者が職場の騒音区域にいる時間を制限することにより、労働者の騒音ばく露を低減すること
    加えて規則案では、労働者が上限EAVの騒音にばく露される区域を防音保護具着用区域として指定することが事業者に課される。
 事業者は、合理的に実施可能な場合、このような区域への立ち入りを制限し、たとえ労働者が立ち入る時間が短時間である場合でも、区域内では防音保護具を着用しなければならないことを警告する標識を設置することが義務づけられる。
 実際、事業者は上限EAVの騒音レベルにばく露される全てのスタッフに、適切な防音保護具を提供し、それが適切に使用されるようにしなければならない。

健康診断

 一方、新しい規則では、事業者は85dB(A)以上の騒音レベルに常時ばく露される労働者に対し、オージオメーターによる聴力測定を含む健康診断を実施することも義務づけられる。しかし、ばく露レベルが80から85dB(A)の間にある場合、あるいは労働者が上限EAVを超える騒音に時折ばく露されるだけの場合には、HSCによれば、被害を受けやすい労働者(例えば、すでに聴力に問題を持つ人や妊婦等)に対してのみ要求されるとのことである。
 現行の職場騒音規制では、事業者は騒音レベルが95dB(A)に達する場合のみに聴力検査の実施が義務づけられているが、現在のところ、個人騒音ばく露が90dB(A)に達する労働者に健康診断を実施するのが良き慣行(グッド・プラクティス)であるとされている。
 そもそも健康診断は、企業が過度の騒音によって引き起こされた健康障害の兆候を早期発見するのを助けるためのものだが、HSCによると、事業者によって導入された管理対策の効果をモニターするための有用なツールにもなりうる。
 最後に、規則案は新しい騒音ばく露限界値87dB(A)、あるいは大きな断続的騒音に対して200パスカルを導入するもので、事業者は確実にこれを超えないようにしなければならない。もし限界値を超える場合は、事業者は限界値以下になるように、ばく露低減のために直ちに対策を取らなければならない。そして限界値を超過した理由を特定し、再度超過しないように抑制対策を変更しなければならない。
 新しい騒音規則は、2006年2月15日に発効する予定であるが、音楽及び娯楽産業(バー、ナイトクラブ、録音演奏あるいは生演奏が行われる場所など)は、新しいばく露対策及び限界値を従業員に適用することは、2008年2月まで猶予されることになっている。HSCはさらに、この移行期の終わりまでに娯楽産業が新しい法的要件を満たすのを援助する目的で、具体的なガイダンスを作成すると付け加えている。

海運業

 さらに規則案では、職場騒音規則の適用範囲内に初めて海運業を含めることになる。しかし、この場合も2011年2月まえの移行期間を設け、海運業者に新しいばく露限界値に適応するための猶予期間を与える。ただし、規則が適用されるのは船舶がドックに入っている間の作業のみであり、規則の影響が及ぶのは、メンテナンス作業者等の沿岸労働者である。
 諮問文書へのコメントは、2004年6月21日が締め切りとなる。HSCは、「2005年職場騒音管理規則」の最終的バージョン及び関連するガイダンスを2005年10月までに発行する予定である。