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安全成績の向上したビル解体業
Let it all come down

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年2月号 p.18

(仮訳 国際安全衛生センター)



 
 ビルの解体はまぎれも無くリスクの最も大きい作業の一つであるが、DSM Demolition社は安全衛生上の危険(ハザード)に対処する新しい方法によりこの産業の過去の悪いイメージを払拭するのに努力している。 (フィオナ・ストーンズ(Fiona Stones)報告)
   

 いわゆる通常の解体作業とは別に、DSM Demolition社はビルの解体、アスベスト除去、発破作業、大規模掘削、土地の整備及びコンクリート切断破砕の作業も専門に行っている。
 過去4年間、この会社は急速に拡大し、売り上げは1500万ポンドにまで増え、今日ヨーロッパの解体会社の中では代表的な会社になった。同社はイギリスのバーミンガムに本社を置き、英国全土で一度に45箇所の現場で仕事ができる能力を有し、120名の従業員を抱えている。

改修工事


 テリー・カンビー(Terry Quarmby)はかつて解体会社を自分で経営した経験があり、現在は同社のプロジェクト及び安全担当の管理職として、6年間その職にある。彼は労働安全衛生の国家職業資格(National Vocational Qualification)レベル4を有していて、2002年にバーミンガム大学の労働安全衛生環境分野における修士号をえている。
 改修工事に伴う危険は解体業者だけが経験するものではない。経験や知識をほとんどもたない建設業者が解体作業を手がけているのが現状である。
 カンビーは、現在、解体作業で発生する多くの事故や死亡災害を防止することを目的として、HSEとともに、改修工事に関するビデオ製作に携っている。このビデオは解体作業の正規の訓練を受けていない零細建設業者及び自営業者を対象にしている。カンビーはこのビデオをすべての主要な建材店のカウンターで無料で入手できるようにすることを望んでいる。
 解体業はハイリスクの業種とされているが、そのリスクに取り組みそのリスクを減らそうとして、DSM Demolition社は他のトップ企業と協力して'一人一機械' 方針を採用している。現場に多くの人々が溢れ、人力で建物を壊す作業にとって代わり、現在は、用途の広い解体機械を出来るだけ多く使っている。
 カンビーはこう語る。「この業界はいくつかの点で当然と思われる悪い印象を伝統的に抱えていたが、この数年間、目を見張る数々の改善がなされている。現在では業界全体が見違えるほど変わっている。顧客や行政当局よりの圧力により、解体作業全体の施工方法を変更しなければならなかった。我々は人力を使うよりむしろ機械を使う遠隔解体作業の方針の下で、機械での作業を行った。それが現在の "一人一機械"の方針となった。」  

マニュアル・ハンドリング

 機械の使用が解体作業でのマニュアル・ハンドリングを事実上排除することになった。マニュアル・ハンドリングで行う唯一の工程は木材、タイル、じゅうたん、石膏ボードなどの材料を取り除く簡単な作業であったが、「その作業も胸にぶら下げた制御装置で操作する解体機械を使って行える」と彼は言う。
 しかし、その結果労働者へのリスクレベルを低減できたが、環境維持の問題についての取り組みを難しくしている。リサイクル、土地整備、再利用は、ひとえに注意深い選別作業工程なくしては出来ず、機械を使って個々の構成部品を取り壊すことは、リサイクルの目標達成を難しくしている。
 「手作業で材料を仕分けすることはリサイクルには必要であるが、一方安全作業システムを維持し、死傷災害を少なくして、監督機関を満足させるには、マニュアル・ハンドリングは制限しなければならない」と彼は説明している。「両方に受け入れられる方法を見つける時代が来たが、それには、これらの特殊な作業が出来る機械を設計製作するよう、機械メーカーと共に設計図から見直す必要がある」と彼は言う。

可搬型油圧シャー

 しかし、この分野においてはかなりの進歩が見られる。動力源を内蔵した可搬型油圧シャーは、これまでのハンマーにとって代わり、振動問題を防ぐことが出来て、しかもレンガやコンクリートブロックを壊すのに十分な力を発揮できる。
 その他のリスクとしては、建設業が直面しているのと同じように、高所作業、機械作業、滑り、つまずき、墜落・転落である。
 切り傷もまた大きな問題である。簡単な除去作業の工程には、かつての居住者が置いていった物、例えばじゅうたん、家具、台所・風呂場の取り付け部品の除去がある。もし不衛生な環境で切り傷を負えば、感染症や敗血症にかかるおそれがある。
 その理由から、全ての現場には適当な福利厚生設備を設置しておくことが大切である。これらには、自家発電機、水槽、燃料タンク、水洗トイレ・乾燥機付き手洗い設備、キッチン・ユニット、事務所が完備した設備である。
 これらの設備は一式で約22,000ポンドであるが、同社は全ての作業員の福利厚生に万全を期するため福利厚生設備の完備に投資している。
 最もリスクの大きいのは、構造物への最後の一撃と取り壊しの直前に、骨組みを弱くするために構造物の非構造材を取り除く前処理のプロセスである。また、取り除いた材料を棄てるためエレベーターを利用するが、そのためには開口部の厳重な墜落・転落防止措置が必要となる。

安全認識の高揚

 しかしカンビーは、統計によると解体業の死傷者数は建設業よりもわずかに少ないと指摘している。これは主に解体作業者が直面している危険に対する認識が高いのが理由だと彼は感じている。「危害に対するポテンシャルは解体業では建設業よりもはるかに高い。その理由は物を上に上げる作業より、物を引き下ろす作業の方が作業者に物が落ちてくる確率がはるかに大きいからである」。
 DSM社の解体作業では、下請けに任す分野は足場作業を除いてほとんど無いと彼は言っている。現場で働いてもらう足場業者に対してはDSM社の要求にぴったりと合致する仕様書を作成するが、この仕様書は他のどの建設会社よりも厳しい内容である。また、現場での仕事に携る下請業者すべてに、安全衛生知識のレベルアップを目的として、就業時間内に現場で行われる同社の主催する全ての研修に参加してもらっている。

努力の結集

 カンビーは言う。「私は解体現場で体をはって仕事をしてきたので、私が若者に何かをしてはいけないと注意する時は、若者は私が言うことは最善のことであると認識して言うことをきいてくれ、言い関係ができている。これはみんなの努力の結集である。たとえ私がいくら一生懸命に働いても、それが現場でどのように活用されるかどうかで大変な違いが起きる。」
 「多くの監督者が沢山の質問や疑問を抱いて私に接触してくる。それは良い安全文化ができているからで、外部に出かけて知識を探す必要がないからである。」
 最も心配なことの一つは、解体業では経験豊富な労働者がどんどん職場より去っていくことである。「この業界は大学や単科大学から労働者を雇い入れるルートをもっていない」と彼はいっている。
 一般的に、管理者は地位に応じて徐々に育てられるか、個人企業では家族の一員として入ってくる。大きな問題の一つは解体業は緻密な自然科学ではなく、芸術のようなものであることだ。
解体業には文字になった教科書があるわけではない。図書館に行って借りてくるようなものも無い。
 DSM Demolition社は最近英国安全評議会(British Safety Council)の5つ星の安全衛生管理システム監査(Five Star Health and Safety Management System Audit)を受けて、再び5つ星の位の認定を受けた。その理由はカンビーの説明によると、同社はビルの解体業務にすぐれているとか、斬新かつ近代的な機械や仕事を提供しているからだけではない。効率的な安全方針と手続きを備えた良い管理システムを導入しているからである。ものごとはそのままではすべてうまく機能するとは限らない。うまく機能するようにさせることが必要なのである。

顧客に対する魅力的な企業

 彼が付け加えるには、「誰もが安全衛生はペイするというが、どうしてなのかという点での認識がない。もっとも明確なことは事故や災害を少なくすることが費用を削減することになるということだ。また、もし安全衛生対策を適切に実施して、より多くの顧客を引きつけ、かつその顧客を維持することができれば、ペイすることができる。
 「願わくは、仕事の内容如何にかかわらす、有効な安全管理システムが適切に実施され、安全に対する好実績が確認されないかぎり、顧客はその業者を使わないようになればよい。良い安全実績を実証できる業者と出来ない業者の間で選ぶとすれば、出来る業者を顧客が選ぶのは当然と思われる。」
 「1998年に取得した初の5つ星の称号に続いて、翌年取得した"Sword of Honour(名誉の剣)"の称号が、会社を発展させる指標となり、同社が今現在置かれている業界の地位、資格を得るのに役立ったものと確信する。」