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救急処置へのHSEのとりくみ

資料出所:Job Safety Management
January 2005

(仮訳 国際安全衛生センター)



 安全衛生委員会(Health and Safety Commission: HSC)は、事業者と専門家との広範囲にわたる協議を経て、イギリス国内の救急処置の規制を初めて包括的にまとめたものを出版した。

 1981年の労働安全衛生規則(救急処置)(the Health and Safety (First Aid) Regulations)の包括的なレビューを行った結果、救急処置に関する既存の法律を大きく変える必要はないことがわかった。HSCが500名の事業者、安全衛生担当者、救急処置の有資格者、救急処置の器具の納入業者に質問を行ったところ、現在の規則の枠組みや公認実施準則(Approved Code of Practice: ACoP)には特に大きな改訂は必要ないが、HSCの労働安全規則(救急処置)のレビューと評価(1981)を批判する人々は救急処置の対策を職場でより効率よく働けるような形にしていくために必要な改善事項をあげている。その中には、HSEのガイダンスの見直しや救急処置のトレーニングの構造の変化も含まれている。2003年の秋に出版されたディスカッションドキュメントへの解答として、レビューは最近の規制の状況についての商工業界の考えを概観している。最近の規則は、負傷、あるいは病気にかかった人がすぐに対応してもらえるよう、器具や施設、人員を確保しておくことを、事業者に義務づけている。
 HSEの労働衛生支援部部長のコーリーン・ボーエンは、新しいレビューへのコメントとして以下のように述べている。「1981年に救急処置規則が導入されてから、大きな変化がおきています。いまでは当時よりも中小企業の数は増加してきているが、規則の枠組みが、今日の経済状況のニーズを満たし続けていることを心良く思っています。私達は、救急処置の担当者、トレーナー、事業者からレベルの高い建設的なフィードバックを受け取ったので、レビューの結論に自信をもち、今すぐ行動を起こして改善しなくてはならない領域がどこかを見つけることができました。たとえば、救急処置の評価などの混乱した領域を明確化し、トレーニングコースの認証制度を促進する方法を考えることができます。」

ガイダンスの明確化

 現行のままに規制を維持するためには高いレベルの援助が必要である。しかし、レビューによれば、HSEは指針(ガイダンス)の特定の内容(特に、組織における救急処置の要請の評価方法について)を発展させ明確化する必要がある。
 例を挙げると、経営幹部は評価におけるアドバイスをもっとわかりやすくするように求められている。効果的なケーススタディやフローチャートの使用、任命された人の役割の明確化、リスクのカテゴリーについてのガイダンスの追加、仕事場に必要な救急処置担当者の人数の明確化などがあげられる。レビューに携わった人々は、HSEが以下の項目についてガイダンスを追加することも必要だと考えている。
救急箱に最低限入れておくべきものと、除細動器や酸素キットなど付加的な救急処置の道具の使用について
特別な状況の職場、たとえば単独で働く人や、交替制勤務による労働者、契約社員や研究所スタッフについて
救急処置担当者不在の場合の対応策
救急処置の領域における開発、たとえば使用できるような可能性のある新しい装置について
 HSCはこれらの項目を考慮して、現在HSEのホームページで閲覧できるガイダンスを改訂すると述べている。そこには他の専門家のオンライン情報へのリンクも掲載されている。
 またレビューでは、救急処置資格のトレーニングコースの内容を変えることも推奨されている。現在の救急処置担当者のトレーニングは、最初の4日間の講習と3年ごとの再講習である。
 しかし、このシステムを変更することが強く求められている。代わりのシステムとして、救急処置担当者には以下の選択肢からどちらかを選ぶことが求められている。
6時間の救急処置コースと毎年の再講習、3年ごとの6時間の資格再取得コースの受講
18時間の現場実務の救急処置コースと毎年の再講習、3年ごとの12時間の資格再取得コースの受講

資格をもった救急処置担当者

 上記のコースのどちらかを修了した人は、救急処置の資格を有すると認められる。どちらのコースが選ばれるかは、事業者が自分の会社で必要となると思う救急処置の内容によって決まる。
 一方、レビューによると、任命された人の役割は、新システムの下でも必須の基本事項としてある。任命された人とは、救急処置の道具を整備して、勤務中に負傷したり、具合が悪くなった人が出た場合に現場で指示を出せる人で、公式なトレーニングを改めて受講する必要のない人のことである。しかしHSEは、ガイダンスが変更されて発表される前に、詳細を話し合う必要があるとしている。
 また、短期的あるいは中期的な観点から救急処置の規制を他の安全衛生規制(たとえば職場安全衛生管理規則1999:the Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)と統合していく必要はないともレビューは述べている。
 実際、レビューで質問された3分の2の回答者は、1981年の安全衛生規則(救急処置)は独立し続けるべきであると述べている。規制を統合してしまうと、不明瞭になったり、焦点がぼやけてしまったりして、結局規制があまり守られなくなるためだ。
 また、レビューは事業者が現在のように一般市民への救急処置の取り組みを自由意志にまかせておくべきなのか、それとも何らかの法律をつくって義務付けるべきかという問題もとりあげている。回答者の3分の1が義務化への動きを好んだが、54%は引き続き自由意志に基づいて行うことが最善の選択だと考えている。

法律化による訴訟の危惧

 特に、事業者は全ての部外者の面倒をみることは非現実的だと考えているし、救急処置の担当者は自分たちが訴えられる可能性を心配して、もし自分たちが一般市民に対して救急処置を行うことが法制化されてしまうのであれば、自発的に処置を行うことは考え直すと述べている。回答者の多くは、特に輸送、小売業界では、すでに事業者が一般市民に対して救急処置を行っていると考えている。
 最後に、HSEが職場での救急処置担当者に提供しているトレーニングコースと資格付与を認証する方法を変更することが推奨されている。HSEの認証プロセスは、現在、トレーニング実施機関の適性を認証するというやり方である。それよりもむしろ救急処置のトレーニングの内容とシラバスに着目することが特に求められている。
 救急処置の規制とACoPは、レビューの結果が変更されることはないだろうが、HSEはこれらを説明と見直しが必要な問題と考え、数ヶ月かけて話し合うこととしている。