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安全衛生に関する役員の責任

資料出所:HSC発行
「Directors' responsibilities for health and safety」
(訳 国際安全衛生センター)



序文

この指針は民間、公共部門の別を問わずすべての組織の役員ために作成されたものであり、各種の組織活動から生じる安全衛生上のリスクを適切に管理するための手助けとなる。指針の重点は安全衛生に関する全ての組織役員の責任に置かれている。

組織経営をうまく進めるためには、その組織のリスク管理がすべての取締役や管理職にとって重要な課題である。この種のリスクは「ターンブル報告書*」が明確にしているように、多くの形をとって現れる(「関連資料」参照)。重要なリスク領域の一つは、組織の従業員と、一般市民も含めた、被害を受ける人達の安全衛生である。

*この規範は、取締役が会社の事業目的の達成に重要なリスク管理、財務、戦略、法規順守の規制を含めたシステムを、最低でも年度ごとに再検討すべきであると述べている。

安全衛生リスクを適切に管理すると、以下の利点がある。

  • 組織のために働く人々の福祉と生産力を最高に高める。
  • 業務活動による負傷、病気、死亡を防止する。
  • 顧客や競合企業、サプライヤー、他の投資家、そして社会一般から高い評価を得ることが出来る。
  • 売上高や収益性に良い影響がある。
  • 請負業者との関係を改善し、契約を有利に進めることが出来る。
  • 訴追や罰則金の支払いが適用される可能性を最小に抑える。

この英国安全衛生委員会(HSC)の指針は、役員*が組織の安全衛生リスクの管理を活発かつ有効に進めるために実施しなければならない事項を説明している。

*ここでの役員とは役員会メンバーを指している;この指針は法律によって取締役を置く必要がある会社だけでなく、組織一般に対して広く適用される。


どのような立場の人達が、この指針を読むべきか

この指針は、中心的な指導や指揮、監視をする立場、また安全衛生の方針を決める立場にある人々のためのものである。法人組織においては、これは取締役会または理事会に当たる。また公共部門やボランティア部門の組織では、通常中心的な業務の監督を行い、指揮を取る管理委員会、理事会などに当たるだろう。


この指針にはどのようなことが書かれているか

この指針は、組織の活動から生じる安全衛生リスクに関して、役員会とそのメンバーの役割と責任について述べている。指針はどのような組織であれ、その役員会が役員の一人を安全衛生担当役員に任命するように勧告している。任命された役員はその責任の遂行にあたって、安全衛生を担当する管理職に対して指示を与え、その履行に関するすべての事項を役員会に報告し、提案を行うような体制を作ることも重要な職務である。

関連情報

この指針は単独のものだが、HSCと安全衛生委員会事務局(HSE)は、役員会とそのメンバーにとって有用な指針を発表している。「関連資料」はパンフレットの裏側に記載されており、HSE Books(www.hsebooks.co.uk)ではHSC、HSEの出版物の情報を提供している。


活動のポイント1

役員会はその組織について安全衛生上のリーダーシップをとらなければならないという、組織上の役割を正式かつ公式に引き受けなければならない。

安全衛生リスクの有効な管理を達成するには強力なリーダーシップが不可欠である。担当役員は安全衛生に関する業務を絶えず改善する責任を負っている。そのことをすべての人々が認識し、それを確信する必要がある。担当役員はその目標を説明し、またその実施のための組織や方法を説明しなければならない。

安全衛生の基本方針や体制について役員が説明する文書は、運用文書としての役割があるので、従業員との協議をもとに作成され、状況の変化に伴い再検討や修正を行い、そしてすべての従業員の関心を集めるものでなければならない。(「法的責任の要約」参照)


活動のポイント2

役員会の各メンバーは、自分の責任下にある組織の安全衛生のリーダーシップをとるため、役員各自が役割を引き受けなければならない。

役員会の一員として、業務における役員の行動や決定は、常に役員会の安全衛生に関する基本方針を強化するものでなければならない。役員の個人的態度、行動、決定と組織の安全衛生方針の間に食い違いがあれば、役員個人の意図と役員会の意図の両方に対する従業員の信頼が損なわれ、正しい安全衛生の実施の妨げとなるだろう。

役員は安全衛生法に基づく役員各自の義務と責任を認識しなければならない(「法的責任の要約)参照)。


活動のポイント3

役員会は、そこでの全ての決定が安全衛生基本方針に記載された安全衛生の意図に反したものでないことを確認しなければならない。

業務上の決定の多くは、安全衛生と関係がある。新しい工場施設、建物、工程、または製品への投資に関する決定が安全衛生に及ぼす影響を考慮することは特に重要である。例えば、業務上の決定からは以下のような事態が生じる。

  • 新しい材料:それには毒性があるか。新たなリスクを持つか。新しいリスクはどのように管理すればよいのか。
  • 新しい作業方法:新しいリスクとは何か。管理職や監督は新しい方法を実施するように従業員を指導する能力を備えているか。
  • 新たな要員:彼らに安全衛生の訓練は必要か。彼らは仕事を安全に行うのに十分な能力を備えているか。

最初の投資決定を行う時点で実施すれば、簡単にかつ低コストで実施できたはずの安全衛生問題に、後になって改善の必要があると気づく失敗を、多くの企業が冒している。

有効な安全衛生リスクの管理ができない組織で事業を進めることは、企業の評価を落とし、契約した商品またはサービスを有効に、約束した納期に提供できないという、深刻な被害をもたらす可能性がある。

購買の決定または請負業者と業務のために契約する場合、それらの決定が企業の安全衛生の意図を損なわず、強化することを確認する必要がある。業務を外部の請負業者に委託する際には、役員は安全衛生に対する継続的責任を認識することが重要である。同様に、企業が供給する製品やサービスについて、供給を受ける顧客側があらゆるリスクや必要な予防措置を認識していることも、確認する必要がある。

役員会にとって、安全衛生機能は委託することができ、またはそうすべき場合もあるが、安全衛生に関する法的責任は事業者にあることを明確に認識することが重要である。


活動のポイント4

役員会は安全衛生の改善に対する従業員の活発な参加を求める責任があることを自覚しなければならない。

安全衛生リスク管理を効果的に進めるには従業員の活発な参加が必要である。従業員と協議することは法的義務であり、もし適切であれば職種別組合の代表者を通して行う(「法的責任の要約」参照)。多くのすぐれた組織はさらに進んで、従業員の参加と協議を奨励し、支援している。担当役員は安全衛生管理システムのすべての局面において、あらゆるレベルで従業員の積極的な参加を促すべきである。

従業員との密接な関係は、積極的な安全衛生文化を支援する力となる。最良の参加形態は予防措置への協力であり、その場合には従業員やその代表が潜在的または直面した問題に対して、決定が下された後で協議するのではなく、問題を明らかにし、取り組む段階から参加する。またすべての従業員は、業務において自分自身の安全衛生と同時に、自分の行動によって影響を受ける他の人々の安全衛生についても、妥当な注意を払う義務を負っていることを強調することも重要である。


活動のポイント5

役員会は安全衛生リスク管理の問題点に対する情報を持ち、また注意するように努力しなければならない。HSCは役員会にメンバーの一人を「安全衛生担当役員」に任命するように勧告している。

担当役員は役員会の安全衛生に関する責任が適切に履行されていることを確認しなければならない。役員会は以下の事項を実施する必要がある。

  • 安全衛生の成果を定期的に評価する(少なくとも年度ごとに)。
  • 安全衛生基本方針を常に役員会の優先事項のひとつとする。その基本方針は同時に、または状況が変化した際(例えば管理体制の変化など)に、安全衛生の実績の検討と同時に見直すべきである。
  • 管理システムが組織の安全衛生の状況を正しく監視し、報告していることを確認する。HSCの指針はその「安全衛生年次報告書」で見ることができる。(「関連資料」参照)。
  • 安全衛生に関する重大な失敗とその原因の調査結果などの情報を確実に入手する。
  • すべての決定事項に関連して、安全衛生に対する影響を確かめる。
  • 適切な安全衛生リスク管理体制を維持する。定期的な監査によりそれらの機能や有効性に関する情報を得ることができる。

「安全衛生担当役員」を任命すれば、その役員は役員会に安全衛生リスク管理について適切な対策を取るように働きかけ、また組織全体にも実行させる体制を作っていくことができる。

会長や最高経営責任者は、リスクが適切に管理され、安全衛生担当役員がその職務に必要な能力、人材、他の役員の支持を得るようにする重要な役割を持っている。会長や最高経営責任者にすべての安全衛生に関する機能を持たせるほうが良いとする役員会もあるだろう。安全衛生の責任や機能が明確であり、問題点が役員会によって適切に対処されていれば、それでもよい。

すべての役員会メンバーの安全衛生に関する責任は、安全衛生基本方針と体制についての文書に明確に規定すべきである。安全衛生担当役員は、他の役員が持つ組織内の特定範囲における安全衛生リスク管理の責任や、安全衛生に関する役員会全体の責任のどちらも併せ持つこととなる。


役員の法的責任の要約

従業員の安全衛生を保証すること、さらに業務活動に影響を受ける人々(一般の人々を含む)へのリスクを減らすことの主要な責任は事業者に負わされている(1974年労働安全衛生等に関する法律第2、3条)。役員は安全衛生方針と体制について適切な基本方針文書を作成し、従業員に周知させ、実施しなければならない。

これらの事業者の一般的な義務は、1999年労働安全衛生管理規則において拡大され、説明されている。同規則はまた事業者に以下のこと義務づけている。

  • 従業員および被雇用者以外の人々が業務に関連して直面しているリスクを見つけ出し、評価する。
  • 予防、防護対策の計画、準備、管理、監視、見直しについて有効な体制を実現する。
  • 安全衛生に関する法律を順守するために必要な事項を実施するため、1名以上の適格な人物を任命する。
  • 従業員に対し、直面するリスクへの包括的で適切な情報やそれらのリスクを管理する予防、防護対策を提供する。

事業者は従業員の安全衛生に影響を及ぼす可能性のあるあらゆる問題点について、従業員と早めに協議する必要がある。正式に認められた労働組合は、事業場検査などの機能を実施することのできる安全衛生代表者を任命する権利を持つ(1996年安全衛生(従業員との協議)規則と1977年安全代表者および安全委員会規則)。

組織のすべてのレベルの従業員は、業務において、彼ら自身の安全衛生および自分達の行動により影響を受ける可能性のある人々の安全衛生について、妥当な注意を払わなければならず、事業者と協力しなければならない(1974年労働安全衛生等規則、第7条参照)。

法人が安全衛生に関する違反を犯した場合、そしてその違反が役員、経営者、総務担当役員、あるいはその法人の他の同様な役員の承諾または黙認の下で行われた場合、またはそれらの怠慢に起因するものである場合、その者は(その企業と同様に)訴追を受け、または処罰される(1974年労働安全衛生等規則、第37条参照)。