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災害調査に関するガイダンス
Guidance on accident investigation

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年9月号 p.6-9

(仮訳 国際安全衛生センター)



 事業者の安全衛生パフォーマンスを改善する手助けとして、英国安全衛生庁(HSE)は、職場での災害及びニアミスの調査方法及び再発防止対策に関する新しいガイダンスを公表した。David Axbeyがレポートする。

 事業者が労働災害の原因調査を実施する際の手助けとなるために策定された新しいガイダンスが、HSEによって公表された。
 主に中小企業を対象とした82ページから成るワークブック「災害と事故の調査(Investigating accidents and incidents)」は、職場での災害及びニアミスの調査に関して、事業者に段階的な指針を与えるものである。
 この新しいガイダンスに対するコメントとして、HSE監督政策局のジョナサン・ラッセルは次のように語った。「災害が1件発生するだけでも十分に悪い事だが、そこから教訓を得ずにさらなる災害を発生させることは、決して許されないことだ」
 「HSEは、安全な職場を創り出すのに最も適した人々は、スタッフおよび彼らと一緒に働くマネージャーであると確信している。HSEがこのガイダンスを作成した狙いは、どこが悪かったのかを見つけ出し、そこから教訓を得て、そして将来において災害を低減あるいはできれば防止するためのツールを彼らに提供する点にある」
 このガイダンスの公表は、2003年1月の安全衛生委員会(HSC)の決定により、災害原因の調査という新たな法的義務を事業者に課す案が先送りされたことを受けたものだ。
 HSCによると、HSEが委託した調査では、英国の企業において労働災害調査の実施についての自信のなさが広く見受けられることがわかった。とりわけ、多くの事業者がHSEに対し、企業がそれにならって実施できるような系統だった災害調査方法のガイダンスを与えてほしいと要望していた。

様々な段階

 その結果、この新しいワークブックは災害調査過程における様々な段階で事業者を手助けするものとして作成され、各段階で考えなければならない事項を明確に説明している。
 このワークブックでは、労働災害調査の全体的な利点から始まり、続いて災害調査が必要な場合を検証し、災害調査は誰が指名されて実施すべきか、どんなことがこの災害調査に含められるべきかを述べている。
 例えば、ガイダンスでは、死亡災害あるいは重大災害が発生した場合は、役員あるいは部長クラスの監督下で幅広い高い水準の調査が実施されるべきであるとする一方で、再発しそうもないような小さな事故は、関係監督者だけで事故関連状況を調査し、今後のための教訓を学び取るだけでも良いとしている。
 しかし、このワークブックの中心を構成するものは、災害調査がいったん開始された場合に企業が実施しなければならない以下の4つのステップである。
  • 情報収集:起こったこと、災害の原因となった状況および行動に関するデータを収集すること
  • 情報分析:何がなぜ起きたのかを明らかにするために、全ての事実関係を検証すること
  • 管理対策:可能な再発防止対策を特定し、評価すること
  • 行動計画:具体的で、重要で、合意が得られ、実現性のある目標と実施スケジュールから成る行動計画を立てる。
 ガイダンスによると、事業者はできる限り早く情報収集を開始しなければならない。必要ならば、作業を中断し、現場への関係者以外の立入を禁止したりするべきである。
 また、災害発生時に付近にいた全ての人から話をきくと同時に、写真、スケッチ及びチェックシートや作業許可(permits to work)などの書類を含む関連のある証拠を集めなければならない。
 この段階での調査の目的は、災害時に何が起きたのか、そしてその原因となった事象を特定することである。特に、調査実施者は次の点を記録しておかなければならない。
  • 災害発生の日時と場所
  • 被災者、およびどのような傷害あるいは健康障害が生じたか
  • 実施していた作業状況
  • 事故に関係した機器の詳細
 続いて調査実施者は、事故に関係したと思われる要因のメモを作成しなければならない。例えば、災害は非定常時によく発生するので、災害発生時の作業条件やプロセスについて何かいつもと変ったところがなかったかどうかについても調査しなければならない。

不適切な監督

 加えて、作業組織が事故発生の原因となったかどうかについても詳しく調査しなければならないとガイダンスは述べている。例えば、作業の監督・監視が不適切であったために、作業手順のミスが気づかれずにいたかもしれない。また、高い生産性を目標としたことにより、安全衛生対策の水準が低くなり、かつ労働者が作業を急がされた可能性もある。
 その他、情報収集に際して考えなければならない事項としては、次のようなことがあげられる。
  • 適切な安全作業手順があったかどうか、労働者がそれを守ったかどうか。
  • 十分なメンテナンス及び清掃が行われていたかどうか。
  • 事故に巻き込まれた人々は、資格があり、その仕事に適していたかどうか。
  • 作業場のレイアウトは、事故原因に関係がなかったかどうか。
 何が起きたかについての基本的情報が集められると同時に、調査実施者はまた、発生原因を見つけ出すようにしなければならないとガイダンスは述べている。それには、証拠分析により事故の直接的な原因、潜在的あるいは根本的な原因を特定することが重要である。

チームによる調査

 HSEによると、労働者あるいは労働組合の安全衛生代表(さらにその他の専門家等)を適宜加えたチームによる災害調査分析は、非常にすぐれた結果が期待できる。
 このワークブックではまた、分析の結果、ヒューマンエラーが災害の一因となっていたことが明らかになった場合、どうすれば良いのかについてもアドバイスを提供している。特に、災害の全責任を個人のせいにしてはならないと警告している。そうすることは、労働力を離反させ、企業の安全文化を弱体化させることになりかねない。
 いったん災害あるいはニアミスの原因が決定されたならば、事業者はリスクをコントロールする適切な対策を特定し、同種の事故が再発しないようにしなければならない。
 可能であれば、例えば潜在的に危険有害な溶剤を本質的に安全な水溶性の製品に転換するなどして、リスクを完全に排除しなければならないとガイダンスは述べている。

発生源でリスクに対応

 もしそれができない場合、事業者は機械に適切なガードを取り付けるといったように、その発生源でのリスク対策が実施可能かどうかを検討しなければならない。それが実施不可能である場合にのみ、事業者は個人用保護具(PPE)の使用といったような、効果が個々の労働者の行動に依存するような対策を実施するべきである。加えてガイダンスによると、調査は対象となる事故の調査にとどまらず、同種のリスクが職場内に存在していないかどうかを調べ、かつ過去に発生した同様の事故に焦点を当ててチェックしなければならない。
 調査のこの段階では、事業者はリスク管理対策計画を作成し、直ちに実施すべき対策と長期的に導入すべき対策を明確に示さなければならない。
 ガイダンスによると、重要なことは特定の人――できれば役員か部長――が責任者となり、リスク管理対策計画をスケジュールどおりに実行し、かつ定期的に見直しを実行することである。また、事業者は全ての関係するリスクアセスメント及び安全作業手順が職場の事故に伴い見直され、修正されるようにしなければならない。

記載例

 企業が職場での災害調査を実施するのを手助けするために、この新しいガイダンスは、空欄の災害報告調査様式を載せており、調査実施者が適切にこれを使用できるように記載例も一緒に掲げられている。さらに、このワークブックには、職場の事故を分析する時に事業者が利用できる表もついており、記入例も示されている。
 新しいガイダンスの発表を、イギリス王立災害防止協会(RoSPA)も歓迎している。
 RoSPA の安全アドバイザーであるロジャー・ビビングスは次のように語った。「多くの企業は、リスクアセスメントに習熟していなければならないにもかかわらず、その多くは、自分たちの災害及び事故の調査方法から最大限の成果を得られずにいる」
 「その結果、多くの事業者は全体的な安全衛生管理の改善に役立つ重大な教訓を学び取れないままでいる」

企業への強制

 一方、英国労働組合会議(TUC)は、企業に職場の災害調査を強制する法令の導入に対する要求を再度行った。
 TUCの上級安全衛生政策担当者ヒュー・ロバートソンは、次のように述べた。「2001年にHSEがこの件に関して諮問した際に広く支持を受けたにもかかわらず、いまだに災害調査に関する明確な法的義務がないことに対し、我々は失望している」