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在宅労働に関する新たな指針
New Guidance on Homeworking

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2004年10月号 p.6

(仮訳 国際安全衛生センター)



 自宅で働く人の数が増加の一途を続けるなか、イギリス安全衛生庁(Health and Safety Executive: HSE)は新たな事例研究を発表し、コンピューターを使用した仕事や、電子機器の組み立て、商品包装といった一般的な在宅勤務での安全衛生リスクを低減させる方法を示した。   

 イギリス安全衛生庁(HSE)が発表した新たな研究報告は、在宅勤務者の安全衛生を向上させる<実際的な指針>を打ち出している。
 2004年9月に発表された報告書、『在宅勤務者の安全衛生:グッドプラクティスの事例研究(Health and Safety of Homeworkers: Good Practice Case Studies)』は、在宅勤務者やその事業者に、安全衛生を向上させるグッドプラクティスについての事例研究を紹介している。
 この報告書について、HSEの政策ディレクター、ジェーン・ウィリスは「この報告書に紹介されているグッドプラクティスは、どうすれば事業者や在宅勤務者が業務上のハザードを特定し、在宅勤務に伴うリスクを低減できるかを示しています」と、語っている。

子供の存在

 さらにウィリスは「在宅勤務者の業務上の事故では、その家にいる子供や訪問者など、在宅勤務者以外の人が巻き込まれる可能性もあります。在宅勤務の場合、仕事場に子供がいるなど、通常なら比較的軽いハザードが重大なリスクに発展しかねない特別の要素がありますから、事業者はそのような要素についても対策を講じなければいけません」と語っている。
 在宅勤務者人口が激増していることを明らかにした労働力調査(Labour Force Survey: LFS)も、HSEのこの新しい報告書の重要性をよく示している。LFSの統計によると、1981年に345,920人だった在宅勤務者の数は、1998年には倍増し、680,612人となっている。
 HSEが在宅勤務者の安全衛生問題に関するガイダンスを最初に示したのは1996年だが、HSEによれば、安全に対する在宅勤務者や事業者たちの意識はまだ低い、という。
 またHSEが実施した調査は、在宅勤務のリスクアセスメントが適切に行われておらず、事業者たちもHSEのガイダンスを見たことがなく、安全に関する法令についても知らないことを明らかにしている。
 HSEはさらに、在宅勤務者たちが安全衛生を向上させるための情報や研修や機器を十分に利用できる環境も整っていない、と指摘している。
 この調査の結果HSEは、在宅勤務に関する現在のガイダンスを改正し、さまざまな職業部門の在宅勤務者のニーズにあった安全衛生対策好事例を紹介していく、と発表した。

改正後のガイダンス

 HSEによれば、この報告書が取り上げている事例研究をHSEの改正後のガイダンスに組み込めば、事業者が在宅勤務に伴うハザードを特定する方法や、安全対策を実施する方法も紹介できるという。
 在宅勤務者の比率が高い製造業や対事業所サービスを中心に取り上げたこの事例研究では、4種類の在宅勤務作業とそれに伴う主だったハザードを紹介している。

コンピューターを使った作業−ディスプレースクリーンを使用する労働者は、反復的な動作や、不自然な座位姿勢、コンピューターの位置の悪さによって上肢をいためる可能性がある。
織物業−ミシンの使い方が悪いと、針で指を刺したり、指を挟んだりするうえ、反復的負荷傷害となる可能性もある。また、ミシンの使用者は、過剰な騒音や振動にもさらされる。
包装/組み立て/仕上げ−材料から出る粉じんや繊維のせいで、皮膚や呼吸器に問題が生じる可能性がある。また、床に落ちた小さな針金で足を負傷する可能性も高い。特に家に子供がいる場合はそうである。
電子作業−はんだ付け作業は、やけどや火事、反復的負荷傷害を引き起こす可能性がある。さらに、メンテナンスがきちんとされていない、あるいは破損したプラグやワイヤーは、感電や火事の原因にもなる。
 この報告書は、在宅勤務者がさまざまな有害物質にばく露される可能性も指摘している。たとえば、接着剤やペンキ、溶剤、ロジンのはんだフラックスや化学処理を施した材料を使用する人たちは、喘息や、皮膚炎、頭痛、肺や皮膚や目の炎症に悩まされる可能性がある。
 報告書では、上記のほかに、在宅勤務に伴う一般的なハザードとして以下を挙げている。
作業機器−作業機器の危険な利用、あるいは誤った利用は、切傷、やけど、はさまれ巻き込まれ及び筋骨格系の傷害などをもたらす可能性がある。労働者はまた、ヒュームや粉じん、騒音、振動にさらされる可能性もある。
マニュアル・ハンドリング−材料や事務機器を持ち上げたり移動することで、筋骨格系、特に背部に損傷を負う可能性がある。
スリップ、つまずき、墜落・転落−このような事故は主に、乱雑な作業場所や、床を這うワイヤー、不適切な床張り材、不適切な照明が原因で発生する。
孤独−在宅勤務では、他者との社会的接触がほとんどないため、労働者はストレスに悩まされる可能性がある。
会社訪問−多くの在宅勤務者が断続的に会社を訪れた場合、社内が混雑するだけでなく、不安全行動による危険の増加やマニュアル・ハンドリングでの傷害、スリップやつまずき事故も増加する。
 報告書は、それぞれの分野で起こる可能性が高いハザードについて詳しく述べるだけでなく、各企業が在宅勤務者たちの抱える問題にどう対処しているかについても紹介している。

グッドプラクティスによる対策

 報告書は、電気通信企業や、電子部品メーカー、室内装飾品の製造業者、家庭でのアイロンサービスなど、在宅勤務者を抱える十二企業の体験を取り上げている。
 そして、事例研究で取り上げたグッドプラクティスによる対策を盛り込みながら、在宅勤務者の安全衛生を管理するために事業者はどのような措置をとるべきかを述べている。
 報告書はまた、在宅勤務のスタッフを危険にさらさないために、企業が考慮すべき重要な点として、以下を挙げている。
コミュニケーション
規模の大きい企業の場合には、安全な作業手法について記したハンドブックを在宅勤務者に配布するなど、管理者と在宅勤務者のコミュニケーションを形式化することが重要である。
在宅勤務者には、定期的に連絡をとることのできる社内担当者をひとりか二人つける。例えば社外勤務者コーディネーターに、在宅勤務者とのコミュニケーションを担当させる、というのも一案である。
リスクアセスメント
報告書は、それぞれの作業環境ごとにリスクアセスメントを行うこと、ハザードを特定する際には在宅勤務者を交えて検討すること、を事業者に勧めている。
在宅勤務者のリスクアセスメントを行う場合、子供やそのほかの家族など、家庭にいる誰にリスクが及ぶかを明らかにしなければならない。
機器
事業者は、提供するすべての機器が安全な状態にあることを確認しなければならない。報告書によれば、多くの企業が煙探知機や電気スタンドなどの機器も提供している。
事業者が年に一度、ポータブル機器検査を実施し、在宅勤務者が使用する電気機器の安全性を確認することもできる。
体制
事業者ができるだけ多くの作業を予め準備しておけば、在宅勤務によって仕事がずさんになることを防ぐことができる。
会社の社交行事に在宅勤務者も招き、彼らの仕事が会社全体の生産プロセスの一部であることを実感させ、孤独感を軽減させる。
 報告書はまた、事例研究に参加した企業が在宅勤務者に対し、安全衛生に関する情報や研修をどのように提供しているかについても触れている。とくに、インタビューを受けた安全管理者の何人かは、在宅勤務者自身が安全に関する助言の重要性を認識しない限り、助言は無視されてしまう可能性があるため、彼らに向けた特別の安全ガイダンスが必要だと語っている。

定期的な休憩

 また、報告書に登場する事業者の多くは、在宅勤務者に研修を提供し、定期的に休憩をとったり、自分のパフォーマンスをモニターしたりすることで疲労や反復的負荷傷害のリスクを低減することを伝授していた。
 HSEは、この事例研究を新しいガイダンスに取り入れて、在宅勤務の安全性を高めていくが、事業者も在宅勤務者も、この報告書の勧告に直ちに従い、特にリスクアセスメントを実施する際には報告書の勧告を参考にすべきだとしている。
『Health and Safety of Homeworkers: Good Practice Case studies RR262』は、www.hse.gov.uk/research/rrhtm/rr262.htmで入手できる。