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化学物質の暴露限界

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2003年11月号 p.6

(仮訳 国際安全衛生センター)



職場における有害物への暴露から労働者を保護するために、事業者が容易に実施できる方法への試みとして、安全衛生委員会(Health and Safety Commission : HSC)は暴露限界の現在のシステムを簡便化することを目的とした新しい提案を発表した。デービッド・アクスベイ(David Axbey)が報告する。

 最近HSCは、法遵守のために事業者が労働者の職場での化学物質暴露管理を簡単に行なうことを目的とした提案を発表した。
 HSCの諮問文書(Consultative Document : CD)で詳しく述べられている計画によると、現在の職業暴露限界(occupational exposure limits:OEL)システムは簡略化される予定である。
 現在のシステム---これは1989年に施行された有害物質管理規則(Control of Substances Hazardous to Health Regulations : COSHH)によるものである---は職業暴露基準(Occupational Exposure Standards:OES)および最大暴露限界値(Maximum Exposure Limits:MEL)の2つのタイプのOELからなるものである。OESは、定期的に化学物質を吸い込んでいる労働者の健康リスクの徴候が無いレベル(現在の科学的認知に基づいて)を言う。一方、MELは、安全レベルのない化学物質、あるいは安全レベルに実際上コントロールできない化学物質に設定されたレベルを言う。
 COSHHでは、事業者は現在、化学物質への労働者の暴露をOES未満に低減することを求められており、或いは又合理的に実施可能な限り、化学物質への暴露をMEL未満に低減することが要求されている。

検証事項

 しかしながら、2002年3月、HSCは、現在のOELの枠組みに関する問題点を検証する討論文書(Discussion Document : DD)を発表し、システム見直しに対する一連の可能な選択肢を提唱した。
 DDによると、現在のOELシステムの主な欠点の1つは、多くの事業者はOES及びMELがどのように作用するのかについて理解していないということである。例えば、HSCの調査によると、小企業の多くはOELを知らないし、知っている場合でも、その多くは、職場の暴露レベルが暴露限界を遵守しているかどうかを判断することは難しいとしている。

科学的知識

 DDによると、OESとは労働者が健康障害影響を受けない安全限界であると事業者が広く考えていることを示している。
 しかしながら、ある種の化学物質の健康への影響に関する科学的知識にはギャップがあり、OESはすべての人にとっての完全な健康保護を絶対的に保証しているものではないかもしれないということを意味している。
 この問題への対策として、CDでは、現在のOES及びMELのシステムから、優良労働衛生事例の原則に基いたガイダンスにリンクしている単一のOELに切り替えることを提案している。この試みは、幅広い関係者の支持を得て、HSCのDDに1つの選択肢として採用された。
 新しく提案されたOEL ---職場暴露限界(Workplace Exposure Limit : WEL)として知られているもの---は、職場の気中で許容された化学物質の最高許容濃度を設定しようとしているものである。
 しかし、HSCは、WELは全ての労働者の健康がこれで完全に保護されると保証するものではないと再度警告している。このことは多くの化学物質によって引き起こされる可能性のある健康上の有害性に関する知識の欠如、及び暴露された個々の人の反応の違いがあることによるものである。

実用的ガイダンス

 従って、今回新しく提案されたシステムの重要な特徴は、事業者が適切に有害物質暴露管理を行なえるよう、安全衛生庁(Health and Safety Executive : HSE)のオンライン及び出版物による無料の実用的ガイダンスとWELが結び付けられている点である。この優良事例アドバイスとは次のようなものである。
  • 化学物質によって引き起こされる危険性の性質及び重大性並びに暴露可能性を考慮することで労働者の健康リスクを考える。
  • 化学物質の吸入と同時に皮膚接触及び皮膚吸収によって引き起こされるリスクを調査する。
  • 化学物質が使用され、あるいは発散されるような作業プロセスについて検討する。
  • 暴露レベルが確実に関係するWEL未満に保たれるように設計する。
 このことにより、事業者が有害化学物質の暴露管理方法についてHSEの優良事例アドバイスを活用するならば、化学物質のWELを超えないだろうと、HSCは説明している。
 CDによると、単一のOELに裏付けされたガイダンスにもとづくシステムは、事業者---特に小企業---が理解し実行する上でより簡単であるべきである。
 HSEの優良事例アドバイスはWELが示されている150以上の化学物質を含む広い範囲の物質をカバーしている。
 職場での有害物質に対する労働者の暴露管理を事業者が実施する際の助けとなるように、HSEの無料オンライン情報及びガイダンス小冊子「COSHHの要点(COSHH Essentials)」で主として説明されている。
 HSEは又、例えば職業性喘息の主原因並びに製造工程で発散される粉じん及びヒュームというような現在カバーされていない分野についても、WELを持つ化学物質へのアドバイスを事業者に提供するために、「COSHHの要点」の中で、管理ガイダンスシートを増やしていくことを計画している。

情報源

 更にHSEは、MEL及びOESのリストを含む既存の刊行物「職場暴露限界値(Occupational Exposure Limits (EH40))」を2つの新しい情報源と差し替える予定である。
 その2つのうち最初の資料は、専門家を対象としたWELに関する技術情報を含む小冊子である。一方、第2番目のものは、最新の職場暴露限界表及び「COSHHの要点」の優良事例アドバイスへの容易なリンクを事業者に提供するウェブページである。
 一方、既存のCOSHH規則で、事業者が有害物質暴露管理のため優良労働衛生事例の原則に従う事が求められていることは既に明白であるが、HSCのCDは、これらの原則を一覧表にした付属文書を規則に盛り込むことによって、この責務をより明白にすることを提案している。
 このリストはCOSHHの下で事業者に何らかの新しい法的責務を課すものではないが、職場の有害物質への暴露を管理する際に、事業者が従わなければならない原則を明らかにするものである。

発散を最低限に押さえる

 このリストでは、事業者には次のことが要求される。
  • 有害物質が引き起こす健康リスクに応じた対策で有害物質への暴露をコントロールすること。
  • これらの化学物質の発散、放出及び拡散を最小限にするため、プロセス及び作業行動を設計し、実施すること。
  • 管理対策を開発する際には、暴露のあらゆるタイプ---皮膚吸収、吸入及び摂取---を考慮に入れること。
  • 有害物質の漏出及び拡散を最小限にするための最も効果的、且つ信頼できる管理方法を選択すること。
  • 暴露が他の方法で適切に管理されない場合、適切な個人用保護具を用意すること。
  • 管理方法が確実に効果的であり続けるため、管理対策を定期的にチェックして、見直すこと。
  • 取り扱う化学物質によって引き起こされるリスク及び管理対策の正しい使用に関し、情報及び教育訓練を労働者に提供すること。
  • 管理対策の導入によって、全般的な安全衛生リスクが増大しないようにすること。
 しかしながら、発ガン性物質指令(Carcinogens Directive)でカバーされている、あるいはCOSHHの付属文書1に記載されているガン発生化学物質に関しては、事業者が化学物質暴露レベルを合理的に可能な限り低くすることが要求されている点で、その取扱が少し違っていることをCDは述べている。

職業性喘息

 更に、職業性喘息の原因となる化学物質については、これらの物質が喘息を引き起こすレベルに関する、現在利用可能な科学的知識が限られているため、労働者暴露を、合理的に実施可能な限り低減しなければならない。
 しかしながら、HSCによると、多くの場合---例えば小企業---優良事例原則の細かい理解は必要でないとの事である。というのは、HSEガイダンスの刊行物は、有害物質暴露をどのようにコントロールするかについて説明しているからである。
 一方、又、CDによると、OELにある500前後は、もはや十分な科学的根拠がないということである。その結果、まだ科学的に有効であると考えられている150のOELだけが、新しいシステムにWELとして移管されるだろう。
 既存のシステムと同様、WELは、COSHH規則に従属するものとして、HSCによって公表される予定である。
 更にHSCによると、欧州委員会(EC)によって導入された新しいOELは、容易にWELとして実行されうる。HSCによると、現行のシステムでは、欧州暴露限界をMELあるいはOESに変換するべきかどうかを決めることは難しいとのことである。

関係者の見解

 HSCによると、この提案された新しいOELシステムに関する関係者の見解は、HSCのOEL作業グループによって考慮されることになる。しかしCOSHHに関する提案された変更は、早くても2004年半ばまでは実行に移されないだろうとのことである。
  • Copies of Proposals to introduce a new occupational exposure limits (OEL) framework, CD189, are available free from HSE Books on (Tel) 01787 881165, or can be downloaded from the HSE's website at : www.hse.gov.uk/consult/live.htm

「Consultation Document 189 - Proposals to introduce a new occupational exposure limits (OEL) framework」については、HSEウェブサイトのこちらでご覧になれます。