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建設業の安全:活動の動機づけ

資料出所:英国安全評議会(British Safety Council)発行
「SAFETY MANAGEMENT」2002年10月号 p.6〜8

(仮訳 国際安全衛生センター)


 「議論を喚起し、行動の動機づけを行う」目的で発行された新文書『建設における安全衛生の活性化(Revitalising Health and Safety in Construction)』は、現状は厳しいものの明らかに改善に向かっている建設業界に、事故防止、安全衛生の改善、職場文化の段階的変革に関する新しいアイディアを提案するよう、要請している。 建設安全衛生サミットから18ヶ月後、英国安全衛生庁(HSE)が打ち出したこの文書は、年末までに回答するよう建設業界に要求している。


3年計画

 締め切りから向こう3年間にわたり、建設業界は、「労働者10万人当たりの作業関連傷害および疾病による休業日数を10%低減する」という第一次活性化目標にそって評価されることになる。そして、2004/05年度までに死亡災害および重大災害の発生件数を40%カットすることが目標になる。

 10年後には、労働者10万人あたりの休業日数を50%低減することに加え、死亡災害および重大災害の発生件数を66%低減するという目標を設定している。

 「ビジネスに関する道徳的な議論も、現実主義的な議論も、結局同じ結論に達する」と、討議文書に記述されている。「我々は一致団結してこの業界を変革していかなければならない。それも今すぐにである。今までどおりのやり方を続けていくわけにはいかないのだ」


実施計画案

 「意見交換ばかりしていても、行動が伴わなければ意味がありません」と安全衛生委員会(HSC)議長、ビル・キャラガンは警鐘を鳴らす。キャラガンは、安全衛生庁建設調査委員長(HSE's Chief Inspector of Construction)のケビン・ マイヤーと共にこの活性化実施計画案の次の段階を打ち出している。

 「私たちの提起した問題に関心を寄せるすべての人びとにとって、今は、『いかにして建設業界をより安全で衛生的な職場に変えていくか』という彼らの意見を知らしめる絶好のチャンスです」とマイヤーは語った。

 「建設サミット以来、業界内で段階的な変化を示す明るい兆候が見られ、十分な資格を備えた労働者になろうとする意欲が見られるようになったこと、そして建設業界における教育訓練の最低基準として建築技能検定計画(the Construction Skills Certification Scheme)(CSCS)等の計画が徐々に認知されはじめたことなど、将来に向けて好材料がでてきています」とマイヤーは語った。

 「『建設業界の人手不足の悪化に歯止めをかける最良の方法は、建設業に従事する人びとに敬意を持って接することである』という認識が急速に広まってきています」と、マイヤーは土木技師協会主催の会合に集まった50名の建設代表者に向かって語った。


正しい方向

 「状況は正しい方向−−−2001/02年度の死亡者数が前年度の105名から79名へと減少−−−に推移しているのものの、建設作業中に死亡した79人は、相も変わらぬ原因で生命を落としてしまいました」とマイヤーは述べた。その原因とは、高所からの転落、作業場での運搬事故、落下物または建築物倒壊の下敷きである。

 「建設に関する戦略フォーラム」(the Strategic Forum for Construction)議長のサー・ジョン ・イーガンは、『加速する変化(Accelerating Change)』というタイトルで先月出版された、同フォーラム初のアニュアルレポートのなかで「全くもって不名誉なことです」と現状を厳しく断じている。

 しかし、この討議文書によって、好ましくない安全衛生記録が詳細に明らかにされている。

  建設作業員は他業種の作業員より作業中に死亡する可能性が6倍も高く、建設業界の作業関連死亡者数は全作業関連死亡者数の3分の1を占めている。
  約50万人の建設作業員が、振動器材の使用によって振動性白ろう病(vibration white finger)を罹患する危険にさらされている。
  約20年前かそれ以前のアスベストへの暴露が原因となって、毎年およそ750人の建設作業員が亡くなっている。
  建設作業に従事して、およそ96,000人が筋骨格系障害に罹っている。
  建設作業員が難聴になる割合は、国内平均の約2倍である。
  煉瓦職人の約10%が、セメントに含まれるクロム酸塩によるアレルギー性皮膚炎を発症後、離職している。

 本文書は、広範なテーマを論じ、建設業界に好ましくない安全衛生上の記録をもたらしたと考えられている組織上および文化的影響の見直しを行っている。


文書を越えて

 「英国安全衛生庁は立派な文書を作成しますが、重要なのは文書ではありません。文書の向こう側で起きていることが重大なのです」と建設関係技術者連合(the Union of Construction , Allied Trades and Technicians)(UCATT)の事務局長であり、安全衛生委員会(HSC)のメンバーであるジョージ ・ブラムウェルは警告する。そして、「建設業界の浄化をはかるのが、建設業界の仕事なのです」とブラムウェルは強調した。

 彼は、「今以上に規則を制定したり、多数の監督官を派遣する必要はない」と考えていた。しかし、同時に「日雇い労働者に頼っているようでは、イギリスの建設業界は世界クラスにはなれない」と考えていた。

 とはいえ、ブラムウェルは、「建設業界の自営業者の存在そのものを否定しているわけではありません」と会議の席上述べた。しかし、彼は、いんちきな自営業者がもたらす悪影響に対し、断固として異を唱えていたのである。



真に成熟した話し合い

 マイヤーは語る。「この文書を作成した目的は、建設業界のあらゆるセクターと本当の意味で成熟した意見交換を行うことです。我々は(内部からであろうと外部からであろうと)革新的なアイディアを求めており、それが有益であるならば、推進していく所存です。特に我々は、業界内で接する機会の少ない中小企業と話し合いの場を持ちたいと考えています」

 英国安全衛生庁は、「根底にある文化的問題に取り組むには、細分化された建設業界の内部の結びつきを深め、意見を分かちあい、行動を共にしていく必要がある」という認識をもっている。「法律を変えるだけでは、業界に真の変革をもたらす有効な手段にはならないだろう」と文書は述べている。

 サー・ジョン・イーガンが議長を務める建設対策委員会(the Construction Task Force)作成の報告書、『建設業を再考する(Rethinking Construction)』によると、「建設業界がその可能性をあますことなく発揮しようとするならば、進歩をサポートするために、業界に文化的および構造上の本質的な改革を行うことが必要」なのである。

 「建設業界は、一定水準の安全な作業環境を提供しなければならず、あらゆるレベルにおいて経営および監督能力を向上させていかなければならない。そして、業界が自ら変革に邁進していかなければならないのである」と報告書に記述されている。

 「建設業界の文化、そして従業員の安全衛生および福祉に対する業界の取り組みは、業界の将来の経済的成功の決定的要因になる」と報告書は結論づけている。


無数の活動

 英国安全衛生庁は、その討議文書のなかで、「我々は本当に効果を上げることができるのだろうか」という疑問を投げかけている。そして、「数え切れないほどの安全衛生に関する活動やキャンペーンを展開しているにもかかわらず、業界は依然として危険なままである」と答えている。

 「更に悪いことに、発生するほとんどの死亡事故や傷害は、予測可能であるにもかかわらず、防止できないのである。我々は、もう何年も前から死亡事故や傷害の防止方法を知っているというのに、未だに死亡事故や傷害が起きている---それも昔と同じようなかたちで。このことによって、『よい面はすでによくなっているし、悪い面はいつまでたっても改善されないから、結局、現状を改善することはできないのではないか』という悲観的な見方に陥る人がでてくるのである」と討議文書を結んでいる。


熱心に信じること

 再び、「建設業界の安全衛生問題に取り組むことの重要性を強く信じています」というサー・ジョン ・イーガンの発言を引用しよう。

 「もとから安全な手順が採用されているようなあらかじめ計画され、綿密に設計されたプロジェクトに、十分に教育された労働者を擁する有能な企業が着手すれば、自ずと安全に実施することができるでしょう。そして、そのようなプロジェクトは、優良で成功を見込めるプロジェクトになるでしょう」とサー・ジョン ・イーガンは語る。

 「イギリスの建設業を、近代的な世界クラスの産業に発展させたいと考えるなら、業界の文化を変革しなければなりません。建設業界で働く人びとを敬い、尊重し、互いに協力して一丸となって働くことを学び、クライアントの『お金』に見合った対価を提供しなければならないのです」とサー・ジョン ・イーガンは強調する。


極めて重要なこと

 通商産業省の建設担当大臣、ブライアン・ウィルソンは、「建設業は極めて重要です」と同意する。
「『建設業を再考する』の原則を適用することで、全関係者に向けて、本当の意味で実体的な返答を行った建設業界を高く評価しています。しかし、我々が求めているのは、あくまでも効率的な産業です。そうなるためには、業界で働く人びとを尊重し、安全衛生の記録を改善していかなければならないのです」とブライアン・ウィルソンは語った。

 ビジネス上財政上の、様々なてこ入れを必要とする領域は、討議文書や広範囲における以下のような問題点に及んでいる。

  • リーダーシップ、雇用、個人の能力に関する問題
  • よりよいコミットメント(積極的関与)、協力、コミュニケーション、企業能力の向上を達成する為の企業内の組織
  • 衛生状態の改善に関する問題
  • 法制度の変更に関する問題
  • 政府援助に関する問題

勢いを持続する

 会合に出席する大臣はいなかったが、労働年金担当国務大臣(Secretary of State for Work and Pensions)として、現在は英国安全衛生庁を後援しているアンドリュー・スミスが協力を申し出た。

 「当議論文書は、安全衛生委員会(HSC)が昨年からスタートさせた建設業界の変革運動にさらに弾みをつけるでしょう」とスミスは語る。

 「要求されているような大きな前進をとげるため、建設業界との協働に取り組んでいくことを重ねて強調したい。そして、全ての人びとが、この文書の提起する難問に立ち向かい、それぞれのアイディアで応じるように激励します」とスミスは約束した。



この討議文書『建設における安全衛生の活性化(Revitalising Health and Safety in Construction)』についてはHSEのホームページでご覧いただけます。