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化学プラントにおける緊急時遮断
化学情報シート No.2

資料出所:HSEホームページ
http://www.hse.gov.uk/pubns/chis2.pdf

(仮訳 国際安全衛生センター)



序論

化学プラントにおいては、危険物質の漏出が主な原因となった大規模災害が、多く発生してきました。これらの災害は、大量の危険物質の入った容器またはプロセスの遮断が、間に合わなかったために発生したものです。この種の大規模災害を生ずるおそれのあるプラントや機器は、コントロールされた状態のもとに、安全、有効にシャットダウンのできる緊急時用手段を持つことが必要です。

この情報シートは、漏出を防ぐか、またはその被害を最小とするための危険機器類の遮断についての一般的な原則について検討するものです。化学工場および海上油田の設計者、管理者を対象として、大規模災害を生ずるおそれのある危険物質を取り扱う装置を主に、貯蔵タンクや遠距離配管輸送も対象として、災害防止と損害軽減のための手段について述べます。一般的なプロセスコントロール、圧力放出、緊急時シャットダウンシステムなどの保安措置についての詳細な指針を示すものではありません。

機器類の遮断は、緊急時において適切な行動を確実に行うために、製造者が準備することのできる広範な手段の一部です。サイトにおける災害防止と損害軽減の手段には、さまざまな組み合わせが存在することでしょう。


リスクアセスメント

緊急時遮断は、大規模災害防止のために、法律によって指定されたサイトだけで必要なものではありません。すべての大規模災害を引き起こすおそれのある化学プラントの所有者は、1992年職場安全衛生管理規則(The Management of Health and Safety at Work Regulations 1992)で要求されているリスクアセスメントを行わなければなりません。あなたは、大規模災害の発生の防止および損害を限定するために、適切な手段を講じていることを説明できる必要があるのです。これらの手段には、危険物質の機器類を物理的に遮断し、放出を止めるか、抑制することが含まれています。

製造者は段階的な対策、つまり、まず本質安全化、その次に漏出事故を防止し、被害を抑制・最小化するための対策が考慮されていることを示さなければなりません。


本質安全化と安全操業

能動的なシャットダウンシステムまたは手順は、プラント設計に欠陥があることによって存在する潜在的な危険状況への対策か、その補助として用いてはなりません。どのような場合においても、プラントの本質安全化は、可能な限り設計によって危険要因を取り除くことによって行い、保安のための手段に頼ることは避けるべきです。製造者がプラント設計の初期段階において、検討すべき事項の例として以下が挙げられます。
  • 安全で単純なプロセスを用いる。
  • 危険性の低い原材料を使用する。
  • 圧力、温度を低くする。
  • 原材料(inventories)を少なくする。

また、これらの事項は、プラントの建設から廃棄までの間、一定の期間ごとに見直すことが重要です。例えば、プロセスや生産システムの変更があったときに見直すことが特に重要です。

操業によって生ずるリスクは、良好な設計と保全および効果的な安全マネジメントシステムによりコントロールされるべきですが、これらの原則に従っていても、危険物の漏出が生じて大規模災害を引き起こすことがありうるのです。緊急時の対処は、いくつかの手段によって行うことができることでしょう。最も適切な手段は、リスクアセスメントによって決定することが必要です。


緊急時シャットダウン手段

緊急時シャットダウン手段は、プラント設計の最終段階まで残留した、潜在的危険に対する保安のために設けられるべきです。また、正式なプロセス危険レビューの一部として検討が必要です。

緊急時シャットダウンシステムによって、プラントが安全な状態となることが必要です。このために、あなたの用いることができる手段には以下があります。
  • バルブを閉じる。
  • モーターなどの動力源を遮断する。
または、さらに複雑な手段として
  • 排出処理システム(同時、またはあらかじめ設定したシーケンスによる。)
  • 圧力放散装置、冷却システム、パージ装置の設置など。

これらの手段の選択は、プロセスの持つ性質とプラント状態の予測によって左右されることでしょう。


危険な原材料の遮断

緊急時における容器またはプロセスの迅速な遮断は、漏出を防ぐか、漏出による影響を抑制するために、最も効果的な手段の1つです。遮断する手段の設計は、プロセスの安全な状態が確保され、漏出による影響が最小となるように行う必要があります。

すべての重要な原材料に関する緊急時遮断のための機器と手順は、緊急時対処計画に含まれていることが必要です。オペレ−ターと保全要員に情報を与え、訓練しておくことが重要です。現場の人たちには、自分たちの緊急時に行うことが指定されている行動を含め、緊急時対処計画の内容を周知させておく必要があります。

以下に緊急時シャットダウンを行うためのシステムについて述べます。すべてを挙げているものではありません。


手動閉止バルブ

大規模災害を防ぐための緊急時遮断を、それほど迅速に行う必要のない場合には、手動閉止バルブによる遮断が許容できるでしょう。手動閉止バルブは、操作しやすい場所にあり、明確な表示のあることが必要です。緊急時シャットダウンが行われるときの難しい情況を考慮しておかねばなりません。遮断を行うオペレータに、危険がおよぶおそれのあるときには、手動閉止バルブを用いてはなりません。このことが、遠隔閉止遮断バルブ(remotely operated shut-off valves : ROSOVs)を使用するかどうかを決定する際の重要なファクターとなります。

しかしながら、手動閉止バルブは、主として保守作業のために用いられることが多く、緊急時シャットダウン用としては、最も安全かつ、最も効果的ではないかもしれません。損害を抑制する機能については、明確に認識して、切り離して考えることが必要です。


自動プロセス停止またはシャットダウンバルブ


圧力または温度上昇のようなプロセスまたは機器の異常を、プロセス計測センサーが検出して自動的に作動するバルブです。通常は自動プロセス停止またはシャットダウンシステムの一部として作動します。これらは、緊急遮断時の役割など追加的機能を念頭に置いて設計されることがありますが、バルブによる確実な遮断を必要とするため、慎重な検討を必要とします。緊急事態において機能を失わないよう、耐火性を有することも必要でしょう。


遠隔閉止遮断バルブ

大規模災害のリスクを小さくするには、緊急時に急速に閉じることのできる、遠隔閉止遮断バルブを配管系に組み込むことが効果的です。配管系または機器のある部分から、危険物質が流出して大規模災害の生ずることが予見され、急速な遮断によって、損害が大幅に減少するのならば、遠隔閉止遮断バルブを設置するべきです。望ましいのは遠隔閉止遮断バルブを設置することですが、保安のレベルが同程度であるならば、ほかの方法でもよいでしょう。

遠隔閉止遮断バルブの操作は、少し離れた場所にある押しボタンによって行うことができます。漏洩が感知されると、通常はプラント内とコントロール室の両方でアラームが鳴って、オペレータは、遠隔閉止遮断バルブの操作とともに、必要に応じて他のシステムの操作を行います。

遠隔から操作して閉止する利点として以下が挙げられます。

  • 漏洩に対して、遮断も含めた最も適切な処置を、オペレータの判断により選択することができる。
  • 無駄な停止の回避
  • 自動装置の誤作動による影響の回避

オペレータの判断による遠隔操作閉止ができるようにし、押しボタンの位置はオペレータに危険のない場所とします。オペレータが近づきやすく、安全で、緊急時の対応に適した場所に設置することが必要です。通常、ボタン操作場所は、2箇所以上とし、そのうち1箇所はプラント内とするべきです。コントロール室が最も良い場所でしょう。操作場所は、プラントの現場と操作指示書の両方において明示しておくことが必要です。

遠隔閉止遮断バルブを、異常検出システムから作動させるようにして、危険の生じたときに、より迅速に遮断を行う方法もあります。(例えば、重要な場所に毒性ガス、可燃性ガスまたは煙の検出器を設置する。)

このような自動遮断の利点として、以下が挙げられます。

  • オペレータの誤操作の回避
  • より急速な遮断
  • リスクアセスメントに用いる計算放散量およびサイト周辺へ及ぼす影響の減少

遠隔閉止遮断バルブは、自動による閉止をバックアップする手動による閉止もできるようにしておくことが必要です。例えば、プラントからの避難経路に設置してあるような場合には、自動閉止より早く遮断を行うことが可能となります。


遠隔閉止遮断バルブの設計における検討

緊急時遮断システムは、プラントシステム設計および実際の操作に、適合するよう計画されなければなりません。遠隔閉止遮断バルブは、プロセス容器、ポンプ、その他の付属機器および配管系において必要でしょう。漏洩の生じる可能性が大きい、設備の接続部、回転機器(例えば、ポンプシール)などを対象として検討します。遮断システムは、できるだけ容器やプラントに近接して設置し、定期検査や保全作業の行いやすいことが必要です。一般的に、システム設計の限度内において、できるだけ迅速に遮断の行われることが必要です。

複合または内部結合プラントにおいては、原材料をはさみ込む恐れがあるため遠隔閉止遮断バルブの位置について慎重な検討を必要とします。例えば、配管系の温度上昇が圧力の過上昇をもたらすことなどがあるからです。また、誤作動による影響についても慎重な検討が必要です。このような点については、HAZOP(hazard and operability study)などによるきちんとした検討を行うべきです。サイトに適用される遮断と損失低減のための汎用の規格にもとづく一般的なアセスメントを行うことに差し支えはありませんが、放散のシナリオが特殊なものであることの認識が必要です。


遠隔閉止遮断バルブ選択上の注意

遠隔閉止遮断バルブを適切に選択するため必要な注意事項がいくつかあります。遮断バルブは、以下のようにあるべきです:
  • 保安上の最重要バルブとして、点検と保全を行ってください。特にバルブ操作が不定期な場合には、定期的な検査が必要です。会社は設計と使用状態に基づいて、検査の頻度と内容を決定しなければなりません。決定の根拠がないときは最低でも3ヶ月ごとの間隔とします。
  • 二つの機能(例えば、コントロールと緊急時遮断)を持たせるのは、特別な場合だけにしてください。このとき、緊急時遮断の役割を持たせることが、プラント設計において正当でなければなりません。
  • フェイルセーフの原則(fail-safe principle)に従ってください。一般に、遠隔閉止遮断バルブは、操作機能が失われたとき、閉の状態となるようにします。操作機能が失われたときに、閉の状態となることが許されないなら、操作電源および空気源のバックアップが必要です。
  • 手動でリセットされるまでは、フェイルセーフの位置に保たれることが必要です。
  • 漏洩を阻止する機能が、緊急時に確保される必要があります。
  • 大規模災害の主な危険要因が火災や爆発のリスクであるとき、バルブは火災や爆発から保護されることが必要です。

結論

緊急時における危険物の漏出を防ぐ手段の設計については、詳細な検討を必要とします。多くの場合において、緊急時に迅速に閉止のできる遠隔閉止遮断バルブを、配管系に設置するのが最も効果的な手段です。しかしながら、同様のレベルの保護を与える効果のある他の手段が適当なこともあるでしょう。


参考資料

Guidance on the Control of Major Accident Hazards Regulations 1999 L111 HSE Books 1999 ISBN 0 7176 1604 5 (1999年春に発行)

Management of health and safety at work: Management of Health and Safety Regulations 1992 Approved Code of Practice L21 HSE Books 1992 ISBN 0 7176 0412 8

Five steps to risk assessment INDG163 HSE free leaflet 1995; also available in priced packs of 10, ISBN 0 7176 0904 9

Selection criteria for remote isolation of hazardous inventories CRR 205 HSE Contract Research Report HSE Books 1998 ISBN 0 7176 1678 9(1999年春に発行)

HSEの有料および無料の刊行物は、HSE Books, PO Box 1999, Sudbury, Suffolk, CO10 6FS Tel:01787 881165 Fax:01787 313995から郵送により購入することができます。HSEの有料刊行物は、優良書店から購入することもできます。詳しくは、HSE's InfoLine Tel:0541 545500に電話するか、 HSE's Information Centre, Broad Lane, Sheffield S3 7HQに書面でおたずねください。.

HSEのホームページもご利用ください。:
http://www.open.gov.uk/hse/hsehome.htm

このリーフレットの内容は、法律により強制されるものではなく、あなたがなにをするべきか検討する際に、参考となる事項を記載したものです。


この印刷物は、広告、保証または営利を目的としない限り、複製しても差し支えありません。99年1月改訂。出所がHSEであることを明記してください。


Health and Safety Executive発行 1999年1月 CHIS2 C100