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化学物質を扱う環境でのコンタクトレンズ使用
Contact Lens Use in a Chemical Environment

資料出所:NIOSH発行 「Current Intelligence Bulletin 59」
(仮訳 国際安全衛生センター)


化学物質を扱う環境でのコンタクトレンズ使用

ポール A. シュルテ博士
ハインツ W. アーラー法学博士
ラリー L. ジャクソン博士
ボニータ D マリット医師
デイヴィッド M. ヴォタウ

保健社会福祉省
疾病対策予防センター
国立労働安全衛生研究所


化学物質を扱う環境でのコンタクトレンズ使用

背景

1978年より、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は労働者に対し、目に炎症を起こしたり、傷害を起こすハザードとなる化学物質を取り扱う作業では、コンタクトレンズを使用しないよう勧告している〔NIOSH 2004〕。この方針は、1978年の基準完成プログラム(Standards Completion Program)で勧告されたもので、“委員会メンバーの専門家が文献データに基づいて出した最善の意見”がベースとなっている〔NIOSH 1978〕。この方針はまた、当時の産業界の慣習にも、労働安全衛生庁(OSHA)の規則にも、そして米国化学会などの専門家団体の提言にも沿ったものであった。

現状

しかし最近では、多くの団体が新しいガイドラインを打ち出し、工業環境でのコンタクトレンズ使用に関する制限のほとんどは廃止されている。これらの団体のなかには、アメリカ検眼協会(American Optometric Association)、米国労働医学および環境医学会(American College of Occupational and Environmental Medicine)、米国眼科学会、米国化学会、そして米国失明防止協会なども含まれている。NIOSHは、これらの新しいガイドラインだけでなく、化学物質を扱う環境でのコンタクトレンズの使用や化学物質のコンタクトレンズへの吸収、吸着について書かれた一部の文献を検討してきた。また、コンタクトレンズの使用規定やコンタクトレンズに関連した傷害についても、少数の化学薬品製造企業のケースを検討している。そのような企業の中には、職場でのコンタクトレンズ使用を規制し続けているところもあれば、規制を緩和しているところもある。

実証研究

一般に、危険な化学物質を扱う作業ではコンタクトレンズ使用は避けるべきだ、と明確に示す傷害データはない。しかし、目は常に適切に防護する必要がある。実際のところ、コンタクトレンズを使用して特定の化学物質を取り扱ったときのハザードについては、ごく限られた研究しか行われていない。しかしなかには、酸や塩基、そのほかの溶剤をコンタクトレンズがどのように吸収、吸着するかを調査している研究所もある〔LaMotte et al. 1995 Hejkal et al. 1992; Nilsson and Andersson 1982〕。これらの実証研究では、さまざまなレンズ素材を、ガラスや動物を使って化学物質に長期間ばく露する、という方法がとられている。そしてその結果、たとえ労働者がコンタクトレンズを使用していても、化学物質がコンタクトレンズを通して取り込まれ、目の細胞に影響を与える懸念はさほど大きくはない、とされている。しかしながら、ある研究所の試験管内での研究では、イソプロピルとエチル・アルコールについては、コンタクトレンズを使用する労働者にばく露のリスクがあると指摘している〔Cerulli et al. 1985〕。

これらの研究はどれも、試験条件下で、化学物質へのばく露に対するコンタクトレンズの耐性を調べているにすぎない。したがって、労働者が実際に化学物質にどの程度ばく露されるかを調べているわけでも、コンタクトレンズと適切な目の防護具を同時に使用した際のばく露の可能性を調べているわけでもない。

場合によっては、コンタクトレンズを使用することで目や顔を防護する方法の選択肢が広がることもあれば(たとえばゴーグルにするか、眼鏡の付いていない顔全体を覆う呼吸装置にするか)、視界が良くなることもある。しかし、『化学的ハザードに関するNIOSHポケットガイド(NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards)』〔NIOSH 2004〕に記載されている化学物質を取り扱う場合、コンタクトレンズを使用する労働者と使用していない労働者のリスクの違いはわかっていない。現在のところ、OSHAは、アクリロニトリル、塩化メチレン、1,2−ジブロモ−3−クロロプロパン、エチレンオキシド、メチレンジアニリンを扱う場合は、コンタクトレンズを使用しないよう勧告している。これらの勧告は、専門家による最善の判断に基づいたものと思われるが、これらの基準の序文に特定の根拠は記されていない。

勧告

ここに記されている安全指針が守られ、コンタクトレンズの使用が規則で禁じられていない、あるいは医学上および産業衛生上の勧告で禁じられていないのであれば、労働者は危険な化学物質を取り扱う際にコンタクトレンズを使用してもかまわない、とNIOSHは勧告している。しかしながら、コンタクトレンズは目を防護するものではないため、コンタクトレンズを使用しているからといって目や顔の防護に関する条件が緩和されるものではない。化学物質を取り扱う環境でのコンタクトレンズ使用に関する以下のガイドラインは、業務上の安全や健康を守るだけでなく、労働安全衛生専門家や事業者がコンタクトレンズ使用に関する規則を安全に導入するうえでも有用である。

  1. 職場での、目に傷害を及ぼすハザード評価を実施する。評価には、以下の評価も含めること。

    ・化学物質へのばく露(OSHAの個人用保護具規則〔29 CFR*1910.132〕の定めるところによる)
    ・コンタクトレンズの使用
    ・コンタクトレンズ使用者の目や顔の適切な防護

*連邦規則基準。参考文献のCFRを参照。

目の傷害につながるハザードの評価は、インダストリアルハイジニストや認定安全専門家、毒物学者など、有能かつ資格のある人物が実施しなければならない。

ハザード評価の結果は、検査を実施する産業保健師か、産業医によって伝えられなければならない。

全労働者の化学物質ばく露評価には最低でも、使用されている化学物質の成分評価が含まれていなければならず、これには濃度や、許容ばく露限界、目に炎症を起こしたり目に傷害を及ぼすことが知られている成分、化学物質の形状(粉末、液体、気体)、考えられるばく露手段などが含まれる。コンタクトレンズ使用者の評価では、利用されている化学物質に対するレンズの吸収度、吸着度に関する情報の検討や、もしあればその事業者やその産業が経験した傷害の説明も行わなければならない。

  1. コンタクトレンズの使用、不使用にかかわらず、目に傷害を及ぼすハザードにさらされる労働者全員に、目と顔を保護する手段を提供する。ちなみに、コンタクトレンズを使用しているからといって目や顔の保護を特別に強化する必要はないと思われる。化学物質の気体や液体、あるいは腐食性粉じんのハザードに対する最低限の保護具は、サイズがきちんと合った通気孔のない、あるいは間接的な通気性のあるゴーグルやフルフェースの防毒マスクである。サイドが保護され、顔にぴったりと合った安全眼鏡は、化学物質に対してある程度の保護効果はあるものの、化学物質が安全眼鏡をすり抜けるのを防ぐことはできない。さらなる顔の保護が必要な場合、労働者は目の保護具の上からフェースシールドをつけなければならない。しかし、コンタクトの使用、不使用に関係なく、ゴーグルや安全眼鏡の代わりにフェースシールドをつけてはいけない。

  2. 必要な目や顔の保護や、コンタクトレンズ使用の規制など、一般的な安全要件を仕事場所や仕事内容ごとに記した方針を明文化する。OSHA個人用保護具規則〔29 CFR 1910.132〕が規定する一般的な教育を提供するだけでなく、コンタクトレンズの使用や、コンタクトレンズ使用者に影響を及ぼす可能性のある化学物質へのばく露、そしてコンタクトレンズ使用者が化学物質にばく露した際の応急処置についての教育の提供も、事業者方針に含めること。

  3. コンタクトレンズの使用および目と顔の保護については、現行のOSHAの規定を遵守する。

  4. 労働者や訪問者に、コンタクトレンズの使用が制限されている場所について知らせる。

  5. 監督者には、化学物質を扱う環境で誰がコンタクトレンズを使用しているかを知らせておき、適切なハザード評価が行われ、適切な目の保護がなされ、適切な応急手当道具が用意されるようにする。

  6. 医療関係者や応急手当の担当者に、コンタクトレンズをはずす研修を受けさせ、適切な器具を用意しておく。

  7. 化学物質にばく露した場合は、すぐに目の洗浄を開始し、できる限り早くコンタクトレンズをはずす。コンタクトレンズをはずすまで目の洗浄を待つことがあってはならない。

  8. コンタクトレンズを使用している労働者に目の充血や炎症の徴候が見られたら、すぐにレンズをはずすよう指示する。コンタクトレンズをはずす場合、労働者は手を完全に洗ってから、清潔な環境のなかでレンズをはずさなければならない。レンズ使用の継続については、コンタクトを使用する労働者と眼科医又は検眼師が共同で評価するものとする。労働者には、自分のコンタクトレンズの損傷を日常的に調べ、定期的にコンタクトレンズを交換するように奨励する。

  9. コンタクトレンズの使用に関する規制については、ケースバイケースで評価する。適格な眼科医や検眼士の意見に基づき、コンタクトレンズを使用する労働者ひとりひとりの視力のニーズを考慮する。

これらの勧告は、化学的ハザードを伴う仕事のためのものであり、熱や放射線、高粉じんや高微粒子粉じんの環境におけるハザードのためのものではない。

資料

Cerulli L, Tria M, Bacaloni A, Palmieri N 〔1985〕。親水性のコンタクトレンズと労働環境での汚染。Bollettino di Oculistica 64 (1-2):299-305。

CFR. 連邦規則基準。ワシントンDC:米国政府印刷局、連邦登録局。

Hejkal TW, Records RE, Kubitschek C, Humphrey C 〔1992〕。コンタクトレンズを通じた揮発性有機物の拡散。CLAO J 18 (1):41-45。

LaMotte J, Smith G, Chang-Smith A 〔1995〕。水分含有量の高いヒドロゲルレンズによるアンモニアの吸収:費用のかからない分析方法。Optometry Vis Sci 72 :605-607。

Nilsson EEG, Andersson L 〔1982〕。有機溶剤、酸、アルカリ環境下でのコンタクトレンズの使用。Acta Ophthalmologica 60 :599-608。

NIOSH 〔1978〕。基準完成プログラム草案技術標準分析および決定論理(The standards completion program draft technical standards analysis and decision logics)。オハイオ州、シンシナティ:米国保健教育福祉省、公衆衛生局、米国疾病対策センター、NTIS No. PB-282 989。

NIOSH 〔2004〕。化学的ハザードに関するNIOSHポケットガイド(NIOSH pocket guide to chemical hazards)。オハイオ州、シンシナティ:保健社会福祉省、米国疾病対策予防センター、DHHS(NIOSH)Publication No. 97-140。